2016-06-18 (original) (raw)
先日のエントリの続きです。第一話は下記。
< Mさんへのインタビューから>
ロースクールは楽しかったです。
新しい制度になってまだ 2年目だったので、司法試験改革の精神に基づき、ディスカッション中心の授業が行われていました。
ただ、勉強を始めるとすぐ「これは簡単に受かる試験じゃない」ということも分かりました。
周りにいたのは東大や早慶、あとは中央大学の法学部の人くらいでしたし。
加えて想定外だったのは、入学して 1年もたたない頃に妊娠がわかったことです。それを機に結婚し、出産と育児のために 1年間、休学することになりました。
今から考えると甘かったとは思いますが、当時は子供を産むことに迷いはありませんでした。
妊娠は女性の人生を縛るものと捉える風潮もありますが、私は当時から妊娠することをとてもポジティブにとらえていました。
なにより子供を産むことも、私が自分の人生において強く望んでいたことのひとつでしたから。
それに学生という立場でもあり、保育園に子供を入れるのも(今ほど)難しくなかった。だからなんとか頑張れるかなと。
そして予定通り 1年後には学校に復帰しました。
結果、勉強はなんとか続けられたんですけど、その頃から法曹界で働く人との接点も増え、理想と現実の違いが見えてきました。
検察官の中には本当に偉そうな態度の人もいたし、
「女は離婚訴訟でもやってればいい」と言って、大手事務所に入ったのにビジネス系の案件を回してもらえない女性弁護士の話も聞きました。
私が質問をしても「試験に通りたいなら、ごちゃごちゃ言わず暗記すればいいんだ」と突き返す先生も。
しかも弁護士って、多忙なのに稼ぎもそこまでいいわけじゃありません。下っ端の間はひたすら書類と格闘してるだけですしね。
ほんとうにそこまで頑張って目指すべき世界なのか?
そんな疑問も出てきてはいました。
でも、だからといって受験を止めようとは思わないです。
3年もかけて高い授業料を払ってロースクールまで出たんです。
ずっと応援してくれていた親の期待にも応えたかったし、
私自身ここまで勉強したんだから、試験も受けずに止めるのはあり得ないと。
3年制のロースクールを終了し、最初に司法試験を受けた時、択一は合格、二次の論文で落ちました。
この段階では、あと 2回、全体で 3回まで受けられる状態でしたから、これならなんとかなるだろうと思いました。
ところが 2年目はまさかの択一落ち。このときはホントに落ち込みました。
自分が進歩していないんだと突きつけられたし、あと 1回しかチャンスがないのに択一で落ちるようでは話にならない。
ショックで食べ物も喉を通らないような状態になりました。
でも、チャンスはあと 1回残ってる。だから、ここで「止める」という決断はなかった。
なんとか気を取り直して、再度 1年を勉強に費やし、最後は択一には合格。でも二次で、また落ちました。
受験は 3回までという回数制限があるので、私の司法試験チャレンジはこの時点で終わりました。
この時はショックというより、「これからどうしよう?」という不安のほうが大きかったですね。
30代目前、無職、職歴ゼロ、子持ちですから。
しかも、子供が慣れ親しんでる保育園を止めずに済むようにしてあげたかったので、ゆっくり休む余裕も無く、すぐに仕事を探しました。母親が無職だと子供が保育園に行けなくなっちゃうんで。
ところが・・・一日中の立ち仕事などですっかり疲れてしまって、今度は体調を崩してしまいます。
そして離婚です。
私は呆然としていました。
昔の同級生は皆しっかりとキャリアを築いています。
私の世代だと、女性でも、結婚して子供がいても、みんなキャリアを積んでる。だからすごく焦りました。
司法試験の最後の年というのは、保険を掛ける人も多いんです。公務員試験を併願したり、司法書士の試験に移行したり、法律事務所にパラリーガルとして就職する人もいます。
でも私はそういう準備もしていなかったし、公務員になりたいとも思っていませんでした。
じゃあ何をやればいいのか、何をめざすべきなのか。
体調も崩したし、離婚して引っ越しの必要もあるし、どこに住むのか。どうやって食べていくのか。
子供のためにも。自分のためにも頑張らなくちゃ。
そう思って気持ちばかりが焦っていました。
★★★ 第二話はここまで ★★★
20代の大半を司法試験の勉強に費やしたけれど、合格できなかった。
そう聞けば「なぜもっと早く止めなかったの?」と思う人はいるでしょう。
でもこのストーリーを読んで、自分ならどこで止められるか、考えてみてください。
「最終的に合格しなかった」という結果を知ってから読めば、
「妊娠した時に止めるべきだったのでは?」
「理想の仕事とは違う仕事だと気付いた時に止めるべきだった」
「2回目の択一で落ちたときに止めればよかった」
と思うかも知れません。
でも、結果が分からない状態で、すなわち、「もしかしたら来年は合格かも」と思いながら、止めることが本当にできるでしょうか?
それを後押しするようにいろんな気持ちが湧き起こります。
「ここまで頑張ってきたのに」
「みんな、あんなに応援してくれているのに」
「親ももう少しやってみたらって言ってくれてるし」「子供ができたからって夢を諦めるのはおかしくない?」
「逃げていたら何も得られない」
「どうせチャンスはあと 1回なんだから、最後までチャレンジして、ダメならそこで諦めればいいじゃないか」
あなただったら、
あなたの娘や息子だったら、
どこかで止めることができたでしょうか?
『悩みどころと逃げどころ』を見極めるのは、本当に難しいことなのです。
ちきりん 梅原 大吾
小学館
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