『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 (original) (raw)
マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マーゴット・ロビー、ジョン・バーンサル、ジャン・デュジャルダン、ケネス・チョイ、カイル・チャンドラー出演の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。2013年作品。日本公開2014年。R18+。
DVDで鑑賞。
原作はジョーダン・ベルフォートの回想録「ウォール街狂乱日記―「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生」。未読。
1980年代。会計士の息子ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は学歴もコネもなかったが、ウォール街で株のブローカーとして働き始める。87年、ようやく資格を取ったところで株価が暴落、失業する。クズ株を客に売りつける小さな会社に再就職したジョーダンはそこで頭角を現わし、ダイナーで彼に話しかけてきたドニー・エイゾフ(ジョナ・ヒル)とともに会社を立ち上げる。妻のテレサ(クリスティン・ミリオティ)の提案もあって、会社を大きく格式高く見せることで大口の顧客を相手に商売をすることに。そんなジョーダンに経済誌のフォーブスは「ロビン・フッド気取りの“ウォール街の狼”」と揶揄気味にあだ名をつける。そしてFBIのデンハム捜査官(カイル・チャンドラー)がジョーダンの会社の派手な躍進ぶりに目をつける。
今年劇場公開された映画ですが、同時期にやってたクリスチャン・ベイル主演の『アメリカン・ハッスル』(感想はこちら)とどっちを観るか迷って、結局『アメリカン~』の方を選択。
今回DVDで『ウルフ・オブ~』をようやく観たんだけど、結果的には映画館で『アメリカン・ハッスル』を選んだのは正解だったと思いました。
『アメリカン~』はわりとお気に入りだったんで。旬の俳優たちのアンサンブルを楽しめた、ということでやはり作品としての評価はあちらに軍配が上がる。
『ウルフ・オブ~』は映画館で観てたらグッタリしてたかもしれない。あるいは「…ふ~ん」って感じでこれまでのスコセッシとディカプリオのコラボ作品同様に「だからなんなんだ」という感想しか残らなかった可能性もある。
といっても、ほぼ3時間という長尺にもかかわらず退屈することはなく、さくさく観れてしまったのでした。
マーティン・スコセッシの映画の中ではとても観やすかったというか、楽しめました。
一つには、あれだけ無茶苦茶やりながらもディカプリオ演じる主人公にウンザリしたり腹が立ったりはしなかったから。その理由についてはまた述べますが。
『アビエイター』とか、ほんと頭の中が「だからなんなんだ」の嵐だったもの。
少なくともそういう「時間を無駄にした不快感」ってのはなかった。
公開時に一部の人たちがハシャいでたほど傑作とも痛快作だとも思わなかったけれど。
単純に僕がこういうタイプの映画がメシより好きな人間ではないから、というだけですが。
この作品で念願のアカデミー賞主演男優賞を狙ったディカプリオは、またしても受賞を逃してしまった。*1つくづくお気の毒様で。
どんだけアカデミー会員たちに嫌われてんだ^_^;
『アメリカン・ハッスル』も『ウルフ・オブ・ウォールストリート』も実話が基になっているということ、詐欺絡みのストーリーであること、FBIとの司法取引が出てくるところなどは共通してるけど、それ以外はストーリーも作品の雰囲気もまったくといっていいほど異なる。
『アメリカン~』は登場人物たちが入り乱れる面白さとともにストーリーにもヒネりがあるが、『ウルフ・オブ~』はストーリーそのものは単純で、ただひたすらバカ騒ぎをするディカプリオの姿を見て面白がる、という趣向。
以下、ネタバレもございますのでご注意を。
興味深いのが、スコセッシはこれまで何度も映画でギャングのリアルな生態を描いてきたけど『ウルフ・オブ~』にはギャングは出てこなくて、代わりに『アメリカン~』の方にはかつてのスコセッシ作品でたびたび主役を務めたロバート・デ・ニーロ扮するマフィアが出てくること。
『アメリカン~』の方をスコセッシが撮っててもおかしくないのに、そうじゃない不思議。
なんとなく、マーティン・スコセッシとロバート・デ・ニーロの関係って、かつての黒澤明と三船敏郎のそれに似てる気がする。
ある時期を境に一緒に組まなくなったのも。
