2024/7 (original) (raw)

2024/7

7/1

川澄浩平『探偵は教室にいない』(東京創元社)

一話のラブレターなのに差出人不明問題は赤村崎葵子でも出て来たやつやね。平成末期にもなって同性愛を“オチ”に使うのはいかがなものかと思うが……。日常の謎って謎じたいが面白いか解決が面白いかのどっちか(どっちもでもいいが)じゃないと面白くならないが(当たり前だ)、地味な謎に陳腐な解決というかんじでミステリとしては弱すぎる。小説としてならまぁ、というかんじだが、これが鮎鉄賞受賞作か……?となってしまう。三話の「バースデイ」はまぁまぁ面白かった。

7/1

福山陽士『居残りすずめの縁結び あやかしたちの想い遺し、すずめの少女とお片付け』(MF 文庫 J)

チュンがもっぱら動物霊(ハザマ)の特殊設定を開示するための装置になっちゃってるのがなぁ。ゆずソフトのゲームでよくアドホックなファンタジー設定の説明を担当する羽目になるヒロインいがちじゃないすか、あんなかんじ……。問題を抱えた少年少女、なんかイベントがあって話し合って問題解決、ラブ、みたいなシンプルなストーリーで、いい話だからあんまりどうのこうのいうモチベーションはないけれども面白くはない。

7/1

川澄浩平『探偵は友人ではない』(東京創元社)

うーん、どれも無理矢理複雑にした割に華がない謎とぱっとしない解決……。四話目はついにミステリから恋愛頭脳戦になってしまったがもうこっちの方面でいいんじゃないか? 彩香ちゃんもいいキャラしてるし。

7/1

瀬川コウ『謎好き乙女と奪われた青春』(新潮文庫 NEX)

剛腕だ~面白い。事件を引き寄せる体質の男の子に恋愛には興味がないが謎解き大好きな後輩女子が男除けと謎寄せの一石二鳥を狙って偽装交際を持ちかける←なんか既視感すごいけどいいね~。出てくる謎がちゃんといちいち不可能だったり不可解だったりするのもよい。自信があるのか章題がそのまま「誰にも気付かれずに花束を一瞬で入れ替える方法」「四列離れた席からカンニングする方法」「一日で学年全員のメアドを入手する方法」……ですからね。トリックはんまぁ……そうね……というかんじだが、主人公の推理と、主人公がなぜそんな推理をしようとしたのかを推理しつつことの真相を暴く二重の推理というフォーマットがけっこう手が込んでて好印象だ。主人公を含め罪を被りたがりの登場人物が多すぎるがテーマ性なのか手癖なのか。最終的には謎を引き寄せる体質に合理的な説明が付いたりする。いろいろ既視感のある部分が多いがそのすべてにちゃんと意味付けをしていこうというまじめさを感じる。主人公と樹里ちゃんの掛け合いが結構面白く、まじめな話してるときに「一昨日食べたカレーが出てきそうです」「器用だな」とかいうので笑ってしまう。
そしてまた行儀の悪い米澤穂信ファンが古典部や小市民を引き合いに出して行儀の悪いことを言ってるところを見てしまい、具合が悪くなる……。米澤穂信のファンってマジで最悪だな*1

7/2

駄犬『誰が勇者を殺したか』(角川スニーカー文庫)

前半の同じことを三視点から述べ直すパートはほんとにダルかったが、後半はさすがに面白かった。叙述とタイムリープ入れたらそら人気出ますわな、ガハハ! というかんじで……。でもこの序盤だと藪の中だと思うだろ。まさかそんな力業二連発だとは……。
メタ RPG 小説とみせかけてループもので全員生存エンド目指すのめんどいよねというメタエロゲー小説で、あんなに泥臭く努力することが強調されてるザックくんがなんのかんのいってアレス死んだままこのループでクリアしちゃってもまぁいっかってかんじなのはなんか一瞬引っかかった。ザックがやる気を出すためにはアレスが死なないといけないしループで記憶を引き継げるのも巫女だけだからシステム上はしょうがないのだが、なんというか、テーマ的に。

7/2

瀬川コウ『謎好き乙女と壊れた正義』(新潮文庫 NEX)

けっこう期待して読み始めたら……なんか……つまらん! 語り手が読者に対して情報を隠すこと――勘違いさせるための叙述トリックとしてというより、単純に情報を開示する順番を前後させればなんでもミステリになる式の作劇法としての隠蔽――に執着しすぎてそもそも文体じたいが渋滞しはじめたのに登場人物たちも互いにサリーアン課題をやるような話だから読みづらくてしょうがない。苦労して読んでも明らかになる真相は不自然だったり意味不明だったりする。
中学生の時の森さんの事件へのぐちぐちを結果としてよくなかったけど動機としてはよかっただろ!って吹っ切ってくれるのはよかったけどそれをやるのがデウスエクスマキナ姉ってさすがにそれはおれも折木家じゃんってなっちゃうよ。なんでも古典部認定するなとはいったけどこれはさすがにエピゴーネンだろ!

