Marunouchi Muzik Magazine - Just find your own music (original) (raw)
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH TONY THOMAS OF DAWN OF OUROBOROS !!
“We All Grew Up Near The Coastline Of California So The Pacific Ocean Has Been a Major Theme Across All Of Our Music. In The Case Of Bioluminescence, Chelsea Felt It Was a Theme She Found Beautiful, And Wanted To Express Her Admiration Of It Through The Music.”
DISC REVIEW “BIOLUMINESCENCE”
「僕たちはみんなカリフォルニアの海岸線の近くで育ったから、太平洋は僕たちの音楽すべてに共通する大きなテーマなんだ。”Bioluminescence” の場合は、Chealsea が美しいと感じたテーマで、音楽を通して生物発光の素晴らしさを表現したかった。主にアルバムのタイトル曲でね」 “Bioluminescence”(生物発光)とは、生物の体内で起こる化学反応が光を生み出すことを表します。これは、カリフォルニア州オークランドの DAWN OF OUROBOROS、その自らの尾を飲み込む円環の音蛇を実に的確に比喩した言葉なのかもしれません。様々に異なる曲作りの技法を組み合わせた彼らの虹色の輝き、それはまさにブラックメタルの生物発光。 重要なのは、彼らがそうしたインスピレーションを、自らが生まれ育った太平洋の海岸線、美しき海原と生命の神秘から受けていることでしょう。もちろん、今日ブラックメタルはその出自であるサタニズムの手を離れて、自然崇拝や少数派、弱者の代弁、スピリチュアリズムなど様々な分野に進出していますが、彼らも自らのアイデンティティを余すことなくブラックメタルに注いでいます。メタルにおける自己実現。それはきっと、とても尊いこと。 「作曲を始めるときは、いろいろなドラムのアイデアに合わせてギターを弾き、気に入ったものが出てくるまでその上で即興演奏するんだ。だから、インプロビゼーションを通して自然に生まれるものなんだよ。でも、僕たちのサウンドが人々の心に響くのは、イントロ部分の Chelsea の歌のおかげだよ。彼女もそのボーカルの多くを即興で歌うので、曲に自然なジャズ・フィーリングが生まれたんだ」 そうして唯一無二の方法で育まれた DAWN OF OUROBOROS の音楽は、当然ながら他のブラックメタルとは一線を画しています。現代的なブラックメタルとデスメタルが巧みに混ざり合う “Bioluminescence” の世界には、さながら深海を探索するようなポスト/プログのアトモスフィアが漂います。発光生物の多くが海に生息しているように、DAWN OF OUROBOROS の音色は明らかに水中のイメージを想起させ、ボーカルとギターのメロディーにはオワンクラゲのごとくみずみずしき浮遊感が存在します。 一方で、リズム・セクションが津波のようなシンセ・ラインとともに脈動し、激しいうなり声や叫び声が大空から轟いてくることもあり、この太平洋の神秘と荒波の二律背反こそがウロボロスの夜明けを端的に表しているに違いありません。 「僕たちは自分たちが好きな音楽を作ること以外を目指したことはなかったから、他のバンドがよくやること、当たり前なことなんて考えたことはなかったんだ。それに、Chelsea の声はそれ自身で彼女がいる意味を物語っていると思うし、何より彼女はハーシュ・ヴォーカルもクリーン・ヴォーカルも、他のヴォーカリストよりもうまくこなせるんだ」 そうした DAWN OF OUROBOROS の両極性を増幅させるのが、Chelsea Murphy の多面的なボーカルでしょう。ドリーミーな歌声と生々しい叫び声を瞬時に切り替える彼女の類まれな能力は、ROLO TOMASSI の Eva Korman を想わせるほどに魅力的。 “Slipping Burgundy” ではスムースでジャジーに、”Fragile Tranquility” では荒く、ほとんど懇願するようなトーンでリスナーの感情を刺激します。 先程までラウンジで歌声を響かせた歌姫が、まるで燃え盛るマグネシウムのまばゆい輝きのように耳を惹き、ハリケーンのように畏敬の念を抱かせるスクリームで世界を変える瞬間こそ圧巻。バスキングと威嚇を繰り返すウロボロスの円環はあまりにも斬新です。 今回弊誌では BOTANIST でも活躍する Tony Thomas にインタビューを行うことができました。「最近では、ALCEST や DEAFHEAVEN, 明日の叙景、LANTLOS, HERETOIR のようなポスト・ブラックメタルや、COMA CLUSTER VOID, ROLO TOMASSI, ULCERATE のようなプログレッシブ・メタルを探求しているね」 どうぞ!!
DAWN OF OUROBOROS “BIOLUMINESCENCE” : 10/10
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EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SKY MOON CLARK OF FROGG !!
“Obviously I LOVE Tech Death, But Yes, One Has To Admit There’s a Formulaic Approach To Both Production And Songwriting In The Genre.”
DISC REVIEW “ECLIPSE”
「特定のサブジャンルにこだわる必要なんてなくて、どんなアイデアも排除したくなかったんだ。 だから “Eclipse II” にはメタル・コア、Djent、フュージョンの要素があり、Will が演奏した何十種類もの楽器を使ったギター・ソロ・セクション、特にファースト・ソロで目立つタブラの妙技、そして黒く染まったシンフォニック・デスメタルのアウトロまでがある。 まさにそれが僕たちが感じていたものだった」 “Frogging the Horses” という SikTh の狂った名曲がありますが、Frogg の二つ名はプログ世界にとってはどうやら僥倖。”どんなアイデアも排除しない” という意味で、明らかにニューヨークのセンセーション FROGG はあの SikTh の魂を受け継いでいます。いや、SikTh だけではありません。00年代、SikTh と “カオス” の覇権を激しく争った PROTEST THE HERO の高鳴るギター・メロディ。ANIMALS AS LEADERS の超重低音とシステマティックな陶酔。BETWEEN THE BURIED AND ME の驚異的で雑多な構成力。NECROPHAGIST の性格無比な超速暴威。そうした21世紀を代表するプログ・メタルを養分として蓄えた巨大なカエルが今、メタルの境界をすべて飲み込みます。 「間違いなく Alexi Laiho だね。 僕がギターを弾き始めたのは高校1年生のときで、かなり後発組だった。 でも、ギター中毒になってしまって、ギターを弾くのを止められなかったよ。僕はPCゲーマーだったから、ネットで独学する方法を知っていたんだ。 Ultimate Metal Forums と sevenstring.org は、当時ギターを学ぶのに人気のサイトだった。まだYoutubeのコンテンツが豊富ではなかったから、フォーラムとギター・タブが主流だったね。僕は地元でフルタイムのインストラクターを雇う余裕がなかったから、Guitar Proが最初の先生だったよ」 そうした21世紀の多様性に FROGG はギター・ヒーローの魂を持ち込んでいます。奔放でカラフル、まるでメインストリームのポップ・ミュージックのように光り輝く “Wake Up” においても、Alexi Laiho から受け継いだ高速の “ピロピロ” がメタルの証を主張します。 実際、”フロッゲンシュタイン” などと例えられるパッチワークな FROGG の音楽において、Sky Moon Clark と Brett Fairchild のシュレッドがすべてを縫い合わせている、そんなイメージさえリスナーは感じることになるでしょう。Alexi Laiho と Guitar Pro の遺産が実りをもたらす時代になりました。”Double Vision Roll” なんて実に COB ですよね。 そうして紡ぎ出されるのは、テクニカル・デスメタルらしからぬスケール感と意外性、そしてお洒落なムード。空想的なメロディ、短いポップなブレイク、奔放な音楽的ショーマンシップに自由を見出した薔薇色のメタル。今の時代、”テック” だけでメタル世界の水面に波紋を広げることはできません。しかし、FROGG の棲む水面にはステレオタイプに飽きたリスナーが渇望する、ぞわぞわとしたカタルシスとカエルが舌を伸ばすようなお茶目な驚きと遊び心が混じった何かが渦を巻いています。まさに新時代のメタル両生類。 今回弊誌では、ボーカルも務める Sky Moon Clark にインタビューを行うことができました。「Will(ドラマー)はこのアルバムのもう一人の主要なソングライターで、BTBAM や SikTH に影響を受けている。 THE FACELESS, COB, SCAR SYMMETRY にはもっと影響を受けたと思う。 FFO (For Fans Of) にBTBAMに入れたのは、彼らが DIABLO SWING ORCHESTRA や UNEXPECT と並んで Will に大きな影響を与えたからなんだ」 UNEXPECT!!ARSIS の名盤を挙げているのも嬉しい。また Emma のショルキーが最高よね。どうぞ!!