『ギャング・オブ・ニューヨーク』以降、今ではディカプリオがかつてのデ・ニーロの位置にいるということですね。じゃあ、プリオは仲代達矢か。いや、寺尾聰だったりして。
なんだかんだいって、スコセッシとプリオのコンビ作は僕も『シャッターアイランド』以外は観てるんですが。
感想、といっても、困ったなー、と^_^;
だってプリオが白い粉吸ったり女の子たちと乱交したり小人を投げたり赤ちゃん言葉喋ったり胸叩いて「ん~ん♪」って鼻歌唄ってるだけなんだものw
いや、可笑しかったですよ。血管浮き上がらせて懸命な顔してるけどド間抜けな醜態晒したりとか、全身でバカやってましたから。
で、僕たち観客はそんなプリオが演じるジョーダンのことを笑ってるんだけど、実はそんな彼の姿にどこか憧れてもいる。あんなに好き放題できるんだから。
そして、そういう僕たちのことをこの映画は笑っているのだ。
「金を稼ぐことが正義」と、金儲けにまい進するジョーダンと彼の会社の社員たち、そして明日のジョーダンを夢見る若者たち。
スピーチするジョーダンをスターを見つめるような眼差しで仰ぎ見る人々の顔のアホっぽいことといったら。これはお前らのことだよ、とこの映画は言っている。
僕はジョーダンのような人間に憧れを感じたりはしないけど、現実には彼のような「成り上がり」を目指して切磋琢磨してる(つもりの)人々もいる。つくづくご苦労様、って感じですが。
ハリウッドの大スターやらセレブたちの豪勢な生活を見ても聞いても羨ましくもなんともないのは、彼らが僕とはまったく次元の違う世界の住人だからだ。異世界の人間だからほとんどファンタジーみたいなもので。
この映画のジョーダンもそれと同じで、まるっきり共感できない人物だがその破天荒を絵に描いたような人生にはいっそ清々しさすら感じる。
一方では、文字通りの「金の亡者」というか、常に大金を稼いでいなければ(そしてド派手に使わなければ)気が済まない強迫神経症じみた彼の生き方を哀れにも思う。
とにかく金の使い方が最高にバカっぽい。人間としては激安の成金にしか見えない。
女性のアソコに白い粉振りかけて吸うとかさぁ…(;^_^A 金があったって別にそんなことしたくねぇよ。
主人公がバカっぽければ、彼が付き合ってる人間たちもみんなバカっぽい。
その筆頭がジョナ・ヒル演じるドニーだが、まるで入れ歯でもしているかのような不自然なぐらいに整った歯が並んだドニーの絶妙なまでに生理的にアウトなツラとその調子コキぶりは、観ていてイライラさせられっぱなしだった。
コイツはいざという時に必ず足を引っぱる。
仕事の合間に金魚鉢の掃除をしていただけの社員を怒鳴りつけてクビにする。大切な金の受け渡し場所で調子に乗ったせいで仲間が警察に捕まることに。使用期限の切れたクスリを大量に服用して効きすぎて死にかける。
僕がジョーダンならこんな奴真っ先に切り捨ててる。
ジョナ・ヒルは『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(感想はこちら)でもそうだったけど、ちょうど「ハングオーバー!」シリーズにおけるザック・ガリフィアナキス的なウザいデブ枠の代表格ともいえる俳優。
ただし、この『ウルフ・オブ~』では、かつてスコセッシ作品でジョー・ペシが演じていたすぐに厄介事を巻き起こすウザキャラを継承しているのだ、と思えばいたずらにムカつかずに済む。
それさえ了解すれば、ジョー・ペシの役回りを律儀にこなしているジョナ・ヒルが逆に微笑ましくなってくるほど(そーいえばジョー・ペシも最近のスコセッシ作品で見ないな)。
ジョーダンは最初に一緒に会社を始めた仲間として、ドニーに友情を感じている。
ドニーがどんなに問題を起こしても彼は見捨てないし、ドニーもまた時にジョーダンの危機を救うために奔走する。
スコセッシの映画ってどこかで裏切りが描かれるもの、という印象があるんだけど、この映画にはそれがない。なので映画としては山がないともいえるが、だからこそ僕は主人公たちを心底嫌いになることができないのだ。
ジョーダンが集めた仲間たちはヤクの売人だったりほとんどが低学歴者だったが、彼らにクズ株を売るテクニックを伝授する。
詐欺だといわれなきゃ、彼らは仕事熱心なモーレツ社員に見える。ただし、ハシャぎ方が尋常ではないが。
やがては大学生たちが学校を中退してまでジョーダンの会社で働くことを希望するようになる。
金儲けに熱心で自分に忠実な部下は大切にする。部下たちもジョーダンへの忠義を忘れない。だから身内の結束は堅いのかもしれない。*2
金のためなら簡単に社員でも売り飛ばすような人間なのかと思えば、ジョーダンはFBIとの取引さえも破ってドニーへの友情を守り通す。