7/3

瀬川コウ『謎好き乙女と偽りの恋心』(新潮文庫 NEX)

二巻がアレだったので一巻でネタを使い果たして搾りカスになっちゃったのかなぁと思ったらなんかまた面白くなってきた。掛け合いの軽妙さも心なしか復活しているきがする。
「花火が中止だとくじ屋が儲かる秘密」は九マイルものでなかなか真相も面白い。「会長が出くわした幽霊の秘密」は真相としては大したことないけど見せ方で面白いものになってる。お化け苦手な樹里ちゃんかわいすぎるんだよね。
しかし肝心の任期あと一か月なのに会長が辞めるとか言い出したホワイダニットはなんか消化不良。てか毎巻毎巻義務的にアレやるのやめろ!
なんだかいろいろ惜しいかんじがするシリーズだし最終巻でビシッと決まってくれればよいのだが。

7/3

犬君雀『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』(ガガガ文庫)

なんでも書いたことが実現するが、書いた本人がその実現を願っていないことしか叶わないノートを使ってクリスマスを中止にしようとして、クリスマスが中止になってほしくないと思い込むために偽装恋愛をするみたいなへんな話でけっこうおもろい。
みょうに陳腐な部分(煙草とか洋画とかいくらなんでもエモぼんくら大学生テンプレすぎるところが多々あり……)とかなり手堅いギミックの使い方(ゆるふわ SF ガジェットを使って切ない系ラブをやるののお手本みたいな上手さだ)のアンバランスさは気になったもののけっきょく後半は夢中になってしまったのであたしの負けだ。幸せに……なれるといいね……。
どうでもいいが同意があっても誘拐って成立するのか? いやまあしないと困るか……と思ったが、拐取は監護者等の監護権も保護法益だから未成年相手だと同意があっても誘拐なんですね。

「ねえ、犯罪者さん。犯罪者さんは犯罪者さんですよね」
「そうだよ」
「わたしの犯罪者さんですよね」
「そうだよ」
よかった、と少女は笑う。頬に涙を流しながら僕の方を見る。そしてゆっくりと言う。
「わたしを誘拐してくれませんか」
まかせて、と僕はうなずいた。

うーん、いいねえ。のーぶるわーくすの静流ルートが俺は大好きなんだ。

7/3

瀬川コウ『謎好き乙女と明かされる真実』(新潮文庫 NEX)

とつぜんアクロバティック頭脳戦はじまってさすがに笑う。ハッタリとしては最高に決まってたが毎回義務的にやってたアレ三連発の言い訳もタイトル回収(?)もそう切れ味があるかんじではない*2。でもまぁこういう外連味は大好きだ。読者側があーまあ手の内は読めたかなwとなっているちょうどそのタイミングにこういうのをぶち込めるのは計算かどうかわからんけどもやっぱり印象に残る。
恋愛や友情とそれに由来する自己犠牲みたいなちょっと強すぎる動機の多かった(せいで納得感の薄い事件もあった)シリーズではあるが、それもまた意味のあることであったということでまぁ……ならいいか!というかんじに。感情が分からない人間特有のエミュレーションと日常の謎の人情噺要素がこう結託するんですね。お上品な文芸寄りの青春ミステリではできないテーマの突き詰め方でよかったんじゃないでしょうか。ていうか樹里ちゃんが春一くんに向ける視線、性欲だったんだ……。先月読んだアレでもそうだったけどさいごのほうでいきなりヒロイン視点で主人公をオトす話になるやつ、主人公がいきなりスパダリになるのでビビってしまうが萌えではあるよな、やっぱり……。

7/4

平野貴大『シーア派:起源と行動原理』(作品社)

シーア派形成の歴史と教義と他宗派との関係を概説する本。手堅い。手堅いのでお勉強になりました以外にいうことが……ない! 政敵と妥協したアリーも敵という尋常じゃない潔癖さで史上最初のイスラームにおける分派になったハワーリジュ派がその潔癖さゆえに喧嘩を挑みまくって負けまくっていまや穏健派ハワーリジュ派のイバード派しか残っていないというのはなんだかかわいそう(?)な話だ。
第三部は現代シーア派がまぁ宗教的には相容れないかもなひとたちとも政治的に妥協してるよというまぁそりゃそうだけど外からだとよくわからんよねという話をしてくれる。アメリカは殺せがスローガンなのに親日ではあるんだ。いやアメリカは殺せもアメリカ政府は敵という意味であってアメリカ人全体が敵という意味ではないみたいな解釈もあるっぽいのでアレなのだが、そうはいってもパフラヴィー朝のあとだしな……。

7/4

氷川透『各務原氏の逆説』(トクマ・ノベルズ)

またジャズバンドの鍵盤が主人公なんかい! 芸のないやっちゃな。
「知らないはずのあることを知っていた人間が犯人」という一番厳密性がない上に芸のないロジックで犯人特定しててがっかり。事件の構図じたいもぜんぜん面白くないし、カスみたいな叙述トリックはいっさい物語と関係してなくてドン引き。各務原氏の無駄なしゃべりもつまらない。

7/5

氷川透『見えない人影:各務原氏の逆説』(トクマ・ノベルズ)

駄作。また「知ってるはずのことをいわなかった人間が犯人」とかいう厳密性がない上に芸のないロジックで犯人特定しててがっかり。事件の構図じたいもぜんぜん面白くないし、いきなりテルが好きだったとかいわれてもは?というかんじ。とつぜん生えてきた感情で苦い青春要素出そうとされても困るだろ。

7/6

氷川透『密室は眠れないパズル』(原書房)

ウーム……。身長がわざわざ書かれてると読者はははーんと思って読むわけで、ミスディレクションかと思ったらマジでそれというのは……。
不可能状況とかが出来た理由はかなり偶然の産物で、いっぽうトリックはありがちなやつで、犯人特定のロジックもびみょう……。一個目のダミー推理はおもしろいしやる意味があるからいいんだけど氷川自身が提出するダミー推理は私利私欲でダメダメだ。
謎の魅力じたいはあるし都会でクローズドサークルになっちゃうのもそうしたかった理由もいちおうある*3のはいいところだ。

7/7

ニコラス・ブレイク『章の終り』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

うーん、出版社を舞台に起きた殺人ってことでなんかおなじようなものが被ってしまったと思ったら、まさかこんなとこ*4まで被るとは……。
後半関係者たちに動機がもりもり見つかるところはただの手癖であんまりおもしろくない。ブレイク世界の住人たちは過去に因縁ありすぎだしぐうぜん再会しすぎだ。ていうかブレイクはじぶんが詩人のくせに(だから?)詩人のキャラが好きすぎて出すとそいつが重要人物になっちゃうのがまるわかりで……。ナイジェルが解決篇で犯人に罠を仕掛ける理由、いちおう書いてあるけど納得できるか? これ……。

