A.Banana.S (original) (raw)

某所にアップした、クリミナル・マインドのファンフィクション……いや、私的妄想のドラマ語りの抜粋です。古代ローマの(だいぶテキトーな)ネタで。クリマイ風に言うと、私の署名的行動とも言う(自白)(は?)

すみません、私だけが趣味で盛り上がってもしょうがないので、人物リストをば…

アーロン・ホッチナー(ホッチ)

デイヴィッド・ロッシ

ジェニファー・ジャロウ(JJ)

デレク・モーガン

エミリー・プレンティス

ペネロープ・ガルシア

スペンサー・リード

(シーズン5)

いずれブログではブログで、いつもの調子で語りまくりたいとは思っております。

しかしながら今回は、この形式がいちばん書きたいことを惜しみなく書けそうな気がしました。いつもながら自己満誰得好き勝手をご容赦いただける方のみ、どうぞ。。。

4、

「と、いうわけで、この写真をギデオンに送信してみようと思うんだが、どうなるかな?」

と、それを見せられたのは、アラスカ帰りのジェット機の中。リードだけがソファーを占領して眠っている。

「殺されます」と、ぼくは忠告した。「それに、ギデオンはメールアドレスを持っていないと思います」

「なんだと? それで今の時代をどう生きていくというんだ? 局員年金の手続きとか色々あるだろう?」

「全部郵送しているはずです。受取人のサインがもらえなくて、担当者が困り果てているようですが」

「厄介な男だなぁ、つくづく……」

と、デイヴは頭を抱えるふりをする。

「仕方がない。帰ったらプリントアウトして、郵送してやろう」

「デイヴ、なんだってそんな誤解を招く画像を残したんですか」

テーブルを挟んで向かい側へ、ぼくは呆れ顔を向けているつもりだ。相手は飄然と肩をすくめるのだが。

「こうでもすれば、怒り狂ったあいつが、どっかからついに姿を見せるんじゃないかと思って」

「あなたを殺しに」

「上等だ。喜んで返り討ちにしてやろう、俺の豪邸で」

「だからデイヴ、どうせその尻拭いをするのはぼくなんですから、こういう冗談で騒ぎを起こさないでください」

「アーロン、ここは君もユーモアを解する心を目覚めさせてだな……」

「リードの名誉のためにも、笑うわけにはいきません」

「ということは、笑いたいんだな?」

それで、ぼくはひっそり口の端を上げたかもしれなかった。

デイヴの隣はJJで、すでにぼくと同じ呆れ顔。ぼくの隣はプレンティス。背もたれの後ろからはモーガンとガルシアがひょっこり顔を出している。三人は興味津々でデイヴの携帯電話の画面を覗き込む。

このとおり今回は、ガルシアも含めBAU総出の出張だった。しかもアラスカまで。

「なんだ、なんだ?」と、眉をしかめながら、モーガンがさらに身を乗り出してくる。

「現代によみがえりしハドリアヌスとアンティノーに見えるか?」

と、デイヴが自称しはじめるので、ぼくは急ぎ携帯電話を伏せる。

「なんでもない」

デイヴは知らないのだが、モーガンにこの種の冗談はまったく良くない。

「あーあ、あたしとモーガンも熱い夜の思い出を残したかったのにぃ」

と、知ってか知らずか、ガルシアがわずかに話をずらす。同じ夜、シリアル・キラーがガルシアの安眠をめちゃくちゃにしたのだった。

「リードが起きていたら、すかさずパンテオンの成り立ちを講義してくれたでしょうね」

と、プレンティスが微笑し、ぐっすり眠ったきりの天才博士を一瞥する。話題はローマ皇帝の情愛から業績へとまたずれていく。

「そうそう! 古代ローマと言えば一時期、エミリーがFBIクレオパトラってささやかれたことがあったよね?」

と、思い出したふうなのがJJ。これで完全に話題が逸れる。

いや、そんな話、ぼくは知らないが。

「えっ、そうなの?」と、当人も。

「うん。あなたが来たばかりのころ、他部署の人たちが話してた」とJJ。

……いや、君とかガルシアが流した噂じゃないよな? クレオパトラはローマ人ではなくエジプトの女王だが、アラビア語やロシア語といった多言語を巧みに使うプレンティスの能力が、かの人の伝説と結びつけられたのだろう。

リードならばクレオパトラエジプト人ではなくギリシア人だ、あの黒髪を切り揃えた髪型も実はカツラなんだと、大声で解説を始めそうだ。眠っていてくれてよかった。

「おっと、そりゃ大変。エミリーがクレオパトラときちゃ、歴史が変わっちまうぜ。となると俺は、さしずめマルクス・アントニウスってところか」

と、ウインクするモーガン。あの写真への興味を忘れてくれたようで幸いだ。

いや、しかし、BAUの切り込み隊長二人でアクティウムの海戦とか、やめてほしいんだが……。

「ちょっとデレク! なにそれ浮気? どう考えてもあたしがあなたの妻で、魔性の女王でしょ!」

と、やっぱりそこは譲らないガルシア。

「なに? あたしじゃ例のクレオパトラの鼻が低かったらの話が仮定法じゃなくなっちゃうって言うの? 失礼よ! あたしだって魔女だしコンピューター・プログラミング言語をいくつだって自在に操るし、なによりだれよりあなたを愛してる!」

「ベイビー、俺の可愛いクッション、もちろん、そんなことはわかってるよ。けどお前は、どう転んだって地中海で戦争起こすような女じゃねぇだろ。だれより優しい、平和主義者だ」

「失礼ね。じゃあつまり、私はその反対ってことでしょ」と、すかさずプレンティス。しかしにやにや笑っている。

「少なくとも俺はお前を敵にまわすような馬鹿な真似はしないってこと」と、モーガンもにやりと笑い返す。「これでアクティウムの海戦は勝利確定。歴史改変。ところで、相手の大将オクタヴィアヌスはだれだ? やっぱりリードか?」

「リードが適任だろう」と、しれっとハドリアヌスもどきがうなずく。「頭は良いが、戦にはてんで弱い、奇跡のイケメンときた」

「でもなぜか女にモテないってとこも合ってるな」と、モーガンも笑いながらうなずく。「もうリードの前世でしょ、初代ローマ皇帝

「でも、スペンスには共和政と見せかけた帝政なんて無理だと思う」と、これはリードのママ役、JJの意見。「嘘が下手なんだもん、ほんと。政治なんてできっこないよ」

「そこは有能な右腕と左腕でカバーしてあげないと」と、プレンティスがきらりと目を光らせる。「そうなると、だれがアグリッパで、マエケナスになるの? モーガンと私の世界征服を邪魔するの?」

「……俺がやるしかないだろう」と、ぼくはため息交じりに参戦してしまう。「気の進まない仕事だが、モーガン&プレンティス帝国なんて阻止するしかないからな」

「おおっ、そうこなくっちゃ!」と、目を光らせるモーガン。パキパキと指を鳴らす仕草までする。「相手にとって不足なしだ。リード一人じゃ、俺たちただのいじめっ子だからな」

「アーロンはアグリッパのイメージじゃないが、まぁ、戦いで最も有能という点では適任だな」と、また真面目くさった顔でうなずくハドリアヌスもどき。「これから海戦だというのに、『FBI海の似合わない男』ツートップが並んでしまったが」

これでいったい何を想像したのか、モーガン、ガルシア、プレンティス、JJの四人はしばし笑いこけた。

……いや、ぼくだって、ジャック(一人息子)を海水浴に連れていくくらいはするぞ。時間があれば。

「ロッシ! そう言うあなたはどうするの? ハドリアヌス時代はまだずっと先よ?」と、ガルシア。

「俺か?」決まっているだろうとばかりに、驚いてみせるデイヴ。「俺は当然ユリウス・カエサルだ」

「もう死んでるでしょ!」

「かまわんさ。あの世から君らを高みの見物だ。どこの編集者にもせかされずに『ガリア戦記』と『内乱記』を書き上げたあとだしな」

「さすがベストセラー作家!」と、プレンティスが笑う。「オクタヴィアヌスが燃やしたっていう残りの著作も、リードなら絶対残しておいてくれますよ。本を大事にする子だから」

「おまけに大勢のガールフレンドへのラブレターも」と、JJも意味ありげににっこりする。「そういえば、ユリウス・カエサルも三回結婚してませんでしたっけ?」

「もうっ、ロッシ! 次あたしんとこの劇団が『ジュリアス・シーザー』を上演する時は、絶対出演ね!」と、ガルシア。先日ぼくがうっかり口を滑らせたために明るみに出てしまった、彼女のプライベートの一つだ。

「それは遠慮させてもらおう。シーザーは殺されるだけだから。ところでペネロープはどうするんだ? マエケナスをやるか? オクタヴィアヌス・リードとアグリッパ・ホッチが戦に出ているあいだ、首都ローマからバックアップだ」

「いーえ、マエケナスはJJに任せる! ローマ帝国の渉外担当でしょ。あたしはオクタヴィアになるの! 平和を愛するオクタヴィアヌスの姉、つまり、リードのお姉ちゃん!」

「そこはJJじゃないのか? ローマ貴婦人の象徴としちゃ、君はそのう……カラフルすぎないか?」

ぼくもガルシアは好きだが、彼女をローマ婦人の美徳の象徴──すなわち全国の女性の模範としてお出しするのはどうだろう……。彼女の良さだって翳ってしまわないか。マエケナスのほうなら奇抜な服装をしていたという逸話があるから、ガルシアでも問題な──いや、失礼。

「もしもしぃ~~? このガルシア様が大人しく貴婦人の皮なんてかぶってると思いますかぁ~~?」と、にんまりするBAUの魔女。「忘れちゃ困りますよ? オクタヴィアはアントニウスの妻ですからね! 元がついても妻ですからね! というわけで、弟と夫の仲を取り持つため、平和の使者としてゴー・トゥー・オリエント! そしてそのまま愛しのチョコレート・サンダーの腕に飛び込んで、めでたくゴールインのハッピー・エンドよ!」

「さすがだぜ、ベイビー! それでこそ俺の女王!」

「歴史どおりにあたしを追い返したら、サイバー攻撃で地獄に叩き落としてやるからね!」

「そんなことするわけねぇじゃん、俺の可愛い子ちゃん! 一生愛してるぜ!」

「ちょっと、ちょっと、それじゃあ私の国は、モーガン=ガルシア王朝になるのかしら?」

と、プレンティスももう苦笑するばかりのようだ。

「ともかく、これで構図が決まったな」と、デイヴ。諸悪の根源。「クイーン・クレオパトラ・プレンティス陣営対イケメン・オクタヴィアヌス・リード陣営。別名、両手に華のモーガン対スペンサーぼうやとそのパパとママ」

「うおっ、こりゃ、絶対負けらんねぇ!」と、モーガン

「負けるもんですか」

「絶対勝利確定~~!」

と、プレンティスとガルシアが続く。

ぼくも口を開いた。「いい度胸だ。いつでも来い」

「へぇ、ホッチ? 意外とやる気じゃねぇか」

「俺にリードとJJがいるんだ。まったく負ける気がしない」

「すっかり大将の座を奪ってますよ」と、JJが口を挟む。それからすやすや眠り姫のままのリードをそっと見やる。「まぁ、当然そうなるでしょうけど。ところで、私ことマエケナスは歴史上戦場には出向かないので、戦力がちょっと心もとないですよね? ロッシの手紙で、ギデオンを呼ぶことにします? やっぱり?」

……あれ、JJ? もしかしなくとも君が、この不毛な会話を誘導している?

