『ジャンゴ 繋がれざる者』 荒野の奪還者 (original) (raw)
クエンティン・タランティーノ監督、ジェイミー・フォックス、クリストフ・ヴァルツ、レオナルド・ディカプリオ、サミュエル・L・ジャクソン、ケリー・ワシントン出演の『**ジャンゴ 繋がれざる者**』。2012年作品。R15+。
第85回アカデミー賞助演男優賞(クリストフ・ヴァルツ)、脚本賞(クエンティン・タランティーノ)受賞。
南北戦争の2年前、1858年のテキサス。黒人奴隷のジャンゴ(ジェイミー・フォックス)は、ドイツ人の歯医者で賞金稼ぎのキング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)に助けられる。シュルツは賞金首のブリトル3兄弟を追っており、兄弟の顔を知っているジャンゴを必要としていたのだった。しかも彼らはジャンゴの妻ブルームヒルダ(ケリー・ワシントン)を南部のミシシッピーに連れ去っていた。ジャンゴは妻を取りもどすためにシュルツの相棒となる。
セルジオ・コルブッチ監督、フランコ・ネロ主演のマカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)『続・荒野の用心棒』(原題“Django”)の主人公の名前をいただいた、タランティーノのマカロニ愛あふれる作品。
タランティーノが「マカロニ・ウエスタン」を撮る、という話はけっこう前から聞いていたので楽しみにしていました。
で、先日アカデミー賞を2部門受賞してさらにハクがついて、ようやく日本公開。
今回は極力予備知識を仕入れずに臨みました。
かりに「マカロニ・ウエスタン」というものをこれまでにまったく観たことがなくても、奴隷制が当然のように存在した時代の西部劇、ということさえ把握してればオッケー。
以下、
ネタバレあり。
さっそくだけどまずおことわりしておくと、この『ジャンゴ』は上映時間が165分で、これは153分の『イングロリアス・バスターズ』や154分の『パルプ・フィクション』よりも10分以上長い。
にもかかわらず退屈することはありませんでした。
奴隷から賞金稼ぎになったジェイミー・フォックス演じるジャンゴとクリストフ・ヴァルツ演じるシュルツが賞金首たちをつぎつぎと撃ち殺し、最後はレオナルド・ディカプリオ演じる南部の大農園の地主カルヴィンと対決する。
痛快な場面がいくつもあるし、アメリカの負の歴史である奴隷制や現在も完全に消えてはいない人種差別についてちょっと考えさせてもくれる。
だからタラちゃんの映画が好きならおすすめです。
そのことを前提としたうえで、映画を観ながらいろいろ思ったことをつづっていきます。
観終わって、率直にいえばかつて『パルプ・フィクション』を観たときのような「すげぇ面白い映画を観た!!ヘ(゚∀゚*)ノ」という感激や、『イングロリアス・バスターズ』のときのような「やってくれましたなー(苦笑)」という感嘆はなかった。
まぁ、期待がかなりデカかったから、というのもある。贅沢な要望かもしれない。
なによりも、「これがアカデミー賞の脚本賞?」という疑問が。
ちなみにタランティーノは『パルプ・フィクション』でも脚本賞を獲っていて、今回は2度目の受賞。
『パルプ~』はじゅうぶん納得できるんですよ。シナリオが面白いと思ったもの。
でもこの『ジャンゴ』には、僕は特にストーリーが面白いとかよく出来てるとかいったものは感じなかった。
いや、これまでハリウッド映画がほとんどといっていいほど描いてこなかった「奴隷制」を娯楽作品の形をとってとりあげてみせたことにはおおいに意義があるだろうし、そのことでもってこの作品を高く評価するというのであれば、まぁわからなくはないんですが。
あるいは僕がただ単に無知だったり鈍感なせいで、この物語の真の良さを捉え損なっているだけなのかもしれない。
僕は偉そうなこといえるほど「マカロニ・ウエスタン」にくわしくはないし、作品自体そんなにたくさん観てるわけじゃないから、そういう映画を浴びるほど観てきたタランティーノにむかって疑問を呈するのは非常に気が引けるんだけど、僕のイメージでは「マカロニ・ウエスタン」って良くも悪くも「見世物」なんだよね。