7/8

如月新一『放課後の帰宅部探偵:学校のジンクスと六色の謎』(SKYHIGH文庫)

六色の謎っていうから六個謎解きがあるのかと思いきや謎らしい謎がなく学校のジンクスの方の話がちょっと進むだけの短篇もあってなんやねんというかんじ。まさかコンビニの謎とかデブモテモテの謎も六色の謎にカウントしている……?
帰宅部に誘ってくるトラブルメーカーの先輩*5が探偵なのかと思ったらそうでもないし……なんか漠然とキャラが出てきては漠然とした設定のなか話が進むのでコンセプトがよくわからない! 帰宅部設定なんだったのこれ? あんまりラブコメというかんじでもない。
とつぜんヤバいコソ泥が現れてヒロインが監禁されて助けに行くも主人公も監禁されてなんか監禁されてるあいだにひまつぶしで謎解きしてたら犯人捕まって逮捕ってなんやねんこの盛り上がりのなさは~。ジンクスの謎もその意味を改変した理由もあんまり面白くなかった。

7/8

菊地達也『イスラーム教「正統」と「異端」の思想史』(講談社選書メチエ)

セム的一神教は①唯一神②預言者と啓示と啓典③戒律④創造と終末と来世の教義を共通するがその解釈で互いを差異化している。それはユダヤ教とキリスト教、イスラームの差異でもあるし、イスラーム内部の差異でもある。イスラームが産声を挙げた時にはすでにこの四つの特徴は確立していたし、それにまつわる諸困難も認識されていた。啓典の真正性は預言者の奇蹟だけで担保されるのか? 預言者の権威と権力はどのような仕組みでだれに受け継がれるのか? 全知全能の神がいるのになぜ人は争い悪を行うのか? 善人は来世で救われるはずなのになぜメシアは地上で救いを行うのか? これらに対する回答の違いが諸宗派を区別するということだ。本書では萌芽期のイスラームがどのように教義を洗練させていったかをシーア派の視点から描く。
とはいってもイスラーム初期の時代って同時代資料が少なく、かといってクルアーンやハディースを史実とみなすわけにもいかない。じつはけっこう難しいのである。どうみたって政治的な党派としての出自しか持たないシーア派がなぜ宗派になったのかというのはイスラームの歴史を勉強するとまずわからなくなるところだ。初期のイスラームが(キリスト教とかと違って)政治的に覇者であったことと、イスラームに政教分離の観念がそもそもなじまないということを掴むとこのへんの事情がなんとなくぼんやり理解できてくる。 シーア派の硬軟のアイデンティティがハサンとフサインに由来してそうなこと、イラクとシリアの地域対立という面もあること、このへんがあ~なるほどね~というかんじ。なんかメシア思想がそこに生えてくるのがおもろいところだ。
ものすごい大雑把にいってスンナ派とシーア派のちがいは預言者や聖典の無謬性をなにに求めそれをどう保証するかの考え方の違いだ。スンナ派は自然人としてのカリフの可謬性を認め、集団としては誤ることのないウラマー集団にそれを求めるが、シーア派は無謬のイマームにそれを求める。

7/8

高木敦史『僕と彼女の噓つきなアルバム』(角川文庫)

えーおもしろい。写真のなかの人物と目を合わせることで会話ができるサイコメトリー要素ありの特殊設定ミステリだ。サイコメトリーにはけっこう制約があって(視線が合ってないと使えないとか写真の撮られた時点までの話しかわからないとか話したくないことを聞きだすのは難しいとか)、ロジックを骨抜きにしない程度なのもよい調整だし、都合のいい設定に説明がつくのも良心的だ。
サイコメトラーのヒロインと能力なしだけど観察力と推理力のある主人公がいるのもまたよい。小市民も謎好きもそうだが主人公とヒロインのどっちもそれなり以上に頭が切れるほうが心理戦が始まって面白い気がする。ワトスン役がアホだと語り手以上のミステリ的/物語的な役割を持たすのちょっと難しいから……。
やっぱり問題のある家庭出身のヒロインとなぜか親身になってそれを解決しようとがんばってくれる男の子のTRUE LOVEなんだよな。それに限る。でもこの小説でいちばん優れてるのはほんとに天才肌っぽくてでも等身大なところがさいごににょきっと出てくるクロエの造形だな。やっぱり親世代の上手くいかなかった恋愛を子世代が垣間見ちゃう展開っていいんすよね~。

7/9

ジュリアン・グリーン『モイラ』(岩波文庫)

モイラがなかなか…………出てこない!! 潔癖なジョゼフくんが新しく入った学校でイライラしてるのをずっと読まされる。こんだけあらゆるものにイライラしてるとこっちまでイライラしてくるな。
激イライラパートが終わるとカス大学生のすくつの下宿を出てやっと穏やかに暮らせるようになるのだが、かえって修道院的な生活が破滅への伏線になってしまうんですな。
ジョゼフのヤバい性欲とそれよりもっとヤバい抑圧(というかヤバい抑圧のせいで醸成されたヤバい性欲?)がまず書かれるべきことであって、そこに同性愛者っぽい学友が配置されて、ここまではよくできてる(読むのはつらい)のだが、破滅を書くためにモイラが出てきてからなんかよくわかんない通俗さが出てくる。調子悪い時のフォークナーみたいな……。タイトルにもなってる割にモイラのことはまったく書けていないが、これはジョゼフにモイラが見えてないのだから仕方ないんだろう。ていうか殺したあとめちゃくちゃ冷静に死体の始末してて笑う。ほんとにキリスト者か? こいつは……。
訳者解説に出てくるグリーンの生涯はすごい。良きカトリック作家として外国籍ながら不滅の人々の仲間入りをし、存命中にプレイヤードに収録された栄光ある表のグリーンと、若いころから男を求めてパリの街をうろつき、ゆきずりの男とも寝たりしていた裏のグリーンが五十年経って公開される日記から明らかになっているんだとかなんとか。そりゃジョゼフみたいなキャラ造形が出てきますわな。まぁジョゼフをプロテスタントの異性愛者にして同性愛者とカトリックを脇役に配置したところが作家的なくふうということになるんだろうが。って「私」を異性愛者にして同性愛者とユダヤ人を脇役に配したプルーストのパクリやんけ!

