ガスとシリア危機の地政学: イラン-イラク-シリア ガス・パイプライン建設妨害の為、武器供給されているシリア“反政府派” - マスコミに載らない海外記事 (original) (raw)

Dmitry Minin

Strategic Culture Foundation
2013年5月31日

中東で最も民主的な国家の一つ、シリアが、西部の隣人達の一部、獰猛な民主主義戦士を怒らせるような、一体どのようなことをしたのだろう? ヨーロッパでテロリストと見なされているのと全く同じ連中が、シリアのこととなると“自由戦士”だと宣言されるという、シリア危機に対する欧米諸国のやりくちの不合理さと無節操さは、シリアの悲劇の経済的側面を見ると、より明らかになる。シリアの文化的、歴史的ルートを、自ら破壊するのを支援することで、ヨーロッパは、なによりもまず、エネルギー資源の為に戦っているのだと考える十分な根拠がある。21世紀の主要燃料として登場しつつある天然ガスが、そこで重要な役割を演じているのだ。ガスの生産、輸送と利用にまつわる地政学的問題は、おそらく、欧米戦略家達の検討対象中、ほかのどれより重要なのだ。

F・ウィリアム・イングドールの巧みな表現では“天然ガスは、この地域のエネルギーを求める狂気の戦いに油を注いでいる、燃えやすい成分だ”東から西へのヨーロッパ向けパイプラインを、イランとイラクから、シリアの地中海沿岸にするのか、あるいは、もっと北より経路の、カタールとサウジアラビアから、シリアとトルコ経由にするのかを巡って、戦いが行われている。こう着状態のナブッコ・パイプライン、実際、南部回廊丸ごと、支えているのは、アゼルバイジャンのガス田のみで、ロシアのヨーロッパへの供給量には決して拮抗できないことに気がついた欧米は、サウス・ストリームの建設を妨害するか、ペルシャ湾からの資源で、それを置き換えようと急いでいる。シリアは、この連鎖の主要リンクに当たっているが、イランとロシア寄りだ。そこで、欧米各国で、シリアの政権を変える必要があると決定されたのだ。“民主主義”の為の戦いというのは、全く別の狙いを隠蔽する為に放り投げられた偽の旗なのだ。

シリアにおける反乱が、2年前の、2011年6月25日、ブーシェフルでの、新イラン-イラク-シリア・ガス・パイプライン建設に関する覚え書き署名とほぼ同時に拡大し始めたことに気付くのはさほど困難なことではない… 世界最大のガス田、北ドーム/南パース(カタールとイランが共有)のアサルイエから、ダマスカスまで、全長1500 kmだ。イラン領内のパイプラインの長さは、225 km、イラク内では 500 km、そして、シリア内では500-700 kmだ。後には、地中海海底沿いに延長して、ギリシャに至る可能性もある。シリアの地中海の港経由で、ヨーロッパへの液化ガス供給の可能性も検討されている。このプロジェクトへの投資は100億ドルにのぼる。(1)

“イスラム・パイプライン”と呼ばれているこのパイプラインは、 2014年から、2016年の間に稼働を始めるものと想定されていた。計画容量は、一日に1億1000万立方メートルのガス(年間400億立方メートル)だ。イラク、シリアとレバノンは、既に、イラン・ガス(イラクは、一日25-3000万立方メートル、シリアは、20-2500万立方メートル、レバノンには、5-700万立方メートル、2020年迄)の必要性を宣言している。ガスの一部は、アラブ・ガス輸送システム経由で、ヨルダンに供給される。このプロジェクトは、欧州連合が推進している(計画容量、年間300億立方メートル)十分な量がないナブッコ・ガス・パイプラインに対する代替案になりうると、専門家達は考えている。イラク、アゼルバイジャンとトルクメニスタンから、トルコ領経由で、ナブッコ・パイプラインを通すことが計画された。最初、イランも資源基地と考えられていたが、後にプロジェクトから除外された。イスラム・パイプライン覚え書きに署名した後、イラン国営ガス(NIGC)社長、ジャヴァド・オジは、南パースの16兆立方メートルという採掘可能ガス埋蔵量は、“ナブッコにはない、信頼に足るガス源であり、このパイプライン建設の前提条件である”と述べた。ナブッコの3000万とは競合可能だが、サウス・ストリームの630億とは競合できない量の、年間約200億立方メートルが、このパイプラインから、ヨーロッパ向けに供給され続けるだろうことは、容易に想像できる。