「ギデオンはだれの役?」と、さらにうきうきするガルシア。「彼もユリウス・カエサルがいいんじゃない?」

「いいや、ギデオンは天才だが、カエサルのタイプじゃない」と、デイヴ。「ドラマ・R□MAの陰気なカエサルなら別だが」

やめてくださいって、そういう困る話。

デイヴはなおしれっと続ける。「ギデオンはティベリウスがいいと思うぞ。二代目ローマ皇帝ロードス島カプリ島に隠棲した、すでにして史上最強の引きこもりだ」

「ちょっと待って! ティベリウスってオクタヴィアヌスの継息子でしょ!」と、ガルシアが叫ぶ。「つまり、ギデオンがリードの子どもってことに……!」

「まぁ、細かいことは気にするな」

「とてつもなくデカい問題でしょうが!」

偽オクタヴィア、アントニウスマエケナス、そしてクレオパトラがたまらず笑い交じりに叫ぶのだった。

その時、スーツの内ポケットで、ぼくの携帯電話が震え出した。すぐに席を立った。

「はい──」

そもそも、例の疑惑の写真が撮られた経緯は、アラスカでの宿泊問題にあった。BAU七人に対し、四部屋しか用意されなかったのだ。するとさっそくモーガンが「リードと相部屋は御免」と言い出した。それでガルシアがモーガンと相部屋になることを表明した。恋人ケヴィンがいるのに大丈夫だったのか。モーガンが床に寝るにしろなんにせよ。ともかく、そうなるとJJとプレンティスが当然同部屋。残りは三人。

最初、ぼくがリードと同室になるつもりだった。別にリードが一人部屋でもよかったのだが、わざわざ七人中一人だけ一人部屋に入れられては、あいつは泣くかもしれない。同室で眠るまでツンドラ地帯の統計データについてしゃべられても困るが、仲間外れにされたと拗ねられては、あとでもっと困った事態になりそうだった。ついでに、リードは少し前に撃たれた足がまだ完治していなかったので、ぼくが床に眠るつもりだった。

デイヴがあいつと同室でかまわないと言い出したのは意外だった。世界最古の凍死体についての講義を聞いて一夜を過ごしたがる人だとは思われなかった。

だが、こういう悪企み……いや、冗談を思いついただけだったのだ。

結局その夜は、新たな殺人の発生で、全員ろくに眠る間もなかったのだが。

今は事件を無事解決し、無駄話をしながらようやく心身を休めようとするところだった。……ところだったのに──。

通話を終え、ぼくはチームへ振り返った。

「みんな、いいか」

ぼくのその一声で、全員が気色を変えた。一瞬にしてプロの捜査官の顔に戻るのだった。リードをさえ、モーガンの腕が揺すり起こすのだった。優しくなくはなく。

「頼むから、ハワイだと言ってくれ」デイヴが言った。

ぼくは首を振った。「通常任務ではないが、人身売買特捜班から支援要請が来た。ケンタッキー州に寄り道する。詳しい資料はガルシアのPCに送られている。着いたら、モーガンとプレンティスは犯行グループの元アジトへ、デイヴとリードは病院で被害者と面談、JJと俺は支局へ行って各所と連携、マスコミ対応だ。ガルシアも俺たちと来い」

永遠不変のものはない。それでもぼくは、戦い続けることを選んだ。このFBI最優秀のユニットと。かけがえのない家族と。一日でも長く。

永遠不変が叶わないのならば、せめて守りたかった。

だからぼくは、このチームのリーダーであり続けた。

【全体はこちら↓】

#クリミナル・マインド #スペンサー・リード How much I love──【前編】 - TODO- - pixiv

(※ワンクッションの写真は、一連の記事には関係ない、もう20年近く前のNYにて、自分で撮影した、ケルプとバーナードが食事したレストラン)

(※今さらですが再度、勝手な妄想&ネタバレご注意ください!)

今回、新仮説を掲げるにあたって、いったん捨てたのが「第3者の介入」でした。すなわち、前に某『哀歌』~『ラスト・デイズ』で中心に書いた、アル・ストラトンほか、パーカーの仲間たちが、次の仕事のためにニックを回収し、別の遺体とすり替えた、という説です。別に所詮はファンの妄想ですから、それはそれで捨てなくてもいいとは思うのですが、まぁ、あれはファンフィクらしい願望が大いに、大いに入っていましたから。

『Nobody~』冒頭、ストラトンが「歯科用金」の仕事を計画していたのは、事実です。ネルソンがニックをほぼ殺すつもりで探しながら、ストラトンのところへ行ったのも事実です。『Dirty~』で、赤いピックアップトラックがなぜか通りかかって、乗っている男二人が、パーカー、ネルソン、サンドラへ手を振ったのも事実です。

これを二次創作で利用するにあたって、ピックアップの男二人が、ネルソンの知っている人物ではマズいと考えたために、スタンとフィリーをねじ込む荒業を行ったのでした。だってこの二人はカムバックしていなかったから。30年も音沙汰なしのままだったから。会いたかったから。たとえまがいものだったとしても。

ハンディとグロフィールドもな! グロフィールドはわからんでもないが、ハンディがカムバックしなかったのは、本当にどうしてなんだろう? また引退したとしても、仲介役として、名前さえ一切出てこないのはおかしくないか? スターク氏がなんらかの意図を持って、ハンディを出さないようにしたとしか考えられない。

……まさかと思うが、ハンディはお亡くなりになったのではないか……とさえ、考えました。でなければ、こんなにも不在なのはおかしい。出てくるならば、とっくに出ているはずだったから。それが、出てくる気配もないまま最終作に。これは未だになんとも言えない。

カムバック後、ハンディの役割だったところは、ほとんどエド・マッキーが継いでいます。……なぜ映画関係者は、『PARKER/パーカー』(原作:『地獄の分け前』)で、エドではなく、ハーリーをパーカーの相棒ポジに選んだのか。エドだって、原作に電話出演しているのだから、条件はハーリーと同じだ。

エドが何度か「もう終わり」という目に遭いながら『Dirty~』でも元気に電話出演して“an old partner”としてラストを飾り、ハーリーが相棒ポジで映画出演し、マイクもワイツアーもウィスもエルキンズも無事カムバック&生存し、ほぼ裏切りを企んだネルソンが一度ならずのドジの末にもパーカーに救出され続けたのに、ニックの件は読めば読むほどあまりにあんまり……。あまりに気の毒だからか、いつぞやは英語版wikiでも見かけた気がする。ほとんど無視に近い扱いの末、真剣に標的にされてはいないのにパーカーの手にかけられたのが、むごい。敵役や警察の手にかかって命を落としたならまだわかるが、パーカーの手にかかるのはあんまりだ。それでこそパーカー!と、なるんだから、本当にあんまりだ……。

テリー・マルカニーが、事件をネタに本を書こうとしていたのも、事実です。だからそれを読んだという前提で、私が(本名と同じイニシャルである)トム・ハーリーに取り憑いて暴れまわったとしても、ご容赦いただきたかった(おい)。

TODO-A - pixiv

いつぞや、トム・ハーリーについて「一次でも二次でも、創作でこんなに口の悪い男は書いたことがないわ!」と書いたものですが、偽らざる私の本心が、そこにあります。「馬鹿が! 馬鹿が馬鹿が馬鹿が!」「こいつこそ引退すべきだった」etc.

話を戻しまして、新説で、「第3者の介入」を極力減らそうとした件。

主な登場人物だけでも、なんとかこじづけられるのでは?と考えました。遺体のすり替えはどう考えても強引でしかないのですが、今にして思えば、だれか他人にやってもらうのではなく、遺体の工作はニック本人がやるべきだと思いました。場所はパーカーなら言い当てられるし、パーカーでなければ埋められた場所を特定するのは困難でしょう。

結果、謎のピックアップの男二人は、ただの通行人として流すこととなりました。

あとは、クレアの介入の大きさ。

クレア一人でニックを連れ出すなんて、できるだろうか? できたとして、そんなことをする理由があるか?

パーカーも驚いていますが、ニック脱走直後の『Dirty~』最初の月曜日、クレアは四者会談に同席します。パーカーは「参加してもいいし、外の車で待っていてもいい。君次第だ」と言っていました。参加を決めたのは、クレアの意思。

パーカーが仲間にクレアを紹介したのは、まず初めて。ハンディにもエドにも、希望したブレンダにも、パーカー軍団のだれにも、パーカーはクレアを直に引き合わせなかった。それが、ネルソンとサンドラには会わせることにした。「社交の一環」として。

その前に、パーカーはネルソンに会いに行く理由を説明しています。一連の出来事の成り行きです。ネルソンがやったとは明言しませんでしたが、マイク・ハービンとロイ・キーナンがすでに死んでいることを、クレアに教えています。

初登場『裏切りのコイン』での一件以来、暴力沙汰が嫌いで、近寄りたがらなかったクレア。それでも最低限のノルマと言わんばかりに『漆黒のダイヤ』『死神が見ている』でひどい目に遭ってきたクレア。……それでももれなく撃たれて死にかけた歴代相棒──ハンディ、グロフィールド、エドに比べたらまだマシで、グロフィールドの奥さんだってさ……(制止)

そんなクレアが、『Dirty~』では、事態に積極介入します。パーカーが運転免許証を使えないせいなのですが、マサチューセッツまで連れ出したのは、やっぱりややパーカーが強引でした。クレアがいなければ、現場に戻れなかったでしょう。ところがこれだけで終わらず、ロングアイランドのネルソンから「助けて、パーカー! このままじゃもうすぐ拷問されちゃう!」と救援要請が来たときは、パーカーはとうとうクレアに“I’m sorry”と謝る事態になり、彼でさえ遠慮してニューヨーク市内まででいい、あとは電車で行くからと言うのですが、クレアのほうから「なに言ってるの。ロングアイランドまで行くわよ。間に合わないわ」と申し出て、ドライブしてくれるのです。ネルソンの命の恩人(あとでまた同じ事態になる彼だが)。

一連のクレアは、なにを考えていたのでしょうか。

四者会談で、クレアは例のアレを聞いているのです。

ネルソン「ニックが現れたらどうする?」

サンドラ「あんたたちが彼を殺すでしょ。私は墓掘りを手伝う」

これでも、マサチューセッツ州に行くのです。ミセス・ウィリスとして。で、全般的に、できるかぎりパーカーをサポートしています。例の教会の前も車で往復するし、ネルソンのバーまでも行く。

このクレアに、一読者の私は、夜に一人でニックを連れ出せ、と無茶を言っているのです……。

2回電話しただけのニックに、クレアがそこまでする理由があるか? 人殺しであることが、全米じゅうに知らされているところの男に。……いや、彼女の伴侶パーカーも、出会った時からバリバリ人殺しなのですが。

ただ、四者会談を聞いていたら、少しだけ……少しだけ、我らが読者と同じ気持ちにはならないでしょうか。

クレアは別に優しい心の持ち主であることがアピールされているわけではありません。むしろ『裏切りのコイン』では、女性らしいといえばらしい酷薄さを、ビリー・レバタードに向けます。(ただ、その後は猛烈に反省する)

あの時、パーカーは(ビリーに)言いました。「同情がなにから生まれるか知ってるか?」

今回ばかりは、ニックをかわいそうと思ったのかもしれない。だからといって行動に出たのなら、とんでもないですが。

ただ、もうあきらめたでしょうが、初期のクレアは、ちょっとパーカーに「善き行い」をしてほしいと思っているふしがあります。『漆黒のダイヤ』がそう。暴力のにおいがしない、世の中の正義の側に蔭ながら立ってみてほしい、と。(※この後パーカーの予想どおり、クレアが暴力の気配がしないと感じた人たちは、暴力で殺されるか、パーカー先生の教育の末に手際の良すぎる人殺しとなる)

2回電話しただけの男か、

2回も電話した、感じの悪くない男か。

クレアとしても、ニックには警察につかまってほしくはない。それよりだったら死んでもらったほうがありがたい。それは確かだ。彼が直電してきたせいで(※たぶんパーカーの許可有)、家にFBIは来るし、引っ越す羽目になるかもしれないし、まったくそのとおりで、確かだが……。

死なせないのだったら、自分がとっ捕まえて、連れ出して、ついでに箱も持ち出して、家計が赤字にならないようにするのは、理に適っていなくはない……(えっ)

もちろん、教会の地下で気絶させる前に、パーカーがニックに言い含めておくのですが……

ちなみに彼女、クレア・ウィリスの名でかはわかりませんが、携帯電話だけでなく、クレジットカードも持っています。彼女の明かされていない、ラスト・ネームを使っているのかもしれない。

パーカーが、結局ロビンスに作らせた新しい身分証の名前も、どうも「チャールズ・ウィリス」にした様子です。これもはっきり書かれてはいませんが、「これまでの名前でいいか?」とクレアに確認しています。

一瞬、クレアの身分証と二人分作ったのかとも考えたましたが(エドはブレンダに、フォーセット夫妻名義の身分証をプレゼントしている)、クレアはすでにちゃんと持っていたもんね。カタギの人間として。

ところで、ニックが本当にこのしっちゃかめっちゃかから生存し得たとして、整形はもう必須です。パーカーも整形し、2作後にはもう役に立たなくなりましたが(えっ)、それでもやるしかない。ニック・ダリーシアのままで生きてはおれない。サンドラと折半する羽目になった残りの分け前で、やるしかない。

『電子の要塞』の途中、フランク・エルキンズがラリー・ロイドに「良い形成外科医を紹介してやる」と言っているので、その伝手を頼ろう。というか、ラリーみたいなIT専門の人材は、今後を考えるとものすごく必要だ思うんですが。ドートマンダー・シリーズのウォーリー・ナーのように(出番は2作しかないが)

そう言えばラリーは、パーカーの家にまで入って、爆弾除去までしましたっけね……(※振り返れば、なんすか、この有能)。

『電子の要塞』、思うだに冒頭から、家庭派泥棒コンビ・エルキンズとウィスによる「助けて、パーカー! 俺たち面倒事になって、暴力要員がほしいの!」だったよな……。第1作目からのつき合いだから、パーカーも、たぶん自分の役目を察しつつ、そこには触れないで出かけてあげるのですが。で、後半は「パ、パーカー……ラリーをこ、殺す? 殺しちゃう? えっ、えっ……、殺さないよね……?」感が漂う。

