ジャン・シメオン・シャルダン (original) (raw)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ジャン・シメオン・シャルダンJean Siméon Chardin
《眼鏡を掛けた自画像》1771年、パステル (46x37.5 cm) ルーヴル美術館
生誕 (1699-11-02) 1699年11月2日 フランス王国パリ
死没 (1779-12-06) 1779年12月6日(80歳没) フランス王国パリ
テンプレートを表示

食前の祈り》(1740年) ルーヴル美術館

ジャン・シメオン・シャルダン(Jean-Baptiste Siméon Chardin, 1699年11月2日 - 1779年12月6日[1])は、ロココ時代のフランス画家

1699年、パリで家具職人の父親のもとに生まれた[2]。1718年から歴史画を得意としていたピエール=ジャック・カーズ(Pierre-Jacques Cazes)の工房に入って画業を開始。1720年にはノエル=ニコラ・コワペルにも短期間師事し、その間に静物画を描く助手をつとめたことがあるらしい。

1728年に《赤エイ》と《食卓》で認められて王立絵画彫刻アカデミーの正会員となったが、その後も生計を立てるためフォンテーヌブロー宮殿の修復作業などに参加している。1730年頃から静物画の作品が増え、台所の食器類や食材などを題材とする作品が制作されている。

1731年からはサロン・ド・パリ(官展)に出品を開始。この年にマルグリト・サンタールと結婚、11月には息子ジャン=ピエールが洗礼を受けている。

1733年頃からは風俗画の作品が増え始め、その大半が食卓の情景やカード遊びに興じる子供などセーヌ左岸の日常生活を主題とする。1735年、妻が死去。1740年ヴェルサイユ宮殿へ参内して献上した《働き者の母》と《食前の祈り》はシャルダンの作品としては特に知られている。1744年にフランソワ=マルグリト・プジェと再婚。

1752年以降、国王の年金を受けており、また1755年からはアカデミーの会計官をつとめたほかサロンの陳列委員も任され、1757年ルーヴル宮殿にはアトリエ兼住居を授かっている。これは絵画のなかで歴史画に最高の価値が置かれていた当時、風俗画家としては異例の名誉で、彼の作品の買い手や注文主の多くも、国内外の王侯貴族だった[3]。とくにエカチェリーナ2世は、サンクト・ペテルブルクにあるアカデミーの建物のために装飾画を注文しているし、他にも風俗画を含む数点のシャルダン作品を所有していた(《芸術の寓意とその報償》など)。

晩年は息子の溺死 (1772年)、アカデミー会計官の解任 (1774年)と不遇が続き、1779年に死去した。作品総数は201点[4]

ロココ美術全盛の18世紀フランスを生きた画家であるが、その作風は甘美で享楽的なロココ様式とは一線を画し、穏やかな画風で中産階級のつましい生活や静物画を描き続けた。ロココ芸術には批判的だったディドロでさえ、1769年のサロン評で「シャルダンは歴史画家ではないが、偉大な画家である」と記している[5]

シャルダンの作品は日常的・現実的な題材や真に迫った写実表現などに17世紀オランダ絵画の影響が顕著に見られ、活躍中からフランドル絵画に喩えられていた。また彼の画面構成や陰翳描写は、しばしば後の印象派の先駆とも形容される[6]

晩年に描かれた幾つかの自画像には、画家の実直な風貌がよく表されている。

  1. ^ Jean-Baptiste-Siméon Chardin French painter Encyclopædia Britannica
  2. ^ この節の伝記的事実は以下を参照:ピエール・ローザンベール(伊藤已令訳)「シャルダン略年譜」(『シャルダン展 静寂の巨匠』図録、三菱一号館美術館、2012);Philip Conisbee, "Chardin, Jean-Siméon" (Grove Art Dictionary, Oxford UP, 2007);Philip Conisbee, Chardin (Oxford: Phaidon, 1985)
  3. ^ 鈴木杜幾子『フランス絵画の「近代」』講談社、1995, p. 16
  4. ^ Pierre Chardin: Tout l'oeuvre peint de Chardin (Paris; Flammarion, 1983)
  5. ^ Denis Diderot, Salons, ed. by Seznec & Adhémar, reprinted, Oxford, 1985, vol. IV. 鈴木杜幾子「第一章 家庭という名のユートピア 母・女中・台所 — ジャン=シメオン・シャルダン」(『フランス絵画の「近代」 シャルダンからマネまで』講談社、1995, p. 36)に引用。
  6. ^ Pierre Rosenberg, Chardin: New Thoughts (Spencer Museum of Art, 1983)

書籍

研究論文(オンラインで閲覧可能なもの)

図録・画集