震災後のデマ80件を分類整理して見えてきたパニック時の社会心理[絵文録ことのは]2011/04/08 (original) (raw)

ツイッターの「東北関東大震災に関するデマまとめ」(jishin_dema)」さんが中心となって、主にツイッター上を流れるデマ情報とそれに対する分析の収集・告知が精力的に行なわれており、多くの人が情報提供や検証に加わっている。震災発生直後から1週間程度がデマのピークではあったが、現在も新たなデマは生まれつつあり、また過去に否定されたデマが生き続けているものもある。

そのツイートをもとに@omiya_fctokyoさんがTogetter - 「「東北関東大震災に関するデマまとめ」のまとめ」を作成され、わたしも気がついたら編集に参加している。

今回、この「デマまとめのまとめ」をもとに、震災発生後約1カ月間のデマ80件をピックアップ、パターン別にまとめてみた。

※この記事は震災後1か月足らずの時点でのまとめです。同年6月に発行した冊子『東日本大震災でわたしも考えた』では震災後のデマ100件の分類整理を行なっていますのでぜひこちらもご参照ください。

80件のピックアップについては、明確にデマと判断できるものをできるだけ多く拾った結果である(@jishin_demaさんが「誤解を招く表現」などと表記して「デマ」と断定することを避けたものも含まれる)。これらのもととなる大量の事例や検証の収集は@jishin_demaさんほか多くの方々の多大な努力によるものであり、以下の文章もそれに負うところが大きいが、最終的に編集・改編した結果についてはわたしが責任を有する。

事例は類似パターンごとにまとめ、そのなかで似たものを並べた上である程度古い順に配置している。その結果、厳密な配列順ではないことをご了承いただきたい。また、これらのデマについて、有名人(大手通信企業社長や大手女性下着会社社長等)がデマ拡散に関与した事例も多いが、今回はデマ流布者を糾弾する意図ではないので、その点については省略している。

4/10追記1。デマの中には、時間の推移によって真偽が変化するものがある。たとえば当初デマとされていたが、状況の変化によって事実に変わったり、逆に事実だったものが状況変化によってデマとなるものがある(「物資が届いていない」→物資が届いた後もその情報が流れ続けた場合、デマとなる)。3/30時点で東京ディズニーランドが「四月上旬再開」と報じられたことについてはオリエンタルランドが公式に「再開日は決定できない」と言っていたのでデマだった。4/10には「4/15再開決定、4/12に発表」と報じられ、当初の報道と近い日付になったため「当たらずといえども遠からず」状態になった。とはいえ、3/30時点では明らかなデマだったといえる。したがって、以下に挙げた「デマ」の中には将来的に事実になるものもあるだろうと思われるし、それについて必要なものについては補記すべきだと考えているが、流布時点で確証の取れないデマであったことは事実であることに留意されたい。

4/10追記2。「ここで例示していないからデマじゃない」などとは決して考えないでいただきたい。このページはデマを100%掲載しているわけではない。載っていなくてももちろんデマの可能性はある(特に新たに発生したデマはここに収録されていない)。一方で、デマかデマでないかを決めがたいものについては掲載していない。なお、ここで何らかの「悪意あるデマ」を否定したからといって、その対象者・対象団体の「他の悪事を隠蔽」するかのごとき意図はまったく存在しない。詳細な検証をこのスペースで完結させることは困難なため、一部でソース等を省略している部分もある。それに対して「お前の主観による決めつけだろう、信じられない」と思考停止するのではなく、疑問があれば検索していただきたい(それがデマを止める思考である)。最終的な判断はご自身で。

情報の混乱

当初「ヤシマ作戦」として節電することによって被災地を助けようと多くの人が呼びかけた(被災地からも「電気がついた!」とヤシマ作戦に対して感謝する声もあった)が、実際に節電が必要なのは東京電力管内だけであること、また被災地ではなく首都圏の電力不足への対応であったことなどが後にわかってきた。これらの情報の混乱に基づくデマは、善意による拡散を伴う。その結果、正しい情報がわからずに混乱することになる。これらのデマには、不安も混じっているようだ。

科学的・医学的知識不足によるデマ

科学的・医学的な専門知識がないと真偽がわかりづらいことについてはデマが発生しやすい。その亜種としてトンデモ/疑似科学的な情報も存在する(こちらは主唱者は本気でそう信じている場合が多く、判別は容易だが対策が難しい)。

誤報が訂正されずに流布/偏向報道

マスメディアによる誤報がきちんとした形で訂正されないために、それがデマとして根強く流れる事例も多い。記事削除だけではなく、訂正(名誉回復)報道が必要だが、充分に行なわれていない。

政治家個人を貶める意図でのデマ

政府関係者などに対して、政治的に貶める意図を背景としたデマが流されている。なお、この事例集では民主党議員と辻元清美氏に対するものが多いが、実際にこれらの人たちに対するデマが多い。それを否定しているのでわたしが現政権や辻元氏のシンパと勘違いされるかもしれないが、単にそういうデマが多く、また事実ではないということである。