7/10

ジョスリン・ニコール・ジョンソン『モンティチェロ 終末の町で』(集英社)

よくあるアメリカ現代作家短篇集文体というかんじでぜんぜんおもしろくない。現在形の語り、書簡体、マニュアル、夫の悪口、二人称の地の文、ぜ~~んぶ既視感の塊だ。バカからしたら一つ覚えられだけどね。一人称や三人称過去形のふつうの小説で書いて面白くない内容はへんな語り方をしても面白くないし、へんな語り方そのものを面白がるにはもうあまりにも陳腐になってしまった。
あとディストピアって一件平和で平等なようにみえるけどじつは強烈な管理や抑圧でそれを成し遂げてるというジャンルであって、強烈な管理や抑圧のある社会そのもののことではないと思ってたんだけどもうこういうの言ってるのって時代遅れですか?と訳者解説を見て思った。まぁどうでもいいや、ディストピアにもポストアポカリプスにもべつに愛着ないし……。
おもしろかったのは「サンドリアの王」。語り手はなんやかやで人生上手くいかなくなって子どもが通ってる学校の先生にキレちゃったりするようになるが、息子に学習障害の疑いがあり支援を受けさせた方がよいと学校側にいわれてキレてしまうところがいい。それはかんぜんに愚かな振る舞いだが、賢くあることが正しいわけではないシーンというものがある。
表題作は一種のゾンビもので、ゾンビの代わりに白人至上主義者が襲い掛かってくる。ヤバい白人至上主義者そのものが描かれることはなく、ヤバい白人至上主義者たちのせいで分断されたコミュニティ同士の軋轢や、ヤバい白人至上主義者に家族を人質に取られて鉄砲玉にされた男とかが出てくるんだなあと思った。ヤバい白人至上主義者そのものを書くことが難しい――かれらの思考回路を想像できないからか、かれらを理解可能なものとして描いて*6しまえば、妥協的な態度として批判される*7からか、そのぎゃくにヤバい白人至上主義者をほんとに理解不能な悪として書いてしまえば陳腐なものになるとわかっているからか――からなのか、あるいはそんなものを書く必要がないという割り切りなのか。
まぁ……二百ページ弱読ませて俺たちの戦いはこれからだエンドかいなとは正直思った。

7/11

平石貴樹『葛登志岬の雁よ、雁たちよ』(光文社)

地球岬買ったはいいものの三作目まず読んでなかったじゃんということで読む。ウワ~いつもの平石や~。平石先生は小学校入学までしか北海道にいなくてそのあとぜんぶ東京のガチガチシティボーイのくせに不倫と援交と売春と殺人くらいしか娯楽のない日本の田舎を書くのが上手い。いや、あたしは日本の田舎のことをよく知らないので上手いのかどうかよくわからないが、上手そうに見えるんだからつまり上手いんだろう。こんなことをいうと田舎のひとに怒られそうだが……。
物理トリック自体はぜんぜん感心しないというかじゃあ現場の見取り図くらい入れといてくれないと驚けないよ!!というかんじだがもうあんまこのへんにはこだわってないんじゃないか。作りこんだ人間関係の曼荼羅を徐々に明かしていくというまんま海外現代本格の読み味なんだよね。
動機はいまいち理解できるような……できないような……。たとえかれを守るためであったとしてもそれで神父を殺すとこまでいくかしら、という……。成立しなかった義理の母娘関係とかで補強してあるけど、あたしにはよくわからなかった。

7/13

小川一水『天冥の標 Ⅹ 青葉よ、豊かなれ』(ハヤカワ文庫 JA)

アーやっと読み終わった。面白かったね~。オムニフロラと直接対決するんじゃなくてオンネキッツの暴走を止めるほうがメインになるのね。ミヒルを追い詰めるあたりはなんか少年マンガっぽい展開が乱打されるので笑ってしまったよ。
シリーズ通してとくに面白かったのはⅡ、Ⅵ、Ⅶかなというかんじ。

7/13

畑野ライ麦『恋する少女にささやく愛は、みそひともじだけあればいい』(GA 文庫)

