書籍「製品開発力」を読んだ (original) (raw)

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8月に手に取って、ボリュームたっぷりで時間がかかってしまったけれど、ようやっと読み終わった。ウオーと反応してしまう内容が多く、完走できてよかった。読書メモを残しておく。

【増補版】製品開発力―自動車産業の「組織能力」と「競争力」の研究

概要

初出は英語版の1991年。日本語版が出たのが1993年。つまり、24年ほど前に世に出た文章を読んだことになる。

本書の狙いは、日米欧の自動車製造企業20社約30プロジェクトを対象に実態調査を行い、高いパフォーマンスを生む製品開発のパターンはどんなものであるかを浮き彫りにすることである。序文に、そう書かれている。

ぼくは、弊社 CTO に紹介してもらってこの書籍を知った。自動車製造のプロセスが、自分が従事しているソフトウェア開発のプロセスとどれほど近いものなのかはわからないけれど、共通点があればそこから学べることはあるだろう、というくらいの期待感で読んだ。読み終わってみると、なんというか、これ自分の未来のことが書いてあるんじゃないの… という気持ちになったくらいで、学びがあるどころではなかった。

ぼくの主眼

それはもうはっきりと、自分の現場に持ち帰ることのできる知見がほしいと思いながら読んだ。

書籍の序盤、P.29 で「自動車業界関係者以外の方々は、私たちの研究結果から類推するという間接的な方法で、他業種のケースに当てはまるかどうか、お考えいただきたい」と書かれていたので、自分たちのケースに当てはまるだろうかと、そこに注意しながら読み進めていくことになった。付け加えて、業界だけではなく年代も違うので、執筆当時の年代に固有なことと、今もなお変わらない普遍的なこととの境界にも気を配って読もうとした。

結果から言うと、自分たちの今の状況は、1980〜90年代の自動車業界にとてもよく似ていると思う。なので、本書にて「これが重要だ」と示されていることは、同じように自分たちにとっても重要だと言えることになるし、実際に、自分の感覚と照らし合わせてみても、重要だと思えることが多い。以下、今の自分たちの業界が当時の自動車業界に似ていると感じる材料になった箇所をいくつか挙げる。

これらすべて、当時の自動車業界について論じられたものだが、すべて2015年の、特に B2C のソフトウェア開発にそのまま当てはまるような内容である。特にズバーンと言ってあるものを選んで抜粋したが、すべて挙げようとすればキリがないほどに、このような記述がある。

こういった記述を目にしながら読み進めていくうちに、序盤を読んでいるときにあった「これ、自分にも役に立つのかな…?」という疑念はどんどん薄れていき、後半を読んでいるときには、もう自分の業界のことと錯覚して読んでしまうほどになった。

Untitled

(アッアッと感じることが多くて下線だらけになったページ)

もし2015年のソフトウェア開発業界が、1990年頃の自動車製造業界と極めて似た状況にあるとしたら、これから先の未来に自分たちの身に起こることは、先人たちがすでに経験してきた過去のこと、ということになる。仮にそれが大袈裟な解釈だったとしても、この本から何も学ばずにいていい理由にはならないだろう。

気になった箇所メモ

(本書の表記に合わせて、ここでは「プロダクト・マネジャー」という表記を採用する)

まず、ひとりのエンジニアとして。

1990年代の自動車エンジニアには、ユーザーが何を求めているのかを把握してそれを実装に落としていく力が求められる、と書かれている。これは、現代のプログラマにもまったく同じことが言えるだろう。だとすれば、当時を生き抜いてきた、自動車メーカーの先輩エンジニアにお会いしてお話を聞かせてもらうと、多くの発見がありそうだ。そういった方たちにお会いしてみたい。

次に、組織という単位で見て。

組織の在り方が製品開発力に多大な影響を与える、ということが繰り返し主張されている。これに対して自分がこれからどういった取り組みをもっていけばいいかはまだわからないけれど、既存の組織構造を疑うことなくそれに乗っかり続けるだけでは、ずいぶんと危ういことになるのではないか、という危機感は強くなった。幸いにして、この書籍を勧めてくれたのは先述の通り弊社の CTO なので、今の組織の形と、これからの組織の形について話す機会には恵まれている。魅力的な製品を作り続けられる組織でありたいので、このあたりは積極的に話していくつもり。

まとめ

1991年の文章に「ユーザーインターフェースが〜」とか「大事なのはユーザー体験」って書いてある。2010年を過ぎてから「これからは UI/UX だ!!!」とか騒いでいると、自分は何周遅れの世界にいるんだろう… と思って反省の気持ちが込み上げてくる。ちゃんと歴史に学んだ方がいい…。こういった、時代の変化に耐えうるしっかりとした知識への参照を示してくれる、頼り甲斐のある上司がいるのは本当にありがたいこと。彼ら彼女らの助言には、素直に耳を傾けるようにしたい。

激戦の時代を生き抜いた自動車メーカーのエンジニアの先輩のお話を聞いてみたい。そこに、自分の未来を視ることができるのではないかという期待がある。