FROGG “ECLOPSE” : 10/10
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EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ANDY MARSHALL OF SAOR !!
“When People Listen To SAOR, I Want Them To Close Their Eyes And Be Transported Somewhere Else―Away From Their Worries, Even If Just For a Little While. Music Has That Power, And I Think That’s What Makes It So Special.”
DISC REVIEW “ADMIST THE RUINS”
「メタルには生の激しさがあり、伝統的な民族音楽と見事に調和するパワーがある。民族音楽は魂に語りかけるもので、歴史や感情、土地との深いつながりを運んでくる。それとメタルのヘヴィネスとエネルギーとを組み合わせると、重厚で深い感動が生まれる。自然な融合だよ」 ブラックメタルが根付いた土地の文化や自然を愛する営みは、今やメタル世界において最も純粋さが感じられる尊い瞬間のひとつ。その老舗であり盟主、SAOR の中の人 Andy Marshall は世界屈指のフォーク/ブラックメタル・アーティストであり、スコットランドの計り知れない美しさと民俗文化に誰よりも思いを馳せ、愛情を注ぎながらその音楽を書いています。そう、ヘヴィ・メタルも伝統音楽も、魂に語りかける歴史と感情の音楽。だからこそ両者は、純粋に、そして外連見なく溶け合います。 「僕はいつもスコットランドの歴史に魅了されてきたんだ。”グレンコーの虐殺” は、僕たちの過去において最も暗く悲劇的な瞬間のひとつだった。僕は自分の音楽でスコットランドの歴史の異なる時代を探求していくのが好きなのだけど、当時は、この特殊なストーリーがとても心に響いたんだよね」 “Amidst the Ruins” “廃墟の中で” と題された SAOR 6枚目のアルバムは、ここ数作で少し霞んでいたスコットランドの自然、荒涼とした高地、艶やかな湖、霧に覆われた渓谷が再びまざまざと眼下に広がる作品に仕上がりました。壮大でプログレッシブ。伝統楽器とディストーションがドラマチックに勇躍する旋律の重厚舞踏。 ブラックメタルの激しさとケルト民謡のメロディーの壮大な融合はそうして、ハイランドの歴史に生命を吹き込んでいきます。 カレドニアの精神に導かれ、SAOR の音楽は故郷の古代の物語と響き合い、時を超えます。哀愁漂う廃墟と自然の中で SAOR の奏でる音魂は、人間の裏切りから森がささやく秘め事まで、時代を超越した風景と人類の業を風化した幽玄なる渓谷から蘇らせていくのです。 インタビューの中で Andy は、歳をとるにつれて政治に関心がなくなってきた、暴力や欺瞞が蔓延る暗い現代よりも自分の音楽に集中したいと語っています。実際、スコットランドの独立を願っていた以前よりも肩の力が抜けて、スコットランドの美点へとよりフォーカスした作品はそんな考え方の変化を反映しているようにも感じます。 ただし、そうした変化の中でも Andy は、荘厳にして深淵、一際悲哀を誘う “Glen of Sorrow” で “グレンコーの虐殺” を取りあげました。これは17世紀にイングランド政府が手引きして起こった、スコットランド、グレンコーの罪なき村人たちが殺戮された忌まわしき事件。この一件により、スコットランドとイングランドはより険悪な関係となり、その余韻は300年を経た今でも少なからず続いています。ハイランドの嘆きの谷。そこに巣食う亡霊は今の世界を見て何を思うのでしょうか?きっと、Andy Marshall はそんな問いかけをこの美しくも悲しい暗がりで世界に発しているのではないでしょうか? 今回弊誌では、Andy Marshall にインタビューを行うことができました。 「僕はメタルだけじゃなく、すべての音楽は、ある意味で逃避場所になりうると思う。人々がSAORを聴くとき、目を閉じてどこか他の場所へ…ほんの少しの間でも悩みから遠ざかってほしい。音楽にはそういう力がある。それが音楽を特別なものにしていると思う」それでも、私たちにはヘヴィ・メタルがある。二度目の登場。 どうぞ!!
SAOR “ADMIST THE RUINS” : 10/10
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EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH SEVENTH STATION !!
“We Had This Inspiration- What If All These Master Composers Were Alive Today, Having Access To The Technology And All The Musical Capacity Of Everything We Have Today, How Would It Sound?”
DISC REVIEW “ON SHOULDERS OF GIANTS”
「もし、現代音楽の巨匠、作曲家たちが今に生きていて、現代のテクノロジーとあらゆる音楽的能力を利用できるとしたら、どんなサウンドになるだろうか?それは素晴らしい創造的な挑戦であり、僕たちにインスピレーションを与えてくれる音楽の巨匠たちに謙虚な敬意を払う機会でもあったんだ」 ヘヴィ・メタルとクラシック音楽は、RAINBOW, SCORPIONS や Yngwie Malmsteen が証明するように、太古の昔から美しきアマルガムを演じてきました。荘厳かつ影のあるネオ・クラシカルな旋律と、メタルのダークな重さは実に相性が良く、そのマリアージュは今やメタルの顔と言っても過言ではないでしょう。 一方で、アヴァンギャルドかつ多様な20世紀以降のクラシック、現代音楽とメタルの融合はあまり進んでこなかったというのが実情でしょう。もちろん、例えば SYMPHONY X のように現代音楽まで踏み込んで咀嚼するバンドは少なからず存在しますが、それ相応の音楽知識と好奇心、挑戦心を兼ね備えたアーティストは決して多くはないのです。SEVENTH STATION はそんな状況に風穴を開けていきます。 「DREAM THEATER と一緒にステージに立つという生涯の夢が、Jordan とのつながりの直後、このレコードで実現した。僕の音楽的マインドを解放してくれた最も影響力のあるヒーローたちと一緒に演奏するという信じられないような特権を得たし、このクレイジーな夢に50人もの才能あるバークリーの友人たちを招待することができた。DREAM THEATER のライブ・レコーディングに指揮者兼アレンジャーとして参加したことは、今でも思い出すとゾクゾクする」 そうした前代未聞を実現したのは、労力と時間をかけた学びの力でした。SEVENTH STATION は、スロベニア、トルコ、イスラエルを拠点とする多国籍プログレッシブ・エクスペリメンタル・メタル・バンド。エルサレムの音楽アカデミーとボストンのバークリー音楽大学の間で結成された彼らの “学びの力” “学びへの意欲” は多くの音楽家を凌駕しています。だからこそ、鍵盤奏者でプログラマーの Eren Başbuğ はあの Jordan Rudess の愛弟子となることができました。DREAM THEATER のオーケストレーションも担当。そうして彼らは常に高い到達点を目指し、感情的に複雑で巧みな芸術を追求し、アルバムごとにプログレッシブ・ミュージックがあるべきビジョンに向かって前進しているのです。 「美的にも芸術的にも、20世紀初頭に憧れがあるのは間違いない。テクノロジーが未熟だった時代にね。現代人がいつでも誰でもすぐに情報にアクセスできるようになったことで、多くの謎や心の余裕が失われてしまった。そのミステリーとマインドフルネスには、世界と互いについて常に好奇心を持ち、夢を見続けるという、人と人との表現とつながりという意味があった」 そんなSEVENTH STATION が理想とするのが、まだテクノロジーが未熟で、だからこそそこに謎や驚き、意外性が存在した20世紀初頭。ストラヴィンスキー、ショスタコーヴィチ、ヴォーン・ウィリアムズにモノトーンの無声映画。彼らはそうした古き良き時代にあった驚き、不確実性、不調和、シュールレアリズム、そして実験精神をヘヴィ・メタルで見事現代に甦らせました。木琴も彼らの手にかかれば立派なメタル楽器。異端児や歌舞伎者の魂は、決して一朝一夕、インスタントに貫くことなどできないのです。 今回弊誌では、SEVENTH STATION にインタビューを行うことができました。 「”Nagasaki Kisses” は、ラルフ・ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第6番の第1楽章を僕たちが再構築したもの。多くの学者やリスナーは、ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第6番、特にその第1楽章は、第二次世界大戦の暗い感情の余波を反映していると推測しているんだ。ヴォーン・ウィリアムズが交響曲第6番を作曲したのは戦後の数年間で、世界中が原爆戦争の悲惨な結末と、紛争が残した深い傷跡と格闘していた時期だった。暗く、陰鬱で、時に不穏な雰囲気を持つこの交響曲の陰鬱な曲調は、この破滅的な出来事から生じた「死」「絶望」「喪失」の感情と一致しているよ」 どうぞ!!