それこそタランティーノが『キル・ビル』でやってたような。
アメリカ製の正統派西部劇がフロンティア・スピリットや友愛の精神など、アメリカ人の根底にあるテーマを描いていた(ってじつはよく知らないが)のに対して、そんなもん知ったこっちゃないイタリア人たちがでっちあげた「マカロニ・ウエスタン」ってのは、主人公たちが金のためにたがいにだましあったりエロティシズムと残酷趣味にあふれた西部劇とは名ばかりの「まがいもの」で、でもそここそが逆に人間の欲望に忠実で面白かったわけでしょう。
アメリカ的な理想主義へのアンチテーゼというか。たぶん、作り手たちはなにも考えてなかったんだろうけど。
よーするに、面白けりゃなんだっていーんだよ主義^_^;
だから僕は『キル・ビル』の2作目でもタラさんがちょっとやってたような、テーマとか軽く飛び越えてしまった無責任きわまりない「ヤリすぎ西部劇」なんだとばかり思ってたんですよ。
ところがじっさいに観てみると、この映画にはマカロニ・ウエスタン名物の曲撃ちも特にないし、おもわず「ヒ~ッ」ってなるような残酷ショーもない(ジャンゴが素っ裸で局部を切りとられそうになるとこはさすがにチ○チ○が縮み上がりましたが)。
たとえばシュルツはせっかく「歯医者」という設定なんだから、歯を治療するふりして拷問とか、かつての「マカロニ・ウエスタン」にはそういう観客を愉しませるサーヴィス精神があったと思うんだけどな。
残酷度でいえば、劇中でナチの頭の皮を剥いでた『イングロリアス~』の方が格段に上だったし。
それと、単純にストーリー展開がわりと平板に感じられたのだ。
この『ジャンゴ』で白人でドイツ人のシュルツは黒人に同情的で、ジャンゴだけでなくすべての奴隷たちの境遇に憤りを感じている。
彼はその正義感によって、最後に命を落としさえする。
それは高潔な精神だし、彼のような白人だって現実にいたのかもしれないけど、なんだろう、演じてるクリストフ・ヴァルツが『イングロ』では性悪なナチスの将校を演じてたからってのもあるが、なんだかこう、うさんくさくて。
『イングロリアス・バスターズ』でのクリストフ・ヴァルツのランダ大佐はほんとうにすばらしくて、あの演技で彼は1度目のアカデミー賞助演男優賞を獲得して世界中にその顔と名前が知れわたった。
あれだけウザさが際立っていたヴァルツが演じるのだから、今回の善人のシュルツもなにやら「腹に一物おありのようで(by ブライド)」という予感がして、このまま「イイ人」では終わらないんじゃないか、とその後の展開を深読みしてしまったんだよね。
そして最後はシュルツとジャンゴの師弟対決という、リー・ヴァン・クリーフとジュリアーノ・ジェンマ(10/3 追記:ご冥福をお祈りします)の『怒りの荒野』みたいな燃えるクライマックスになるのでは?と期待したのだ。
「マカロニ・ウエスタン」に“裏切り”は付き物だから。
『怒りの荒野』(1967) 監督:トニーノ・ヴァレリ 音楽:リズ・オルトラーニ
しかしそういう面白展開というのはなくて、事実上クライマックスはジャンゴとシュルツがディカプー演じるカルヴィンからいかにブルームヒルダを奪還するか、という場面である。
このカルヴィンもまた、僕はかつてサム・ライミ監督、シャロン・ストーン主演の『クイック&デッド』でディカプリオが演じた拳銃使いの若者みたいに派手なガンファイト合戦をみせてくれるのかと思ってたんだけど、カルヴィンはガンマンではないのでろくに拳銃を撃つこともなく予想外にあっけない最期をむかえる。
そこがハズしとして面白かったし、たしかに殺される直前の彼の「骨相学」についての科学的根拠がなにもない人種差別的な思想には寒気がするものの、やはりカルヴィンには「こいつはこの場でぶっ殺してもオッケー」という怒りを感じるところまではいかなかったのだ。
あんなにうかつに殺されてしまっては、悪役としては若干物足りない。
『イングロ』でのヴァルツにはもっとムカついたよ。
『クイック&デッド』(1995) 出演:ジーン・ハックマン ラッセル・クロウ
