狭山の黒い闇に触れる 1077 (original) (raw)

『原文を読みやすくするために、句読点をつけたり、漢字にルビをふったり、中見出しを入れたり、漢字を仮名書きにしたり、行をかえたり、該当する図面や写真を添付した箇所があるが、中身は正確である』

【公判調書3350丁〜】

「第六十一回公判調書(供述)」昭和四十七年六月十五日

証人=中田健治(三十四歳・農業)

(法廷では、芋穴から発見されたビニール風呂敷は妹の物ではないとの当初の見解を変えた証人に対する尋問が続く)

松本弁護人=「しかしあなたは以前に善枝が持っておったものだということは知らなかったわけでしょう。ところが公判では、これに間違いないと、大体その筋に受取れる風に仰っておる。あるいは誰かに言われたのか、あなたが入手先についてお調べになって間違いなく善枝の持っていたものだと確かめられたのか、ということですけれども」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「このビニール風呂敷は、それじゃまあ善枝さんのものだとあなたがお考えになっておるらしいんですが、どういう風呂敷なんですか、誰からいつ入手した風呂敷でしょうか」

証人=「そこまで記憶ありませんが」

松本弁護人=「しかしあなたは善枝さんの所持物について警察に対して確認書を自筆でお書きになって提出されたことがありますね、その中にこの風呂敷も挙げておられたんじゃありませんか」

証人=「・・・・・・・・・」

山梨検事=「この間、開示した中に入っておりますが、これここにありますから示されますか」

松本弁護人=「いや結構です。これは間違いないですから。今、検事が横から言われたようにあなたの確認書があるんですが、現実の問題としては非常に特徴のある風呂敷のようですね。模様など見まして、何ぞ入手先についてはご記憶ないんですか」

証人=「ええ、恐らく近所の結婚式じゃないかと思うんですが」

松本弁護人=「しかし、それが当初は善枝のものと違うという趣旨のことを述べておられたようなんですが、善枝のものに間違いないという風に供述が変わったのは何か具体的なものがあってそういう供述に変更になったと思うんですが、その辺のご説明を伺いたいと思って聞いているんですが」

証人=「ちょっと自分にも分からないんですが」

松本弁護人=「それから万年筆についてお尋ねしますが。(東京高等裁判所昭和41年第187号の42号万年筆を示す)この万年筆は善枝さんのものに間違いありませんか」

証人=「はい、間違いないと思います」

松本弁護人=「その万年筆をあなたはお使いになったことがあったようですね」

証人=「はい」

松本弁護人=「このことについてはすでに原審第七回公判で詳細に供述されておりますけれども、現在のご記憶でどういう時に使ったか、ご記憶ありませんか」

証人=「細字だったものですから、帳面整理するのに使った記憶があります」

松本弁護人=「帳簿の整理にですね。数字などを書くのにお使いになったんですか」

証人=「はい、使ったと思います」

松本弁護人=「相当お使いになったようなことを述べておられますね。相当に字を書いたような趣旨の証言がありますが、ご記憶ありますか」

証人=「そんなに相当って、まあ限度が分からないんですが」

松本弁護人=「『すごくたくさん書きました』というようなご証言があるんですが。二、三ヵ所に」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「『・・・騒々しいような使い方を普段なさったわけですね』 『そうです・・・』というようなご証言もありますね」

証人=「それほどでもないと思います」

松本弁護人=「これはいろいろ特徴などもご指摘になっておるようですけれども、これは私のほうで検察官から見せられた科学警察研究所の鑑定書によりますと、使用程度のごく少ないものだと、非常に少ないものだというようなことが出ているんですけれども、証人としてその万年筆について、どういう点が善枝のものに間違いないと仰る根拠になるんでしょうか。万年筆というのは何万、何十万何百万とあるものですが、なぜ、その万年筆が善枝のものだと確信をもって仰るような特徴があるわけですか。この万年筆に」

証人=「ただ、色とペン先の外見です」

松本弁護人=「いや、ペン先があなたはたくさん使ったと仰っているし、鑑定によるとほとんど使った形跡がないことになっているもので、改めて聞いているんですが」

証人=「・・・・・・・・・」

松本弁護人=「外見と感じ、ですか」

証人=「そうです。相当使ったというほどでもないです」

裁判長=「そこはこういう風になっているんです。一五八三丁に『その万年筆はあなたも善枝さんが持っている当時、借りて使ったことがありますか』『ええ帳簿整理した時に数字はすごくたくさん書きました』あとはちょっと触れてないね」

松本弁護人=「そのあとにまあ同質のことがかなり出ておるんですが、まあ、これは以前に仰ったことですから結構なんですけれども、そうすると、まあ色とかそういう印象から仰っておるわけですね」

証人=「はい」

松本弁護人=「そうすると、善枝さんのものであるという確証は何もありませんな。善枝が使ってたものはそういう種類の万年筆で、非常に色、形そういう感じも似た万年筆であるという以上のものではありませんね」

証人=「はい、名前などを書き込んであったわけでもなし、確実なものというのは・・・・・・」

松本弁護人=「確実なものと断言されるわけじゃないんでしょう。それによく似た万年筆であったことは間違いないという趣旨のことでしょう、あなたの言わんとする趣旨は」

証人=「はい」

(続く)

ビニール風呂敷に関し弁護人は徹底した尋問を行なっているが、その背景にあるものは何か。そして証人の証言がなぜ変わったかについては未解明のままとなっている。

○警察に押収された万年筆。

万年筆に関しては、警察が押収した物は被害者所持の万年筆とは異なるという可能性が出てきた。これは現在、狭山事件弁護団が再審請求している要件の一つ、万年筆のインクの鑑定請求に通ずる。それとは専門家による蛍光X線分析により、被害者が当時、自身の万年筆で書き残したインク痕からはクロム元素という成分が検出されている。対して警察が石川被告宅の家宅捜索で押収した万年筆のインクからはクロム元素は検出されなかったのである。私の記憶が間違いなければこの押収した万年筆に対し警察は指紋採取をしておらず、むしろ下手にそれを行なうと関巡査部長の指紋が検出されかねない、といったら言い過ぎか。