気まぐれレコード (original) (raw)
Love Deluxe/優河
根暗も踊れるダンスアルバム。
このアルバム「Love Deluxe」につけられたキャッチコピーである。
元来より、踊りは音と共にあった。音につられて身体を動かす、というのは子供時代に誰もが体験する踊りの原体験である。
人類史における踊りの起源も同様であろう。
昨今はデジタルによる打ち込み音楽の普及により、半ば強制的に高揚感を煽るようなヒット曲も多数存在する。
そういった音楽を否定するつもりはないが、「Love Deluxe」はより原始的な、原体験に近いような踊りが提供されているように思える。
優河の伸びやかなボーカルがそう思わせるのか、魔法バンドによるアレンジが秀逸なのか、その理由は何とも言えないが、タイトルトラック"Love Deluxe"を筆頭に、自然と身体が動いてしまうような心地よいリズムが並んでいる。
一方で"Lost In Your Love"や"泡になっても"といったバラードも適所に配置されており、聴く者を飽きさせない。
このアルバムに一貫するエキゾチックな音像は、夜中に炎を囲んで踊っているような、どこか異国の祝祭のような風景を想起させる。
根暗だろうとパリピだろうと関係なく、「Love Deluxe」を聴けば知らず知らずのうちにその祝祭に加わり、気づけば踊る人々に溶け込んでゆく。
雑多な日常の中で一時の解放を味わえる、小さな祝祭がこの作品なのである。
『泡になってもいい ただそこにいて』という印象的なフレーズとともに祝祭の空間は終わり、また慌ただしい日常へと戻ってゆく。
しかし、不思議なことにその余韻はいつまでも残り、小さな幸福感をもって日常に少しの彩を与えてくれるのだ。
Moon Music/Coldplay
コールドプレイから、最高傑作といえる新作が届いた。
タイトルは「Moon Music」。このタイトルから推察できるように、前作「Music of the Spheres」(2021)と対になる作品といえる。
この2作はどちらも宇宙をテーマとしたアルバムだが、そのアプローチはそれぞれの作品で異なっている。
前作では球体(天体)の音楽、という名が示すように、未知の宇宙を探訪し、そこで見つける普遍の愛を描いていた。
それに対して、今作は月の音楽であり、例えば地球の周りを遊泳しながら無限の宇宙を眺めているような、より身近で現実的な宇宙が描かれている。
Moon Musicで誘われる宇宙旅行は、現実的であるが故により壮大で、かつてないほどのスケール感をもって聴く者の心を奪うのである。
昨年行われた東京公演は前作の世界観を体現しておりそのスケール感には圧倒されるばかりであったが、個人的には今作の衝撃はそれを凌駕するほどだと感じている。
個別の収録曲にも目を向けたい。
作品の核となるのは"🌈"および"ONE WORLD"の2曲である。
これらはアルバムの真ん中と最後に配置され、それぞれ組曲のような構成になっている。
イントロの"Moon Music"と合わせて、この壮大な宇宙旅行のサウンドトラックに花を添えている。
かと思えば、"GOOD FEELiNG"や"AETERNA"といった、彼らが得意とするアップテンポなダンスミュージックも収録されており、良いアクセントとなっている。
発表前にシングルリリースされていたのは"feelslikeimfallinginlove"と"WE PRAY"の2曲だったが、これらは前半で早々に登場する。
我々リスナーは先行リリースされたこれらの楽曲を聴いて新譜への期待を高めていたのだが、その期待はあくまでこの壮大な旅の序章に過ぎなかったのである。
こうしてリスナーの期待をはるかに超えて始まった旅は、最高に美しい"ALL MY LOVE"でクライマックスを迎える。
"ONE WORLD"で旅は終わりを迎え、地上に降り立ち、エンドロールが流れる。
そうしてまた、何度でもこの素晴らしい旅を何度でも繰り返したくなるのだ。