みなみ千里のおばちゃんロック (original) (raw)

わたしの大阪

ある日私は地下鉄なんば駅のホームに立っていた。

ホームに電車が入ってきたので、車両内に目をやると、すでにそのおっちゃんは居た。

右足を踏み鳴らさんばかりに揺すりに揺すっているおっちゃん。

さすがに隣の席は空席だ。誰もおっちゃんの近くにいない。

電車のドアが開いたので、おっちゃんを避けて別の座席につく。

おっちゃんの貧乏ゆすりの音だけが響く。やっぱり鳴っていた。

女の子と女の子の間の空席へ移動した。女の子に挟まれ、

幸せそうに座っている。満たされたような、癒されたような笑顔で座っている。

おっちゃんの両隣に座っていた女の子もここぞとばかりに席を立つ。

どうやら梅田から乗り込んできた、おっちゃんの隣の席に座ろうとした、

おっちゃんの怪しさをまだ知らないおばちゃんがバランスを崩し、

痴女!痴女!せっかくこんなかいらし子がおるとこにおんのに!

責められているおばちゃんは、「ごめん」と言ってその後しらんぷりを決め込んでいたが、

あまりにもおっちゃんが騒ぎ立てるので別の車両へ移って行った。

ベビーカーに乗った赤ちゃんだけが、大声で騒ぐおっちゃんを見てはしゃいでいる。

予測のつかないおっちゃんの行動に赤ちゃんを除く誰もが緊張を隠せないまま電車は走る。

目が合わないようにそらしつつも誰もがおっちゃんの様子を静かにうがかっている。

二つ先の駅である西中島南方駅に着くずいぶん前に、おっちゃんがすっくと立ち上がる。

「ものすごく余裕を持って行動する。早めに立つんや。」

あぁやっと降りてくれる。車両内にほんの少し安堵の空気が漂う。

しかしおっちゃんは西中島南方駅で開くのと反対側のドアの前に立っている。

おっちゃんおっちゃん!ドア間違えてる!反対側のドア開いてるやろ!

と、みんな思っている。早よ!早よ降りんかいな!祈ってさえいる。

「わしは新大阪で降りるんや。」(新大阪駅は西中島南方の次の駅)

どんだけ早めの行動やねん!と車両内のみんなが心の中で突っ込んだと思う。

立ってる人は吉本新喜劇ばりにひっくり返ってもいいくらいのぼけだ。

おっちゃんはくたびれた紙袋を一つ下げていて、背は高く痩せ型で、

おっちゃんは自分が人からどのように見られているのか、

そういえば、おばちゃんのことを痴女!と騒いでいる時に、

せっかくこんなかいらしい子がおるとこにおんのに。とぬかしておったな。

おっちゃん女性専用車両に乗り込んだんも当然のこと確信犯やな!

新大阪駅では先程からおっちゃんが立っている側のドアが開く。

ことさら大きな声で我々に語りかけるかのように言う。

そしておっちゃんは宣言通り新大阪の駅でようやく女性専用車両から降りて行った。

私の日常の大阪ですどうぞよろしくお願いします。ろっく。

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