米国のミレニアル世代の間でクラシック楽団を部屋に呼んでパーティを開くのが流行っている (original) (raw)

水曜の夜、ブルックリンのベッドフォード・スタイベサント近くの一軒家では、狭い居間に40人があぐらをかいて座っていた。彼らはクラフトビールを飲み、あるいはジャケットを脱ぎネルシャツ姿になっている。20時になり、ファーマーズマーケットの呼び込みの声も次第に止んだころ、サム・ボドキンが今夜の演目を紹介するべく立ち上がった。ヴァイオリン2人とチェロ1人、ヴィオラ1人の4奏者による、ハイドンとブラームスの四重奏だ。

Groupmuseのファウンダーであるボドキンは、もともとクラシック音楽のファンというわけではなかった。多くの若者と同様、クラシックは古くさくてつまらない、白髪で白手袋をはめているような人のための音楽だとなんとなく決めつけていた。しかし、大学時代に友人が「大フーガ 変ロ長調 作品133」を弾いてくれてから、彼はすっかりクラシックにはまった。

「狂気に満ちた、悩ましい音楽でした。1820年代に作曲された音楽だというのに。次の日にはミックステープをつくって、誰かれ構わず布教し始めましたよ」とボドキンは言う。

さらにボストンにあるニューイングランド音楽院の若い学生たちと出会ったボドキンは、室内楽が生で演奏されたとき、それは非常に強い力をもつことに気づいた。法外に高いチケットを買って堅苦しいシンフォニーホールに行かなくていいのなら、きっとほかの若者も同じように感じると彼は確信した。2013年、ボドキンはGroupmuseを創業した。若手クラシック音楽家を1,200人以上抱え、全国のリヴィングルームで小さなコンサートをひらくスタートアップだ。

PHOTOGRAPH COURTESY OF GROUPMUSE

Groupmuse(のコンサート)は、25分間の演奏の2部構成からなる。前半がクラシックから始まるのは決まり事で、後半の選曲は演奏者に任される。

「ドヴォルザークからガンズ・アンド・ローゼスの弦楽カルテットアレンジという回もあれば、ショパンのピアノ演奏のあとにブラジル音楽のショーロ、なんて回もありますね」とボドキンは言う。

プロの音楽家と音楽院で学ぶ学生たちは、Groupmuseの〈プロフィール〉欄にサンプルをアップロードできる(サンプルは、同社の社内チームによる承認制)。Groupmuseのチームは演奏家とホストとをペアリングし、ホストは客たちと音楽家を自宅に受け入れる。(音楽家の配分は)10人の観客に対してソリスト1人、50人の観客を収容できる家にはカルテットが組み合わせられることになる。

毎週およそ20回の演奏会が、米国内で開催されている。そのほとんどはボストンやニューヨーク、もしくはシアトルやサンフランシスコ・ベイエリアだ。Groupmuseは観客1人につき10ドル支払うよう設定しており、音楽家は平均160ドル(約1万8,000円)の支払いを受ける。

若いクラシック音楽家にとって、少人数の観客の前で演奏できるのは、まさに恩寵ともいうべき、ありがたい機会となる。

2014年からGroupmuseで演奏をしているというバロックヴァイオリニストのジュード・ジリアックは、Groupmuseでは驚くほど観客との距離が近いのだと言う。13年にジュリアード音楽院を卒業し、アリス・タリー・ホールやニューヨークのメトロポリタン歌劇場での演奏経験もあるジリアックは、Groupmuseの公演を実践的な練習と、観客からのフィードバックを得るための手段だと考えている。

「大半のコンサート会場では、(演奏家は)薄暗い照明のステージに上がり、観客と引き離されてしまうので、観客がどんな風に演奏に触れているのかが分からないんです」と、彼は話す。15人の観客がリヴィングに座り自分と向かい合っているのだから、その点については問題はなくなることだろう。

ジリアックのようなプロにとって、クラシック音楽に慣れていない観客のために演奏することで気分転換になるし、参考にもなる。「観客には先入観がなく、Groupmuseを音楽自体を集団で鑑賞する場としてとらえています。演奏に対するこだわりがないんです」とジリアックは言う。ニューヨーク管弦楽団の定期会員になるような人は、バッハのブランデンブルク協奏曲がどのように演奏されるべきか強いこだわりをもっている。先達の偉大な音楽家たちの録音音源も聴き込んでいるだろう。しかし、Groupmuseの演奏会に参加する25,000人の観客のうち、ほとんどはシューベルトもシェーンベルクも知らない。すべてが新しいのだ。

利益を得られるのは音楽家たちだけではない。Groupmuseの観客層は、例えばリンカーンセンターにいつも集っている観客とは異なる。「ミューザー(Groupmuseのユーザー)」の実に70パーセントが1980~90年代生まれだが、これはリンカーンセンター室内楽協会のような観客の半分が65歳以上の組織にとって非常に魅力的だ。ニューヨーク管弦楽団のコミュニケーションディレクターであるキャサリン・ジョンソンは、次のように話す。

「どこのオーケストラも、シルヴァー世代の観客がいなくなってしまったら自分たちもおしまいだと心配しています。コンサートホールを訪れてくれるような20〜30代は、我々にとって“未来”なのです」

PHOTOGRAPH COURTESY OF GROUPMUSE

2016年10月から、Groupmuseは上記2団体を含むクラシック音楽の団体とパートナーシップを組み、割引チケットの提供を開始している。

Groupmuseが入り口として機能すれば、このパートナーシップをもって新規のクラシック音楽ファンを常連の観客にできるとボドキンは期待している。「クラシック音楽とその演奏場所は、社会の片隅に追いやられるべきではないんです。ぼくらは、地域の人たちを身近にある文化的資源に気づかせることができると思っているんです」と彼は語る。

まずは、ウィリアムズバーグにヴィオラを持ち込もう。それからリンカーン・センターに、ネルシャツを着た若者たちを連れていくのだ。


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TEXT BY CHARLEY LOCKE