いいじゃん! 面白い。怪我で野球を辞めて新しい趣味として和歌をはじめてその指南役の年下ししょーとラブコメする話。LINE で和歌を送って添削してもらうけどべつにそう頻繁に会ったりするわけでもなく、歌の内容から深読みしたりそういう距離感が奥ゆかしくていいね。中盤からの展開でびっくりしたのは三球くんはいやそっちに惚れてたんか~いというところで、てっきりふつうにスクイを好きになってると思ってたから……。添削という体でほかの女に向けた和歌を読まされまくってたスクイちゃんがかわいそうでね……。そっから急にスクイちゃんがメインヒロインに昇格するのでややついていけないかんじはあったが、物わかりの悪い祖父に軟禁されたスクイを助けるためにぎゃくに自分たちを軟禁して館の音声をジャックして配信を利用してラブレターを詠むあたりの展開は盛り上げ方がお上手で面白い。フォント芸はズルいだろ! べつに手書きでもないくせによ。タイトルはかなりミスリーディングで、みそひともじをささやくどころか全世界に公開している。
さいごなんかよくわかんない角度からメイドがちょっかい出してきたのはよくわかんなかった笑
こういう和歌とか俳句とかをモチーフにした小説で難しいのは登場人物にじっさいに上手い和歌とか俳句を作らせないといけないところで、でも上手い和歌とか俳句が作れるならそっちで活躍すればいいのであって、小説を書く必要ないんですよね。プロとして活躍していたスクイちゃんはスランプで書けないというのでこの辺を回避し、三球の素人和歌を作ればよく、さいごの告白シーンで出てくる和歌も新しい歌風に生まれ変わったスクイの作品だから〝上手く〟ある必要はないというのでうまく逃げましたなというかんじ。でもマリアさんの和歌とか出てこないのはもったいないでしょ。

7/13

村崎友『夕暮れ密室』(角川文庫)

とくにあらすじとかみないで読んだので最初の章で日常の謎かな?と思ったらバリバリ人死んでワロタ。ていうかお前が死ぬんか~い。
群像劇っぽいかんじで視点がうろうろするのは単純に読みづらかった。なんかどれが誰だかよくわかんないまま話が進むし時系列が行ったり来たりするしおなじ場面を二回書いたりでわかりづらい。あとみんなの目からみた栞の人物像がなんか冒頭のかんじと一致しなくてまぁそりゃ主観と客観のちがいなんだろうけど……
しょうもない多重推理(とくにマクスウェルの悪魔みたいなやつはひどすぎる!!!)が終わるとやっと面白くなってくる。大味な物理トリックはやっぱり風の歌、星の口笛の作者だなというかんじだし、第二の殺人のほうの犯人特定は古風な消去法推理でなかなかいい。犯人になり得る人物の枠を絞ってから複数の条件で一人に絞り込むんですよね。いいね~。

7/14

氷川透『最後から二番めの真実』(講談社ノベルス)

けっきょく作中探偵=作者という仕掛けをしたところで後期クイーン問題が解決されたような気はしないのだが、そもそも後期クイーン問題を何で解決しなきゃいけないかがもはやわれわれの世代になるとピンと来てないんだよな。作中の探偵にとって掴んだ真実がほんとに真実であるかどうか確かめようがないといっても、現実の世界の警察や裁判所にとってもそれは同じことなので……。ゲームとしての本格が読者への挑戦というメタルールで閉じるならもうそれでよくないすか?
ドアの開け閉めと階層の誤認という透ほんまそれ好きやなというのが繰り返されててなははというかんじ。祐天寺さんの推理のほうが鮮やかで、しかし祐天寺さんの知らなかった証言ひとつでそれがひっくり返されるのがおもろい。氷川の語る真相の方は変装と被害者の操りで不可能状況を作ったという陳腐だし実現性が低そうないかにも本格ってかんじでまぁ……いいんですけどね。死体を吊るしたのは警察を呼ぶためという発想は……いいね。

7/16

イーディス・ウォートン『イーサン・フロム』(白水 U ブックス)

そういえば白水 U ブックスの U って大文字? 小文字? 白水社のサイトとか見ると大文字だが小文字でカタログ取ってる図書館もけっこうある。まぁどっちでもいいか。
ウォートンじしんは金持ちの家に生まれたシティガールで、作風も上流階級のことを書いてたのだが、なんか途中で思うところがあったのか下層階級のことも書くようになる。イーサン・フロムとか『夏』とかですね。どっちが好きかといわれると……難しいな。あたしはやっぱりエイジオブイノセンスが好きだけど……。
イーサン・フロムは著者の序文をみるとおっ……「ゲイジュツ」がはじまるんやな……身構えてしまうが、なんのことはない、読み始めてみればいつもの不倫と金の話なので安心だ。死んだ欧米の作家の本は安心して読める。35 歳の病気がちな妻、28 歳の夫、妻のいとこで 20 歳の娘、周囲からやや孤立した農家にこの三人を入れてどう力学が働くかという……うーん、エッチな話だ。ていうかけっこう短い期間でのできごとなのだなこれは。「激突」でマティもイーサンもともに死んでしまえばスターツ出版文庫だが、生き残ってこんなことになってしまうから二十世紀文学なのだな。
ピクルス皿や繕い物の布の使い方、ローマ熱を彷彿とさせるあてこすりの空中戦がとても印象的だ。そしてマティの口調の訳し方がめちゃいい。宮澤先生は訳書を出すのはこれがはじめて?っぽいが、これだけ質の高い訳文を出せるならファンもつくだろう。これはウォートンの短篇集とかも訳して出してくれという意味です。

7/17

森晶麿『かぜまち美術館の謎便り』(新潮文庫 NEX)

うーん、おもしろくない! 実在の名画をパロディした作中の絵画の絵解きをするみたいなコンセプトで、どれもふーんあっそう!以上の感想がなかった。明らかになる十八年前の秘密もへーそうなんですかというかんじだし、妻がじつは生きてましたみたいなミスディレクションもなんのために入れてきたのか謎すぎる。あとはなんかミニ霧子みたいなことばっかりいうガキも「やだ」を「ぎゃだ」と発音するクソガキも体が受け付けなかった。これはあたしが子ども嫌いなだけですが……。

7/17

真紀涼介『勿忘草をさがして』(東京創元社)