Dmitri Alperovich – Electric and Acoustic Guitars Eren Başbuğ – Keyboards, Editing, Programming Davidavi (Vidi) Dolev – Vocals [2, 4, 5] Alexy Polyanski – Bass Guitars Grega Plamberger – Drums, Marimba [3], Percussion
SEVENTH STATION “ON SHOULDERS OF GIANTS” : 10/10
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EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH CHRIS PARKER OF NEURAL GLITCH !!
“I Consider Editing And Effects Design To Be As Vital an Instrument To The Overall Project As The Guitars, Drums, Bass, And Vocals.”
DISC REVIEW “CONVINCED TO OBEY”
「スタジオ・エンジニアとして、またソングライターとして、編集とエフェクト・デザインは、ギター、ドラム、ベース、ボーカルと同様に、プロジェクト全体にとって不可欠なひとつの “楽器” だと考えているんだ。僕は、NEGATIVELAND, EMERGENCY BROADCAST NETWORK, John Oswald など、編集とオーディオ操作の美しさに特化したオーディオ・コラージュ・アートの大ファンだからね。メタルの行く末を予測するのは難しいけど、これまで未開拓だった領域へと広がっていくことは間違いないと思う。僕の音楽がモダン・メタルの進化に少しでも貢献できれば、とても光栄に思うよ」 90年代初頭。グランジの台頭で絶滅の危機へと追い込まれたヘヴィ・メタルは、さながらかつて小惑星の衝突で絶滅待ったなしとなった地球の生物のように、多様化と細分化を押し進めることになりました。ただし、そんなステレオタイプから距離を置いたモダン・メタルの世界においても、やはりメタルらしい “流れ”、メタルらしいカタルシスを排除し、”脱構築” するバンドは皆無に近かったと言えるでしょう。テキサスの NEURAL GLITCH とその鬼才 Chris Parker は遂にその前代未聞に革命的なメスを入れます。 「僕は様々な形のメタルが好きだけど、それぞれのジャンルの枠の中では限定的すぎると思うことがよくあった。僕はすべてをミックスしたかった。私生活では実に様々な音楽を楽しんでいるので、このような多様な音楽的アイデアのパレットをまとまりのあるプロジェクトに取り入れたいと思ったんだ」 もちろん、多様性から生まれ出る “混沌” がひとつの “顔” となったモダン・メタルの現在ですが、それでもその “混沌” はすべからく意図して作られた混沌。NEURAL GLITCH はその混沌をある意味、神の手に委ねています。いや、もちろん Chris の話を聞けばその混沌は綿密に計算されたものですが、少なくともリスナーの耳にはあまりに突拍子もなく非連続な偶然の産物に聴こえます。 しかし、NEURAL GLITCH がずば抜けているのは、その偶然の産物が往々にして実にクールに連鎖していくこと。 「Devin Townsend と IGORRR の例えについてだけど、彼らの名前を挙げてもらえるだけでも大変光栄だよ。特に Devin は、長い間僕のソングライティングとスタジオ・プロダクションのヒーローの一人だったからね。彼の初期の作品は素晴らしいし、彼のアルバム ”Empath” はジャンルを融合させた傑作であり、スタジオ・プロダクションの最高峰だと僕は思う。僕は彼ら天才の作品の何分の一かのクオリティに達する努力しかできないよ」 なぜこれほど NEURAL GLITCH の “カット・アップ” はクールなのか?それは、Chris が音楽の切り貼り、”コラージュ” を自らの愛するメタルと様々な色彩のジャンルで埋めているから。オールド・スクールなデスメタル、スラッシュ・メタルから始まり、YES の壮大知的なプログレッシブ・ミュージック、MR. BUNGLE の前衛性、MINISTRY のインダストリアルに、Devin Townsend が司る複雑性の全知全能。 そうした Chris の愛情が注がれた音楽の断片たちは、唐突であっても決して偽物やセルアウトのようには聴こえません。むしろ、これこそが “グリッチ・アート”、美しき偶然性で、美しきエラー。我々はこのメタルを壊しながらメタルを愛する不思議な場所から何が生まれるのか、しっかりと見守る必要がありそうです。 今回弊誌では、Chris Parker にインタビューを行うことができました。 「The Boredams は容赦なく狂気的で、聴いていても信じられないようなサウンドだ。 彼らのアルバムを何枚か持っている。 彼らのボーカル、山塚アイのバンド、NAKID CITY での活動は、高く評価してもしきれない。 後にも先にもこのようなレコードはないね。 素晴らしいノイジーなエレクトロニック・パンク・アルバムをリリースしている Space Streakings も大好きだ。 数年前、Igorrr の前座で Melt Banana を見る機会に恵まれたんだけど、彼らのパフォーマンスは強烈で爆発的だった! さらに最近では、ジャンルを超えた予測不可能なサウンドと魅惑的なビジュアルで魅了する Deviloof を発見した。 それに、数週間後にHanabie. と Crystal Lake のライブを見るのが楽しみなんだ。驚異的な Kim Dracula と共演するんだよ」 どうぞ!!
NEURAL GLITCH “CONVINCED TO OBEY” : 10/10
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EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KELLY SHAEFER OF ATHEIST !!
“In My Opinion, Death Has Zero To With The Pioneering Aspect Of Tech-metal, That Title Belongs To Atheist.”
