品川区長選挙2022「投票マッチング」利用者データから何が分かったか (original) (raw)

公益社団法人東京青年会議所品川区委員会と選挙ドットコムが共同で実施した品川区長選挙2022「投票マッチング」の利用者データが10月7日公開された。

「投票マッチング」利用者「約3,500人」のデータから、「いつも投票に行っている若い世代の無党派層」の投票行動を垣間見ることができたという話。

※「投票マッチング」利用者は「約3,500人」とされている。ズバリの数字ではなく「約」が付されているのは、同じ人が何回でも利用できるため(累計人数しか分からないため)ではないか。結果を大きく左右する可能性は低いが、「約3,500人」の調査結果には、同一人物による複数回の回答も含まれていることに留意する必要がある。


もくじ


選挙ドットコム、「投票マッチング」利用者データ公開

品川区長選は、法定得票数に達する候補がおらず、再選挙が実施されることになった。

※選挙ドットコムは、イチニ株式会社(2015年設立、従業員30名)が運営している選挙・政治家データベースサイト。

「投票マッチング」利用者の属性

「約3,500人」の属性は、男女がほぼ半々(男性46.4%、女性45.9%、その他0.2%、回答しない7.4%)。利用者の年代は、30代が全体の33.3%と最も多く、次いで40代27.1%(次図)。

「投票マッチング」利用者の属性(年齢)

投票頻度は、「必ず投票に行っている」(85.9%)が大部分を占めている(次図)。

「投票マッチング」利用者の属性(投票頻度)

支持政党については、「支持する政党はない」72.4%が多い(支持する政党のデータは公開されていない)。

以上のデータから、「投票マッチング」を利用した「約3,500人」は、「いつも投票に行っている若い世代の無党派層に多く利用された」と結論づけられている。

したがって、以下可視化する「約3,500人」の投票行動は、「いつも投票に行っている若い世代の無党派層」の意向であることを示している。

「投票マッチング」利用者が重視した項目

「投票マッチング」では、次の20の設問のテーマから重視する項目を3つ選ぶことになっている。

男性の関心が高い上位5項目と女性の関心が高い上位6項目を可視化したのが次図。

※男性が重視する上位10項目のなかに「LGBTパートナーシップ制度」は入っていないが、女性は4位に入っている。

重視する項目(男女の違い)

1~3位で順位に違いはあるものの、男女ともに「コロナウイルスの感染拡大防止か経済回復措置か」「育児に関する助成金の情景」「給食費の無償化」がランクイン。回答者が「若い世代の無党派層が多い」ことからこの結果は腑に落ちる。

羽田新ルートについては、男性4位(21.3%)、女性5位(19.5%)と2割程度が重視していることが分かる。

「投票マッチング」利用者の羽田新ルートへのスタンス

20の設問のうちの6番目に羽田新ルートに係る設問がある。具体的には次の通りだ。

羽田空港新飛行ルートは維持すべきですか?

2020年より、南風時の午後の一部の時間帯に限り羽田空港への着陸機が品川区上空を飛んでおり、部品落下のおそれや、騒音等が発生しています。過去、羽田空港新飛行ルートの賛否を問う住民投票を実施するための条例案が区議会に付議されましたが否決されました。

羽田空港新飛行ルートは維持すべきですか?

約4割が反対(反対23.8%、やや反対17.8%)、3割弱が賛成(賛成13.7%、やや賛成13.9%)、約3割が「中立」(30.9%)という結果となっている(次図)。

羽田空港新飛行ルートは維持すべきですか?

※設問文章に「大幅な増便」「騒音が社会問題化する可能性」という事実誤認表現が含まれていることから、「中立」「賛成「やや賛成」が上振れしている可能性があることに要留意。
実際には「大幅な増便」ではない(注1)。また「騒音が社会問題化する可能性」ではなく、騒音が社会問題化していることは航路下の区議会などで反対意見や元の海上ルートに戻すべきだという意見書が採択されていることなどからも明らかだ。

※注1:羽田増便前の年間44.7万回に対して、増便3.9万回は8.7%。増便3.9万回の内訳は、滑走路処理能力の再検証による拡大効果1.3万回(2.9%)、荒川北上ルート1.5万回(3.4%)、都心を通過する到着ルート1.1万回(2.5%)。

【参考】候補者の得票率とマッチング率の比較

※以下、敬称略

マッチングのアルゴリズムはブラックボックス。少なくとも羽田新ルートについて、大西が×(反対)、森沢が△(やや反対)、石田が◇(中立)(次図)というのは事実誤認。的確にマッチング処理されている否か検証できないため、以下は参考扱いとした。

マッチングのアルゴリズムはブラックボックス

「投票マッチング」利用者「約3,500人」がマッチした候補者の割合(以下、「マッチング率」)が表形式で掲載されていたので、可視化した(次図)。

森沢恭子がダントツ(36.2%)、次いで石田秀男(23.7%)、村川浩一(22.9%)。残りの3候補は10%に満たない結果となっている。

「投票マッチング」利用者にマッチした候補者

マッチング率と実際の区長選挙結果の得票率の違いを可視化したのが次図。

実際の得票率よりもマッチング率のほうが高いのは森沢・村川、その逆は山本・西本。石田・大西は得票率とマッチング率との乖離は1%に満たない。

候補者の得票率・マッチング率の比較

以上のように、マッチング率は実際の投票結果とは大きく異なっているのは、「投票マッチング」利用者「約3,500人」に占める割合が「いつも投票に行っている若い世代の無党派層」が高いことが一因なのであろうか。

考察

「投票マッチング」利用者「約3,500人」(同一人物が複数回利用している可能性あり)のデータから、「いつも投票に行っている若い世代の無党派層」の投票行動を垣間見ることができた。

20の設問のテーマのうち羽田新ルート問題については、男女とも2割程度が重視していることが分かった(男性4位21.3%、女性5位19.5%)。

「羽田空港新飛行ルートは維持すべきか?」に対しては、(やや)反対42%、(やや)賛成28%、中立31%という結果となった。

品川区民の3割(12万人)が騒音の影響を受けている(筆者の独自調査)ことを勘案すると、この結果は腑に落ちる。航路下ではない有権者の羽田新ルート問題への関心は必ずしも高くない可能性があるからだ。

再選挙に向けて、羽田新ルート反対・見直し派は、「いつも投票に行っている若い世代の無党派層」約3割の「中立」としている有権者にアピールする必要があるのかもしれない。

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