この二人とは、パーカー軍団の中でも非暴力派で、『殺戮の月』でも戦闘現場からは離れています。だれも殴っていないし、撃ってもいない。

ただ、それでいてなお『電子の要塞』では、最後まで流石の有能ぶりを見せます。伊達に最古参はやっていない。

なんの話でしたか。

パーカーですが、わりと行く先々で仕事でも、突発的トラブルでも、プロ、アマチュア、一般人でも、必要とあれば殴る人です。「その手は人を殴るためにある」と筆者によって、初期から書かれています。ですが、「パーカー軍団クラス」の仲間に手を上げたことは、一度もない。その必要がなかったからでしょうが、ニックをさえ、殴った描写はない。秒殺を心掛けていたらしく(おい)、一切物理的に痛めつけてはいない。ニックが勝手にガラス窓に突っ込んで怪我はしたが(悲鳴を上げるほど怖がらせたパーカーが悪いか)。捨て置かれた亡骸はだいぶ悲惨だが。

……亡骸の状態が出されるって、実はこれもパーカー小説では異例か。死んだら、はい、おしまい、だったものな。大半が。

あの地下の描写がまたむごいんだよな……

けど結局本当に、ニックがどうやって殺されたのか、一切書いていないのです。撃たれたとも首を折られたとも、なんとも。読者への手心なのか、実は本当に殺されていないのか。

ちなみにパーカーからニックへの批判、文句、愚痴の類も、地の文でさえ見当たりません。不気味なくらいに。通常、だいたい「軍団クラス」でも、仲間の長所と短所、癖や軽く生活背景までさらりと述べるのに。『ターゲット』ではだいぶワイツアーに毒ついてましたし、グロフィールドに対しては2作も面と向かって「まぬけ」etc.

パーカーは、銃なし同士であれば、5対1であろうが肉弾戦で勝ってしまうバケモノで、未だかつて、まともに勝負を挑んで勝てた人はいません。

それを思えばクレアが盛大にフラグを立てた後の『地獄の分け前』が、いかに大ピンチだったかがわかりますな。あれはまず確実に死んでいた。プロの殺し屋に背中から撃たれ、心臓一発即死でもおかしくなかった。それを、エバーグレイス内の池に捨てられたのですから。エバーグレイスがいかにヤバい場所かは、ドラマ『CSI:マイアミ』あたりを見ればよくわかるのですが(えっ)、あの場に変人私設軍がいなければ、あそこでジ・エンドでした……。

その次の次の『Breakout』では、なんと拘置所に入れられ、第1作目『人狩り』以来初めて、ロナルド・キャスパーと一致させられてしまう(※看守を殺して指名手配。当時のカリフォルニア州では極刑もあり得る)。今思えば、カムバック後もわりと容赦なくピンチを経験してきたパーカー。この時は、エド・マッキーが、頼んでもいないのに助けに来てくれるという、アンディー・ケルプ並みの厚意を見せてくれます。パーカーの仲間史上初。ハンディでさえ、最初は呼び出したから来てくれたのに。その後は死にかけるまでどこまでもつき合ってくれるのですが。

エドとケルプは、なんとなく似てますかね。エドのほうが荒っぽく挑戦的で、ケルプのほうが優しくしなやかな感じがしますが。実のところケルプのほうが、初登場が2年ほど早いんですよねぇ。

ところであと、ブレンダが私の中で、日本人か日系人では?という疑惑があるのですが、どうでしょう? 理由は、エドとの愛の営み中に枕にしゃべる、謎の日本語。「有無を言わせぬ美人」と書かれるブレンダが、日本人かも?

もしも悪党パーカー・シリーズの次話が書かれていたら……

ドートマンダー・シリーズも最終回にふさわしい描写もございましたし、パーカーものも『Dirty~』でファイナル・グッバイ相棒をやって、その謎を残したまま終わるのも、ふさわしかったのかもしれません。永遠となりましたもの。私やその他大勢の読者にとって。

でも、もしも次話があったなら、あったなら……

パーカー! 運転屋だけは固定しようね! 思えば、マルにアールにビーグラーどころじゃないよ。グロフィールドを巻き添えに事故ったラウフマンもだし、『ターゲット』のハウエルだって、運転していての事故だったじゃん! 『Breakout』で披露済み、エドの殺人的運転で我慢しよう! でなくば、マイクかフィリーをまずなにより第一に確保しよう。でなければ、せっかく作った新しい身分証&免許証で、パーカー自らが運転しよう。

やっぱり『Dirty Money』、いくら良い方向に妄想しようと、一連のニックのために読むのが辛いところがあるんですが、それでもあえての笑いどころは、「ニック・ザ・デスパレートに穏やかな顔を向けている気でいるパーカー」と、「優しい宿のおかみさんにまで、即妻をこき使う冷酷夫のレッテルを貼られてしまうパーカー」だと思うんですが、どうでしょう?(おい)

グロフィールドの顔でも借りてくるしかないよ!

こういうわけで、いったん一連の【検証】ないし【告発】を終わりとします。

またなんか思い立ったら書きます。

難しいとは思いますが、悪党パーカー・シリーズを読んだ方からのご意見もお聞きしたいです。

ありがとうございました。

◆◆◆◆◆

(2008年10月15日水曜日……あたり)

スタン「ハロー! ニックー! いる~~?」

ストラトン「おい、ニック! ちょっと見ないあいだに東海岸一悪名とどろかせてるな」

スタン「バーボンを持ってきたぞ。もちろん氷も! 有名人は氷を入れるもんだって、昔フィリーが教えてくれたんだ。なぁ、覚えてるかい?」

フィリー「このレベルの『有名』なら、カナダから氷山でも引いてくる必要がありそうだな」

ストラトン「それはそうと、おい、あの盗聴野郎が見つかったって噂を聞いたぞ! ということで、俺もおいおい、元のヤマを動かしたいんだが。で、パーカーと連絡をつけるのに苦労したぞ。え? ネルソン? ああ、あれは悪かった。悪かったって!」

スタン「でもパーカーは、俺たちのヤマに加わらないって。もういい加減、クレアとバカンスに行くんだって。あ、うん、もう俺たちのヤマだから。俺もフィリーも、パーカーの直推薦で代わりに入った」

ストラトン「あと一人欲しいんだがな。スタン、ハンディ・マッケイは呼べないのか?」

スタン「今、だいぶしつこく誘ってるところだよ。思うに、パーカーがほかの連中とばっかり仲良くしてるからって、拗ねてんじゃないかな……」

フィリー「それで『エド・マッキー不死身伝説』を終わらせるのは俺だとか、息巻いていたとかいないとか……。え? 今日、またパーカーがエドに電話したのか? 黙っとけよ! ……いや、あえてエサに使うか」

スタン「それ、いいな! せっかくパーカーの家を見る機会なんだからとも教えないと。まぁ、たぶん、ハンディは先に自分の食堂に遊びにきてほしかったんだろうなぁ」

ストラトン「よくわからんが、相棒関係ってのはこじれると大変だな。あ、フレッチャーとモット? 来る予定だが、なぜか遅刻だ」

スタン「俺とフィリーがパーカーの話をしたら、なんか突然体調不良とか言い出して」

フィリー「パーカーは下りたと知らせとけ」

(大勢に影響はない、ないんだ……)

(End,)

さて、やはりもう絶望しかないような「ニック生存説」ですが、彼が言っていたように、絶望と思ったらいつでも希望の光があります。なので、私なども走り続けなければいけません。

究極の問い:「ニック・ダリーシアは本当に死んだのか?」

を考えながら、『Dirty Money』の4つの謎を検証していきます。

【検証1】より続けて、

①教会に残された箱の数と位置

②身分証代20万ドルの出所

③パーカーが運んだ謎のa Hefty bag

④10月から11月に飛ぶ問題

④に関しては、今のところ解ける気がしません。というのも【検証1】で時系列を書き出せたように、『Nobody~』から『Dirty~』に至るマサチューセッツ三部作は、ほとんど隙なしのタイト・スケジュールで話が展開しています。次のチャプターにはほぼ必ず「月曜日」「火曜日の午後」「二週間前」「9日前」等々、続く日時を現わす言葉が入っているのです。そのため、2週間飛んだ隙が見つけられない。

③のa Hefty bagの場面だけで、「州北部の金の半分以上」、この「ヘフティ・バッグ」、「11月に飛ぶ」と、三つもの謎が現れます。

しかしながら、a Hefty bagの謎──この中身は【検証1】で推測したように、「ロフトに残した4箱のうちの、消えた1箱、すなわちダーティー・マネー」であると思われます。リビングではなくぞんざいな感じでガレージに運んだことが根拠です。おそらくは後で本体のダーティー・マネーに混ぜて処分するつもりだった、と。

これを元に、残り①②を検証します。

まず書いてあるとおりに。

10月11日土曜日、パーカーはニックを教会の地下で始末し、何食わぬ顔で、ネルソンとサンドラとともに、金を警戒区域外へ運び出す。この際、彼は【聖歌隊用ロフトに、現金入り4箱、その上にカモフラージュの讃美歌集の箱を複数個(※複数は確定だが個数不明。おそらく2~4個)】を乗せます。そしてニックを殺し、パトロールの警官二人に応対し、サンドラの車で運転して立ち去るまで、箱を動かす隙はありません。実際、警官二人が立ち去った後、ネルソンが「もうカモフラージュの箱を下ろして、積みきれなかった現金の箱を積み直そう」と言い出すのですが、サンドラとパーカーに反対されます。パーカーは指摘します。「警官二人が今空き家に入っていくところだ。ガラスが割れて、新しい血がついている空き家だ」…というわけで、3人は大急ぎでその場から去ります。ネルソンが現金積載のトラックを運転、サンドラの車にパーカーが同乗。

そして9日後、10月20日、同じ警官二人が、教会の中へ入ります。以前はパーカーの「中はすっかり片づいていて、なにもなかった」という言葉を真に受け、教会内を調べなかったのです。そしてその時、入ってすぐの床(フロア)に箱を見つけます。3箱。4箱ではなく、3箱。ロフトではなく床。ドアから入ってすぐの床。ロフトに上がった描写はありません。

二人は3箱のうち1箱を開けて、現金がぎっしり詰まっているのに仰天します。そしてなんの金なのか気づき、地下に下りていって、そこでにおいに気づく……という。

この同日、警察署内で刑事レヴァーサとその上司が、この気まずそうな警官二人を同席させて、話します。警官二人が開けたのは3箱のうち1箱でしたが、3箱とも現金だったらしいことが書かれます(we opened them, it was all money.)。どっちにしろ、箱の数が足りません。カモフラージュの讃美歌集の箱はどこへ行ったのでしょうか? 持ち出されたのか? それともまだロフトにあったのか? 後者の点が言及されていません。

ちなみにこの場面の終わりに、レヴァーサが「9日前はすべてがそこにあったのに」と言っているので、ニックの死体発見とレヴァーサの嘆きは本当に同日の出来事でしょう。つまり、ニックの亡骸の身元確認は、同日中になされた。

ただ、まず、ここで重要な問題は、なぜロフトにあったはずの箱が、下の床に下りているのか、です。しかも現金入り3箱が。4箱だったはずの3箱が。

この日、パーカーは、逃走中はサンドラと、そして夕食をとるまではネルソンとも一緒にいます。夜、サンドラは私物がまだあるからと宿に引き返しました。パーカーとネルソンは、警戒区域外のモーテルに泊り、そこに付属のバーと食堂を利用します。

しかし、消えた1箱を使ったのは、パーカーしか考えられません。

まったく無関係の他人が、たまたま見つけたのならば、現金入りの残る3箱を置き去りにするはずがありません。ニュースでダーティー・マネー(使えない金)だと知っていたなら、現金入り1箱だって持ち出す理由はないし、持ち出したとしても「3箱をフロアに下ろして放置した」理由に説明がつきません。ロフトに置いたまま、欲しい箱だけ持ち出せばいいのです。

なぜ、下のフロアに下ろしたのか? 現金入り3箱を。

色々考えたのですが、これ以外考えられません。

見つけやすくするためだった。盗まれた現金を。そしてニックの死体を。

なんのために?