DISC REVIEW “PIECE OF TIME” “UNQUESTIONABLE PRESENCE”
「もともとプログレッシブ・バンドや複雑な音楽が好きだったし、エクストリーム・メタルも好きだったから、そのふたつを組み合わせるのは自然なことだった。でも、それは決して意図的なものではなく、他の誰かになりたかった訳でもないんだよ。ただ自分たちがそうでありたかっただけで、でもありがたいことに、人々は私たちのユニークなアプローチを徐々に認めてくれるようになった。そして、私たちは自分たちの道を見つけたんだ。人々が最終的にそれを理解するまでには何年もかかったけどね」 デスメタルはその黎明期においてさえ、骨子である過激さに忠実であると同時に、境界を押し広げ、さまざまなサウンドを探求するジャンルとして進化を模索していました。それは、フロリダを一挙にデスメタルのメッカへと押し上げた MORBID ANGEL, OBITUARY, CANNIBAL CORPSE といった黎明期の偉人からの伝統。彼らにしても十二分に異様な音楽を叩きつけていましたが、それでも殻を破るバンドはいつの時代も出てくるものです。 特に90年代初頭には、デスメタルをそのコンフォート・ゾーンから脱却させ、よりプログレッシヴでテクニカルな道へと押し進めようとするバンドの波が押し寄せました。DEATH, CYNIC, PESTILENCE, NOCTURNUS といったバンドが、この奇抜でしかしあまりにも好奇心を誘う音楽の中心にいました。そして、そうしたバンドの “パイオニア” と自負するバンドこそ、ATHEIST です。 「CYNIC は私が契約するのを手伝ったバンドで、私は彼らのデモを Scott Burns と一緒に作った。Paul Masvidal と私は今でも数十年来の素晴らしい友なんだよ。 私の意見では、DEATH はテック・メタルのパイオニアという側面とは全く関係がない。そのタイトルは ATHEIST にこそ相応しい。DEATH は違う種類のメタルのパイオニアであり、プログレッシブになったのは CYNIC の私の子たちが Chuck Schuldiner と一緒になってからだ。それ以前の Chuck はとてもベーシックなプレイヤーだったからね」 もはや伝説となった CYNIC の Paul Masvidal や DEATH の Chuck Schuldiner をこのジャンルにおいては “ひよっこ” 扱いする ATHEIST の心臓 Kelly Shaefer。しかしその言葉に異論を唱える人は誰もいないでしょう。それだけ、ATHEIST と Kelly の功績はずば抜けていました。 「私にとってのお気に入りは、”Unquestionable Presence” だね。このアルバムでプレーしているすべての音を誇りに思う。でも、そうだね、4枚ともまったく違うアルバムだ。 そうなるべきだったんだ。だって、誰も同じアルバムを何度も聴きたくはないだろう。 でも、ATHEIST の雛形は “Unquestionable Presence” だと思うよ」 今年35周年を迎えた ATHEIST のデビュー・アルバム “Piece Of Time” は驚異的なテクニカル・スラッシュとデスメタルの要素をミックスした、オールドスクールでありながら破天荒、非常に狂暴なアルバムで、テクニカルな華やかさとプログレッシブな屈折がふんだんに盛り込まれた名品でした。 それでも ATHEIST の最高傑作に次の “Unquestionable Presence” を推す声が多いのは、おそらくプログレッシブ・デスメタル、テック・メタルというジャンルそのものの雛形を作り上げたから。この作品で彼らはオールドスクールなスラッシュ、デスメタルから離陸し、ジャズ/フュージョンがメタルといかに親密になれるかをその一音一音で証明していきました。 とはいえ、ソリッドなリフと辛辣なヴォーカルは健在。迷宮の中を浮遊して探索するような音楽の中で、リフはより複雑に、ギター・ソロは巧みさを増し、ベースとドラムは以前より遥かに印象的になりました。まだ Kelly はその巧みなギターを弾くことができましたし、ベーシスト Roger Patterson は悲劇的な死を遂げる寸前、このアルバムのためにベース・パートを書きあげていました。そうして、Roger の後任、CYNIC, PESTILENCE, ATHEIST を渡り歩いた稀代のベースマン Tony Choy の独特の音色はこのアルバムを真に特別なものへと昇華したのです。 今回弊誌では、Kelly Shaefer にインタビューを行うことができました。「テック・メタルは私たちから始まったのだけど、多くの人が私たちのアプローチを取り入れ、複雑な新天地へと進んでいったんだ。残念なことに、ジャズ・フュージョンとメタルを最初に激しく融合させたという点で、私たちが評価されることはほとんどないのだけどね」テック・メタルの起源、奇跡の初来日決定。どうぞ!!
ATHEIST “PIECE OF TIME” “UNQUESTIONABLE PRESENCE” : 10/10
ATHEIST ARE: Kelly Shaefer – lead vocals (1987–1994, 2006–present), guitars (1987–1994)
Dylan Marks – drums (2023-present)
Yoav Ruiz Feingold – bass (2019–present)
Jerry Witunsky – guitars (2023–present)
Alex Haddad – guitars (2023–present)
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH ALEX BOSSON OF LUNAR !!
“I Distinctly Remember Staring At My Boombox In Disbelief While Hearing Blackwater Park For The First Time, Learning That It Was Possible To Combine Such Beauty With Such Brutality So Seamlessly, And I Have Been Drawn To Attempting To Achieve That Myself Ever Since.”
DISC REVIEW “TEMPORA MUTANTUR”
「”Eidolon” は、僕の心の中で特別な位置を占めているのは確かだよ。Ryan が亡くなったとき、僕はバンドを続けるかどうかでずいぶん悩んだんだ。当時はまだスタジオ・プロジェクトで、僕たち2人が中心となって必死に取り組んでいたからね。だから、彼なしで続けるべきかどうか、あるいは続けることができるのかどうかさえも疑問に思った。言うまでもなく、僕は子供の頃からの親友の一人の死と向き合っていた。 そのとき、僕のその悲嘆の過程についてアルバムを書くというアイデアが閃いた。それは強く、力強く、感情的で、そう、彼の思い出を称えるものになると思った」 ヘヴィ・メタルは聴くものの痛み、悲しみ、孤独を優しく抱きしめる音楽です。そのメタルに宿る並外れた包容力と湧き出でる回復力の源泉は、きっと音楽を生み出す者もまた喪失や痛みを抱えた経験があるからに他なりません。 カリフォルニア州サクラメントを拠点とする LUNAR は、長年の友人である Alex Bosson(ドラムス/パーカッション)と Ryan Erwin(ギター/ヴォーカル)が2013年に結成したプログレッシブ・メタル・バンドでした。しかし、2018年の春に Ryan が突然他界。Alex は悲しみに暮れ、一時は LUNAR を終わらせることも考えましたが、Ryan の遺志を継ぎ、Ryan の偉業と思い出を称えるためにバンドの存続を決意しました。 「このリストは、僕の意見では、この世に存在する偉大なバンドやミュージシャンばかりだ。 また、僕が個人的に尊敬し、ファンであるバンドばかりだ。 だから、彼らの組み合わせと言われるのはとても名誉なことなんだ。 それに、僕にとってプログはすでに音楽全般の “るつぼ” なんだ。 だから、メルティング・ポットのメルティング・ポットになることは、僕にとって本当にクールなことなんだよ」 CALIGULA’S HORSE や WILDRUN のオペラ的な部分、HAKEN のトラディショナルでメロディアスな部分、TOOL や THANK YOU SCIENTIST の数学的な部分、BETWEEN THE BURIED AND ME の超絶テクニカルな部分、そのすべてを飲み込んだプログというメルティング・ポットの “メルティング・ポット”。そんな LUNAR の音楽を Ryan なしで再現するために Alex はまさにそうした敬愛するヒーローたちの力を借ります。 HAKEN, CALIGULA’S HORSE, LEPROUS, THANK YOU SCIENTIST, FALLUJAH…Ryan の思い出と共に人間の生と死を描いた “Eidolon” はそうして、メタルの包容力と回復力に魅せられた18人のゲストミュージシャンからなる一時間超の壮大なプログ・シアターとして多くの人の心を震わせたのです。 「OPETH の “Blackwater Park” を初めて聴いたとき、信じられない思いでラジカセを見つめたのをはっきりと覚えている。あのような美しさと残忍さをシームレスに融合させることが可能なのだと知り、それ以来、自分もそれを達成しようとすることに惹かれるようになった」 親友の死をも乗り越え、Alex がメタルを諦めなかったことで LUNAR は始祖 OPETH の血を受け継ぎながらも、よりシアトリカルでより多様なプログ・メタルの構築に成功します。もちろん、OPETH が生み出した美と残忍のコントラストはもはやプログ・メタル全体の基盤となっていますが、LUNAR はその場所にマス、オペラ、Djent といった新たな血脈、WILDRUN, CALIGULA’S HORSE, THANK YOU SCIENTIST の人脈を加え、そこにかの Peter Gabriel を想起させるプログレッシブ・ドラマを投影していきます。人生を四季に例えた “Tempora Mutantur” は、そうしてまさにプログすべての季節をも内包することとなったのです。 今回弊誌では、Alex Bosson にインタビューを行うことができました。「DREAM THEATER や GOJIRA のようなバンドがグラミー賞を受賞したことは、この音楽に対する世間の認識の変化をすでに示している。 今後もそうなることを願っているよ。 ただ、僕の考えでは、プログは常にミュージシャンのための音楽だ。 万人受けする音楽ではないよ。 ほとんどの人はシンプルな音楽を楽しんでいて、それはそれでいいんだけど、僕らがやっていることは一般的にもっと複雑なんだ」どうぞ!!
