黒夜行 水の迷宮(石持浅海) (original) (raw)

本作の持つイメージは嫌いではない。水槽に一杯の水、そして差し込む光。鮮やかな色の魚たちと優雅なイルカのショー。そうした、透明感溢れる情景の中で、同じく情熱的で透き通った人々が汗を流す。そういう舞台設定や状況といったものは嫌いではない。
しかし、どうにも読んでいて、違和感というか齟齬が残る。
普通の小説として見ても、登場人物の描かれ方が、どうにも単一的な気がしてならない。一言二言で表現できてしまうような、あまり中身のない人物造型のような気がして、ところどころで気になった。
特に不自然さを感じたのは、主人公であり視点人物でもある古賀という男で、驚き方がわざとらしかったり、あまりにも論理的な思考が出来なさ過ぎたり、なんとも不自然な印象を受けた。
それと、それはさすがにないんじゃないかな、と思うような判断がいくつかあるようにも思う。実際どうかなんてことが検証できるわけはないけど、リアリティの薄い決断がいくつかあったようにも思う(その部分を指摘するのは、内容に踏み込むことになるので止めておくが。あと、実はリアリティという言葉は好きではない)。
そして本作はミステリーなのである。
僕は、もちろん作家の力量や文章にもよるだろうし、扱う題材によっても変わるだろうけど、ミステリーとして本作を見た場合、「謎」の部分のインパクトが余りにも薄いような気がしてならない。大したことは起きていないのに、大騒ぎして右往左往しすぎているように思う。もちろんそうした点についても後々わかることがあるのだが、それにしても、読者を引っ張るだけの魅力に欠けるのではないだろうか。
伏線の張り方は割といいと思うし、見方によって意味がいろいろ変わる状況設定も悪くはないと思うし、探偵役の力量もまあそこそこだとは思うが、その魅力に欠けた謎と、主人公のあまりの愚鈍さに、どうにも違和感を感じ続けたものでした。
というわけで、とりあえず内容を紹介しようと思います。
3年前、水族館をよくしようと尽力していた片山という男が死亡してから、職員は力を合わせ、水族館の発展に努力してきた。そんな水族館で事件は起こる。
片山の三周忌の今日、バイトの子が持ってきた館長あての紙袋の中に、携帯電話が入っていた。次々に送られてくるメールで、水槽への嫌がらせを告げ、さらに金銭の要求もしてきた。死んだ片山との繋がりをにおわせる<脅迫者>の犯行に、職員は慌てる。
職員の中に犯人がいる。そうとしか考えられない状況下で、なんと職員一人の死体が発見された。疑心暗鬼に陥りそうになりながらも、必死で議論する職員。古賀の友人で、片山とも親交があった深澤は、少ない手掛かりの中から真相を見抜き、そして、片山の目指していた<夢>までも呼び覚ますことに…
青春ミステリーのような位置付けになるような気もするけど、僕としてはそれなりの作品でした。今後に期待です。

石持浅海「水の迷宮」

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