この映画で主人公のジャンゴやシュルツに撃ち殺される南部の白人たちは、「マカロニ・ウエスタン」に登場するガンマンたちのようにズル賢い奴らではなくて知恵の足りない「バカ」として描かれている。
唾を吐き下卑た笑い声を上げたり、酒呑んだり水浴びしてるただの薄汚いオヤジどもなのだ(ジャンゴを追うメンバーのひとりに『スーパーバッド 童貞ウォーズ』などのジョナ・ヒルがいた)。
だからそんな奴らを何人撃ち殺そうがたいしてカタルシスはない。
この映画に登場する白人たちはみな腹の突き出たデブかジジイばっかで、逆に主人公のジャンゴをはじめ黒人奴隷たちはその多くが筋骨隆々の肉体を有している。
これはもうどっからどう見てもそのように描かれている。
なんだか往年の黄金期ハリウッド映画での「イケメンでマッチョな白人と貧弱な体格の黒人」像が反転しているようで、じつに面白い。
自身が白人であるタランティーノは、はたしていかなる意図をもってこれを演出したのだろうか。
僕はこの映画を観て、劇中で黒人と白人が本気で憎みあってるようには見えなかった。
ガチのセメント(真剣勝負)ではなくて、ほんとは仲がいいのにわざとたたかってる見え透いた“アングル(段取り)”のようなユルさを感じたのだ。
とにかくこの映画の白人たちはお人好しすぎる。悪役であるはずのカルヴィンもふくめて。
一方で黒人奴隷たちには個性というものがない。
犬に食い殺された“ダルタニアン”の顔など、観客は誰もおぼえていない。
だから最後のジャンゴの復讐にも燃えられない。
だいたいダルタニアンが殺されたのは、彼を金で買って救おうとしたシュルツをジャンゴが止めたからだし。
唯一、僕がこれまであまり見たことがなかった意表を突く展開として、じつは真の「悪役」は白人の地主カルヴィンではなくて、長年彼の面倒をみてきた奴隷頭のスティーヴン(サミュエル・L・ジャクソン)だった、ということがあげられる。
『アンブレイカブル』のときみたいに杖をついてプルプルふるえながら、自分も黒人なのに馬に乗っているジャンゴを見て「ニガーが馬に乗ってる!」と驚いたり、「あのニガーを屋敷に入れるんですか?」と怒ったり(あんたもそーだろ!!と観客全員からのツッコミ待ちのボケなのか?^_^;)。
もう、ジャンゴが放つ銃弾とおなじぐらい浴びるほど「ニガー」が連呼される。あとおなじみ「マザファッカ」も。
そりゃスパイク・リーもタラちゃんに「おまえ、毎度ニガーニガーってしつけぇんだコラァ!!」(いや、想像です。スパイク・リーはこの映画を観てないらしい)と怒りますわな(;^_^A
まぁ、あそこはおもわず笑っちゃいましたけど。
タランティーノは、あきらかに意識的にこの映画をわかりやすい「勧善懲悪」で終わらせていない。
なんだかイーストウッドの『許されざる者』をちょっと明るくしたみたいな印象でした。
黒人を奴隷として売買し、ムチで痛めつけ面白半分に犬に食わせたり死ぬまで殺しあわせていたのは機械のような悪人たちではなくて、無知でバカなふつうの白人たちだった。
この映画はそういうことをいってるんだろう。
だからガンアクションと血しぶきにワクワクしながら、ちょっと現実の人種問題について思いをめぐらせてみるのもいいでしょう。
KKKみたいな袋かぶった馬上の男たちや奴隷を大勢所有してる地主の屋敷がダイナマイトで吹っ飛ぶのを見るのは愉快だし。
だけど、たとえばほぼ主人公に救われるためだけに登場するブルームヒルダに対しても、僕は彼女が脱走に失敗して折檻されて悲鳴上げてる場面が2度もあってちょっとイラッとしたんだよね。
なんだか彼女があまり頭がよくない人のように見えてしまって。
たしかにあの当時の奴隷の黒人女性はひたすら苦しみに耐えつづけなければならない人生だったかもしれない。
でも、これは史実なんか無視した「マカロニ・ウエスタン」なんでしょ?それも21世紀の。
だったら、現実にはありえなかったかもしれないけど、ちょうど『クイック&デッド』のシャロン・ストーンや『バッド・ガールズ』のドリュー・バリモアたちみたいに、ブルームヒルダにも拳銃と馬をあやつらせて活躍させてあげてもよかったんではないだろうか。