LUNAR “TEMPORA MUTANTUR” : 10/10
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COVER STORY : DEATH “SYMBOLIC” 30TH ANNIVERSARY !!
“I Feel, As a Fan, Not Even As a Musician, But As a Metal Fan, That I -Do- Have a Responsibility To Keep Metal Going And Alive And Do Whatever I Can Do.”
SYMBOLIC
Chuck Schuldiner は、脳腫瘍との闘病の末、2001年に他界しました。しかし、デスメタルのゴッド・ファーザーとして知られる彼の音楽的才能と革新的なビジョンは、メタルヘッズの心に永遠に残るでしょう。 物静かで物腰が柔らかく、動物も人間もこよなく愛する Chuck は、その死から四半世紀を経た今でもデスメタルの革新者として称賛され続けています。実際彼が残したもの、特に DEATH の後半においては、通常このジャンルによくある攻撃的で暴力的なテーマとは対照的でした。チャーミングで茶目っ気たっぷりのフロントマンは、しばしば同業者の悪魔的なイメージを否定し、インタビューでは子猫の飾りがついたシャツを着るほどでした。彼は最終的に、象徴的な DEATH のロゴのデザインを変更し、オリジナルの逆十字架を排除して、宗教的(または神聖な)慣習から自身を切り離しまでしたのですから。 加えて今日、私たちはエクストリーム・メタルの話題にプログレッシブな音楽性やアティテュードを取り入れることを当然と感じていますが、20数年前のアンダーグラウンドはそうではありませんでした。CANNIVAL CORPSE のようなバンドが “Orgasm Through Torture” のようなトラックで名を馳せていた一方で、Chuck のような穏やかな人物が、リリックを通して無毒な男性性を模範的に示すことは、純粋に先進的だったのです。 同時代のアーティストと比べると、Chuck には必ずしも典型的なデスメタルのネタではない歌詞で社会問題に取り組む意識がありました。”Spiritual Healing” の “Altering The Future” では、中絶といういまだに議論されているトピックを取り上げました。 「もし僕が女性だったら、子供を産むか産まないかの選択をしたいと思うに違いない。アメリカでは、多くの新生児が望まれなかったために殺されている。女性が妊娠に気づき、子供を望まない場合は、すぐに中絶を選んだほうが救われるんだ」
“Scream Bloody Gore” のホラーへの偏執から、後の作品で見せた超越的なスタイルへの進化。しかし初期においてさえ、”Zombi Ritual” のような曲で彼は哲学的な傾向を示していました。苛烈な慟哭の中の自虐の悪夢、そして暗い誘惑。ゾンビの呪われたゴブレットから酒を飲むことに投影された淫らな憧れ。Chuck は最初から教えてくれていました。人間の意識は渦巻き、暗く、複雑で、それを響かせる音を求める者もいるのだと。 「僕たちは皆、死に魅了され、怖れを抱き、自分が死んだ後に一体何が起こるのか誰もわからない。できることなら永遠に生きていたいよね」 音楽的にも、哲学的にも、典型的なデスメタルから完全に脱皮を果たし、Chuck が望んだ “不老不死” をメタル世界で実現したアルバムこそ、今から30年前にリリースされた “Symbolic” でした。本作は間違いなくChuck と彼のアンサンブルの、いや数あるヘヴィ・メタル作品の中でも最高傑作だと言えるでしょう。そして、30年の月日を経てもいささかも色褪せることのないその魅力。 90年代初頭から中盤にかけては、グランジの台頭によりメタルの多様化が始まり、モダン・メタルの基礎を作り上げた競争の時期でした。特に1995年は、革命的なアルバムの当たり年で、CARCASS の “Heartwork” が50万枚、PAPADISE LOST の “Draconian Times” が30万枚、AT THE GATES の “Slaughter of the Soul” が20万枚を売り上げる中、ロードランナーに移籍を果たした DEATH の “Symbolic” は25万枚を売り上げ名実ともに新時代のメタルを牽引する存在となりました。 明らかに “Symbolic” は、初期の作品 “Leprosy” や “Scream Bloody Gore” の狂気と、プログレッシブな “Human” や “Individual Thought Patterns” の技巧に、研ぎ澄まされた旋律の美しさを組み合わせた新たなステップでした。”Spiritual Healing” から始まった進化の息吹は、”Symbolic” において絶対的な完成度に達したのです。
まず、目を惹くのが歌詞の成熟でしょう。特に “Human” や “Individual Thought Patterns” では、哲学性を帯びながらも音楽ビジネスや元メンバーとの関係に関する歌詞が多かったのに対して、”Symbolic” では社会的なテーマが明らかに増えました。当然、初期のデスメタル・ファンタジーはもうここにはありません。そして驚くべきことに、当時 Chuck の考えていたことはさながら予言書のように30年後の未来を見通していました。 「”Crystal Mountain” というタイトルはある意味ファンタジーのように聞こえるけど、実際はフロリダの元隣人とのトラブルについて歌っているんだ。彼らは宗教狂信者で、偏屈で、ある意味 “クリスタル・マウンテン” と呼ばれる “クリスタルのような完璧な世界” に住んでいて、あらゆるものに反対していた。周囲のすべてのものを否定し、批判した。宗教は確かに悪いものではないが、他人を傷つけて気分を良くし、日曜の朝には教会に行って神に許しを請う……というようなものだとしたら、あまりうまくはいかないだろうね(笑)。だから “Crystal Mountain” は確かにいいタイトルだったけど、ファンタジーとはまったく関係ない。 “Symbolic” には僕にとって重要な歌詞がもっとあるんだ。”1000 Eyes” は犯罪の増加について歌っている。これは世界的な問題だけど、ここアメリカではおそらく最悪だ。最近、テレビでドキュメンタリーを見たんだけど、数年後には各通り、各家、各アパート、各トイレ、あらゆるところにカメラが設置され、すべてを管理し、法の目として機能するようになるだろうと言われていた。そして、もし僕たちがそれに対して何もしなければ、この “何千もの目 ” が僕たちを狩ることになるだろう!プライバシーなんてなくなってしまう。でも、ここフロリダでは、車を盗むために誰かに殺されるのを恐れなければならない。これが最新の “ファッション” だ!車のために誰かに殺されるなんて、本当に正気の沙汰とは思えない!」