信じられないほどの地味さ! 植物豆知識で解かれる謎とちょっとした人情噺みたいな構成でどれもできているのだが、謎と人情噺にとくにつながりがないのでどれも外科手術の結果というかんじがすごいする。なんかこう……植物豆知識を利用した人生訓めいた詩的なメタファーとかがほしいわけじゃん。そういう色気がいっさいないんですよね。それをやらないのがいいとこなのかもしれんけど……*8。このテーマで花言葉ネタをやらんのは感心やねと思ったらさいごバリバリ花言葉でワロタ。花は語らないから美しいんだろ*9! あと会話文がめちゃくちゃぎこちなく、とくに凛との会話はマジですか?となってしまった。いやまぁこれがメディアワークス文庫とかマイナビ文庫とかから出てたらうーん堅実で心温まる青春ライトミステリという評価をしただろうけど鮎哲賞っすからねえ。

7/18

沖本克己『禅 沈黙と饒舌の仏教史』(講談社選書メチエ)

煦日発生して地に舖く錦。瓔孩髪を垂れ白きこと糸の如し――こんなんもう京極夏彦じゃん!
まぁ微妙な本だった。なんか後半とつぜん鈴木大拙にブチギレはじめるのでややウケ。あんまりいい本ではなかった。

7/18

氷川透『人魚とミノタウロス』(講談社ノベルス)

なんか……ラノベみたいな女刑事出てきてワロタ!!! そして氷川がどんどん制服に弱くなっていく。ほんまキモいなこのホビット……。言いすぎか。作中でメタ発言が増えてそれもちょっとやなかんじです。
ミステリとしてはいつもほど状況が凝っているわけではない+容疑者候補たちの作りこみが適当すぎる(ストーカー太郎もナンパ師も統合失調症患者も見るからに目くらましやないですか)とかそういうのはやや残念だが、さいごの瞬間まで引き延ばされた被害者当ての趣向が皮肉で悲しくてとてもよい。僕の冗談はうんぬんの決まり文句がこんなに悲しいなんて……。ふつう多重推理って先に出た方が間違いで後に出た方が正解だけどこれは後にひねり出したこうであってほしいという推理がやっぱり証拠で覆されるというちょっとひねた形式。
まああとは素朴な疑問として診察中の医師がいる部屋にはふつうネームプレートとかかかってないか? 相談室だからそういうのなかったのかな……。4 番の部屋にネームプレートがかかってたにもかかわらず 3 番の部屋に直行したとかならよりロジックが強固になった気がするな。そしてラノベみたいな女刑事たいして活躍せず終わってワロタ……。

7/18

三田千恵『天才少女 A と告白するノベルゲーム』(ファミ通文庫)

ミステリ風味のラブコメかと思ったらバリバリミステリでワロタ! プロットはかなり入り組んでて何回どんでん返すねんというかんじで好印象なのだがキャラがあんまり魅力的ではなくややもったいなく感じた。山菜はそれ伏線だったというかんじでおもしろいがじっさいは腹痛めまい幻覚嘔吐があったら狂言自殺を中止して病院に行くだろう。ふつうハシリドコロを食べても走り出したりはしないと思う。タミフルじゃないんだから。

7/18

有栖川有栖『ロシア紅茶の謎』(講談社文庫)

ンナハハ~つまんね~。のっけからカスの暗号二連発で号泣。屋根裏なんかほぼバカミスやないかい。こんなん捧げられる乱歩先生の身にもなってみろ。
表題作はいちおうロジックらしきものがあってまぁ安心したが、不自然にぬるくなっててしかも苦い(青酸なのでとうぜん口内に激痛も走る)毒入り紅茶を即死するくらい勢いよく大量に飲むか……? いっぱんに紅茶を飲むときってちびちび飲むから毒殺にはあんまり向かないと思う。ミステリ作家は一回石けん水とかでいいから飲み物に入れてみてそれを飲み込めるかどうか試してみるといいと思う。帝銀事件とかではクソ苦い青酸を飲ませるために薬だと偽って飲ませたりそういうくふうがあったわけじゃん? いやもちろん浅草青酸カリ殺人事件みたいに青酸で標的を成功裏に仕留めてる事件もあるが、確実に殺りたいならあたしはそういう手段を取らないなぁという……まぁ……こなみかんってやつですね。
「八角形の罠」はちゃんとしてて面白かった。

7/21

アリス・マンロー『小説のように』(創元文芸文庫)

元旦那憎いぜ系小説がやっぱり多めだが文章力でやっぱりそのへんのとは一線を画してますな。グロテスクなもの、事件についての描写が多くて、まえからマンローってこんなかんじだったっけ?となった。南部オンタリオゴシックてなんやねん笑 まあでもちょっと長くしたフラナリー・オコナーみたいなかんじにはなってるか。
「顔」がいちばんおもしろかったです。

7/21

本田勝一『〈新版〉日本語の作文技術』(朝日文庫)

なんか定期的にネットで話題になるから読んでみた。修飾項と被修飾項は近づけろ、修飾項が並列するときは長いものから前に置け、長い修飾語が並列するとき、またはこれらのルールを覆して主語を文頭に出したりするときは読点を打て、そして無駄な読点は打つな、など実践的かつ経験にそぐうルールがいっぱい出てきてお得。まぁでも書いててなんかこの文章わかりやすくならんなと思ったらこういうルールを改めて参照すればよいわけだ。

7/22

篠谷巧『夏を待つぼくらと、宇宙飛行士の白骨死体』(ガガガ文庫

おもろい(大声)! 実力派だ。取り壊し寸前の旧校舎で宇宙服を着た白骨死体を見つけてしまうところからはじまる幼なじみ四人のひと夏の冒険←このあらすじで面白くならないことあるか? イベントがテンポよく起こるし繋ぎも自然で安心感がある。登場人物の数も物語に必要な要素*10を適宜割り振ったうえで過不足ないかんじ。小説手慣れてそうでうらやましいですなぁ。
時間 SF になりそうな展開になったりフェッセンデンの宇宙に*11なりそうな展開になったりしながら、伏線が回収され終わるころには SF が抜けて喪の悼み方についてのまじめな小説になってるの特殊な読み味だ。
まぁでももうちょっとラブコメがあってもよかったかな笑 すみません、ラブコメおじさんが檻から逃げ出したみたいで……。
めちゃ面白かったからちゃんと売れてほしいな、ガガガの単巻もの SF 路線は厳しそうだが(勝手なイメージです)、夏へのトンネルみたいなどうしようもないもんが売れるくらいだからどうにでもなるだろう。てかいま気付いたけどこの作者は宝島からミステリ出してんだ。そっちも読むかぁ。