外国からの支援を政府が邪魔するというデマ

外国からの支援を政府が妨げたという種類のデマは一グループにできる。

政策・政党・政権に対する批判的デマ

政府を批判する趣旨のデマも多く流れている。「そんなひどいことをやってるのか!」という怒りを増幅させる効果のあるデマだ。

その他の個人・企業・団体を貶めるデマ

外国人差別を背景としたデマ

特に悪質なのは、関東大震災時の「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマとまったく同じ類の、「韓国・朝鮮・中国人が暴動・略奪・レイプ等を行なっている」という根も葉もないデマである。これらのデマは特定の層が執拗に流していることが確認されている。このような差別意識を背景としたデマを流すような人間がいるということになれば、「日本人は低劣だ」と思わせることにもなりかねない。そういう行為こそが本当の意味での「反日」ではないかと思うのだが。

日本ユニセフ、アグネスへの攻撃

わたし自身はいわゆる「非実在青少年」問題において創作上の表現規制に反対する立場であり、その点においてアグネス・チャンさんなどに対しては批判的な意見を持っている。だが、その批判において、デマやウソで攻撃することは完全に誤りだと考える。これはアグネス擁護ではなく、アグネス批判者が「デマで攻撃するような奴ら」だと思われたくないという気持ちもあることを理解していただきたい。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎し」はよろしくない。

被災地に関する不正確な情報

現地入りすることが難しいために、被災地に関する不正確な情報が流れた。

好意的すぎる予断

悪意を持って貶めるデマは非常に多いが、一方で好意的な予断によって「あの人ならそういうことがあってもおかしくない」と思われて生まれたデマも多い。悪意がなくてもウソはウソという典型例。

ネタから出たデマ

もともとネタだったものを本気で取る人がいたためにデマ化したもの。だからといってネタ禁止というのも堅苦しいと思うのだが。最後に実害の少ないネタもここに入れておく。

デマを生み出すもの

以上、震災後1カ月足らずの間に流れて明らかなデマと判断できる80件をサンプルとして抽出した。

根本的には、このような混乱時に「信じたい情報」をつい信じてしまうという心理が背景に横たわっているように思われる。

これらを分類すると、「混乱」「無知」「誤解・誤読」「悪意・攻撃」「差別」「好意」「情報不足」「ネタをネタと理解できない」といった要因が見て取れる。これをさらにグループ分けすれば、「混乱・無知・誤解・情報不足」という情報の問題(真偽不明の情報が多すぎても混乱、少なすぎても混乱)と、「悪意や差別的意識にもとづいて意図的に流された攻撃的デマ」の二種類があることがわかる。

もちろん、悪意による攻撃を意図したデマが最も重大であることは言うまでもない。少なくとも、わたしたちは意図的にこのようなデマを作成したり、その流布に荷担したりしないようにする必要がある。そして、そういうデマに荷担することは、自分自身の品性を貶める(自分自身を損ない、傷つける)行為だと自覚する必要がある。

次いで、情報の混乱によるデマについては、どうしてもデマを見抜けない場合が出てくるだろう。これは速やかな訂正と正しい情報を拡散することで対処するしかない。ツイッターの場合なら、「間違ってました」とツイートするだけでなく、誤った情報を書いたツイートを即座に削除することが必要である(消さないといつまでも流布してしまう)。

最後に、ネタはネタとして「息抜き」と考えるべきだろう。騙されたら笑って頭をかけばいい。逆に言えば、こういう時期なのだから、シャレになるネタをやるべきだ。まあ中にはDHMO(一酸化二水素)ネタで激怒するようなおかしな人もいるわけだが、そんな人まで相手にしていたらきりがない。人を傷つけたり貶めたりするのではないユーモアは、今の時期だからこそ必要ではないか。

今回はとにかくざっとまとめてみたレベルである。社会学/社会心理学的には、これらのデータをもとにまた分析することが可能だろう。

追記

これらのデマの多くが拡散された背景には、上記のとおり「信じたい情報を信じる」という心理に加え、「重要な情報はみんなに教えてあげなければ」「こんな悪事は許せないので周知徹底させたい」という「善意」や「正義」がかなり大きなウェイトを占めていると考えられる。悪意によって発せられた情報も多いが、それが善意によって増幅するというのは、デマ対策を考える上でネックになる部分であろう。

この記事に多くの好意的コメントが寄せられているが、一件のみ「明らかなデマと火消しを混在させて真実を覆い隠す火消し記事。AppleStore(分配)と日本ユニセフ(着服)を一緒にすんなカス。」というツイッターコメントがあった。もし日本ユニセフが「着服」であるというのであれば、客観的かつ検証可能な、明確な根拠を示すべきである(根拠があればわたしも訂正に応じる)。しかし、「日本ユニセフは悪の組織なんだから着服に決まってるだろ」というレベルの根拠であればそれはデマと認定せざるを得ない。

このコメントのように、最初から頭ごなしに「真実を覆い隠すためだ」と決めつけ、「一緒にすんなカス」と感情的に批判する心的態度によって(本人は善意や正義や真実だと思い込んでいるにもかかわらず)悪意あるデマが生み出され、拡散され続けるのだということも確認しておきたい。

デマ関連ページリンク

以下のまとめサイトでは上記より詳細に個々の検証がなされているものも多い。また、ここで取り上げていないデマも多く含まれている。