SNS時代を見越したような楽曲も存在します。 「”Perennial Quest” は人生における幸福感、その永遠の探求について。僕たちは常に何かを求めていると思う。しかし、それを阻むさまざまな障壁がある。例えば、嫉妬、評判、世間体、欺瞞などだ。これらはすべて、人が純粋に望むものに到達するのを妨げる害悪だ。僕は自分の人生を生きたいし、生活費を払い、犬や猫に餌を与えたいだけだ。誰にも迷惑をかけず、かけられず、ただ望むように生きていたい。僕の人生は終わりのない探求なんだ。 “Without Judgement” もそうだね、世論について歌っているんだ。アメリカでは音楽業界もメディアも噂で溢れている。一生を通じて、誰かが君に対して何らかの意見を持ったり、批評したがったりしていると思う。でもね、髪が長かろうが、小柄だろうが、背が高かろうが関係ないじゃない。自分の人生を生きろよ。多くの人は自分を批判しないけど、他人を批判したり批評したりするのには熱心なんだよな。 “Empty Words” はまさにそんな奴らが吐く空っぽの言葉について。人生の義務、特に人生そのものへのコミットメントや信頼の欠如は、しばしばその言葉の意味を知らない人々によって攻撃される。彼らは何の責任もなく何も知らないことをしゃべりまくるだけなんだよ。僕はそういう無責任な奴らに “Zero Tolerance” まったく我慢ができないんだ」 もちろん Chuck が愛する動物への言及も。 「”Sacred Serenity”。この曲は動物について歌っている。僕にとっては特に犬や猫だ。彼らは命の終わりについて何も知らないし、とても自由奔放だ。僕たちは自分の命がいつ終わるのかを疑うかもしれないけど、彼らは何の疑問も抱かず、自分の人生を分析することもなく、ただ純粋に生きている。だからこそ、僕にとっては動物たちが気持ちよく、幸せであることがとても重要なんだ」 そうした様々な Chuck Schuldiner の集大成的なアルバムゆえにタイトルは “Symbolic” に落ち着きました。 「タイトル曲 “Symbolic” の歌詞は回顧的なもので、僕のこれまでの人生に対する振り返り。無邪気な子供がどのように世界を見ていたのか、それを大人の僕がどのように見ているのか、自分がどのように意見を変えてきたのか、どのように音楽を始めたのか、この音楽がどのように進化してきたのか等々。Symbolic(象徴的)という言葉は、アルバム全体のタイトルをつけるのに十分な力を持っていると思った。”Symbolic” の歌詞はすべて現実について歌っていて、そのためか前2作のような怒りや邪悪さはない。この2枚のアルバムでは、僕は苛立ちや複雑な感情を振り払おうとしていたんだ」
中絶(”Altering the Future”)、末期患者の闘い(”Suicide Machine”)、死ぬ権利(”Pull the Plug”)といった重要なテーマに取り組んでいた Chuck は、デスメタルの音楽と歌詞が邪悪で、悪魔的で、全速力でプレイすることだけが目的になってしまったことに苦言も呈していました。 「今の (90年代中盤の) デスメタルは僕が夢中になっているものとは全く違う。基本的に僕の生き方は、周りに良い人がいること。動物も好きだし。普通のことが大好き。ビーチに行くのも好き。すべてが普通。世の中には、人が転げ落ちたり、人生でうまくいかなくなったりするのを見たがる人がたくさんいることに悩まされる。他人の人生をくよくよ考えている暇はない。世の中には、何もしない人がたくさんいる。噂を立てたり、人の悪口を言ったりしてね。僕はネガティブなことには興味がないんだ。今のアメリカのメタルの状況は、とても歪んでいる。音楽的に安易な道を選び、みんなお互いにコピーし合っている。このアルバムは、みんなの真ん中に投げ入れて、”ほら、これを持っていけ!”と言うのにちょうどいいアルバムだと思う」 歌詞が変わったのは、派手なショービジネスに向かない Chuck がそれでもファンの力を得て、人生が良い方向に変わったからでした。 「生活のすべてが整理され、誰に頼ればいいのか、誰を頼んではいけないのかがわかるようになった。特に90年代の始めはそうではなかったし、僕自身もバンドも、二度と繰り返したくないような状況を経験してきた。例えば、あるファンからの手紙には、僕についてマスコミに何を書かれ、何を言われても気にしない、ただ僕の音楽が好きだから続けてほしい、と書いてあった。それは僕にとってもバンドにとってもとても助けになったんだ」
DEATH はメンバーの入れ替わりが激しいバンドでしたが、ドラムに Gene Hoglan, ベースに Steve Di Giorgio、ギターに Andy LaRocque, ツアー・メンバーに Ralph Santolla, FORBIDDEN の Craig Locicero を擁した “Individual Thought Patterns” 期を推す声が多いようにも思われます。しかし、”Symbolic” のラインナップも素晴らしいものでした。 「新しいラインナップも天才的だ。Craig はもちろん素晴らしいギタリストで、ヨーロッパ・ツアーでは完璧な関係を築けたし、とても楽しかった。でも、新しいギタリストの Bobby Koelble もクールだ。どちらが優れているとは言いたくない。2人ともギターのスタイルが比較的似ていて、大のトラディショニストだし、僕のコンセプトに完璧にフィットしている。新しいベーシストの Kelly Conlon も同じだ。彼ら2人には、他の活動の脅威はないし、DEATH 以外の仕事もない。二人ともプログレッシブ・ハード・ミュージックを演奏していた地元のバンド出身なんだ。だから、DEATH にとっては最高の条件なんだ。新しいバンド仲間を探すにあたって、Gene と僕は大物や偉大な名前には興味がなかった。僕らにとってモチベーションを与えてくれる人、そして僕らとうまくやっていける人を探していたんだ。ふたりとももオーランドとその近郊の出身で、とても近いから、遠くへ行く必要はない。それは大きなアドバンテージだ」 中でも、Gene Hoglan への信頼は特別なものでした。 「Gene はいい奴だし、同じバンドで一緒にプレイするのは本当に素晴らしいことだ。僕たちには多くの共通点がある。Gene は DARK ANGEL でプレイしていた時、最も好きなドラマーの一人だった。僕と一緒にいてくれて、”Symbolic” で彼が自分の楽器に自由を与えてくれたことを嬉しく思っているよ。今、僕は音楽についての考えを共有してくれる男を味方につけた。ドラムは僕らの音楽にとってとても重要な楽器だし、音楽的にも個人的にも Gene との良好な関係が “Symbolic” を素晴らしいアルバムにしていると思う」
“Individual” のサウンドではベースが大きな役割を果たしていましたが、”Symbolic” ではギターがより支配的です。フレットレス・モンスターの不在が影響していたのでしょうか? 「そんなことはないよ。Kelly も Steve と同じくらい有能だし……ギターが支配的になった最大の理由は、新しいプロデューサーの Jim Morris だ。彼が僕らのサウンドを “オープン” にしてくれたんだ。”Individual” のギターは少し泥臭く聴こえ、ベースがサウンド全体で重要な役割を果たしたのはそのせいかもしれない。”Symbolic” では、ギターはより率直で、ストレートで、シャープになった。このテーマについては、スタジオ・ワークが始まる前にジムと話していて、僕たちがどのようなサウンドにしたいかを伝え、彼はあらゆる面でそれを理解してくれた。ドラムの音も同じだった。それまではどのアルバムでも、ドラムの音はそれほど良くなかったし、明るくもなかった。それが改善されたのはジムの経験と関係していると思う。Jim は、ポップ、ロック、ブルース、コマーシャル・ハードロック、メロディック・メタルなど、まったく異なるスタイルの音楽を演奏するバンドと何度も仕事をしてきた。彼の経験は、僕たち、ひいては “Symbolic” を大いに助けてくれたね。 “Symbolic” 制作当時、前任者の Scott Burns は他のバンドをプロデュースしていた。彼は僕らのために時間を割いてくれなかった。Jim との協力については以前から考えていて、可能性が出てきたときにチャンスをつかんだんだ。必ず次のアルバムのプロデュースをしてくれると思っていたので、本当に嬉しかった!」アコースティック・ギター、シンセサイザー、よりメロディアスなリフやソロ、歌いアジテートするボーカル・テクニックなど、物理的にも DEATH は典型的なデスメタルから進化を続けていました。 「まず、アルバム “Human” に収録されている “Cosmic Sea” と比べると、”Symbolic” ではシンセサイザーが一切使われていない。アルバムのレコーディング中、Jim には “みんなシンセサイザーだと思うだろうね”と言ったんだけど、その通りだった(笑)! そしてメロディよルーツは70年代や80年代の音楽、クラシック・ロックやメタル・バンドにある。”Symbolic” は僕らにとって自然な進化の結果であり、ルーツを裏切ることのない進化なんだよ」