7/23

平石貴樹『室蘭地球岬のフィナーレ』(光文社)

うーん。捜査してたら関係者間で不倫とか援交してるやつが出てきて怪しい~ってなるけどけっきょく家族のなかにむかし悪いことしたやついてそれがバレそうになったから殺したのが事件の発端になって出生の秘密が絡んで事件が複雑になってという展開がこうも続くとさすがにちょっとワンパターンじゃんってなっちゃうよね。でもこれまでさんざん性と愛をやってきたシリーズがここにきてぜんぶぜんぶそれのせいじゃん!!となるところはなにかドロドロしたものが直接あふれ出してくる感じがしてさすがに迫真だった。豊のキモすぎる振る舞いもあってぞわぞわする。ところでこのシリーズ、毎回表紙になる女が作中で重要人物かどうかとか死ぬかどうかとかで選ばれてなくていちばん美少女とされてるキャラを採用してるの潔くてウケる。
七輪と一緒にアレを買ったという描写が出てきた時点でまさか……と思ったがトリックがまさかのそれでいやー……と思ってしまった。痕跡を残さない時限発火装置なんてありえない、と捜査陣が断言してるのに痕跡を残さない時限発火装置がトリックだった*12という真相にするのはよほど面白いトリックじゃないとじゃあなんすか警察がクソバカだったってことすかってなっちゃうじゃん。犯人しかこの犯行が可能だったと確信できる人物はいなかったというのがトリック以外から絞られるのはいいけどでも客が遅刻したからといって女衒がそれに合わせて遅刻するとは限らないよな、てきとうな高校生ならは?オッサン時間通りにこねーならいいや進一シバきに行こってなるかもしれんわけやし……。あとは円佳がもし試食に来てたら犯行をやめるつもりだったのではないかみたいなやつをロジックの途中に入れられちゃうと読者は推理不可能にならないか? まさに円佳を呼んでるからこいつは犯人じゃないだろう……いや、円佳もここで始末するつもりだったということ? その場合動機は? とか考えながら読んでたのではぁ?となってしまった。郭公は傑作だったのになぁ。

7/23

エラリイ・クイーン『シャム双生児の秘密』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

さいきん(?)流行り(?)の極限状況ものの元祖だね。
クイーンにしてはめずらしくクローズドサークルものだが指紋で個人を特定させないくらいの役にしか立っておらず、ロジックの大半はダイイングメッセージと偽の手がかりの解釈に費やされる。これもう後期クイーンだろ。利き手の推理はそのままだとほーんというかんじだが、死後硬直からの推理と合わせ技でさすがになるほどなぁとなる。にしても焼け死ぬかもしれないのにやたら悠長に証拠を隠したりするねこの人たち……。
父子クイーンが次々ミスをするのが初期にしては珍しいっちゃ珍しいがサスペンスと動的な推理が並行するのはたしかにりーだびりちーが高くて面白い。炎がなんもかんも焼き払っていくなかひとりの(いやまぁふたりだが)死にこだわるエラリイはやけっぱちだが気高い。パパが死んだと誤解したときのエラリイは萌えだね……。なーんだクロロホルムを嗅がされただけかつってすぐ死体にかかりっきりになってお医者さんに死体より生きてる父上のほうをまず面倒見んかーいと怒られるところもウケる。
もうこのあたりから「論理的に唯一可能な犯人」みたいなのはたわごとなんじゃないかとクイーン先生は気づきつつあるが、それでも論理があるフリをしたりぎゃくにエンタメに振り切ったりすることなく、どうしようどうしようと悩み続けて手の内を見せてくれたのが先生の偉いとこなのかもなとさいきんは思い始めた。

7/24

なみあと『占い師オリハシの噓』(講談社タイガ)

女の子の方から強めの矢印出てるラブコメも好きだけど修二くんがべつに謎を解くわけでもないしどういう魅力があるのかもよくわからんしでなんなん?というかんじ。でもこっちからアプローチしてもぜんぜん靡かないのに向こうの趣味のオカルトの話ばっかりしてくるキャラ、美少女だったら萌えなんだろうな。すみません、生まれついての性差別主義者で……。
ぽやぽやした事件が続くな~と思ったらとつぜん警視庁公安部の巡査部長が出てきて笑ってしまった。千里眼を謳って信者の財産を巻き上げる新宗教教団に潜入! うおっ……なんか……TRICK みたいな話に……。でもなんかしょぼ新宗教がコンビニの居抜き物件使ってるのやなかんじのリアリティあるね……。
あんまりシリアスになりすぎずほわっと終わったがこういうオチは……よくないよ! ストーカーは美少女がやっても犯罪です。

7/25

なみあと『占い師オリハシの噓 2 偽りの罪状』(講談社タイガ)

日常の謎としては第一章が面白かったがそれ以外は……あんまり。全体を通しての大きな謎は一巻よりスケールダウンしてるしぜんぜん面白くない。ラブコメ部分もけっきょく修二くんがなに考えてんのかよくわかんないし奏ちゃんも好き好きいってるだけで進展ないしでなんだかなぁ。びみょうなかんじだ。

7/26

デルモア・シュワルツ『夢のなかで責任がはじまる』(河出書房新社)

