No.6-023 Blue Dreaming (original) (raw)

「今は僕の思いのほうが強いかもしれない。でも、絶対にケイトからアシュリーを忘れさせてみせる」

そう自分に
言い聞かせるように答えると、
レイチェルは目を見開き
小さく吹き出した。

「ふふ、ごめんなさい。じゃあ安心して話せるかしら? 私たち、同志になれるかも」

彼女の瞳が鋭く光り
女の表情に変わった――

◇ ◇ ◇

「時々、カフェのこの席で本を読みながら、ケイトを待つアシュリーを見かけたわ」

窓から見える書店を眺めながら
眩しそうに話すレイチェル。

「アシュリーはカフェに入る前、書店に立ち寄る常連さんでね。本の話を通じてお互いを知っていくうちに、彼は私にとって特別な存在になってた……」

彼女は紅茶を一口すすり、
躊躇いながら続けた。

「もちろん、アシュリーにケイトがいるのは分かってた。あんな可愛らしいお嬢さんに、私が敵うはずないのもね。でも、ついここで2人の様子を覗いてしまって……」

ティーカップを持つ彼女の手が
気持ちを落ち着かせようと、僅かに
力が込められているように見えた。

「そしたら、ケイトは彼を叱咤してばかりだった。大人な彼は、いつも黙ってそれを受け入れていたけど」

レイチェルは、自分なら愛する人に
あんな態度は取らないと、
憤っているようだった。

「私も優秀な家族と比べられてるから分かるけど、努力だけじゃどうにもならないこともあるって、ケイトには分からないのよ? だいたい彼女、自分の努力や実力で仕事を得てると思ってるみたいだけど、若い女性の特権に気付いてないんだわ」

その特権には人柄も
含まれると思うけれど、
僕はコーヒーを口にしながら
静かに話を聞いていた。

「あれは春先のことだったかしら、父に頼まれてケイトの家へ本を届けに行ったのは。でも彼女は留守で、アシュリーが出てきて――」

不意に訪れた2人きりのチャンスに
今まで押さえていた気持ちを
打ち明けてしまったと、
レイチェルは目を伏せて
黙ってしまった。

「……あいつは、なんて?」

僕の問いかけに
彼女は静かに首を横に振り、
話を続けた。

「あの日は……書店にやって来たアシュリーの様子がいつもと違っていて、彼の話を聞こうとカフェに誘ったんだけど……」

しかしアシュリーは多くを語らず
エージェントから原稿が
送り返されたことと、
もうケイトを待つ必要はない
ことだけを告げて、
コーヒーにもほとんど手を付けずに
帰っていったという。

「アシュリーが心配で、書店を閉めたあと家を訪ねたら……彼、手首を切っていたの。幸い大事には至らなかったけど――」

レイチェルの瞳には、怒りが滲んでいた。

始めから読む(No.6-001)

レイチェル姉さんだって若いお嬢さんなんだけど、若い頃ってたかが1、2歳でも凄く年の差を感じますよね?︎ ('ー ')
彼女はコンプレックス強めで、尽くすことでアイデンティティを保つタイプ。ケイトに嫉妬心を持つも、ライバルには敵わないと一旦は身を引いたけど、好きな人が虐げられていると知ったら「そんな人より私の方が!」ってスイッチ入っちゃた――そんな感じ⁉︎