さて、②身分証代20万ドル

バカな私が修正したように、20万ドル全額ではなく、半分の10万ドルの前払いでした。ロビンズは「約」20万ドルとも言っています。パーカーはこの前払い「約」10万ドルを即時支払するため、クレアの待つ車から「ダッフル・バッグ」を持ち出します。これは『Ask The Parrot』にて、トム・リンダルが袋詰めしてくれたままのダッフル・バッグの一方です。その際、バッグは満杯だったとも書いてありました。この中身は、警察関係者から語られますが、約10万ドル。多少の過不足ありで、各10万ドル。リンダルもパーカーもこの金を厳密に数えていません。ただあっただけの現金を、適当に半分に袋詰めしただけ。

ダッフル・バッグの約10万ドル。

場面はこの金を、パーカーとロビンズが数えているところで終わり、2チャプター後、パーカーは地の文で言います。「州北部で得た金の半分以上を使った」

……やはり、おかしくないか?

前金約10万ドルに対し、ダッフル・バッグの約10万ドルの半分以上を使ったと言っている。

足りないじゃないか……!

「半分以上(more than half)」ではなく「ほとんど全部(almost allとかmost of)」ならまだわかる。が、半分以上(過半数)とは、約10万ドルの内、いったいどこまでの額を言っているのか。

仮にロビンスが約20万ドルを18万ドルにしてくれたとしましょう。

そしてパーカーのダッフル・バッグには約10万ドル予定のところ、幸運にも12万ドルも入っていたとしましょう。

9万ドル、ロビンズに前払い。後払い分が9万。

半分以上は半分以上です。(16万ドルで、前8万後8万も考えました)

ただ、どっちにしろ、この場合、パーカーは赤字か、良くてトントンになります。

9万ドル前払いで、ダッフル・バッグの残り3万ドル。これに資金洗浄取引後の現金輸送車の分け前を足して、後払い分とする。

本筋、現金輸送車の分け前ですが、実は『Nobody~』でも『Dirty~』でもはっきりと配分は書かれていないのです。

ただ手掛かりはあります。『Nobody~』の最後、パーカーはメッチェン医師のインタビューが映るニュースを見ます。ジェイク・ベッカムのアリバイ作りに協力したメッチェン医師。パーカーが述べるに、その分け前は、全部が「当初の予定どおりに進んだ場合」「ジェイクの3分の1」で、それは「20万ドル未満で、ブリッグスの分け前より少ない」と。そして強奪の収穫は、220万ドルとニュースでは言っているが、保険会社は損害を誇張するものだし、小銭は置いてきたから、実際は「150万ドルに近いのではないか」と推測しています。

あいだを取って、200万ドルとしましょう。「当初の予定どおり」であれば、まだネルソンがいなかったので、パーカー、ニック、ジェイクの3等分になります。

パーカー 5.5万(55万)

ニック 5.5

ジェイク5.5 →メッチェン1.8

ブリックス 3.5

これで200万(→20万)で、筋は通ります。ブリッグスの分け前は全体の2割未満。

実際は、これにネルソンを加えたため、配分が変わります。これも推測ですが、

パーカー 4.5

ニック 4.5 →内サンドラ2.25

ネルソン 4.5

ジェイク 4.5 →内メッチェン1.5

ブリッグス 2

またはジェイクが4で、ブリッグスが2.5かもしれません。そうすればブリッグスが当初の配分に近くなる。

いずれ、つまり、パーカーの予想配分は4.5万ドル。これにサンドラが半分持っていったニックの分け前2.25万を、ネルソンと折半せずに独り占めしたとしても、6.75。7万ドル未満。(折半したなら6万ドル未満)

戻りまして、

身分証代20万ドル→18万ドル

ダッフル・バック10万ドル→12万ドル

と良く見積もったうえで、

前払い9万ドル、後払い3万+6万で、18万。

これでギリギリで、赤字回避できるかどうかです。しかし、甘い見積もりであることは、見てのとおりです。まずもって、ダッフル・バッグに12万も入っていたか。ロビンスは2万ドルもサービスしてくれたか。

では、「約」を取り払って考えます。

身分証代20万ドル。

前払い10万ドル。ダッフル・バッグ10万ドル

輸送車強奪のアガリは、多めに6万ドル。

ダッフル・バッグのほとんどすべてを使ったとして、後払いの10万ドルを、パーカーはどうするのでしょうか。輸送車のアガリを入れても、赤字確定です。

赤字でもまぁ、しょうがないだろ、そういうこともある。それに、パーカーだって貯金はないわけじゃない。むしろ常に金はたっぷりあると『エンジェル』にも書いてある……と思われますが、『Nobody~』の前半、【検証1】で書いたように、パーカーはクレアに言われて、他人の家貯金から2万ドル引き出しています。このうえで赤字はさすがに痛いのではないでしょうか。しかも例の「州北部の金」と「a Hefty bag」と「11月」問題と同じ場面、パーカーは考えています。「2つの問題──金と身分証が片づいたら、クレアとどこか南のほうへ行く時だろう」

いいや、バカンスなんて考えている場合ではありません! このままでは万単位の赤字確定なんです!

すでに2万ドル貯金を崩したうえ、身分証代で万単位の赤字見込み、それなのにバカンス?

赤字を防ぐため、聖歌隊用ロフトから1箱持ち出してはいないでしょうか?

これはダーティー・マネーですから、普通には使えません。ですが、某あとがきにも書きましたが、偽造屋ロビンスの支払いには、一部ならば使えるのではないでしょうか。たとえば身分証作りなら、海外への経費にダーティー・マネー15万、ロビンスの純利益にクリーン・マネー5万。

そしてダッフル・バッグに入っていたのは、12万というラッキーではなく、実際は10万ドル未満、たとえば9万8千ドルだったとしたらどうでしょう?

パーカーは身分証代の前金に、ここから5万払った。「州北部で得た金の半分以上」になります。

そして残り15万を、ロフトにあった1箱で支払った。

これで赤字回避できるうえ、パーカーの手元には4万8千+現金輸送車のアガリが入ります。

計算も、無理なく合います。

だから、ロフトから現金入り1箱を持ち出したのは、ほかでもない、パーカーなのです。

では、いつ、どうやって?

実は、例の教会から逃走した土曜日、クレアの手が空いています。この日のおそらく午前、クレアは宿を一人でチェックアウトして、車があります。さらに、この少し前に明かされるのですが、彼女は携帯電話を持っています。

モーテルで夕食をとった後のパーカーと、連絡を取り合えるわけです。

しかし、クレア一人で、土曜日に教会から1箱持ち出せたとは思えません。まず、箱が重い。サンドラでさえ、力仕事を男ども(パーカーとネルソン)にやるよう言って、自分は車で見張り役をしていました。それでも1箱くらいは持てたでしょうが、まずもう夜です。最低限、運び役と懐中電灯係の二人が要ります。

実は『Nobody~』にて、あの教会の、少なくとも地下室は電気がつくことが、強盗犯3人によって確かめられています。いますが、夜に明かりをつけることは、窓が多すぎて危険と、パーカーは懐中電灯を使うことにさえ慎重でいました。

だから、あの当日夜に、現金1箱を持ち出したとは考えにくい。

やったとしたら、翌日曜日でしょう。この日は動向不明の日です。パーカーはこの日にフランク・ミーニーに電話すると言っていましたが、日曜日ですからね。ビジネスマンのミーニーは出社していない可能性が高い。

あるいは日曜日ではなく、もっと後でもできなくはない。が、いつ、また教会が調べられるとも限らないので、早いに越したことはない。

ただ、この月曜日から金曜日まで、パーカーはわりと忙しい。月曜日はミーニーに連絡をつけ、早くも同日午後2時には直接会っています。火曜日から木曜日はエド・マッキーからの電話を自宅近所の公衆電話で待たねばならず、金曜日はもう身分証作りにロビンズのところへ出かけています。

だから、やったとしたら、土曜日夜~日曜日まで。空白の日曜日が有力。

ところでですが、この1箱持ち出しは、パーカーによる仕事内の不正ではないのでしょうか? ネルソンはこれを知らないでしょうし、わざわざ知らせる理由もありません。ですのでこれは、パーカーによるちょろまかし以外のなんでもない。たとえほかに使い道のないダーティー・マネーだったとしても、相棒に無断でちょろまかしたことになります。

パーカーが自分一人のために。

ただ、なぜパーカーは、あえて危険を冒して教会まで戻って、1箱を手に入れたのでしょうか? その気になれば土曜日夜、モーテルにて、ネルソンが寝ている隙にでもレディーマー・トラックからちょろまかせばよかったのでは? 尾行に気づかなすぎるネルソン相手です。おそらく気づかれません。

なぜ、教会まで戻ったのか?

精巧な似顔絵が出回っているのに。

ただ、土曜日の時点で検問が解除されたことを知り、サンドラと一緒ならば車を止められもしなかった。ネルソンのほうは止められ、警官たちに意地悪をされましたが、カモフラージュのおかげでセーフ、となったのに。

だから、クレア、あるいはサンドラと一緒で、しかも日中を避けたなら、危険ではありますが、教会まで戻って戻れなくはなかったのです。

女性と一緒、というのがポイントです。

だから、現金入り1箱を回収するために、クレアかサンドラの運転する車で向かったとしか思えません。ちなみにどちらの女性もケータイを持っています。

土曜日に、サンドラと? の可能性も考えましたが、私は否定的になりました。1箱のちょろまかしはパーカーだけの利益であって、サンドラにとっての得はなにもないからです。レディーマー・トラックさえ無事なら、サンドラとしてはオーケー。

だから、パーカーと利益を共にするクレアの協力が最有力です。実際、パーカーの身分証がレヴァーサ刑事によってダメにされたため、運転やらなにやら『Dirty~』でのクレアの活躍は、異例なほど大きいです。最初の四者会談に同席することを選んだときは、パーカー自身も驚いたとの描写があります。

ネルソンの救援要請に間に合ったのも、クレアがロングアイランドまで長距離ドライブしてくれたおかげ。

しかし彼女一人ではさすがに厳しい。が、彼女の協力はあった可能性が高い。

ところで、ここで最大の謎が生じます。

箱が1つ減った理由は、推測できました。問題は、なぜ残る3箱が、ロフトではなく下のフロアにあったのか、ということです。

クレア一人にしろ、パーカーと二人にしろ、あの箱複数をわざわざフロアに下ろす理由がありません。必要な1箱だけ持って、あとはそのままロフトに置いておけばいいのです。

なぜ現金3箱が、下のフロアの、目立つところに置かれていたのか。

これが『Dirty Money』最大の謎です。

さて、大いに戻りまして、あの③a Hefty bagです。10月20日(月曜日)、私はあれを、ダーティー・マネーの残りだと推測しました。ロビンズに支払った残りのダーティー・マネーを、資金洗浄取引の前に、ネルソン保管の「本体」と混ぜるつもりだったと。余ったのならば、持っていても仕方がない。あとでミーニーに「数えたら、200万どころかほぼ150万だったんだが!?」と文句を言われないともかぎりませんし。

もしもあの1箱に20万ドル入っていたら、身分証作りのあとに5万余ります。15万がダーティー、5万が州北部からのクリーン。

余りのダーティー5万──それがヘフティ・バッグの中身だったのでは。

つまり、金曜日にロビンズと会ったパーカーは、空白の土日を挟んで、月曜日に、あのダッフル・バッグを、他人の家に預け直したのではなく、a Hefty bagに入れたダーティー・マネーを持って出てきた。

待て。ちょっと待て。

なぜその他人の家にダーティー・マネーがあるのか? その家から出てきたパーカーが、新たにa Hefty bagを運んでいるのか?(carriedと表記されている。だからたぶんそんなに小さいものではない)。

自分で持っているなら、まだわかる。ダッフル・バッグと一緒にロビンスのところに持っていって、余りを処分するまで手元においておけばいいのです。ダッフル・バック以外を持ち込んだ描写はないですが。

だから「他人の家」から出てきたパーカーが、a Hefty bagを持っているのは、どうしたっておかしい。筋が通らない。

そもそも後払いの10万+余り5万を一緒に車に積んでいた? でもミーニーの会社からの帰り道だぞ?

だから「後払い分&余り」はあらかじめその他人の家に置いてあったのでは。土・日のうちに。

ここで残る謎をもう一度整理します。

①なぜ教会の3箱がフロアに移動したのか?

②なぜ他人の家から出てきたパーカーが、a Hefty bagを持っていたのか?

③11月問題(※これはもう投げます)

①、前に書いたように、3箱を下に移動する理由は、見つけやすくするため以外に考え難い。強奪した金を。ニックの死体を。

ニックの死体が見つかって、得をするのはだれか?

パーカーには好都合でも不都合でもなかった。現に火曜日、資金洗浄取引の直前に、ニックの死体発見のニュースが広まっても、パーカーはせいぜいレディーマー・トラックを塗り直すよう、ネルソンに言っただけだった。

むしろ好都合か? 警官殺しのニックが死んだなら、事件の終わりといえば終わりです。

ほかに、ニックの死体が見つかって、好都合なのはだれか?

警察関係者、付近住民……etc.