あるいはそこまで極端にスーパーなヒロインでなくても、彼女が知恵をふりしぼって地主や奴隷頭の裏をかいて辱めを切り抜ける、といった展開にもできたはず。
ブルームヒルダとはワーグナーの「ニーベルングの指環」などに登場するワルキューレの姉妹の一人“ブリュンヒルデ”のことで(だから彼女はドイツ語がしゃべれる)、これは英雄ジークフリートとブリュンヒルデの物語がおおもとにあるわけだけど、伝説ではブリュンヒルデはのちにジークフリートが自分を裏切ったとして彼を死に至らしめる。
かようにブリュンヒルデはけっこうめんどくさい女性なんである(“ブリュンヒルデ”というのは崖の上のポニョの本名でもあるw)。
そしてここにも“裏切り”というテーマがある。
だからブルームヒルダもまた、ただ英雄に救い出される囚われのお姫様ではなくて、もっと複雑で行動的な女性になったはずなのだ。
…って、ここまでくるともうむりやり難癖つけてるみたいだけど、これまでも『ジャッキー・ブラウン』や『キル・ビル』であれだけキャラの立ったヒロイン像を作り上げてきたタランティーノなんだから(演じてたのがパム・グリアとユマ・サーマンという、いかにも強そうなおねえさんたちだったからというのもあるが)、ブルームヒルダだって知恵と勇気を駆使してたくましく生き抜く女性として描くことはじゅうぶん可能だったんじゃないだろうか。
人種問題と同様、性差の問題もまたじつに今日的なテーマだと思うんで。
そこまでやってくれてたら、僕はこの作品が「アカデミー賞脚本賞」にかがやいたことにおおいに納得して絶賛するんですけどね。
そもそもアメリカ製の西部劇もマカロニ・ウエスタンも、まず「男ありき」みたいな世界なんで、ながらく女性の登場人物が男と対等に活躍できる機会はなかった。
80~90年代になって、エンターテインメント作品のなかでも女性キャラが男どもをガンガンしばきまくる作品が作られるようになったけど、それらは文字どおり“ファンタジー”で、ありえないからこそ小気味良く痛快だったともいえる。
いま、この時代に描くのであれば、どんな「たたかうヒロイン」を造形できるのだろう。
「強い女性」が大好きなタラちゃんだからこそ、彼が描く現実の厳しさに勇敢に立ち向かい、ときに巧妙に立ち回るようなヒロインを見たいと思う。
そして、なによりこの映画の一番の問題点は、黒人奴隷であったジャンゴは自分の力で自由を勝ち得たのではなく、「善意ある白人」のおかげで自由人になれたということだ。
この映画の限界はそこにある。
ウィル・スミスが『ジャンゴ 繋がれざる者』の出演を断った理由は?
これはちょうど、僕がおなじく奴隷だった黒人たちに育てられた白人女性の視点で描かれた『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』におぼえた“違和感”に通じるものがある。
彼らは善意でいってるのだ。「わたしはあなたの味方ですよ」と。
それはちょうど東京で生まれ育った人が地方出身・在住者に「わたしも田舎って好きですよー、いいですよね、方言って。わたしも田舎に生まれたかったなー」などといってるような感覚に近い。
これのどこに問題があるのかわからない人は、黒人に同情してる白人とおなじです。
ジャンゴが、ブルームヒルダが、彼ら黒人たちみずからの手によって真の自由を“奪還”する、そんな物語が描かれたとき、それがほんとうの鎖に「繋がれざる者」の伝説になるだろう。
アホでマヌケな白人たちから侮蔑された(いまもされてる)おなじ有色人種として、僕はそう思う。
…やぁ、なんか天下のタランティーノ監督にダメ出ししてるよ俺(;^_^A
でも、面白かったですよ、ふつうに。
なんだかんだいって、ディカプリオの熱演は見ごたえあったし。
カルヴィンの屋敷のバーカウンターでジャンゴが言葉を交わす男性は、元祖ジャンゴのフランコ・ネロ。
「名前は?」「ジャンゴ。Dは発音しない」「知ってる」。
新旧ジャンゴのすてきなエールのかけあいでした(^o^)
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