憲法改正国民投票法案アップ【重要な追記あり】 - 情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊)日隅一雄 (original) (raw)

憲法改正のための国民投票法案が2006年5月26日,与党(「日本国憲法の改正手続に関する法律案」)及び民主党(「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」)からそれぞれ,国会に提出されました(両法案要綱の対象表はこちら←。自民党案は,こちら←の衆法の30番。民主党案は,こちら←)。このページは,もともとは,2005年3月,国民にはその全容を知らせないまま,自公合意した国民投票法案の全文を掲載し,その問題点を明らかにするために作成したものです。それらの問題点のいくつかは,法案提出までに改訂されました。しかし,まだ,なお,特に与党側法案には問題点が多く残っています。そこで,このページは,全面書き換えはせず,もともとの自公案を批判しつつ,今回の与党案・民主党案について補足する形に改めて掲載することとしました(2006年5月27日)。
【追記】その後、自民党公明党は、民主党とほぼ合意に達しました。この問題点は、こちらこちらなどで取り上げています。国民主権が脅かされようとしていることに危機感を抱いています。

◆◆◆

国民が憲法改正案に対する賛否を投票するための手続である国民投票。このあり方次第で、投票結果は変わりうるのです。例えば、改正案全体について一括して投票する場合と、条文ごとに個別に投票する場合とでは、全く変わってきます。9条改憲には賛成だけど、表現の自由を制約するような改憲については、反対だという人がいたとしましょう。あるいは、9条改憲には反対だけど、環境権には賛成したいという人かもしれません。これら二つがセットでしか○×をつけられない場合、これらの人はどうしたらいいのでしょうか。憲法改正案の内容とは別に、その手続をどうするかはとても重要な問題です(ということで誠に勝手ながらTBさせていただきました)。
そこで、この問題を考えるために憲法改正国民投票法案(議連案)をアップしました。これを受けた与党協議会実務者会議の報告も重要ですので、掲載しました。与党(自民党・公明党)は、この法案を今国会(2005年通常国会)にも上程する予定だったようです。左下のCATEGORY欄の「憲法改正国民投票法案全文掲載」をダブルクリックしてください。全文は、3つに分けて掲載してあります。また、法案の問題点を指摘した私見を逐条批判のカテゴリーにアップしていますので、合わせて、ご覧下さい。民主党の案は、「国民投票法案そのほか」のところに「民主党論点とりまとめ」としてアップしています。なお、近く、分かりやすいブックレットを刊行する予定です(もともとの案に対するものですが,刊行済み。ここ←)。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。法案の問題点の概要をここにも掲載しますので、ぜひ、お読み下さい(二重掲載)。

憲法改正案について、国民が投票する際、1)できるだけ多くの意見が反映されること、2)各人が自由に自らの意見を形成すること、3)各人の形成した意見ができるだけストレートに反映されること、については、あまり争いがないと思います。

そこで、今回の法案をその3つの観点から検討してみます。概略なので、批判すべき点及び批判の根拠が次に書くことで全てというわけではありません。その点、ご理解下さい。

第1 できるだけ多くの意見が反映されるか
1 案:投票権者は20歳以上
批判:でも、国の将来を形作るのだから、少なくとも18歳以上から投票できたほうがいいのではないか。
2 案:禁固以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者は投票権がない。
批判:でも、刑務所に入っている人(交通事故などの過失犯も含む)が一切投票できないというのは、疑問。

◆ここは,2006年通常国会に提出された与党案では,変更されていません。問題が残ったままです。
他方,民主党案では,ここは,いずれも投票可能という立場で広く意見を聞く方針です。

第2 自由な意思形成が行えるか。
1 メディア規制がある
案:編集委員が社説で意見を表明することが制約されかねない。
案:「虚偽」「事実をゆがめて」などの表現で、報道を規制している。
批判:それでは、自由な意思形成の前提となる情報の流通が阻害されかねない。

◆この点は,国会に提出された両法案から削除されており,メディアの報道規制はなくなっています。広告規制は放送について一部新設されましたが,投票前1週間にはCMをしないというもので,必ずしも情報流通を阻害するというものではなさそうです。

2 国民間の情報流通が制約される
案:警官などは憲法改正に対し、賛成または反対の投票をさせる運動が一切できない
批判:これは、国民投票の公正さとはまったく関係のない規制ではないか

◆この点は,国会に提出された自民党案には残っており,問題です。
民主党は,「中央選挙管理会の委員及び中央選挙管理会の庶務に従事する総務省
の職員並びに選挙管理委員会の委員及び職員並びに国民投票広報協議会事務局の職員は、在職中、国民投票運動をすることができないものとすること。」と規定し,警官や裁判官の運動する権利を保障しています。

案:公務員はその地位を利用して運動してはならない。
批判:地位利用の定義があいまいで、萎縮効果あり

◆この点は,国会に提出された自民党案には残っており,問題です。
民主党は,このような規定はしていません。

案:教育者がその地位を利用して運動してはならない
批判:専門家である憲法学者が大学で憲法改正について講義をすることもできなくなる。講義をする以上、憲法改正案に賛成か反対かも
明らかにするのが通常だから

◆この点は,国会に提出された自民党案には残っており,問題です。
民主党は,このような規定はしていません。

案:外国人は国民投票運動が一切できない(講演や寄付もできない)。
批判:外国人が母国での憲法改正の経験などを講演したりできないのは、情報の制約となる。

◆この点は,国会に提出された両法案から削除されており,外国人の運動規制はなくなっており,外国人も日本人と同様,運動をすることができます。

第3 意思がストレートに反映されるか
案:改正案一括投票か、条項ごとの投票か、はっきりさせていない。一括投票の可能性がある。
批判:改正案一括で投票する場合、ABCと3つの条項を変更する案が仮に発議されたとすると、Aには反対だが、BとCには賛成という人
は、自分の意思を十分に反映することができないのではないか。

◆この点,国会法に「前条の憲法改正原案の発議に当たつては、内容において関連する事項ごとに区分して行うものとする。」とする変更を行うこととし,原則として個別条項ごとということとなったが,自民党の新憲法案のように,全条文について,細かい修正をすることにすれば,一括ということになりかねないと思う。

以上、3つの観点からの批判でした。

ちなみに、(もともとの)法案全体に対する見解は、日弁連のものが詳しくhttp://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/iken/05/2005\_14.html、表現の自由に関する部分については、第二東京弁護士会のものが詳しいですhttp://www.niben.jp/01whatnew/pdfs/20050415.pdf ので合わせてご参照下さい。

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