ネルソンとサンドラも、ニックが死体で見つかったほうが好都合でしょう。ネルソンは警察に売られる心配も、脱出したニックに押しかけられる心配もなくなる。サンドラも、分け前を半分奪った件で追い回されることがない。ちなみに生きて逃げ続けるのなら、そのうち賞金がかけられるだろうから、それぞ彼女の本職=もうけにもできる。(※実際、序盤ではその可能性も口にしている。マイク・ハービンも州の警官を殺したために、賞金首になっていたと『Nobody~』にあるし……なんというフラグだ)

しかし、それはそうと、

もう一人、ニックの死体発見が好都合である人物がいやしないか。

言っておきますが、このままでは、パーカーが裏切り者です。

文字どおり身分証代20万ドルに、教会から1箱ちょろまかしたダーティー・マネーを使ったのならば、不正です。ネルソン、サンドラに対してだけではない。

読者への不正であり、裏切りです。

らしくもない。パーカーらしくもないが、ヘフティ・バッグの中身は、まず間違いなくダーティー・マネーです。

この件への弁明が許されるとしたら、もう一事しかないでしょう。

(※以下、やはり妄想じみた話になるのは否めないので、ご容赦ください。ここまでお付き合いいただいたのに、恐縮ですが)

やはり身分証代は、1人10万で、2人分だったのではないか。『地獄の分け前』で、ジュリアス・ノルティに頼んだ時は、1万ドルだった。それよりもっとずっと頑丈なものを、パーカーが求めていたのは明らかだが、それにしたって20万ドルは法外ではないのか。家が建つ。マンションが買える。

1人10万で2人分。

パーカーは自分一人のためだけにちょろまかしたのではない。サンドラに分け前の半分を取られることになった、ニックへの代替案として、箱の中身で取引したのではないか。

やはりパーカーが、ダーティー・マネー5万(後払い)、クリーン5万(前払い)

ニックがダーティー・マネー10万(前払い・後払い込み)

これで身分証代20万。

それでも余ったおよそ5万かいくらかを、a Hefty bagに入れて、パーカーが持って帰った。あの月曜日に。

シーズンオフで、実質空き家である他人の家。そこに隠れていた男が、

「ああ、そうか。明日ミーニーとフェリーで取引が決まったのか。ところで、パーカー、あの箱を数えたら、あと5万ほど余ったんだ。けど俺、もうこんな金持っていたくないからさ、ネルスのとこに行くついでに処分してくれよ」

戻って、前週土曜日の深夜、パーカーはクレアの運転で、教会に戻った。あるいはクレアだけが、教会へ行った(!)。そして、ニック・ダリーシアだけ連れ出した。トランクにでも後部座席にでも突っ込んでおけば、もう問題なく脱出できると知っていた。

クレアはパーカーと同じモーテルに部屋を取った。どっちにしろパーカーとニックはここで合流した。クレアはパーカーの部屋で休み、ニックには自分が取った部屋を使わせた。

翌日曜日、クレアが来てくれたから大丈夫と、ネルソンを一人レディーマー・トラックで自宅へ返し、パーカー、クレア、ニックの3人は、ニューヨーク州北部に向かう。警戒区域外とはいえ、ニュースやら何やらでそこらじゅう自分たちの写真と似顔絵であふれているが、マサチューセッツを脱出したなら、もう少しましな変装ができる。クレアは以前パーカーの(実は下手だった)変装を直してあげたことがある(『地獄の分け前』)。

ニューヨーク州北部でなにをするのかを言えば、身代わり遺体の掘り返しである。『Ask The Parrot』にて、強盗一味を捕まえようとはりきりすぎたボランティアが、誤って射殺してしまった遺体である。パーカーならその場所を特定できる。これがだめでももう2人位殺しているので──(略)

日曜の夜、マサチューセッツ州のあの教会に、危険を冒してでも戻る。クレア運転、パーカー助手席、ニックは後部座席に隠れ、トランクにはご遺体を入れて運ぶ。

教会内。パーカーとニックの二人。クレアは車で待機。地下の電気をつけ、入れ替え工作開始。ニックは脱走時に来ていた服をそのご遺体に着せる。指紋は潰す。顔も潰す。お気の毒ながら。そしてシンク下に入れる必要はない。警察官二人が発見したシーンでもそのあとも、パーカーが押し込んだ「シンクの下」から死体が見つかったという話はなかった。地下にさえあればいい。そのほうがにおいもはっきりわかったことだろう。

遺体の処置を終えたあと、ロフトから箱を下ろす。1箱、クレアの車のトランクに積む。(ないし、もう要らないと思うが、カモフラージュ箱も望むならば) 残り現金入り3箱は、ドア付近のフロアに置く。いずれ見つけてもらうために。ニックの遺体もろとも見つけてもらうために。

ニックの身元確認問題ですが、指紋は取られていたにせよ、DNAはもしかしたら採取されていなかったのでは。取り調べ前だったから、警察では。

というのも、ニックがぶち破った空き家の窓ガラス。あれにニックの血痕が残っていたのですが、DNA鑑定して、ニック・ダリーシアのものだとわかったならば、もっと早いうちに教会は再び調べられていたのでは? 9日経って、あの警官二人とも、あの窓ガラスの血痕がだれのものだったとも言っていない。ニックと照合してもみなかったか、ニックのDNAが未採取だったかのどちらかだ。

だったらあの教会の地下に、遺体と、服(血痕つき)と、髪の毛、輸送車の金、あと奪った警官の銃でも置いておけば、もしかしたらあの亡骸をニックと鑑定してもらえるのではないか。

甘いだろうか?

DNAがないなら、だれかが死体を見て「間違いありません。ダリーシアです」と言うしかないのだが、ニックに身内がいる形跡がない。生前、ニックは今後の逃走ルートを頭に思い描くのだが、そこにはだれも……だれもいない。家族も恋人も友だちも登場せず、ただ、一人きり、ダーティー・マネーを使いながらカージャックでカナダを逃げまわる自分しかいないのである。

……アンタって人は……。

だが、思い出せば、ニックの遺体は発見当日に身元確認されている。半日も経たずに。レヴァーサに一報が入った時には「身元確認中」、レヴァーサと上司と警官二人が話している時に「身元判明」

DNA無しでも、状況だけでニックと見なせそうではありますが……もしもあとひと押し必要ならば……

ところでニックには、仲介人がいます。コネティカット州在住、保険会社のOLグレイスで、ニックのことを「最高の元夫」と呼ぶ。無論、実際に結婚していたわけではなく(それとも、してたの!?)、「顔も合わせず、言い争いもせずに、定期的にお金をくれるから」です。でも彼女、ニックのことをかなりよく知っている。「職業:強盗」であることも。『Nobody~』では「数日前にニックから電話があり」、図書館のヴァン・ダインの本にメッセージを挟んで仲介をしている。グレイスにとって、ニックの仲介は副業なのです。

で、ニックには電話友だちがほとんどいないと書かれています。それでたった2回直電しただけで、クレアの家にFBIが来ることに。

そうなると、ニック脱走の件で、グレイスもまず確実に当局の訪問を受け、しばらく不愉快な思いをしたはず。でもまぁ、ただの仲介人で、なにも知らなかったと言い張れば、逮捕はされないだろうし、パーカーの言い分ですが「警察も、ニックはかくまわれるのに知り合いを頼らない程度には頭が切れる、と考えている」…となると、隣の州のグレイスがニックの居所を知っているとは思わない。

ただこの彼女、ニックと一度もまったく顔を合わせたことがない、なんてことがあり得るだろうか? 少なくとも仲介人に任命された最初の1、2回は直接会っているのではないか。

だから、グレイスならば、本当に嫌だろうが、ひどい状態のご遺体を見て「これがニックです」と、言えるのではないか。いきなり発見されても、同日中に。

箱を運び出し、遺体を運び込んだ、あの日曜日にでも電話1本入れておけばいい。(無論どっかの公衆電話かなにかかから)

「グレイス、悪いが、これが最後の頼みだ。教会から死体が見つかったら、どう見えたとしても俺だと言ってくれ」

「無理でしょ! 写真が出まわってるのよ!」

「顔はよくわからないようにしたから。で、俺たちは、もう寝たということにしよう。いいか? これからあの死体にあったアザやほくろを教えるから──」

ニックの死因が結局不明なままなのも、ひっかかります。が、公式発表は「銃殺」でなければいけません。「身代わり遺体」がそうだったから。

だからあの時……ニックが地下に光を差し入れた時、パーカーが銃を取り出したのは、撃つため。ニックではなく壁でも狙って撃ち、ニックに彼を殺す気はないことを示し、一方で銃声が聞こえたならばネルソンとサンドラには、地下にやってくる前に「ニックを片づけた。俺は後始末をしていくから、見張りと積載を続けてろ」とでも言っておけばいい。

結局、警官二人が来たために発砲できなくなったので、後日ニックの死因をニュースで知ったなら、ネルソンとサンドラは首をかしげるかもしれません。「あのときパーカーが殺ったに違いないけど、銃声は聞こえなかったな…」

けどまぁ、それっきりでしょう。

死体発見後のお二人:

サンドラ「パーカー、お願いだから、もう誰も殺さないで」

ネルソン「ニックめ、死んだあとでもどんだけ面倒を起こすんだよ」(←PART4だけで3回救出されたアナタに言われたくない!)

以上です。

以上でなければ、パーカーがほんとにひどいと思うんですが、どうでしょうか……?

とにかく、これが今日2024年5月、新たに愚かな一ファンのわたくしめが出した、「ニック生存説」の結論です。

論拠はほとんど「ロフトの箱が下に移動していた」のただ一事につきます。わざわざこのようになっていなければ、パーカーが箱を1つこっそりちょろまかしただけの話で済みます。身分証代も文字通り20万です。

「20万ドル=二人分の身分証」と「遺体のすり替え」が、どう考えてもこじつけっぽく、強引なのはわかっています。

ただ、私は、ニック生存を信じたいのはもちろんですが、どうにもパーカーが、相棒たちに黙って1箱を我がものにした、とは考え難いのです。冷静になった際のニックとの交渉に使う、かつ自分の損にもならないようにする、が最もスマートに思えるのです。

だって、やっぱり、そうでしょう? ネルソンへの裏切りはさておいて、読者への裏切りであり、こそこそと教会に戻った末のケチなちょろまかしになってしまうんですよ?

そうでなければ、パーカーのしたこととは、

一度ならずドジを踏んで手を焼かせ、こっそり裏切りまで企んでいたネルソンを生かし、

調査書類一式で、ほとんど脅して横入りしてきたサンドラも生かし、

自分だって看守を殺したしあれこれやっているのに、相棒を見捨て、

今だ一人も手にかけるどころか殴ったことさえない「パーカー軍団」の、敵に殺された以外は全員生存を続けたパーカー軍団の──

その一人を無惨に殺しておいて、しかも無視も同然の扱いで、真剣でもない狙いで殺しておいて、

殺しておいて、

自分は相棒たちにも読者にも内緒で、教会から1箱ちょろまかした……?

そんな「悪のヒーロー」が、許されますか?

やっぱり私はトム・ハーリーに憑依して怒りをぶちまけに行くしかない??

はい、そうです。これは私の新「生存説」というよりは「告発」です。

ですからどなたか、パーカーの弁護をしてください。私も聞きたい。たぶん私はバカだから、どっかでなにかを見落としているんです。でなければ、妄想に取り憑かれ、深みにハマっているんです。

もう答えはわかりません。というか、残された作品から考えるしかないのです。ただ、作者スターク氏は『Dirty Money』を最後にするつもりはなかったとは思います。

さて……某『哀歌』諸々を書き直しましょうか(えっ)。だれにもこれ以上、私の間違いとか、バカさ加減とか、訂正をなされないのならば。

あれらはファンフィクです。結局のところファンフィクであり、妄想の産物にすぎません。それ以上に、想像だけならば自由です。都合の悪いところに目をつむるのも、エンタメであるかぎり自由です。だから、あのまま私の頭の中でだけ、『哀歌』~『ラスト・デイズ』も、『ライン』まで、保管しておいたって、だれにもなにもできません。

TODO-A - pixiv

(↑もうリンクを乗っけるのが恥でしかない状況になりましたね…)

でもですね、そもそもロビンズが「20万ドルの半分前払い」を言い出すとは、パーカーにもわからなかったはずです。全額前払いだったかもしれない。多額なのはロビンズもわかっているので「いつ用意できますか?」と訊く。パーカーが「今、車にある」と言ったので、ロビンズも驚いたわけです。

その後、ロビンズからカナダでの雇用記録等々手続きの流れを聞いて、パーカーは言います。「簡単そうだな」

でも20万ドルもかかるんです。

(......10万がいいとこじゃないですか? 10万と20万ドルは、昨今の円安を無視しても1000万円と2000万円の差ですよ?)