Chuck は DEATH の進化の過程、そのすべてを抱擁していました。 「どのアルバムにも満足しているよ。どのアルバムも、その時の僕の音楽と人生に起こっていることを表現している、とても重要なアルバムだった。とても原始的なデビュー・アルバム “Scream Bloody Gore” を聴いていると、何も偽りのないアルバムで、今の DEATH のベースになっていると言わざるを得ない。当時の僕たちが何に悩み、どう表現し、どう考えていたのか、何が僕たちにとって重要だったのか、そして年月を経てどれだけ基準が変わったのか、微笑ましく思わざるを得ない。 “Leprosy” は間違いなく一歩前進だった。よりテクニカルで、僕たちが将来どこに向かっていくかはすでに明らかだった。”Spiritual Healing” は、主にプロダクションの面で非常に進歩的で、しかも Scott Burns との初めての共同作業だった。”Human” は、これまでのアルバムよりもアグレッシブでプログレッシブ、しかもとてもダークなアルバムになった。 そこからまた、”Individual Thought Patterns” は一歩前進したアルバムだった。僕は、バンドがほとんど同じアルバムを2枚続けてリリースすること以上悪いことはないと言っている。僕の好きなバンドもこういう感じだよ。すでに聴いたことがあるようなことを繰り返したいと思ったことはない。”Symbolic” ではその心配はないと思う」 DEATH はもはや Chuck にとって、”ライフワーク” のような存在となっていました。 「このバンドを離れることは絶対にない!DEATH での仕事に支障が出ないなら、プロジェクトやサイド・バンドに入る準備はできているけどね。例えば、DIO の次のアルバムでギターを弾くというようなオファーがあれば受けるだろう。クラシックのヴォーカリストと仕事をしたいとも思うし、それは僕にとって楽しいことだ。でも DEATH を放っておくわけにはいかないんだ!」 最終作 “The Sound of Perseverance” でプログレッシブとメロディのさらなる高みを目指したのち、CONTROL DENIED で新たな地平を開拓。そうして、2001年に悪性の脳腫瘍であまりにも短かすぎる34年の人生に幕を閉じました。バンド名 DEATH の由来には、兄フランクの若くしての死が影響しているといわれています。そう、死は結局、誰もが行き着く場所。特別なことではありません。Chuck の才能と功績、そして早すぎる死によって彼は伝説となり、神格化されましたが、あくまでも本人は “普通の” Chuck Schuldiner でいたかったのです。
「余暇はペットと遊ぶのが好きなんだ。海辺を散歩したり、釣りをしたり、友達と会ってハンバーガーを作ったり、ビールを飲んだり、映画を観たり、ビデオを観たり…ファンの中には、”邪悪な” 余暇の過ごし方を期待している人もいるかもしれないけど、今は誰も失望させていないことを願っているよ (笑)。僕たちは皆、動物と自然が好きな普通の幸せな男たちだ。それがこの多忙なビジネスにおいて最も重要なことだ!自分を名声に溺れさせず、普通の生活を送ることが大切なんだ」 メタルに関しても、いつまでも “ファン” の目線を失うことはありませんでした。 「変に聞こえるかもしれないけど、僕はただ自分の道を進んで、自分のことをやって、どんなものが出てきてもみんなが喜んでくれればいいという感じだ。一人のファンとして、ミュージシャンとしてではなく、一人のメタル・ファンとして、僕にはメタルを存続させ、生かし、できることは何でもする責任があると感じている。それはミュージシャンとしての僕よりも、ファンとしての僕の側面だ。僕は今でもファンであり、人々はそのことを忘れているかもしれないと思う。多くのバンドマンはファンになることをやめてしまう。大物バンドのレコードを聴けば、彼らがメタルのファンをやめてしまったことがわかる。METALLICA のようなバンドが、自分たちはもうメタル・バンドではないし、メタル・バンドと呼ばれたくもないと言っているのは残念だよ。メタルで大成功を収めたのにね (笑)」 実際、Chuck はあまりにも謙虚で、自らの素晴らしい功績にもまったく無頓着で気がついていませんでした。Gene Hoglan が振り返ります。 「Chuck はとても穏やかで、動物とガーデニングが大好きだった。音楽業界は好きではなく友人が大好きだった。デスメタルの父で偉大なシェフ。美味い料理を沢山作ってくれたんだ。俺に音楽的な手錠をかけることは一度もなかった。彼の遺産は生き続けるよ。でも Chuck はデスメタルの”ゴッドファーザー”と見なされることにいつも不快感を感じていたね。自分はその称号に値しないと感じていたようだね。先人達に譲ろうとしていたよ」
最後に、弊誌のインタビューで Chuck について言及してくれたアーティストたちの言葉を置いておきましょう。 「Chuckとの思い出は僕を笑顔にしてくれるんだ。彼が充実した作品とインスピレーションを、次の世代に残してくれたことが嬉しいからね。Chuck はその人生を音楽に捧げ、いつも新たなことを学ぶ意欲を持ち、自身のアートを広げていったんだ。そういう点がアーティストとしての僕たちを結びつけたんだと思う。きっと彼は僕の中にも、創造的な精神を見つけていたんだろうな – Paul Masvidal (CYNIC)」
「君の演奏を見て、デスメタルの話ばかりしていたあの頃が懐かしいよ。君はまだ誰も気づいていない頃から POSSESSED の革命性を理解してくれていた。君のお陰でメタルの世界はより良い場所になったんだよ。天国で会おう! -Jeff Becerra (POSSESSED) 」
「Chuckは偉大な男で、プロデューサー、エンジニアだったね。素晴らしい時間を過ごしたよ。実に創造的なね。僕がフロリダに着いた時、すでにリズムギターのレコーディングはほぼ終わっていたから、僕は自分のソロパートに集中することができたね – Andy LaRocque (KING DIAMOND)」
「政府がクリエイティブな人々、音楽家、画家、表現者に対してどれほど無関心であるかを悟ったよ。私たちはかなり長い間、資金援助も何もない状態で監禁されていた。Chuck が言うように、まさに彼ら権力の “Secret Face” “秘密の顔”を示していたと思うよ – Patrick Mameli (PESTILENCE)」
参考文献: COC : DEATH Interview
KERRANG! :Life After Death: The romantic legacy of Chuck Schuldiner
REVOLVER :DEATH’S CHUCK SCHULDINER REMEMBERED
EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH KARI HARALDSSON OF MÙR !!
“I Fel Like You Cannot Help Being Influenced By Your Surroundings When It Comes To Creating Art.”
