あたらしい憲法草案のはなし|太郎次郎社エディタス (original) (raw)

「国民が国家をしばる約束」から「国家と国民が協力してつくる『公の秩序』」へ。草案の提案する憲法観の大転換を、起草者たちの論理と願望にぴったりとよりそって語る。

南野森さん、長谷部恭男さん、内田樹さん、上野千鶴子さん、鎌田慧さん からの推薦コメント

辻田真佐憲さん、瀬川深さん、太田啓子さん、山崎雅弘さん からの推薦コメント

俵義文さん、大谷昭宏さん、西郷南海子さん からの推薦コメント

はじめに

この本は自由民主党(自民党)の憲法改正草案について、わかりやすく解説したものです。
自民党は日本の政党のひとつですが、憲法改正にもっとも積極的な党でもあります。
いまの政府は、選挙でもっとも多くの議席を得た自民党と、自民党の政策に賛成する公明党という二つの党が協力して運営しています。その自民党が出した案ですから、あたらしい憲法がこの草案に近いかたちになる可能性は高いといえるでしょう。
現在の日本国憲法が公布されたのは、昭和21年(1946年)でした。
その一年後の昭和22年(1947年)、当時の文部省は中学1年生むけに『あたらしい憲法のはなし』という教科書をつくりました。
日本国憲法の条文はむずかしいことばで書かれているため、中学生が理解するのは容易ではありませんでした。また、子どもたちは戦時中の教育になれていま したから、民主主義について一からおしえる必要がありました。そこで文部省は、あたらしくなった憲法がどんな理念をもち、そこにはどんなことが書かれているかをおしえ、生徒ひとりひとりに国民としての自覚をうながそうとしたのです。『あたらしい憲法のはなし』の大切なところは巻末にのせましたので、時間が あればこちらもお読みください。

さて、それからおよそ70年がすぎました。
憲法はいま、大きな分かれ道にたっています。政府と与党である自民党のあいだで、いままでの憲法をあたらしい憲法に変えようという気運が高まっているのです。
憲法を変えるためには、衆議院と参議院のそれぞれで、3分の2以上の議員の賛成を得ることが必要です。両院で3分の2以上の賛成を得られたら、つぎには国民投票がおこなわれ、投票者の2分の1以上の賛成が得られれば、あたらしい憲法に変わります。
このように、憲法を変えるためには、とても高い壁がたちはだかっています。それだからこそ、憲法は70年も変えられずにきたのです。
ですが、この高い壁がこえられる日は、近いかもしれません。憲法を変えたいと思っている両院の国会議員の数が、3分の2を超えようとしているからです。
いいかえれば、いままさに、わたしたち国民ひとりひとりが、現在の憲法のままがよいか、あたらしい憲法に変えるべきかを問われているのだといえましょう。

あたらしい憲法のもとになる案は、平成24年(2012年)4月27日に自民党が発表した「日本国憲法改正草案」(以下、憲法草案と略します)です。
みなさんは、この憲法草案がどんなものかごぞんじでしょうか。よく知らないという人が多いのではないでしょうか。そんなことでは、いまのままの憲法がよいか、あたらしい憲法がよいのか、判断することができません。

そこで、わたしたちも、70年近くまえの『あたらしい憲法のはなし』をみならって、『あたらしい憲法草案のはなし』をつくることにしたのです。
わたしたちはこの草案をつくった人(起草者)ではありません。ですが、できるだけ草案をつくった人びとの気持ちによりそい、そこにこめられた理念や内容 をつたえたいと考えました。改正の意図がわからない点は自民党が出している資料などを参考にし、それでもわからないときは、起草者の身になって考え、ことばをおぎないました。
憲法改正に賛成する人も、反対する人も、どうぞこの本をお読みください。この草案を考えた人びとが、どれほど強い、熱い思いをもって、あたらしい憲法をつくろうとしているかが、きっとおわかりになるでしょう。そのうえで、憲法を変えたほうがよいのかどうかを、しっかり考えてもらいたいと思います。

平成28年(2016年)5月3日

自民党の憲法改正草案を爆発的にひろめる有志連合