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大陸横断ユニオン・パシフィック鉄道ｂｙ広瀬隆１

大陸横断ユニオン・パシフィック鉄道

アメリカで最も広大な面積にわたって民間の鉄道路線を広げ、アメリカ人の旅愁を誘ってきたのは、ユニオン・パシフィック鉄道である。共和党エイブラハム・リンカーン大統領のもと、南北戦争中に議会が設立した国策会社ユニオン・パシフィックは、現在の共和党の縄張りと広く重なり合う地帯を主なルートとしている。ブッシュのイラク攻撃を支持した住民が多いのも、この中西部から西部にかけての州である。

映画『シェーン』でアラン・ラッドと対決する悪役に扮したジャック・バランスは、帽子、チョッキ、手袋まで黒ずくめの装束で、これほど鮮烈な印象を残した悪役はめったにない。抵抗する農民を黙らせるため雇われたその用心棒が、シャイアンの町から来たという話をシェーンが聞いて、「早撃ちウィルソンに違いない」と、農民に注意を促す場面がある。

現在ワイオミングの州都シャイアンは、南北戦争後に鉄道開拓の拠点となっていた。ネブラスカ州オマハからユニオン・パシフィックが大陸横断鉄道の建設工事をスタートして、すでに二年後には線路が敷かれていたからである。

鉄道会社は、縄張り一帯からインディアンを追い立て、その反撃や強盗に備えて、こうした殺し屋のガンマンを雇っていたのである。

そうした時代、チャールズ・キングという男は、西海岸のカリフォルニア州ロサンジェルスからワイオミングの鉄道開拓者として働きに出たが、その息子レスリーは、ちょうどシェーンの時代に鉄道の枕木として大量の需要があった木材と不動産の商人として一帯で働き、のちオマハで一九一三年に子供をもうけた。しかし二年後に夫婦が離婚すると、妻ドロシーは子供を抱いてジェラルド・フォードと再婚し、その子を新しい夫と同じ名前に改名した。これが、ウォーターゲート事件後に大統領に就任したジェラルド・フォードである。

同じネブラスカ生まれのチェニーが、フォード大統領の首席補佐官から隣のワイオミング州下院議員となってユニオン・パシフィック鉄道の石炭路線を敷き、副大統領までのし上がった裏には、アメリカ政財界との数々の因縁がある。

ユニオン・パシフィック鉄道の社長アヴェレル・ハリマンは、一九五五年から五八年までニューヨーク州知事をつとめ、

その後を継いだネルソン・ロックフェラー知事が、フォード大統領のもとで副大統領をつとめた。

ハリウッドのB級ウェスタン俳優ロナルド・レーガンが、カリフォルニア州知事から共和党の大統領になった裏にも鉄道資本があった。レーガン知事のもと、シリコンバレーが半導体産業のメッカとなり、シリコンバレー生みの親ヒューレット・パッカード社の創業者デヴィッド・パッカードがニクソン政権の国防副長官となった。そのパッカードのもとで、カリフォルニアのスタンフォード大学内にある事実上の軍事シンクタンク「フーヴァー研究所」の理事として活動したのが、ガートリユード・クリストルである。彼女の息子ビル・クリストルが新保守主義者としてブッシュにイラク侵攻を焚きつけるまでには、次のような歴史が横たわる。

一八四八年、カリフォルニアに金が発見された。アメリカ鉄道史で伝説の人物、ニューヨークのコリス・ポッター・ハンティントンという男が噂を耳にして西部に向かい、サクラメントに店を開いた。

その翌年、サクラメントで金が発見され、空前のゴールドラッシュに突入した。わずか五年間で、家族と郷里を捨てて未知の黄金郷エル・ドラドをめざした男の数は二五万人を超え、二億ドルを超える巨額のゴールドが採掘された。カリフォルニアには狂乱の生活がくり広げられ、労働者から獲物の分け前を奪う銀行と商店と宿が続々登場した。一八五〇年には、金鉱の利権を逃すまいとするアメリカ政府が、たちまちカリフォルニアを三一番目の州に昇格させ、サクラメントが州都となった。ハンティントンはゴールドラッシュの中、大きな財産を築いていった。

後年"西部の鉄道四人組ビッグ・フォー"と呼ばれたのは、ハンティントンと組んだマーク・ホプキンズ、

チャールズ・クロッカー、

リーランド・スタンフォードである。

鉱山に投資したスタンフォードは、のちにスタンフォード大学創立者として知られるが、カリフォルニア政界に進出し、一八五二年には州内に共和党を設立することに成功した。太平洋岸が活気づくと、アメリカ政府は目を海の彼方に向け、黄金の国ジパングと、苦力という奴隷労働力を持つ中国に大きな利権を拡大しようと踏み出した。ペリー提督が浦賀に来航し、フィルモア大統領の親書を幕府の応接掛に手渡したのは、翌五三年七月八日のことだったのである。