イランからのガス・パイプラインは、シリアには大いにうまみがある。ヨーロッパも、それで恩恵を受けるだろうが、明らかに、欧米の誰かには気に入らないのだ。西欧にガスを供給しているペルシャ湾の同盟諸国にとっても、そうなれば、商売から外されるガス輸送国ナンバー・ワンになるのを希望しているトルコにも嬉しい話ではない。彼等の間で新たに結成された“聖ならぬ同盟”は、論理的に言って、アメリカとその同盟諸国は、そもそも、対シリア同盟のパートナーである、この民主的な価値観という点で問題があるペルシャ湾君主国から、それを始めるべきなのに、目標は中東における“民主的な価値観”だと厚かましくも宣言した。

スンニ派諸国も、イスラム・パイプラインを、信教上の対立という視点から、“シーア派イランから、シーア派が支配するイラク領を経て、シーア派に親和的なアラウィー派のアサドの領土へというシーア派パイプライン”と見なしている。エネルギー問題の有名な研究者、F・ウィリアム・イングドールは、この地政学ドラマは、南パース・ガス田が、シーア派イランと、スンニ派カタールとの国境にあるペルシャ湾にあるという事実によって、より激しいものとなっていると、書いている。しかし、ちっぽけなカタールは、力の上で到底イランに及ばず、アメリカとNATOのペルシャ湾軍事駐留というコネを積極的に利用している。カタール国内には、アメリカ中央軍ペンタゴン司令ノード、アメリカ空軍司令部本部、イギリス空軍第83遠征航空部隊と、アメリカ空軍第379遠征航空部隊が駐留している。イングドールの意見では、カタールは、南パース・ガス田の自分の取り分に関する別の計画を持っており、イラン、シリアとイラクの取り組みへの参加には熱心ではない。ヨーロッパ向けのカタールやトルコ経由の輸送ルートから全く独立するはずのイラン-イラク-シリア・パイプラインの成功には、全く興味がない。実際、カタールは、その多くがサウジアラビア、パキスタンやリビア出身者であるシリア“反政府派”戦士への武器供与を含め、パイプライン建設を妨害する為、出来る限りのことをしている。(2)

2011年に、シリアの地質調査会社によって、ロシアが租借している地中海の港タルタスからほど遠からぬレバノン国境に近いホムス周辺で、シリア内の巨大なガス生産地域、巨大ガス田が発見されたことで、カタールの決心は煽られた。事前の推測によれば、こうした発見で、それまでの2840億立方メートルにのぼるシリアのガス埋蔵量は大幅に増大することになる。シリア、あるいは、イランのガスの、欧州連合への輸出が、ロシアとつながりがあるタルタス港経由で行われる可能性があるという事実は、カタールにとっても、欧米パートナーにとっても不満だ。(3)

