ハイドンとジュピター音型 その1 | 東京コレギウムブログ (original) (raw)

ジュピター音型
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モーツァルトの好んだジュピター音型がハイドンの初期交響曲にも出現します。 この音型は古くからあり、モーツアルトの専売ではないからです。
ハイドンの初期交響曲とは、前々回の小ブログで紹介したヨーゼフ室内管弦楽団の第7回演奏会プログラムで最初に演奏された交響曲第13番ニ長調
交響曲第13番ニ長調の第1楽章の冒頭 ハイドン

その第4楽章フィナーレの曲首1stVlから現れるジュピター音型についてヨーゼフ・オケのプログラム解説文には「神聖なモーツァルトに対してハイドンのジュピターは人間的でずっと親しみやすいですね」

第4楽章フィナーレの冒頭 ハイドンフィナーレ 記号Kから始まる第4楽章のストレットジュピター 音型ハイドンフィナーレストレット2

ここからモーツァルトの用例に移りましょう。

一方、ウィキペディアによるとモーツァルトを崇敬していたリヒャルト・シュトラウスは、1878年1月26日にルートヴィヒ・トゥイレに宛てた手紙で、ジュピター交響曲 K. 551 を「私が聴いた音楽の中で最も偉大なものである。終曲のフーガを聞いたとき、私は天国にいるかの思いがした」と書いているそうです。「終曲のフーガ」というのは、第372小節のヴィオラのCから5種類の動機(ABCDE)が始まる「五重対位法」のことで、フガートと言えても厳密にはフーガとは言えません。フーガと言うからにはDuxとComesで構成する楽曲でなければなりません(拙著『Mozartファミリーのクラヴィーァ考』p.67)。つぎの譜例をご覧下さい。
K551≪ジュピター≫の372小節あたり 4ジュピター

ハイドンのジュピター音型の展開技法よりはるかに緻密に構成された、372小節以降を聴いてリヒアルト・シュトラウスは「天国にいるかの思いがした」わけです。「神聖なモーツァルトに対してハイドンのジュピターは人間的でずっと親しみやすい・・・」と書いたヨーゼフ・オケの解説文は、この展開技法の緻密さの違いが背景になっています。

このA~Eモチーフは372小節以前に予告的に提示されているもので、例えば
2ジュピター 3ジュピター

モーツァルトのジュピター音型使用例は次の7例が挙げられています。
モーツァルトのジュピター音型使用楽曲7例
交響曲 変ロ長調(旧全集では第55番)K. 45b(Anh 214) の第1楽章第25小節のバス声部。 ミサ・ブレヴィス ヘ長調 K. 192 のクレド冒頭コーラスのソプラノ声部。 ミサ曲 ハ長調 K. 257 のサンクトゥス冒頭コーラスのソプラノ声部。 交響曲第33番 変ロ長調 K. 319 の第1楽章第143小節1stヴァイオリン。 3つのバセットホルンのための5つのディヴェルティメント K. 439b(Anh 229) 第4番 の第1楽章の1st声部第5小節から。 ヴァイオリンソナタ第41番 変ホ長調 K. 481 の第1楽章 第105小節からヴァイオリン。 交響曲第41番 ハ長調 ジュピターK. 551の第4楽章

つづく