『ヴィーガンズ・ハム』を観ました。 (original) (raw)

スペシャル不謹慎ブラックコメディヴィーガンズ・ハムを観た。なんかSNSで見かけて観たいな〜って思っていたけれどどれくらいグロいかわからず二の足をふみふみしていたが、友人が「そこまでグロくない」と教えてくれた&推し声優が出ていると知って重い腰を上げた。腰を上げたが開始5分くらいでヴィーガンは死ぬし10分くらいでヴィーガンの肉が肉屋に並んだ記憶がある。テンポがよすぎる。

過激派ヴィーガンを殺しちゃった肉屋がその肉を売ったら大評判!とかいうあらすじだけでやっちゃいけないこと2つくらい踏んでるブラックコメディ。ついでに人種差別と貧困の格差もあるよ!コメディで収めていいトピックか?!って思ったけれど収まっちゃった……。この題材をここまで軽く扱えるのすごい。音楽の使い方がすごい。殺人シーンで流していいわけない曲しか流れない。殺人シーンの音楽が陽気すぎるのだ。加えて登場人物に常に気に触るやつしか出ないし、ノリが常にコメディだった。

主人公夫婦が犯人なのでいつ捕まるかというハラハラはあってもいいんだが、やっていることがやっていることな上に目的が私利私欲なので「早く捕まれ!」とすら思ってしまう反面、殺しが軌道に乗り夫婦仲が良くなっていく様子を見ると「第二の青春ってやつだね……幸せにね……」となってしまうバランスがよかった。なんか憎めないんだよな。多分出てくる登場人物が基本的にどこか癪に触るやつだからかもしれない。死んで当然!みたいなやつはいないんだけどね。でも死んだからといってそこまで悲しむようなやつもいない……。バランスがよい……。

とにかくヴィーガンの良くないところを描いていてこんなヘイトスピーチみたいなやついいの!?と引き笑いしてしまう。だから殺していいかと言われるとそこまでのやつはいないんだけど、主人公が罪悪感を持たなくなってからが本番みたいな感じなので主人公同様、獲物に見えてきちゃうんですよね……。いや、殺していいやつというか、明らかに肉食ってる人を殺してるよな?みたいな過激派ヴィーガンが出る。まぁそいつがラスボスなんだけど、コイツらの顔見せは序盤の方にあるし、人肉だとバレる経緯もちゃんとあって構成としてはしっかりしてるんだよな……。

最初は殺しに抵抗がある夫と違って嫁は終始殺しには乗り気でその嫁に徐々に夫が染まっていく様を見せられていくんだけど、そこにサイコスリラーのような感じはなく、ずっとコメディをしている映画だった。食材は本当に重たいのに出てくるのがスナックのような感じだ。個人的にシリアスよりもコメディのほうが難しいと思っているのでここまでの要素をこんなにコミカルにしているのはシンプルにすごい。それでいて前述の通り構成はしっかりしているし嫁が終始様子がおかしいのでポイントごとにゾッとさせられる。多分コメディに乗り切れない人にとってはとんでもないサイコスリラーだと思う。でもコメディなんだよな……殺しのシーンが本当にギャグちっくに描かれていて、解体シーンは夫婦が共同作業を仲睦まじく行っているので冷え切った夫婦仲を見せられてきたこっちとしてはなんだかほっこりすらしてしまう。ちなみにその肉は金儲けのためだけではなく夫婦が美味しく頂いている。悪食の虜になっているのだ。

ちなみにこの夫婦は肉屋で娘がいるのだが、その娘がヴィーガンとお付き合いしている。かなりのヴィーガン仕草をされて夫婦からの心象はかなり悪いのだが、最後にこのヴィーガンは他人への押し付けを悔い娘を愛していると夫婦に打ち明ける。その様子で主人公は完全に目を覚まし、その青年を見逃して妻と言い合いになる。妻は青年を殺すべきだと思っているからだ。それだけではなく、嫁は夫が殺さないと決めていた女子供も殺せばいいと思っている。ラインの踏み越え方が夫より7歩くらい進んでいるのだ。かわいい子供ももう肉にしか見えない嫁と一瞬肉に見えてもそれを振り切る夫というシーンもあり、正気と狂気のラインを感じるのだが、そもそも夫も踏み越えすぎているので時すでに遅し感はある。