そう、別に20万ドル全額前払いの可能性もあった。

だから私の

①『哀歌』〜『ラスト・デイズ』みたいな説(謎のピックアップトラックを利用)→生存説

②パーカーが仲間にも読者にも隠した不正説 →死亡説

③パーカー、ニック、クレアによる工作説 →生存説

以上のどれも、ありえるっちゃありえるんです。

......おお、祭りをするはずが、こうしてまたとんでもなく長々しいものになってしまった!

なにをやっているんだろうな、私は。

どうしてこんなにも取り憑かれたのかな。

やはりこのうえもなく幸せな、一ファンであり読者だったということでしょうな。

さて、新しい検証は、ここまでにします。またなにか見落としに気づかないかぎりは。

あとはおまけの話……かな?

(※以下は、単なるアイキャッチ用画像です)

さて、ここからはやはり、パーカーとニックの双方視点から描かれる同じ場面を見ていかねばなりますまい。

そしてそれは、奇しくもカムバック後の初作品『エンジェル』(原題_Comeback,_1997)のセルフ・オマージュにも見える、残酷なまでの対照です。

悪党パーカー/エンジェル (ハヤカワ・ミステリ文庫 ス 11-6)

『エンジェル』と『Nobody~』&『Dirty~』は、まずスタメン(?)から似ています。

『エンジェル』→ パーカー、エド・マッキー、ジョージ・リス(以上、実行犯)、トム・カモーディ(内部の手引き)+その恋人メリー、それに助っ人ブレンダ。

『Nobody~』→ パーカー、ニック、ネルソン(以上、実行犯)、ジェイク・ベッカム(内部の手引き)+その愛人エレイン、そしてサンドラ(※『Nobody~』の段階では助っ人ではない)

振り返れば、『エンジェル』はまさにシリーズの王道でした。主人公パーカー、裏切りのタフな相棒ジョージ・リス、陽気で信頼の固い相棒エド・マッキー、意外性をもたらすブレンダ、そして人間味あふれる単発人物たちと、期待に違わぬ展開が進みます。

(※元はドートマンダー・シリーズだったかもしれないと思わせるなにかがある。アーチボルト牧師は、そのままあちらで熱烈歓迎再登場しても問題ないキャラ)

『Nobody~』&『Dirty~』は、『エンジェル』の変形に見えます。

強奪そのものは成功する。が、真の問題はその後に発生する。ここまでがまず共通。

そして、信頼できる相棒はニックのほうと見せかけてまさかのデスパレートな道をたどり、危うかったほうのネルソンが結局相棒で居続ける。ブレンダ同様に、サンドラのサポートは超がつくレベルの有能。

ニックが、不本意にも、エド・マッキーからジョージ・リスの側に変貌します。

「一つの事しか考えられない」パーカーの動きと執念にも注目です。『エンジェル』のパーカーは、リス抹殺を最優先の目的として動きます。というのもエドが、すでに金を確保しているので。「リスには死んでもらわねばならない」と地の文ではっきり言っています。「お前を殺したかったんだ」とリス本人にも言っています。リスが金を独り占めするべくパーカーとエドのあとを追ってくる可能性をつぶしたいためでもありますが、なによりもまず裏切りの「落とし前」をつけるためです。一方、「あん畜生を撃てよ!」とパーカーに言いながらも、実際にどこまで行動に移したかという点で、エドにはやはりパーカーほどの執念はありません。パーカーこそ、殺すと決めた相手を必ず殺す人なのです。

一方『Dirty~』、パーカーの優先事項は、ニック抹殺ではなく金の回収となり、『エンジェル』とは逆転しています。パーカーならば無視するはずはないのに、ニックのことは無視も同然なのです。だれよりもニックの動きを気にしながら、ニック本人の殺害にこだわっていない。

このニックを、どの立ち位置でとらえたらいいのでしょうか。

エドのような、パーカーの仲間側ではない。PART1-1で見切られています。

かといって、リスのような敵役でもない。敵だったならば、パーカーは本気で殺しに向かっています。

気の毒なアマチュア枠でもない。アナザー・ゾーンに落ちましたが、プロだからこそこういうことになり、まわりまわってパーカーと鉢合わせる羽目になったのです。

同じことを考えていたから。

ちなみにアマチュアに厳しいようなパーカーですが、内心なんと思っていようと、振る舞いだけ見ればそれほど厳しくない気もします。「素人だからしょうがない」と。それで、一応仲間側だが愚かな真似をするアマチュアはたびたび出てきますが、パーカーが自ら殺した例はほとんどありません。

一方で、いちばん厳しいのがプロの裏切りに対してです。「最初から敵であるプロ」にももちろん容赦はないですが、「仲間だったプロ」の裏切りに対してがいちばん徹底的です。最初から敵であるプロとは、ビジネス成立で、バトルを休止することもあります。手を組むことさえあります。だがプロの裏切りにだけは、妥協の余地がない。

パーカー・シリーズには「裏切りの相棒」という伝統があります。第1作目マル・レズニックに始まり、9作目ジャック・フレンチ、真ん中12作目のジョージ・アール、15作目ボブ・ビーグラー、カムバック初回のジョージ・リス、そして最終24作目ニック────否、ニックはこの裏切り相棒枠に入っていない。入っていたら、もっとがっつり着実に殺しにいかれていた。結果は同じというのが気の毒でしかありませんが、宿敵枠ではないのです。

けれどももうエドたちのような、プロの仲間枠にも戻れない。確かにその立ち位置から始まったはずなのに、パーカー軍団の一員だったはずなのに、それなのに、アナザー・ゾーンに突っ込んだために。

(ちなみに上記「裏切りの相棒」軍団は、フレンチとリス以外全員運転屋です。ほかにも悪気なく事故った運転屋が複数人います。どこかの過去記事にも書きましたが、見るかぎり、パーカーはマイクとフィリー以外の運転屋ともう仕事をしてはいけないレベル)

ニックはまず裏切りを企んではいない。逮捕されて司法取引をすること自体は、裏切りとは見なされない。そうならないようにあらかじめ殺しておこうと見なされることはあれ。パーカーは『ターゲット』にて、マーシャル・ハウエルにこれをできなかったために、後々のトラブルを呼びます。「生かしておいたのは間違いだった」と言いながら、司法取引予防のためだけに、裏切ってもいない仲間を殺すことは、パーカーはやらない。なんだかんだやらない。

やらねばいけない時が、とうとう来たのでしょうか。

いや、ニックが近づいてこなければ、やらずに済んだことでした。

一方、ニックもパーカーを殺すことを考えたのは、例の2008年10月11日土曜日、空き家でパーカーと鉢合わせした瞬間です。

正確にはもっと後。

空き家でパーカーを見つけた時、彼は安らかな二度寝の最中。武器なし。ほんとになし。ブランケットと(たぶんほぼ空の)水入りペットボトルのみ(ちなみに全部サンドラがくれた)。

一方ニックは、殺した警官の銃を持っていました。

丸腰パーカーVS銃持ち元相棒、これは『エンジェル』の構図と同じです。

それにしても殺る気満々だった『エンジェル』パーカーに対し、『Dirty~』パーカーはまだ眠っています。あり得なくも眠っています。ちなみにこの直後に来るネルソンとサンドラは、銃持参です。ほぼ手ぶらなのはパーカーだけです。

と、ここでニックのほうはどうしたか。

①ここまでパーカーが乗ってきたはずの車が見当たらないので探しに行く

②パーカーに車がどこにあるか訊く

③ただパーカーを殺して動き続ける

以上の、どれにするか決めようとしながら、壁にもたれて座る。

…………え?

…………ええ?

まず、選択肢の出てくる順番がおかしい。①車を探しに行く、とは何事か。なぜさっさと③を取らないのか。ネルソンだったら即③を選んでいた。

そして、膝を折って「座る」のか。

で、このあいだに、パーカーが目を覚ますのです。

パーカー「来たか」

ニックがパーカーを殺さねばならないと悟ったのは、この瞬間です。よ・う・や・く!

目覚めてすぐに銃持ちニックを見ても、驚きもしなければ心配もしない様子のパーカーを見た瞬間です。

(俺たちは相棒だった)(もう一度相棒になれるだろうか?)(この窮地から一緒に抜け出せるだろうか?)

ニックだってこういうことを考えました。が、すぐに──

(俺たちは相棒じゃない)(俺にはもう相棒なんていない。今はすべてが敵なんだ)

第一声となる②「あんたの車はどこだ?」を発するまで、すでにニックはこう考えていました。

以降、パーカーの言葉はほとんどすべて「その場をつくろう出まかせ」にしか聞こえない。実際に、パーカーはその場をつくろうだけの口から出まかせにしか読めない言葉を聞かせます。読者にはパーカーが嘘を言っているのがわかります。ニックにだってわかります。

「いったいここでなにをしているんだ?」

「あの金を確認しておきたかったんだ」

「あの金を持ち出したかったんだろう」

「まだ早すぎる」

と、明らかな嘘をついた後のパーカー側の地の文は、なにか興味深い。

‘If he kept showing Nick this bland face, reasonable, no arguments, maybe Nick would calm down a little, just enough to listen to sense. But probably not.’

「もしも彼がニックにこの穏やかな顔を見せ続け、理性的で、言い争いをしない様子でいたら、ニックは少し落ち着くかもしれない。理に適った話を聞くくらいには。けれどもおそらくは無理だ」

まず、笑いどころでしかないような気もするんですが、パーカー、「この穏やかな(人当たりのよい、感情を示さない)」ってなに? 本気でそう見えると思ってる? ニックはめちゃめちゃおびえてるんですが。少なくとも、アナタの顔を見た瞬間、もう殺るしかないと思い詰めたところなんですが。

それにしても、ですが、私の下手な解釈はさておいて、ここの記述は引っかかります。まるでニックが冷静になったら、なにか理に適った話ができるかのようではないですか。いったい何を話すつもりだったの?

『Ask The Parrot』でも描かれていましたが、自分が人の気を狂わすほどの冷静さを備えていることに、パーカーはずっと無自覚です。宿のおかみさんにさえ「クレアさんはなんて冷たい夫を持ったの! 奥さんにばっかり運転させるし、紅葉に全然興味ないのも丸わかりだし、お気の毒に!」と、正体がバレる前から中身がバレている…。

で、続けて、ニックはまだ「出まかせだ! 出まかせだ!」と内心で怒るのですが、実際はニックの台詞のほうが多い。

ニックが唯一信じたのは、パーカーの「ネルソンとは旅行しない」との言葉。

ここで読者の頭の中には走馬灯が展開します。

~~半月前は二人だけで泊りがけ旅行したね! いつもニックが運転で、パーカーが助手席にいたね! 朝、昼、夜ごはんを食べに出かけたし、「あんたと俺と、装甲車とサツと警備員だけだったら、いいんだけどな」「そのとおりだ」とか、「なあ、(車でぐるぐるまわるのを)このまま2週間続けたら、ドーナッツみたいに穴が開くぜ」とか話したし、目線だけで会話もできたし、ほんとにあちこち行ったよね……!~~

古き良き、俺たちは相棒だった、日々。(※1週間前)

が、ネルソンは実はもうじき現金運び出しトラックとともに到着予定で、この後ですが、パーカーはほんとにネルソンと、短時間ながら二人旅はします……いや、実はしてないのか? ついに同じ車で二人だけにはならなかった。そうなったとしか思えないが、描かれはしなかった。

さらに少し後、パーカーはサンドラに「ネルソンは俺の友だちではない」と言っています。

ニックのことは「(not)my partner」、ネルソンのことは「not my friend」。「friend」も「相棒」と訳されもします。(ちなみにグロフィールドはパーカーを「俺の友だち(friend)」と言っている)(確認できないが、たぶんハンディはfriendもpartnerも両方使っている)(エドもfriend寄りで両方か)

一応言いますと、これは走馬灯的な感傷ではなく、パーカーとネルソンが並んで車内にいたら、たちまち強盗一味であると警察に気づかれるからです。だからニックも信じたのです。

ともあれ、読者の頭を走馬灯が駆ける一方、ニックは気づきます。

「あんたは待っているんだな」

「そのとおりだ」

パーカーはここでようやく真実で応じます。プロとして同じ思考を持っているから、いずれニックにはパーカーの考えがわかるのです。

パーカーはここでさりげなく動こうとします。(まだ二度寝体勢のままだった)

ニックはここでとうとう銃をパーカーの顔に向けます。

「動くな!」

ですが、まだ踏みとどまります。パーカーがなにを待っているのか、知らなければならないので、と。……知っている場合ではないのですが、まだ寸前で踏みとどまります。

「動いてはいない、ニック。体が凝り固まっているんだ。ここで寝ていたんだからな」

「もっと凝り固まるかもな」

「わかっている、ニック」

この体が凝っているという単語stiffには、そのまま「死体」という意味さえあります。パーカーはここで、ニックが撃つ寸前にいると見て取ります。「話していて得るものはもうなにもなく、彼もそれに気づいている。そしてあえて俺を生かしておく気はない」実際、ニックも気づきます。「もう待てない。もうパーカーはどうでもいい。どんな質問へのどんな答えもいらない。質問など残っていない」

「パーカー…」

パーカー側の描写にのみ、この声が現れます。

“Parker…” Nick said, and trailed off, sounding almost regretful.

