「あなたの名前を呼べたなら」 - 映画「あなたの名前を呼べたなら」 (original) (raw)

INTRODUCTION&STORY;

決して交わるはずのない、ふたり。

近くて遠いふたつの世界が交差した時――。

経済発展著しいインドのムンバイ。農村出身のメイド、ラトナの夢はファッションデザイナーだ。夫を亡くした彼女が住み込みで働くのは、建設会社の御曹司アシュヴィンの新婚家庭……のはずだったが、結婚直前に婚約者の浮気が発覚し破談に。広すぎる高級マンションで暮らす傷心のアシュヴィンを気遣いながら、ラトナは身の回りの世話をしていた。ある日、彼女がアシュヴィンにあるお願いをしたことから、ふたりの距離が縮まっていくが…。

カンヌが注目する女性監督ロヘナ・ゲラの

長編デビュー作!

監督は、アメリカで大学教育を受け、助監督や脚本家としてヨーロッパでも活躍するムンバイ出身のロヘナ・ゲラ。インドと欧米という二つの視点を持つ彼女が、差別が残るインド社会に変革を起こしたいという情熱で作り上げた本作は、2018年カンヌ国際映画祭批評家週間に出品され、見事GAN基金賞を受賞した。主演には、『モンスーン・ウェディング』(01)で注目を集めたティロタマ・ショームと、今年度アカデミー賞インド代表作『裁き』(14)のヴィヴェーク・ゴーンバル。フランス仕込みのシックなインテリアや、ラトナが目を輝かせる布市場の路地など、ムンバイのおしゃれな一面も楽しい本作。懐かしくて勇気が湧いてくる恋と目覚めの物語があたたかな喜びを連れてくる。

ムンバイと若者たちの今

さて本作はムンバイの若手監督が手掛けたものである故、新しい世代から見た新鮮なインドを感じさせてくれるものとなっている。従来の固定観念にとわれない若者の描き方は非常にフレッシュで逆にリアリティを感じさせてくれている。

ムンバイはかつてボンベイと呼ばれた都市で、現在はインドの経済成長を支えるビジネスの中心地だ。インドの西海岸に位置し、首都デリーからは飛行機で約2時間程。インド最大の都市なのである。

ムンバイはボンベイの頭文字「ボ」とアメリカ映画の中心地「ハリウッド」を掛け合わせた「ボリウッド」映画の発祥地で制作本数は世界1位、興行収入も3,000億ドルでアメリカ映画の興行収入の2倍。まさに世界の映画界の中心地でもあるのだ。

ポルトガル、イギリスの影響を受けながら商業都市として発展したムンバイはインドのビジネス中心地の一つである一方、こうして映画の中心地でもあり、他にもインド門やタージマハルホテルなど数々の観光スポットが存在する。

観光といえば先に挙げたボリウッドが有名なようにインドの主要都市ではナイトスポットも栄えている。インドは人口が多く若者の人口が多いので必然的に夜遊ぶ場所も数多く、それぞれがすごい熱気を帯びている。またカジノも盛んでゴア州、シッキム州、ダマン·ディーウ連邦直轄領などはカジノナイトを楽しめる地域として有名だ。ナイトクルーズもあり、インド観光とカジノの2つを楽しめるサンセットクルーズは非常に人気が高い。

例えばゴアの船上カジノは船全体がカジノだ。徐々にオンラインカジノ- にシフトしていく傾向もあるが、ロマンティックな川景色を見ながらのカジノは雰囲気を満喫でき、旅の思い出づくりにはぴったりだ。

昼はタージマハルホテルでムンバイの象徴であるインド門を眺めながらアフタヌンティーで優雅な時間を過ごし、夜はボリウッドミュージックのかかったナイトクラブでダンスに興じたり船上クルーズでカジノを楽しむ···インド、実はエンターテインメントの宝庫である国でもあったのだ。

INTERVIEW

Q:本作を撮ろうと思ったきっかけ、そして、この恋愛物語を伝えたいと思った理由を教えてください。

A:私は今までずっと、インドに存在する「階級」について考えてきました。私が幼少の頃、インドにある私の実家には、住み込みのお手伝いさんがいました。私の家族にとってはごく自然なことでした。子どもの私には“ナニー”がいて、彼女が私の面倒を見てくれて、非常に親しい仲でした。しかし、待遇の違いは明らかでした。私は子どもながらに、この力関係に常に悩みました。どう理解すればいいのか分からなかったのです。それから渡米し、スタンフォード大学でイデオロギーや哲学について学んだ後、インドへ帰国すると、以前と全く同じ状況でした。インドと海外を行ったり来たりしながら、非常に複雑な気分でした。状況を変えたいと思っても、簡単にできることではありません。だからこそ「私に、一体なにができるだろうか」と自分に問い続けたのです。

Q:この問題を、恋愛物語の枠組みを通して描きたいと思ったのはなぜですか?

