日本に先行、韓国の格差問題 悩める「88万ウォン世代」 | JBpress (ジェイビープレス) (original) (raw)
『韓国ワーキングプア 88万ウォン世代』(明石書店)という本がこのほど発売された。2007年の韓国でベストセラーとなった経済学者・禹晳熏(ウ・ソクフン)氏らの著書の邦訳。88万ウォンは、韓国で大卒の非正規労働者の月給を指す。当時のレートで換算すると約10万円、今なら6万円強に相当する。
昨年、日本でも小林多喜二の『蟹工船』が若者の間で持てはやされたが、「格差社会」の深刻化では韓国がこの10年余り、日本に先行している。「88万ウォン世代」の行動は2007年韓国大統領選で李明博(イ・ミョンバク)氏の勝因ともされ、日本にとって決して他人事ではない。
報道機関の特派員として2002~06年、ソウルに駐在した。その間、北朝鮮による日本人拉致問題や核開発、南北朝鮮関係、竹島の領有権をめぐる日韓対立などに忙殺され、韓国の社会事情を紹介する記事を執筆する機会は少なかった。
年明け、知人に寒中見舞いメールを送り、当時の韓国で「日本に先んじて格差の拡大が進んでいた」「非正規労働者の増加や若年失業率の上昇、ホームレスの急増といった事態の進行を目の当たりにした」と報告した。すると、「それは知らなかった」という感想を何人もの方からいただいた。韓国の格差問題を伝え切れていないと反省し、筆を執った次第だ。
韓国版「竹中路線」、非正規労働が急増
韓国社会で格差拡大のきっかけとなったのが、1997年のアジア通貨危機(同国では「 IMF危機」と称する)。危機克服に向けて構造改革路線が採用され、経営困難に陥った企業による従業員の整理解雇や、賃金コスト圧縮を目的とする派遣労働制が解禁された。こうした政策は企業収益の回復に寄与する半面、非正規労働者の急増を招いた。非正規労働者が労働人口に占める比率は、2001年の27%から2004年には37%へ上昇していた。
それと同時に、若者の就職難がクローズアップされた。2004年には一時、30歳未満の青年労働者の失業率が 9%台に乗り、労働者全体の 3%台に比べて著しく悪化。正社員就職という希望がかなわず、相当数が非正規労働者になった。
当時、ソウル支局には日本語を専攻する大学生が何人もアルバイトに来ていたが、一様に「就職活動が大変」とこぼしていた。中には、非常に優秀だけど、「期限付き」の仕事にしか就けなかった者もいる。ちなみに韓国では、就職できない学生は「とりあえず」大学院へ進む傾向が強い。正確な数字は不明だが、日本より多いように思う。
当時の韓国は、「構造改革」→「労働市場の規制緩和」→「企業の人件費削減」→「非正規労働者の増加と若者の就職難」。小泉政権以来の日本の歩みとそっくりなのだ。
ソウル赴任前、霞が関で内閣府を担当していた。竹中平蔵経済財政相(当時)の記者会見に出席しては、金融機関について「日本は(外資導入で危機を乗り越えた)韓国を見習うべきだ」という趣旨の発言を何度も聞かされた。しかし、隣国を参考にすべきという点では、雇用問題も然りなのだ。