「ニックは言った。声は消え入り、ほとんど後悔しているようだった」

…………えぇえ??

なんですと????

ほとんど後悔して、残念がって、悲しんでいるようだった(※regretfulの辞書通りの意味)とは何事か!

そう、つまりこの時の彼の気持ちは、「もうパーカーに勝った気でいる」…正確には、もう自分が殺してしまうと思っている。

とどのつまりニックの内心は「ごめんね、パーカー! こんなことになってほんとに残念だよ……」なのです。

お人好しにもほどがありませんか??

しかもこの声、ニック視点では描かれていない。つまりニックには聞こえていない。自分の声が。残念がって、パーカーに申し訳なく思う自分の声が。

パーカーを殺したくない自分の本心に、ニック本人が無自覚なのです。

これ以上話を痛ましくするな!(激怒)

これはもう、仲間枠でも敵枠でもない。妻枠ではないですか。第1作『人狩り』で、不本意にもパーカーを撃った妻リンにいちばん似ているではないですか。夫を撃つ間際と、そしてNYで再会して死ぬ前も最後に、彼女もパーカーの名を呼んでいました。

最終作で第1話に戻るなんて……!

「パーカー…」

ニックはこの直前にも、無自覚極まるお人好し案件を起こしています。

ほぼ1週間かくまってくれた後、教会のそばまで車で送ってくれたメッチェン医師。彼に別れ際、もう面倒をかけないと約束をしたうえで、ひと言、

「ありがとう」(Thanks)

……………………(絶句)

以降のわたくしの激怒は、某『哀歌』のトム・ハーリーがすべて代弁しております。

#悪党パーカー 哀歌 - TODO-Aの小説 - pixiv

(特にp10。続けてp11-12)

ほぼ一週間かくまってくれた末送ってくれた人に対して、まぁ、当然の言葉ではあるんですが……

ニックはメッチェン医師を──輸送車強奪騒ぎに乗じて妻を殺害した人を──結局殺さず、金も車も奪わず、一切暴力もふるわず、彼に言われるがまま出ていくことにしたのです。

この間、ニックは本当になにもしませんでした。なにもできなかったし、なにもしないのが賢明だったからですが、それにしてもなにもしませんでした。

メッチェン医師のことは、少なくとも逃亡序盤は、食糧を買ってきてくれる人がいなくなるから、確かに殺してはまずかった。だがいよいよ出ていくときには、なにかできたのでは。少なくともパーカーであれば、最低限必要なものは用意させたでしょうし、おそらくはそれ以上のことをして、さっさと逃亡を果たした。

ニックは本当になにもしないし、できない。電話を借りて、だれかに助けを求めることさえしない。

「いったいあの馬鹿はなにをやっていたんだ! 五日も!」(※某分身の激怒)(彼には悪かったが、憑依してでも言わずにはいられなかった)

メッチェン医師に一切危害を加えなかっただけで十分お人好しなのに、最後に「ありがとう」とくる。もう、どうしたらいいのか。

こうなってはもう案の定、パーカーに先制もできない。撃つ寸前までいったのに、ブランケットとペットボトルだけで逆転されてしまうのです。ニックが発砲したのは、パーカーに飛びかかられた後。しかもどこも狙わずに。

妻リンですらできたことができない。パーカーにはアンディー・ケルプでもできた並みの逆転をかまされる(※未翻訳作)。

最後まで、パーカーを狙うこともできない。結局この状況で、かすり傷ひとつ負わせられない。そして銃は叩き落とされる。

パーカーに首をつかまれる直前、ニックはかろうじて逃げ出します。ガラス窓に突進して、2階から外へ落ちます。

そういえば『エンジェル』でも、決着はガラスの盛大な破壊でした。パーカーがそうやってリスを投げ飛ばし、崖から落としました。『Dirty~』ではこれで決着とはならず、ニックは逃げて、姿をくらますのですが。

ここでネルソンとサンドラが合流します。サンドラの反対を押し切って、パーカーとネルソンは藪の中で、ニックを捜索します。けれども血の跡は見つかれど、どちらに逃げたかはわからず、パーカーが先に追跡をあきらめます。ネルソンもアリバイ作りを考えます。

通りかかる(謎の)赤いピックアップトラック。みんなが手を振り合います。

ここで断固として別方向に逃げていれば、おそらくニックは死なずにすみました。もう銃も失ったからなにもできず、遅かれ早かれまた警察に捕まっていただろうけれど。

ところが、なぜか、そしていったいいつどの隙を縫ったのか、ニックは現金積載作業が進行する教会の地下へ潜り込んでいました。パーカーだけがそれに気づき、一人地下へ下りていく。

地の文「どうして戻ってきたんだ?」

いや、まったく。

もうニックに銃はない。銃を持っているのはパーカーです。彼はそれを手に、最後の始末をつけに向かう。

真っ暗闇の中、ニックはどうして外に警官二人がやってきたことに気づいたのでしょうか。

彼が最後にしたことは、上の窓の開け、光を招き入れ、今その銃で自分を殺すことは賢明でないと、パーカーに伝える程度でした。パーカーが念のため警戒していたような反撃や抵抗は、一切ありませんでした。あったとしてもそうなる前に、パーカーの両手がニックを捕らえた……。

それで終わりです。

実のところ、パーカーがどうやってニックを殺したのか、直接的に書かれていません。銃を使わなかったことは確かです。おそらく首の骨を折ったか、締めた。けれどもその直接の描写はなにもない。「殺した」とも「死んだ」ともない。

音を立てず、素早くやる必要があった。

次に描かれるのは、ニックを「引きずって」シンクの下に押し込んで戸を閉めたところです。

「引きずって」の時点で、素直に読めばどう考えても死んでいるのですが、どうやって死に至ったかはまったくなにも書いていない。骨が折れる音の一つも。

これをバカな私のように「生存説」の可能性の一つに上げることはできます。

けれどもこれは、作者からのニックに対するせめてもの手心ではないでしょうか。読者への手心かもしれません。パーカーによる相棒殺しを、ぼかさずにはいられなかったのかもしれません。今回ばかりは。

だってこれがグロフィールドとかだったら、耐えられます? 無理でしょ、読者。

ニックはここで死にました。読むかぎりは、実にあっけない退場でした。あっけなさすぎてこの読者が11年も再読を封印するほどに。

9日後には死体も発見されました。

一度はパーカーたち3人を見逃した警官が、ついに残された3箱を発見し、地下に目を向けます。彼は相棒に言います。

「ルイーズ、あの男は下でなにをしていたんでしょう?」

ルイーズはあの時のパーカーの台詞を真似ます。「やあ、下にはなにもなかったよ。器具類はすべてなくなっていた。全部片づいた」

「いったいあの男はなにをしていたんでしょう?」

もう、この二人でさえ、地下になにがあるか悟っているのです。顔色も変えずに相棒殺しをやってきた直後のパーカーによる、戦慄もののシーンが強調されます。

……なんでこれで「生存説」なんて出せるの?

それでもパーカーも、ニックには手心を加えたと言えるかもしれません。せめてもの瞬殺。二度寝の時といい、ほぼ舐めプからの秒殺です。

手心、ないし情けとは。

ジョージ・リスのことは「殴りに殴り」、『ターゲット』の悪徳警官(一応警官だぞ!)をボールペン突き刺すわ殴るわ撃つわで血祭りに上げ、『地獄の分け前』では裏切りの相棒たちを蜂の巣(にするように仕向け)、『電子の要塞』ではPART1-1の1行目から「人を殺しているところだった」と首の骨をポキッ、その後はミーニーの部屋に入るや否や射殺事件を起こすような人にしては。

なぜ、ペットボトルとブランケットしか用意していないのか。時間はたっぷりあったのだから、その辺の石でも木の枝でも持っておけばよかった。ニックが来る可能性は考慮していたはずだ。ニックを一目見て、パーカーは少しも驚かなかったのだから。

ニックもニックで、なんでペットボトルとブランケットに負けるのか。まず始まりに戻るが、たいして距離も取らず、座って考えたことが問題だ。

もう一度『エンジェル』に戻りますが、ジョージ・リスはニックの先達にして対極。作中で、リスも警官を殺しているのです。彼なりの正当防衛や必要性に駆られたからではない。警官に化けたいから殺した。殺す必要もないのに、脅かされてもいないのに、平然と殺した。さらにその後、警官あふれる病院にまで乗り込んで証人を殺すような、信じ難い大胆不敵なのです。パーカーを狙い撃ちする時も、高笑いをしています。ためらいなどあろうはずもなく。

そのリスを始末するのに、パーカーは──カムバック初回だからか──やたら手間暇をかけます。隠れ家にて、いざ対決となっても、いったん相手に銃を奪わせる。人を盾にして撃ち合う(あとで『Dirty~』でもやる。オスカー・シドの友だちが、ネルソンを盾にする)。

悲鳴を上げて転がって、いったん逃げるところは、ニックとまったく同じ。

真っ暗闇の中で、相手の呼吸音を頼りに、パーカーが迫る。『Dirty~』ではニックがこれで無抵抗のまま秒殺されるが、リスはパーカーに棚受けで殴りに殴られる。

しかしパーカー、この際は、まずリスが暗い中で銃を撃ち続けている中を、その閃光を頼りに近づいていくという、とんでもない無茶をやってのけます。

こんな男にかなうわけがないのだから、やっぱりニックは「パーカー…」などとすでに勝った気で悲しんでいる場合ではまったくなく、二度寝を見つけた時点で即銃弾を浴びせるしかなかった…。

リスは、ひどくぼこぼこにされた末、銃も玉切れになり、パーカーに「もうやめよう」と命乞いをはじめます。またその暗闇での呼吸音を頼りに、パーカーは容赦なく迫ります。

『Dirty~』での地下の暗闇と、重ねずにはいられない。ただしニックは、呼吸すれば気配をつかまれると知っていたので、最初はもう微動だにしない。パーカーもしばし待つ。結局耐えきれなくなったのは、ニックのほうでした。彼は地下に光を招き入れる。パーカーは銃を手にする。

一方、リス「おれはもうくたくただ、パーカー! おれをここに放っておいてくれ」

パーカー「そのつもりだ」

リス「放っておいてくれ!」

パーカー「司法取引でおれを売るだろう」

リス「じゃあ、おれを連れていけ。ここから連れ出してくれ」

パーカー「おれはお前が必要じゃない」

直後、リスはパーカーにナイフで切りかかります。もう2ページ弱、タイマン・バトルが続きます。

一方、以上のような抵抗も命乞いもできなかったニック。「連れ出してくれ」と本当は言いたかったはず。けれどもプロである以上、どうしてもその言葉は出てこなかった。助けてくれるわけがないので、助けを求められなかった。試しに言ってみようとさえ、考えてもみなかった。

「助けて」と、最後まで言えなかった。

その一線だけは、ついに越えられなかったのです。

だれかに遠慮もなく助けを求められるような男なら、そもそもこんな事態になっていない。

……思えば『エンジェル』で、このリスとの決着の隠れ家を見つけて、得意げだったのがエド。『Nobody~』で教会を見つけて得意げだったニックと、思いきり重なります。まぁ、エドは不死身なので、そこが死に場所になったりはしないんだけど…。ニックみたいにザッツ・フラグ建立になりはしなかったんだけど。

このように、ニック「生存説」は、今のところどう見ても絶望しかない。

まだほかにもあります。『Nobody Runs Forever』のタイトル回収を、例の空き家の場面で、パーカー視点からやります。

「ニックが走ることをやめられる方法はただ一つしかなかったが、パーカーはそう言わなかった」

この一日前、サンドラも言います。

「あんたがニックの居所を見つけたら、彼は長くは生きられないでしょうね。彼は私やほかのだれより、あんたにとってとても危険だから」

「たぶんな」

サンドラのどっちの台詞に対しての「たぶん」かはわかりません。

とどめに、教会での最後の瞬間、ニックが外光を引き入れたとき、パーカーはポケットから銃を取り出しました。

結局、銃ではなく両手で始末することにしましたが。警官が来ているから今は──とのニックのアドバイスどおりに。

「人生最悪の週だが、決してすべてが最悪だったことがなかった。絶望だと思うたびに、いつも小さな可能性の光が一筋あった。もう一度彼を動かす程度には十分な光だ。絶望のほうがマシだったかもしれないと、彼は思いはじめていた」