妻がもう殺しというか肉とそれで得る金に取り憑かれちゃってるのが怖い。だけど節々で妻の犯罪への好奇心というか、多分そういうことを好んでいるんだろうなっていうのが滲んでいて、そこにフォーカスすると「早くその女を捨てて正気になれ!」と主人公を応援したくなる。妻は直接人を手にかけてきていないあたりがズルいのだが、そこがまた『夫を助けるために自らも殺人を犯す』というシーンに繋がるからまた憎い。

夫を助けるシーンと言ったが、最後にラスボスヴィーガンと戦うシーンがあるのだ。この夫婦は前半で殺すためのヴィーガンを見繕うためにヴィーガンの活動に参加しているのだが、そこで絡んだヴィーガンが超が3つくらいつく過激派でおそらく肉食をする人を襲って殺している。そのヴィーガンが肉屋を襲撃し妻を拐うのだが、そこに妻と言い争いをして人を殺すことを拒んだ夫が助けに行って人を殺める。ピンチになった夫を助けるため妻が殺人を犯す。という流れがラストの見せ場で、今までの経緯を踏まえるとかなりアツい。今まで殺しをしてこなかった妻が夫を助けるために殺人を犯すのはかなり痺れた。という要素を並べるとかなりのシーンだが、結構あっさり描かれているのでコメディ感をギリギリ保っていて私的には非常によかった。

ちなみにヴィーガンズハムがバレる経緯が『食肉にしたヴィーガンが心臓に疾患を抱えていて、埋めていたペースメーカーが食事から見つかる』というかなりしっかりしたもので感激した。最後まで夫婦の犯行を見た生存者はいないのだ。ここ好き。ペースメーカーを発見した知人(ちなみにめちゃくちゃステレオタイプの嫌なやつ)が調査・告発をして終わるのだが、最後に裁判官に「後悔することは?」と聞かれ「ウィリー」と答えるの、個人的にはよかった。ウィリーって誰だっけ?ってなったから後から調べたら、ペースメーカーをつけていた青年の名前なんですよね。ウィリーがいい子だったから最後の罪悪感があったのか、ウィリーの肉が特別美味しかったから忘れられないのか、ペースメーカーにさえ気がついていれば殺人は露呈しなかったのでそこだけやりなおしたいのか、という解釈があると思うのだが、私はやりなおしたい説を推したい。それくらいヤバい女なので……。

妻はヤバい女だ。妻が定期的に殺人鬼についての番組を見ていたこと、殺人鬼やその手口に詳しいことも、ヤバい女だよーっていう演出だと思う。でもそういうヤバさを持った女だからこそ、愛した男が同じことをして笑ってくれたら嬉しかったのかな……みたいなことは一切考えないでいいタイプの映画だと思う。深く考えたら負けなんだけど、深く考えてもそこまで無茶のない映画なのがまたすごい。殺人がうまく行きすぎなのはご都合主義と言われればそれまでなのだが、そこがテンポの良さなのでここはいいところだと割り切りたい。ラストのセリフ一言で終わる感じもあっさりしていて、ずっとテンポがよくてよかった。

テンポといえば、殺されるヴィーガンの心境とかが一切語られないのでテンポがいい。というか、完全に獲物なんだよな……肉のために殺すということはこういうことだという風刺が効いている……とか考えたら負けなのかもしれない。テンポが良くて楽しければいいという気持ちで観てもいい映画だと思う。

この映画ヴィーガンが観たらブチギレない??とは思う。そもそもヴィーガンの人って『(究極的にざっくり言うと)肉を食べるな』と言っているのであって、そのヴィーガンを食べるってお前……。日本人、というか私の周りにはヴィーガンはいないのでピンとこないけれど、これ海外の映画なんだよな……?と思うと挑戦的だなぁ、と。そういえばカニバリズムについても日本と海外だと温度差があるのだろうか。あるのだとしたらこれまた挑戦的だな……。

あとエロシーンがほぼないのがよかった!チンチンは出る(食肉なので)。ねっとりしたエロはなくて、一回だけセックスのシーンがあるが腰振って終わりなので、そういう『行為』というか『事象』くらいに見れた。3秒くらいだし。性的なジョークもなくて助かった。犬は可哀想な目にあいません!いや、人肉は食べるから犬が人肉を食べるのがダメな人は注意してください。

ブラックコメディに耐性がある人にならオススメ!私にはめちゃくちゃ面白い映画だった。こういうテンポの映画をもっと観たい。

あと推しが好青年(広義)やってて嬉しい!