アニメの神作画を「ぬるぬる動く」と評する事について (original) (raw)

アニメ神作画を「ぬるぬる動く」と評する事について

ネット上で―特に最近になって―アニメにおける「神作画」と呼ばれる類のシーンに対して。

好意的な意味合いを込めて「ぬるぬる動いている」という感想をよく聞くようになりましたが、正直言って違和感があります

何故ならアニメーターにとって、この「ぬるぬる動く」という言い回しは『貶し言葉』に他ならないからです。

まずはこの2種類のGIFアニメを見てください。

A http://dl6.getuploader.com/g/kusosure/204/ball-A.gif

B http://dl6.getuploader.com/g/kusosure/205/ball-B.gif

この両方の「球体が弾む」様を表したアニメ、AとBどちらの方に説得力生理的快感(見ていて気持ちいい動き)を受け取る事が出来たでしょうか?

概ね、Aの方ではないでしょうか?

Aの動きも大概ウソっぽい所あるのですが、少なくともBの方に生理的快感を得る事はないと思います

どちらも枚数・秒数・描画の出来など同一条件下で作成しましたが、それでもタイミングだけでここまでの違いが生じます

そしてこの2つで「ぬるぬる動いて」いるのは、Bの方を指して言われるものです。少なくともアニメーターにとってはそうです。

タイミングに対して無頓着もの整合性もなければ閃きも無いもの、そういったアニメーションに対して侮蔑意味を込めて「ぬるぬる動いている」と言います

「完成度の高いアニメーション」を目指す場合、ぬるぬるした動きなど作ってはいけないのです。

ただ演出的な要求で、例えば超スローモーションだとか、巨大質量の物体が迫ってくる様などを表したい時は、Bのタイミングを優先させる"場合"もあります

そういうのでは無い限り、アニメーターは常にAのタイミングを求めていくべきなのです。

実写かと錯覚するようなリアルな動きでも、現実にはありえない大迫力のアクションシーンでも、

生理的快感、見ている人を興奮させるようなエネルギーを持ったアニメーションはAのタイミングによって作られているのです。

これは動画枚数の多い少ないの問題ではありません。

カットに何百枚費やしても駄目なものはありますし、ほんの数枚で多大な説得力快感内包したアニメーションもまた多く存在します。

偉大なるアニメーターの一人、グリム・ナトウィックは「アニメーションのすべてはタイミングスペーシング(間隔)だ」と言ったそうですが

アニメーターという職業すべからく、この「タイミングスペーシング」に命をかけていると言っても過言ではありません。

少しでも素晴らしいアニメーションシーンを作るために、カメラ等を使って実写映像を参考にしたり、過去の素晴らしいカットを参考にしたり、

意地でも自分の実力内(あるいは超えるべく)でどうにかしようとしたり、インチキな手段で手軽にらしく済ませようとしたりする場合でも

タイミングスペーシング」に最大の神経を使えるようでなくては、アニメーターとしては失格なのです。

Illusion of Life生命を吹き込む魔法)は、死んだようなタイミングスペーシングでは宿らないのです。

そこに来て、アニメーター仕事ぶりを称える言葉として「ぬるぬる動く」などと言うのは

いささか無神経が過ぎるとおもいます

なってない駄目なアニメーションに対して「ぬるぬる動いてる」と貶すつもりで使ってるのならまだ分かります

「ぬるぬる動いてて何か変、気持ち悪い」という酷評意味なら、我々は甘んじて受け入れます

「ぬるぬる動いていて凄い!」というホメ言葉として使われているのには、アニメーターの身としてはどうしても理解に苦しみます

ただなんとなく凄い!と思ったアニメーションに対して、まだ他に言いようはあると思います

カッコイイ、迫力がある、イカしてる、超リアル、綺麗、センスがある、ハッとする、興奮する、味がある

語彙が乏しくとも色々あるんじゃないかと思います

何でよりによって「ぬるぬるしてて凄い!」なのでしょうか・・・・・。

こんな観る側に関係ないだろうアニメーターの苦労を知った上で気を使って言葉を選べ、等と言うつもりは(少ししか)ありませんが

ちょっとだけでもアニメーションの作画に、何かしら心が付き動かされたのなら、「ぬるぬる」で片付けるのは出来れば止してほしいと、そう思うのです。

本当は「神作画」という言い回しも好きでは無いのですが、ちょっと煽りも込めてこういう題名にしました。悪しからず。

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