「ウェイバック」 (2011年) 水だ!蜃気楼じゃなかったぞ (original) (raw)

2011年 134分 アメリ
監督:ピーター・ウィアー
出演:ジム・スタージェスエド・ハリスコリン・ファレルシアーシャ・ローナン

徒歩による逃避行。 ★★

第二次世界大戦中、ポーランド軍人のヤヌスジム・スタージェス)はスパイ容疑でソ連当局に逮捕される。
彼は強制収容所から意を共にした仲間6人とともに脱走をおこなう。
しかしそこは雪に覆われた極寒の地なのだ。収容所の外には、何にもない・・・。

本作は極寒のシベリアから灼熱のゴビ砂漠を越え、さらにヒマラヤを越えてインドにたどり着いた男たちの物語。すごいね。
原作は「脱出記 シベリアからインドまで歩いた男たち」という手記とのこと。
映画の副題も「脱出6500km」。

とにかく苛酷な自然の中の旅である。
深い雪に覆われた寒さ、そこを乗り切ったら今度は砂漠の暑さである。
食料はおろか、水さえもないような状況である。
観ているだけで辛くなるような旅である。

旅の仲間に粗野な(あまり知的には見えない)ソビエト人のコリン・ファレルがいた。
どうやら彼はスターリンの信奉者であり、政治的な罪ではなく、純粋な悪事の罪で囚われていたようだ。
なのでモンゴルの国境まで来たときに、彼だけはソビエトに残るといって別れていく。

それに反して、知的な感じで映画を引き締めていたのはエド・ハリス
沈着で的確な判断をしてヤヌスを支えていく。格好いい。

こんな苛酷な旅を頑張ったヤヌスには大きな目的があったのだ。
実は彼は、拷問にあった妻が自分を裏切るような証言をしたために逮捕されたのだった。
彼は、きっと妻が自分自身を責めつづけているだろうと思い、そんな妻に許していると伝えたかったのだ。
その一念で旅を頑張るヤヌス。とてつもない夫婦愛があったのだ。

さて。途中から逃避行に同行する女性をシアーシャ・ローナンが演じる。
彼女も集団農場から逃げてきて、ヤヌスらと遭遇したのだ。
もちろん彼女は可愛くて好いのだけれども、この映画の内容にはいささか可憐すぎたのではないかな。

長い長い旅路の果てにやっとインドに着く。
インド映画「チャーリー」のときにも書いたけれど、日本列島の北海道稚内から沖縄県与那国島まで(要するに沖繩まで入れた日本の全長)が直線距離で3000km。
ということは6500kmって、歩いてこれを往復したってこと?
本当に?と言いたくなるほどにすごいね。

インドでは共産主義者でなくても、パスポートがなくても、彼らは暖かく迎え入れてもらう。
よかったね。でも、ソビエトが支配している母国には帰れないのだよ。

月日が流れてポーランドの政治情勢が変わる。1989年になってやっと非共産党政府が樹立され共和国となる。
ヤヌスも捕らえられることのない政府となり、彼は40年以上も経ってから帰国するのだ。
そして妻と再会するのだ。許していることを伝えるために。

内容的にはとてもすごくて好いお話。
しかし映画としてみたとき、実話を基にしたときにありがちなのだが、どうしても物語の展開が平板だった。
原作は原案だけとして作った方がよかった?
でもそうしたら、こんなすごいことは絵空事だろとみんな思ってしまうだろうな。