アラビア語新聞アル-アクバルが引用した情報によれば、トルコとイスラエルを巻き込んだ、ガスを、カタールからヨーロッパに輸送する、アメリカ政府が承認した新パイプライン建設計画があるという。そのパイプラインの容量には触れられていないが、ペルシャ湾と東部地中海地域の資源を考えれば、イスラム・パイプラインと、ナブッコ両方を越え得るものであり、ロシアのサウス・ストリームと真っ向からぶつかる。このプロジェクトの主要ディベロッパーは“レバント地域のガス問題担当”で、アメリカ“シリア危機委員会”メンバーのフレデリック・ホフだ。この新パイプラインは、カタールを発し、サウジ領を通過し、更にヨルダン領を経て、シーア派イラクを迂回し、シリアに至る。ホムス近くで、パイプラインは三方向に分岐する予定だ。ラタキア、北部レバノンのトリポリと、トルコだ。炭化水素埋蔵地もあるホムスは、“プロジェクトの重要な交差点”であり、最も激しい戦闘が起きているのが、この都市と、“鍵となる”アルクサイル近隣であることは驚くにはあたらない。ここでシリアの命運が決められつつあるのだ。アメリカ、カタールとトルコの支援を得て、反政府派の分遣隊が活動しているシリア領の一部、つまり、北部、ホムスとダマスカス周辺は、トルコと、トリポリ、レバノンへと向かうパイプラインのルートと一致している。武装敵対勢力の地図と、カタール・パイプライン経路の地図を比較すると、軍事活動と、こうしたシリア領を支配しようという狙いとのつながりがわかる。カタールの同盟諸国は、三つの狙いを実現しようとしているのだ。“ヨーロッパにおける、ロシア・ガス独占打破。イラン・ガスへの依存からのトルコ解放。ガスをヨーロッパに、陸路で、より安価に輸出する好機をイスラエルに与えること”。(4)アジア・タイムズの専門家、ペペ・エスコバールは、カタールの首長は、どうやら“ムスリム同胞団”と取引をした模様で、それにより、カタール国内での和平協定と引き換えに、カタールが、国際的拡張を支援するのだと指摘している。カタールが支援するヨルダンとシリアの“ムスリム同胞団”政権は、カタールにとって決定的に有利に、そしてロシア、シリア、イランとイラクにとって不利益に、世界ガス市場の地政学を突然に変えるだろう。中国にとっても痛烈な打撃となるだろう。(5)

対シリア戦争は、このプロジェクトを押し通し、テヘラン、バグダッドとダマスカス間の協定も破綻させることを狙っているのだ。この実施は、軍事行動によって、何度か止められたが、2013年2月に、イラクは、パイプライン建設を可能にする枠組み合意に署名する用意ができていることを宣言した。(6)この後、イラク・シーア派の益々多くの新集団が、アサド支援に立ち上がったことは留意に値する。ワシントン・ポストが認めている通り、彼等は、イラク内で、アメリカと立ち向かう上で、“少なからぬ戦闘経験”を持っている。レバノンのヒズボラ戦士と共に、彼等は更に手ごわい勢力となるだろう。(7)ガス・パイプラインを巡って、欧米が始めた、シリア国内での“殲滅ゲーム”の危険の度合いは、増大し続けている。BBCによれば、EU加盟諸国の大半が反対している、シリア反政府派への欧州連合による武器供給禁止の終了も(8)(民主主義はいずこ?)、反政府派を助けられない可能性がある。

文明と正義については、利益がかかわっている場合、感情は問題ではなくなる。血とガスの匂いが漂うこの不公正なゲームでは、下手なカードをださないことが重要だ。

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一年以上昔の記事とは言え、興味深い。

TPPすぐそこに迫る亡国の罠』の広告を見た。
米韓FTAを参考に、TPP、実質米日FTAで実現する恐ろしい世界。

新聞記事には、余りに危険な閣僚交渉推進はこれで最後にして、成功裏に持ってゆきたいという余りに恐ろしい閣僚の発言がある。

さらに読み進め、秀逸な記事にであった。文芸時評 西洋への卑屈

田中慎弥「宰相A」新潮10月号
古川日出男「鯨や東京や三千の修羅や」すばる10月号

「宰相A」
敗戦した日本、国民は金髪になる。黄色人種が変身したのではない。米国からの白人入植地になったのだ。
首相だけは旧日本人。彼はAと呼ばれる。白人の犬。傀儡だ。Aは演説する。
「最大の同盟国であり友人であるアメリカとともに全人類の夢である平和を求めて戦う」

この小説の日本は本当に戦争している。兵士にされるのは旧日本人。

「鯨や東京や三千の修羅や」
日本の高濃度汚染地帯は米国等の管理下におかれている。

月刊小説誌、ここ数年購入した記憶皆無だが、日本の未来図を描いた新潮10月号をこれから買いにゆこうかと考えている。

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