うーん、そこそこ! ナボコフが褒めたとかサリンジャーとかチーヴァーに連なるとかいわれたら期待しちゃうけどまぁそんなではなかったというだけであってそういうの抜きならまぁ楽しめたんだろうけど……。
訳者解説がなんかしょうもないこと書いてて、男は情けないけど女性はそんな男たちをがんばって支えてる、こんな男たちがいなければもっと幸せだったかもね*13みたいな……いやあの……。もちろんむかしの本を改めてこの時代に紹介するときにフェミニズムっぽい観点から解説を書いたりするのはまぁ一般によいことなのだが、それってその題材をその作家がどういう工夫で書いてるかが問題なんであって、たんにむかしの小説を読んでむかしにしては女性が活躍してるシーン/あるいはむかしならではの家父長制に女性が苦しめられているシーンを抜き出してくるだけのものをやられると困惑してしまう。社会学部の学部一年生のレポートならそれでもよいだろうが……。というのはさいきんちくまで出た『山梔』の文庫化の解説にも思ったことなのだが、こういうことをいってるとミソジニー扱いされるんだよな。あたしはつまらない文章*14が嫌いなだけです!

7/26

柾木政宗『朝比奈うさぎの謎解き錬愛術』(新潮文庫 NEX)

ラブコメ期待して読んだらなかなか本格でワロタ。 NO 推理 NO 探偵も読んでみるかぁ。スベり芸と消去法推理へのこだわりはワセミス先輩作家の霞流一の芸風っぽいってフォロワーが言っててたしかになあ……と思った。
第三話のトリックを書いたメモが現場に残置されてるのにそれだけでは犯人がわからなくてそこからロジックを生やす羽目になる話がひねくれすぎてて好きだった。トリックがわかれば犯人がわかっちゃうようなミステリはミステリじゃないってことですね、先生……! どれも容疑者の範囲を絞ってから消去法でひとりに犯人を特定しててよかった。

7/27

柾木政宗『朝比奈うさぎは報・恋・想で推理する』(新潮文庫 NEX)

キャバ嬢がサブヒロインなのどういうセンスなんだよ。でもいい子だな……。オタクに優しいギャルは実在したんだ……!
ミステリのネタ自体は一巻の方が切れ味あったかんじもするがまぁどれも水準作で安心。それより作者が負無オトナみたいな全踏みラップバトルに執着しすぎててそっちのほうが怖かった。一巻でやってなかっただろそれ。なんで急にいみわかんないこだわり出してきたんだよ……。こわい……。

7/28

マルセル・プルースト『失われた時を求めて 8 ソドムとゴモラⅠ』(岩波文庫)

うーんリアルな気持ち悪さだな~と思ったのは「私」が頻繁にアルベルチーヌを呼びつけようとするけど口でいってることとは裏腹にアルベルチーヌがそんなにまめまめしく夜中に訪ってくれるわけでもなく、「私」の身勝手な性欲が行き場を失ってぐるぐるするところ。アルベルチーヌがほかの女とレズってるかもしれないという疑惑(それもべつに大した根拠があるわけでもない)だけでこんだけ大騒ぎできる「私」はすごい。シスヘテロ男性の嫉妬ってあんまりそういう構造になってないような直観がある*15が、どうなんだろう?

7/30

麻耶雄嵩『鴉』(GENTOSHA NOVELS)

12 年ぶりに再読……12 年!? 嘘だろ……。2036 年にまた再読するか……。
いまでこそあたしは地に足着いた本格が読みたいねフフンとかいってるけど当時のあたしはこのくらい大がかりで鮮やかじゃないと感動できなかったもんじゃった。やっぱり紅葉の道がみえるところが美しいんですよね。人物誤認についても上手かどうかといわれると厳しいが初期ゆーたん特有の足元から世界が崩れるかんじはやっぱり気持ちいいよね。すごい都合のいいタイミングですごい悪化する破傷風でややウケ。

7/30

氷室冴子『海がきこえるⅡ アイがあるから』(徳間文庫)

おそろしいな! どうやったらこんな危険すぎるやまねこみたいな女を何人も作り出せるんだ。男と別れたあとつなぎの男と遊びながら別れた男の家の周囲をうろつく女のせいで存在しない記憶が冷や汗を流し始めました。もうほとんどモダンホラーだ。
デートに行く服を買いに行くのを手伝ってくれる女友達がでてきてそれってこの時代からラノベのテンプレに含まれてたんだと思ったらそのあと宗教勧誘されて笑った。一筋縄ではいかないな! この小説に出てくる女たちはみんな真の動機を隠して行動する。これが……大学生のREALってこと……?

7/30

佐々木丸美『雪の断章』(創元推理文庫)

昭和のベストセラーとかなんとか。孤児がもらわれた先の家でいじめられて家出して心優しい青年に引き取られ……てあり得るのか? いくら昭和といってもぜんぜん無関係な青年の家に女児を……? まぁでも昭和だしな……。
最初は親切そうにみえたトキさんが徐々にそれだけではないことがわかってくる序盤のドロドロさはすごい。翻って後半のラブコメ部分はあんまりぴんとこなかった。祐也さんがあんまり萌えではなかったため。
毒殺事件はなかなか凝ってたけどけっきょく飛鳥の途中の推理がそのまま正解でびっくりした。でもさいご数ページでひっくり返す病気は……新本格以降の風習か……。

7/31

逢縁奇演『こちら、終末停滞委員会。』(電撃文庫)

嫁の妹からラブコメを抜いてソシャゲにしたかんじでお上品さのなさに拍車がかかってた。ブルーアーカイブと SCP がお好きなのですね、というかんじ……。若者向けなようにみえてこういうのを楽しんでる層はぜったいオッサンというかゼロ年代の亡霊だろ。