ノリが体育会系というか、同じ“ノリ”の人間は仲間として受け入れるが、一方では先ほどの金魚鉢の社員のようにノリが違う者は容赦なくポイ捨てする。
彼らほど極端でなくとも、そういう輩は世の中にけっこういる。
個人的にはこういう奴らって大嫌いですが。
なぜなら、僕はこの映画の登場人物でいえばジョーダンにクビにされる金魚鉢男みたいな人間だから。
年齢制限はR18+だけど裸の股間にはボカシが入りまくるし、*3ヒロインのマーゴット・ロビーは美人で綺麗なおっぱい見せてくれるけど(ノーパンのスカートの中が見えそで見えない)、全体的にお祭り騒ぎなんでどんなにプリオが尻丸出しで腰を振っててもエロさよりもアホっぽさの方が勝っている。
株のブローカーなんだから株のことが理解できる程度には頭が良いんだろうけど、彼が普段やってることには賢さの欠けらも感じられない。
マシュー・マコノヒー演じる上司にかつてアドヴァイスされた通り朝から酒を飲み、ドラッグもキメるし既婚者にもかかわらず平気でしょっちゅう女と寝る。
おかげで最初の妻には愛想をつかされて離婚、浮気相手のモデル、ナオミ(マーゴット・ロビー)と再婚。
しかし結婚の18ヵ月後には新妻から怒鳴り散らされている。
ジョーダンは金持ちになってからおかしくなったというよりは、最初からどこか人間として大いに問題のある男として描かれている。
本物のジョーダン・ベルフォートとナディーヌ(映画ではナオミ)さん。
彼の会計士の父親もカタギで息子の暴走をいさめもするが、やはりこの息子にしてこの親というか、結局はジョーダンの請うままに彼の会社で犯罪にも手を染めている息子をフォローすることになる。
ジョーダンの最初の妻も2番目の妻も、やはり夫が詐欺まがいの仕事をしていることを知りながら、あるいはハッキリ犯罪を行なっていてもそれで得た富を一緒に享受しているし積極的に協力もする。誰一人として清廉潔白な人間はいない。
『アメリカン・ハッスル』の主人公がそうだったように、彼らはクズ株を客に売りつけて大金を巻き上げることに良心の呵責を微塵も感じていない。そしてその金で贅沢三昧の生活をすることにも一切躊躇がない。
まぁ、それぐらい倫理観がぶっ壊れてないと、こんな大それたことやれないだろうけど。
ちなみにこの映画ではやたらと本職の映画監督が役者として出演していて、ジョーダンの父親マックス役はロブ・ライナー、ジョーダンの弁護士役はジョン・ファヴロー、そしてジョーダンが再就職したペニー株会社の経営者ドウェイン役はスパイク・ジョーンズ。
「アイアンマン」シリーズの監督やスパイク・ジョーンズがもともと俳優なのは知ってたけど、ロブ・ライナーもそうだったんだ。妙に演技がこなれてると思った。
スイスの銀行家ソレルを演じているのは、『アーティスト』(感想はこちら)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したジャン・デュジャルダン。
ディカプリオが喉から手が出るほど欲しがってるオスカーを獲ったフランス人俳優と映画の中で互いに軽蔑しあってるのが可笑しい。このキャスティングはわざとか?w
何かといえばフランス語で喋りだし、ジョーダンたちアメリカ人を心の底から見下している。
捕まると「アメリカ人はすぐ殴るんだろ!」とか言って。
僕は憧れつつ侮蔑するフランス人のアメリカ人に対するアンビヴァレントな感情って、なんだかとても親近感が湧く。
そして、アメリカ人のフランス人に対する印象もまた同じなんだろう。
止まると死んでしまう間寛平のように落ち着きなく走り続けるジョーダンは、ついにナオミにも三行半を突きつけられてしまう。
仲間を売ることを条件にFBIと司法取引するも約束を破り、引退も撤回して社員たちの前でカッコよくキメるが、貧乏人扱いしてバカにしていたデンハム捜査官にマネーロンダリングで逮捕される。
調子コイた成金野郎、ざまぁ(`∀´)と思えば、結局、金さえあればなんとかなった。*4
これはバカが成り上がって最後に痛い目に遭うのを見て貧乏人が溜飲を下げる映画じゃない。
最後まで懲りない男、そしてちゃっかり持ち直しちゃう男を仰ぎ見る、僕たち凡人を笑い飛ばす映画だ。
刑期を終えて娑婆に戻ったジョーダンは、未来の彼を夢見る者たち…不正によって得た富でおいしい思いをした男の知恵を拝借したい…という浅ましい人間たちの群れを前にレクチャーしている。「このペンを俺に売ってみろ」と。
お前ら、俺みたいになりたいんだろ?
この人を食ったようなラスト(;^_^A
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