822渡辺一史著(並木博夫写真)『北の無人駅から』 (original) (raw)
書誌情報:北海道新聞社,791頁,本体価格2,500円,2011年10月31日発行
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枕上で読む本としては分厚く時間がかかった。6つの無人駅を起点に北海道の風景を切り取り,不毛や冬や厳しさを冷静に見つめ,観光資源になっているだけでなく過去となった街をルポしている。出発点は,室蘭本線・小幌駅,釧網本線・茅沼駅,札沼線・新十津川駅,釧網本線・北浜駅,留萌本線・増毛駅,石北本線・奥白滝信号場である。
「駅の秘境」,タンチョウの里,北海道農業,流氷,ニシン,「陸の孤島」,大合併に飲み込まれた村など日本がかかえる問題を見事に描写している。無人駅と鉄道という鉄ちゃんかと思いきや,農業,漁業,自然保護,観光,過疎,限界集落,市町村合併,地方自治と日本全国どこにでも横たわる焦眉の課題を北海道から鳥瞰しているともいえる。
おりしもTPP参加の是非が議論されている。いまや日本一の米どころ・新十津川の項をみれば,完全自由化がいかに現実を無視した政策かが了解されよう。「諸外国が,農家一戸あたりに投入している農業予算額は,アメリカが日本の2倍,イギリス,フランス,ドイツは日本の3から5倍強と,いずれも巨額な財政負担を負っている。とりわけEUでは,農家の所得の約78%が政府からの補助金(直接支払い)で成り立っており,農家はもはや「国家公務員」のようである」(222ページ)。
注釈を兼ねた雑学コラムも充実している。無人駅取材に12年かけた労作は北海道だけでなく日本のかつてとこれからを考える素材に満ち溢れていた。
北海道505の全駅舎をボールペン画で描き終えたという記事があった(山宮喬「駆けた道内 描いた全駅――ボールペン画で北海道505駅の駅舎を制覇――」日経新聞,2013年1月29日付)。ここでも505駅すべての駅舎もさることながら,駅にまつわる人間模様が駅舎制覇の鍵だった。本書に登場する実名の多くが暮らす北海道の無人駅には人はいない。が,人間が生きて暮らしている大地がある。
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