月蝕歌劇団 蠍座公演「~幻想演劇実験集~二千某年のドグラとマグラ」 感想 (original) (raw)
大千秋楽お疲れ様でした!
新生月蝕歌劇団の公演とのことで高円寺まで行って参りました。
私が月蝕歌劇団へ足を運び始めたのは高取英の没後ですが、脚本は全て高取英のものでした。今回は白永女史が脚本も務めるとのことで、休止から帰ってきた月蝕の、ある意味決意表明のようなものかと思って行きましたが、期待を裏切らない素晴らしい公演でした。休止前は公演の度に白永女史が痩せていくので心配でしたが、お元気そうなところを見れてよかったです。
【ここからネタバレしかない】
【ストーリー解説はなし。未見の方はブラウザバック推奨】
【台詞等は聞き書きのため、誤っている可能性があります】
序幕→第一部→幕間→第二部→終幕の構成。
まずは第一部、ドグラとマグラのドグラのほう、『夢想カルテ』男が一人、客席に向かって語りかける。初めは穏やかだった彼の語りは、まるで別人のように段々と激しくなる。ナース服の女が現れ、注射を打つ真似をしたのち、彼を介抱する。彼女は客席に尋ねる。「彼と婚約したことが恐ろしくなりましたか」
彼女は男の母親で、多重人格の男の世話をしていると話す。男が目を覚ますと打って変わった真面目な口調で、それもまた演技だと告げる。多重人格の患者を演じ、母親もまた、そんな息子に合わせて甲斐甲斐しく世話をするナースを演じているのだと。外ではまともに過ごしているのだから、家の中でくらい、狂ってもいいじゃないか――舞台中央の暗幕が開き、エプロン姿の女が現れると、男と、ナース服の女は幼い園児のように振る舞い始める。それが彼らの本当の姿、彼らはこの養育施設で暮らす子どもだったのだ。彼らの両親は精神を病み、入院したり命を断ってしまった。
エプロン姿の女に導かれ、女性が客席から舞台上へ移動する。彼女は男の婚約者ではなく、マスコミの記者。取材を断られた記者は、施設を去り、どこかへ電話をする。音声は記録した。しかし、記事を書き上げる自信がない、と告げる。子どもたちが、彼らを見守る職員が、間違っていると指をさすのは簡単だ。しかし、彼らが異常だと、何を以て証明できよう。気が狂っているのはどっち……
多重人格、ナース服の女、精神病、気が狂っているのは誰か――と、月蝕歌劇団でよく見るあれこれのモチーフを組み合わせて、往年の劇団を思い起こさせるようなお話でした。過去のモチーフを使った近未来のお話、という構図もなかなか上手いですね。今整理していて気が付きました。
武田治香さんの記者(メイクとお衣装がすごく綺麗)の「健常者は誰ですか」という、最後の問いかけが良かったです。普通とは何か? それに捕らわれているのは誰なのか?
第二部、ドグラとマグラのマグラのほう、「さんかくのカド。」
女1が部屋で寝ているところへ、ルームシェアしている女2が帰ってくる。喧嘩した彼氏とまた喧嘩したと言う女2。しかし彼女は、二度と帰らない、と言い残して部屋を去る。女1がテレビを点けると、女2が男を刺した、というニュースが流れていた。
場面は少し時間を戻し、女1と男が会話をしている。女1は、男の浮気相手が女2と見抜いていた。抱きつくふりをして、女1は男の腹部を刺した――「私は恋人を殺した」
実は女2は女1のことが好きだった。だらしない人を放っておけない女の子、彼女の気を引くために、女1は自堕落を装った。しかし、やがて女2の変化に気づく。彼女はより堕落した、献身を捧げる相手として男を求めた――「私は恋人を殺した」
刺された後、直ぐに病院に運ばれた男は一命を取り留め、あの場面を回想する。あれ以来、女が近づいてくると恐怖を思い出してしまうのだ、と彼は言う。その視線の先には、既に事切れた、新しい恋人の姿があった――「私は恋人を殺した」
三角関係の頂点、物理的、精神的に傷つけあった彼らは、舞台上で呟き続ける。「私は恋人を殺した」
罪悪感と喪失感。一人の男を二人の女が取り合っているように見えて実は――というのはそこまで新規性のある脚本ではないと思う(少女革命ウテナの枝織さんと樹璃さんとか)のだけれど、段々と関係や内面が暴かれていく演出はゾクゾクした。紫色のカーディガンを着た女、とニュースで言われた後に、そのカーディガンを抱きしめる演技には迫力があった。その後の女1と男の会話もカップルのリアリティが高い。それにしてもサイコシスと言い、申大樹さんはダメンズを演じるのに定評があるの……?
序幕・幕間・終幕の案内も面白かったです。アンポンタン・ポカンの天宮来来来さんはかわいいし、オンディーヌ美帆さんの歌も良かった。とりあえず今一番欲しいものは次回公演のお知らせです。蠍座の一等星を目印に、また会いたいね~~~~!