DISC REVIEW “MÙR”
「芸術を創作するとなると、周囲の環境に影響を受けずにはいられないような気がするね。僕らにとっては、この地の自然が曲作りのプロセスにあまり意識的に関わることはないけれど、散歩に出かけたり、車で全国を横断して人里離れた場所を訪ねたりして、新しい何かを発見するために自然の中で時間を過ごすのが好きなんだ」 その国の環境、自然、そして文化は生まれてくるメタルに影響を及ぼすのでしょうか?少なくとも 、アイスランドほどその自然にメタルが彩られた国はないでしょう。大地は硫黄のプールで沸騰し、イオンの光が壮大な空のスペクタクルを繰り広げる氷の火山岩。プレートテクトニクスの驚異的な力によって熱と電気が供給され、夏は太陽が沈まず、冬は昇ることすらありません。畏怖と美麗が数百万年前から同居するこの場所は、同様にそのふたつを内包するプログレッシブ・メタルにとってある意味約束された場所なのでしょう。Sigur Ros, SOLSTAFIR, AGENT FRESCO など、アイスランドは人口40万人足らず (香川県よりも少ない!) の小さな国ですが、その音楽的な影響はもはや無視できないほどに巨大です。そうしてまた、彼の国の自然を胸いっぱいに吸い込んだ新鋭が登場。MÙR はデビュー作にして、すでに現代プログ・メタルシーンの中心にいます。 「僕ら自身は、特定のサブジャンルやジャンルに当てはめようとはあまり考えていない。曲のアイデアは、誰かと話しているときや映画を見ているときなど、どちらかといえば都合の悪いときに思いつくことが多いんだ。とても自然に生まれてくる。僕たちの音楽にはどのようなテーマやムードが多いのか、あるいは僕にとって最も自然に感じられるのはどこなのかを説明する必要があるとすれば、それは雰囲気のあるサウンドスケープと、大きく重い感情表現だろう」 Devin Townsend の物憂げな美とドゥームの共演 “Eldhaf” で幕を開けるアルバムは、GOJIRA のヘヴィな音の壁とグルーヴから、TANGERINE DREAM がごとき不吉なシンセのミルフィーユ、そうして CULT OF LUNA の壮大なアトモスフィアまで、モダン・プログレッシブの多様性をアイスランドの自然、そのコントラストとシンクロさせていきます。 「アイスランド語で作詞をするのがとても自然なんだよ。自分の考えや感情を英語に翻訳すると、表現しようとしているものとの個人的なつながりを少し取り除いてしまうような、フィルターのようなものがかかってしまうからね」 荒涼としながらも美しく、終末論的ムードの中に光を宿した MUR の音楽。そして、その根幹はアイスランド語が支えていました。Kári Haraldsson の歌声は MUR 最大の武器。そのピッチの高いスクリームは、Joe Duplantier と Devin Townsend の中間に位置し、地を裂くグロウルは Randy Blythe のように露骨でけたたましい。 そうしてヒリヒリと呪詛的な母国語を操る彼のボーカルは、火山地帯のアイスランドにオーロラの電離層のような、予想外だが独特のテクスチャーをもたらすことに成功したのです。 壮大なメタル・グルーヴ、衝撃的なシンセサイザー、そして彼の地の情景を湛えたアトモスフィアと歌声のダンス。メンバー5人の時間を切り取ったむき出しのアートワークが伝説となる日も、そう遠くない未来なのではないでしょうか? 今回弊誌では、Kári Haraldsson にインタビューを行うことができました。「宮崎駿監督の作品(そして他の多くのスタジオジブリ作品)は昔から大好きで、昨年初めて “デスノート” や “進撃の巨人” を観たときは本当に楽しかった。子供の頃、古いニンテンドーDSやゲームボーイでポケモンをよく遊んだけど、最近また遊び始めたんだ!とても懐かしく、昔のトレーディングカードのコレクションもまだ持っているからね。邦楽はまだあまり聴いていないのだけど、ここ数週間は藤田まさよしの “Bird Ambience” というアルバムをよく聴いているよ」 Devin Townsend の傑作 “Ocean Machine” に薫陶を受けたのも納得の素晴らしさ。またショルキーがかっこいい!どうぞ!!
MÙR “MÙR” : 10/10
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EXCLUSIVE: INTERVIEW WITH RON “BUMBLEFOOT” THAL !!
“I Always Loved To Learn, Explore, Experiment…I Love Astronomy, Science, Physics… The Things I Love, The Way I Feel, The Way I Live, This Is What Comes Out In My Music.”
DISC REVIEW “…RETURNS!”
「あの作品はシュラプネル・レコードにとっては異質なものだったけど、僕にとってはごく普通のものだった。 フィルターを通さず、不完全で、若く、無邪気で、とても正直で、自分が何者であるかをありのままに表現したものだったんだ。レコーディングとミックスのためのツールは生々しく、洗練されていなくて、でもそれがアルバムの個性に拍車をかけている! もちろん、アートワークも!だから、何も変えたくないんだ。人生のある時期の一人の人間の写真集のようなものだよ。全ての瞬間は僕たちにとって一度しかないからね」 “The Adventures of Bumblefoot”。今からちょうど30年前、1995年のこのレコードと、”Bumblefoot” “趾瘤症” という猛禽類の足の病気を名乗るギタリストの登場はあまりにも衝撃的でした。楽曲名はすべて動物の病気の名前。足やチーズを模した異様なギター。そして、ギター世界の常識である24フレット以上のハイフレットを操り、時にはフレットレスまで駆使した超常的サウンド。指抜きなどのトリッキーな技も冴え渡り、複雑怪奇に入り組んでファストなフレーズが絡み合うその楽曲群は、ギター虎の穴シュラプネルにおいてもあまりに異質だったのです。 革命児のそんな評判は瞬く間に業界の目に止まり、ソロ・キャリアを重ねる中で GN’R、ASIA といった巨大なバンドの一員にも抜擢され、一方では Mike Portnoy のような大物と共に SONS OF APOLLO というスーパー・バンドを立ち上げるに至りました。 「完全なインストゥルメンタルなので、ギターが “声” になるスペースが増え、さまざまなムード、さまざまなサウンド、さまざまなエネルギー……など、より多くのことができるようになったんだ。僕は自分の直感に従っただけで、それぞれの曲は独自の方法で発展していった。ある曲はより過激で対照的で、ある曲はより予想された方法で発展していった…ゴールはその瞬間の正直なフィーリングを捉えることだったんだ..」 その歌声も高く評価される鬼才ですが、ただやはり彼の本質はギタリズムにあります。デビュー作から30年、”復活の Bumblefoot” を冠したアルバムで彼は再び始まりの地、”Bumblefoot の冒険” へと回帰しました。30年ぶりにオール・インストゥルメンタルで制作されたアルバムには、ギターに対する愛情、情熱があふれています。ただし、30年前とは異なる点も。それは、彼がギターをより自身の “声” として自由自在に操っているところでしょう。 オープナー “Simon in Space” を聴けば、90年代にはなかった瑞々しいメロディの息吹が感じられるはずです。とはいえもちろん、以前の混沌や荒唐無稽、ヘヴィな暗がりも失われるはずもなく、結果として両者のコントラストが耳を惹く前代未聞のギター作品が完成をみました。 「進化、革新、進歩するテクノロジーやコミュニケーション、そしてそれを使って自分たちの活動を共有する方法については、私は別にかまわないと思っているよ。15秒の動画からフルアルバムまで、今の世の中には誰もが楽しめるものがある!そうやって私たちは皆、自分が選んだ様々な方法で自分の才能をシェアするべきだし、そうできる世界になったことを嬉しく思うよ」 何よりも、Bumblefoot はギター世界において最も “オープンな” メンターのひとり。新しいもの、異質なものを取り入れることになんの躊躇もありません。当時のヒーローの多くがヴィンテージに回帰する中で嬉々として Helix を愛用。表現力豊かでメロディアスなリック、お馴染みのショパンやリストへの傾倒、ウイスキーを注ぎたくなるようなカントリー、微睡のスローなブルース、異国の香り、Djent も真っ青なチャグチャグ・リフと、場所も時間も飛び越えて、自らの直感とテクニックだけで広大なギター世界を築き上げていきます。 Brian May, Steve Vai, Guthrie Govan という、時代の異なる情熱のギターヒーローがここに集ったことも付け加えておきましょう。Vai 参加の “Monstruoso” など、”Fire Garden” 時代の彼を思い出して歓喜すること必至。そう、彼らのアイデアは今でも、アートワークのギター船のように宇宙高く飛び立ちます。ギター世界にはまだまだ情熱と探求の余地が残されているのです。 今回弊誌では、Ron “Bumblefoot” Thal にインタビューを行うことができました。「世界には素晴らしいミュージシャンがたくさんいるし、その中でも日本はとても注目に値するよ! 才能に溢れている!日本の音楽にはずっと注目してきたんだ。Akria (Takasaki) のアルバム “Tusk of Jaguar” までさかのぼると、リリースされた当時、子供のころは本当に聴き入っていたよ。14歳の時には、僕のバンドが LOUDNESS の曲をたくさんカバーしていたんだ。”Girl”, “Crazy Doctor”, “Esper”…もう少し経ってからは “Run For Your Life” もね!」 二度目の登場。どうぞ!!