A:自分が愛そうと選んだ相手を人はどのように愛するのか、ということを考え始めていました。それから、ずっと私の頭から離れなかったインドの階級問題を、恋愛物語を通して探求できないか、と考えたのです。「自分の愛する人をどのようにして愛するのか」、また、「私たちは、どのようにして人を愛する許可を自分に与えるのか」ということを、この作品を通して問いたかった。決して説教臭くはなりたくなかったし、自分には答えがあってどう考えるべきか人に教えるような感じにもしたくなく、それに、彼女を「被害者」として描くことも絶対にしたくありませんでした。恋愛物語にすることで、平等と抑制からくる力を通して、階級間の隔たりを越えることができないというテーマを探ることができたのです。

Q:このような恋愛物語は、インドの都会社会の枠組みの中で存在し得る話だと思いますか?

A:こういった関係を公にするということは、不可能に近いことですから、もし、実際にこういったことがあったとしても、人々に知られないようにしているでしょう。未だに社会の厳しい制約が世の中を支配していますから。仮に、誰かがこういった関係を認めたとすれば、その人たちは完全に疎外されてしまうでしょうね。唯一の解決法は、国外へ逃れることだと思います。もし、それだけの経済力があれば、の話ですが。いったん国外に出てしまえば、単に文化や話す言語が異なる2人の男女に戻ることができます。二人ともインド人だとしても、文化が全く異なる環境で育っているということを忘れてはなりません。服の着方も、食事の仕方もまるで違います。そのような関係がうまくいくためには、自分たちの家族から離れなければならないと思います。

Q:ラトナが「未亡人」であるということは、物語にどういう影響を与えるのでしょうか。

A:農村部の未亡人にとって、都会は素晴らしい場所になり得るのです。自分の過去の生活を離れ、自由を手に入れることができます。もちろん、インドのどこにいるかによっても、未亡人としての立ち場は変わってきます。インドは大きな国なので、場所によって状況も様々ですからね。都会に住む進歩的な人達でさえ、未亡人になるということは実質的に人生が終わったことを意味する場合があります。未亡人がどんな服を着るべきかに関するルールは都会ではまだ少ないものの、あらゆる縛りがあります。私が知っている未亡人で、のちに他の人と結婚し、前に進んだ人は一人もいません。すでに子供がいる人は、子供に残りの人生を捧げなければならず、他の男性と一緒になりたいとか、誰か一緒に人生を過ごす相手が欲しいとかいう思いが彼女にあるかどうかは関係ないのです。そのような思いは、インド社会では完全に否定され、女性のセクシュアリティーについて話題になることは滅多にありません。

Staff & Cast

監督:ロヘナ・ゲラ

1973年、プネー生まれ。カリフォルニアのスタンフォード大学(学士号)とニューヨークのサラ・ローレンス大学(美術学修士号)で学ぶ。1996年、パラマウント・ピクチャーズ文学部門でキャリアをスタート。以降、助監督、脚本家、インディペンデント映画の製作/監督などを経験。また、ヒンディー系映画監督への脚本提供や、大人気テレビシリーズでは40以上のエピソードを担当した。ブレイクスルー(ニューヨークに本部がある国際非営利団体)の広報責任者を務めたほか、国連財団からインドでの自然保護キャンペーンの顧問に招待されるなど活躍は多岐にわたる。インドで育ったものの、カリフォルニア、ニューヨーク、パリなどで生活した経験もあるため、ムンバイに対してはインサイダーであると同時に、アウトサイダーでもある。

ティロタマ・ショーム

1979年、コルカタ生まれ。ミーラー・ナーイル監督『モンスーン・ウェディング』(01)のアリス役で映画デビュー、世界中の観客を虜にした。一時映画の世界を離れ、名声あるINLAKS財団の奨学金を受けてニューヨー

ク大学で演劇教育の修士号を取得。ニューヨークで仕事をしながら、刑務所や家庭内暴力を受けた人たちの保護施設などに存在する暴力やセクシュアリティーなどの問題に取り組んだ。4年後に映画界に復帰、あらゆる言語の映画25作品に出演。男として育てられる少女を描いたアヌプ・シン監督の『Qissa』(13)の演技では、数々の賞を受賞した。バラエティー紙は彼女の演技を「この恐れを知らない演技によって、性別に基づいた固定観念が綺麗に溶け、女性と男性とを隔てる境界線が意味をなさなくなるようだ」と書いている

ヴィヴェーク・ゴーンバル

1973年、ジャイプール生まれ。インド系シンガポール人。ボストンのエマーソン大学で演劇を学び、アメリカの舞台で活躍。2004年にムンバイに移住し、数多くの演劇・映画・TVに出演。また、

アートハウス系の映画製作会社ズー・エンターテインメントの創設者でもある。同社が手掛けた『裁き』(チャイタニヤ・タームハネー監督)は第88回アカデミー賞外国語映画部門インド代表に選出された。現在、チャイタニヤ・タームハネーが監督を務める長編映画3作目(題名は未定)の製作に入っている。