ニック視点の冒頭です。

暗闇の中、最後の光を引き込んだのはニック。そして最後の絶望に叩き落としたのがパーカーです。

これがシリーズ最後の、グッバイ・パートナー。元相棒との決着です。

「パーカー…」

の直後、

「俺たちは互いに助け合えるはずだ」

とのパーカーの台詞は、やはり空虚な「出まかせ」にすぎないのか。

いや、やっぱり絶望しかないんですが。長々と書きはしましたが、最初に戻って、読者にはやはりPART1-1からすでにして、絶望しかなかったんですが。

なぜこれで「生存説」だなんて暴論を唱えられるのか。

ファンの都合の良い妄想でしかないのではないか。

さて、絶望を上げ連ねたうえで、希望のほうの考察にいましょうか。

と言っても某記事で、一応すでに取り上げてはいるのですが。そしてそれを、最初の記事で書いたように、修正せざるを得ない今日になったのですが。

でも次回が、本当の本題であり、主旨です。

→【検証4】に続く

ここで、一度テーマを変えます。私の感情が、前記事よりふんだんにこぼれ出るのはご容赦いただきたい。なにしろこの男は11年……いや、16年にわたって私のエンタメ人生を翻弄してきたに等しい。

すなわち、ニック・ダリーシアなる人物は何者で、どういう最期を迎えたか、の話です。

(※以下、激しいネタバレです。くれぐれもご注意ください)

(※※読まずに、【検証4】まで飛んでいただいてもおそらく問題ないです)

初登場は、第16作目の『殺戮の月』(1974)。本の帯にある言葉に倣うなら「パーカー軍団」の一人。ただし彼と相棒のトム・ハーリー以外の軍団は、全員それ以前の作品に登場済。

以後、悪党パーカー・シリーズは23年の空白を得て、『エンジェル』(1997)(原題Comeback)で執筆が再開されます。パーカー軍団の面々は、続々とカムバックを果たします。

⑰『エンジェル』→エド・マッキー、それに恋人ブレンダ

⑱『ターゲット』→マイク・カーロウとダン・ワイツアー。『殺戮の月』の軍団には入っていないが、ルー・スターンバーグとノエル・ブラセルも。

⑲『地獄の分け前』→トム・ハーリー(電話出演のみだが、そのために映画にまで相棒ヅラで出演した人。アンタ、前相棒の気持ちとか考えたことあんn――(略))

⑳『電子の要塞』→フランク・エルキンズとラルフ・ウィス。

㉑『Breakout』→エドとブレンダ再び。

㉒『Nobody Runs Forever』→ニック・ダリーシア、となります。

ちなみに大いなるネタバレながら、㉑までに上げた面々は、だれ一人死んでいません。エドなんか目の前でトンネルが崩落して仲間たちが生き埋めになるなか、そのあとさらに警察に取り囲まれながらの、またしても生還です。『掠奪軍団』以来、この人は不死身です。『Dirty Money』でも元気にロビンズを紹介してくれます。

これでパーカー軍団の中でカムバックしなかったのは、ハンディ・マッケイ、スタン・ディヴァーズ、フィリー・ウェッブ、フレッド・デュカッセ(カムバックできるわけないんだが、エドの前例があるしな…)、そしてアラン・グロフィールドとなります。

……私が某『哀歌』や『ラスト・デイズ』や果ては『エキストラとスタントマン』まで、上記4人を(だいぶ強引にであれ)書き込んだのは、つまり単純なるカムバックが見たかった願望の現れそのものなのですが、それはさておき……

TODO-A - pixiv

ニックです。某バズーカ運転手です。

私がこの人に狂うに至った経緯は、過去記事「あるかわいそうな読者の話」にあるので、大半は割愛します。シリーズの読者になった当初は、エド・マッキーとマイク・カーロウの区別もしばらくつかなかったポンコツな私が、なぜパーカー軍団の末端新入りの一人にすぎないこの人に狂うに至ったのか。しょうがなくないか、もう。

……とにかくこのニックは、どういう運命か、悪党パーカー・シリーズのラストを飾る「ファイナル・グッバイ相棒」役を務める羽目になってしまいます。

彼の人物像とその最期を、『Nobody~』『Dirty~』を元に振り返ります。

とてつもないやらかしをしたために、『Dirty Money』冒頭PART1-1でさっそく見捨てられるニック。

「俺たち皆はまだ相棒だろうか?」と口にしてから、パーカーは首を振る。「警官を殺したなら、それは別のゾーンに入ったということだ」

当時の私がそうだったのですが、パーカー小説の読者なら、これが発売前の予告段階で出ただけで、もうニックの運命を察せざるを得ない。生存率ゼロ。せいぜい頑張って3パーセントくらいでは?と。

一方ニックは、警察に捕まった段階で、まず自分が司法取引できる材料について考えます。彼が頭の中に上げた順に「強奪した金のありか」「ネルソンの住所」「パーカーとの連絡方法」「マイク・ハービン失踪事件の真相」「『Nobody~』の最初の会合にいた面子の名前(自分ほか、パーカー、ネルソン、ハービン、主宰のストラトン、フレッチャーとモット)」

ここで彼は、一つ重大な取引材料を挙げずにいます。

すなわちコルト・コマンドー、そしてカールグスタフという対戦車砲の供給元です。『殺戮の月』の冒頭で一緒に仕事をしたブリッグス。彼もまた『Nobody~』でのカムバックでした。

今回はバズーカまがいの武器を使ったために、そもそも想定外の大騒ぎになったのです。

このブリッグスを売ることを、ニックはまったく頭に考えていない。

え? ……ええ??

なんで? なんで??

馬鹿なの!? どんだけお人好しなの!?

……いや、失礼。なるべく感情を廃して書くはずの記事なのに。

「テロリスト級の武器の入手経路」は「金のありか」の次くらいに重要な取引材料のはずです。なぜそれを候補に入れないのか、この男は。

確かにブリックスに直接会いに行ったのはパーカーです。けれどもその帰途、パーカーを空港まで迎えにいったのはニックなのだから、ブリッグスがフロリダ在住ということくらいはわかっているはずです。

そしてその後、ブリッグスはマサチューセッツまで遠路はるばる車で武器を運んできて、思いっきりパーカー、ニック、ネルスの三人と顔を合わせています。この時、ニックは泊まっていたモーテルでブリッグスと待ち合わせ、先導して強奪中継地まで連れてきて、武器の説明を聞いています。そしてその場で地図を手書きして、彼を元のモーテルまで帰しています。自分が使っていた部屋に、今晩そのままブリッグスが泊まれるように。

だから某『哀歌』にて、彼が手書きの地図を渡したのは、本当にあった事実です。(Hurleyの落書きは創作だが、Hurleyの地名が『Nobody~』『Dirty~』両方に出たのも事実)

ニックはこの後、ネルソンにも別件で帰り道の手書き地図を渡しているので、そういう世話焼きの性分なのでしょう。どっちも来た道で、たいした距離ではないのだから。

それにしても、なんでモーテルの自分の部屋を、ブリッグスに引き継がせるのか? 別に部屋を予約しておけばいいじゃないか。夜8時くらいならチェックインにまだしも不自然な時間ではなかろうし、だれが他人の寝た後のシーツに寝たいと思うのか。いや、その日の昼間にでもクリーニングが入ったかもしれないが。いや、ブリッグスにしてみたら、パーカー、ニック、見知らぬネルソンの3択だったら、ニックの部屋を選んだかもしれないが。

いやいや、また話が逸れました。

つまり、問題は「ニックにブリッグスを売る気がない」こと。

その後、結局だれも売らずに、この人はとんでもない罪を犯して、警察署から逃亡します。

……物語進行上の都合と言われればそれまでですが、なんで警官を一撃で昏倒させられなかったのか。パーカーだったら確実にできたはず。おそらくグロフィールドその他でもできたはず。何人かは実際、一撃昏倒をやってもいます。

この人が非力なのか。

しかしこれ、実はアンディー・ケルプでさえ、未翻訳作でやってるんだけど……。相手はもちろん警官じゃないけど。

見た目が怖く見えなかったせいで、警官側に隙ができたのか。おそらくですが、相手がパーカーだったら、警官側ももっと警戒したはずです。殴られて銃を奪われるような隙を与えまいとしたはずです。

この人の見た目がそこまで怖くないことは、『Nobody~』で少し描かれています。銀行家の妻エレインが、ニックとパーカーを見て「良い警官と悪い警官」と称します。そしてニックを見ているほうが(少しだけ)目に優しい──リラックスできるようだと書かれています。で、エレインさん、パーカーが突然家に現れると、「悪いほうの警官が来た。ジョークを言わないほうだ」と。もう少しあとになって、パーカーも「俺と相棒を『良い警官と悪い警官だ』とあんたが言ったのを覚えているか?」(※口を割ったら殺すぞ、と圧力をかけにきたところ。ニックには来なくていいと言った)

『Nobody~』におけるニックのジョーク例:「俺たちのことは心配症と呼んでくれ(^^)/」「レモネード屋を開店するなよ」 ネルソン「こいつ、フルハウスを隠しているみたいな顔をしているぞ」ニック「そうなんだよ(#^^#)」 「なぁ、ネルス、俺たちは今教会にいる。つまり、免罪領域を見つけたんだぜ」

最後の台詞に対し、「免罪領域には悪人しかいないんだよ、馬鹿め」と、某『哀歌』でトム・ハーリーに言わせずにはいられなかった、この一ファン。だってツッコミ不在にもほどがありましょう、もう。パーカーでさえ、グロフィールドのジョークにはツッコんでくれるんだし。蛇足ながらさらに「アンタはここでアンタよりよっぽど冷酷非情の悪人三人に見捨てられるわ、殺されるわ──」(※自重)

ともかく、まだあるのですが、ニックが淡々とふざけるのは『殺戮の月』の「ポーカー・オッパイ」に始まるので、元からこういう人ではある。

ちなみにニックにかぎらず、歴代相棒たちも、パーカーといるときは必然的に「良い警官」のほうを務めざるを得なくなります。「自分より人に好かれるので」と『弔いの像』のハンディしかり。『殺戮の月』の「話しやすいほう」グロフィールドもしかり。エドは自分で気さくさと圧力を両立させているという描写がありますが、パーカーはやはり「自分より社交に長けているので」と。けれども実際は、パーカーがお人好し演技をめんどくさがっているだけでは……。やろうと思えば顔も赤らめられる人が。

ついでに、ニックの見た目の描写は、ほとんどない。痩せていることと、尖った肩くらいしかない。生活の背景もほとんど書かれていない。同じことが言えるのは、フレッド・デュカッセ。特に『掠奪軍団』のデュカッセは、有能&良い人という、パーカー・シリーズのフラグを高々と立てます。殴られて血を流しても文句ひとつ言わない。次のパーカーとの仕事に「嬉しそうに」現れる。前の仕事で負傷した仲間の安否を確かめる、自分の仕事が決まったらパーカーには別口を紹介してくれる……等々、仲間としては良いやつでしかない。そして当人の見た目上の特徴・背景描写がない。そして『殺戮の月』へ……です。最前線に送り込まれる。一方、某ジゴロのイケメンみたいに、半生が事細かに書かれた末に非業のラストを迎える仲間もいなくはないですが……

いずれにせよ、なにが言いたいかというと、見た目上の怖さと屈強な腕力があれば──もしかしたら無意識の手加減をしない非情さがあれば──アナザー・ゾーンに行く羽目になる殺人は起こらなかったはずですよね、と。

ただ単に慣れていなかったのかもしれません。『殺戮の月』のクライマックスはさておくとして、この人は相手を殴るどころかちょっと小突く程度の描写も、この事件を起こすまでは見せなかった。運転屋だから?(スタン・マーチは『ホット・ロック』で一撃昏倒パンチを見舞っているが) 暴力慣れしていないから加減がわからず、仕損じた挙句極端に走ってしまったとも見えなくはない。

同じやらかしをする可能性があるパーカー軍団(※『殺戮の月』)は──

四十代以降の面々は、やらかしますまい(ハンディ、ワイツアー、カーロウ、ウエッブ、ウィス&エルキンズ)。2番目の人などは、警察に捕まるくらいなら死ぬと言っています。3番目は司法取引で放免の経験者で、最後の二人は自宅と家族持ちです。

若い。以降の展開を含めて、若いんだ。

だからディヴァーズくん。あるいはグロフィールドか。

ただし、後者の人は抜群のアドリブ力があるし、8割はとんでもないお人好しですが(※自分を殺しにきた人が、パーカーにやっつけられて死にかけると「かわいそうになってきた」とこぼす)、その気になれば一人で『殺戮の月』をやりかねない程度の戦闘力も決断力もあるので、間違ってもこんな悲惨な事態にはなりません。

万一、前者がやらかした場合、読者の半分が発狂。後者がやらかした場合、全読者が発狂です。

ニックだから、私一人で済んでいるのです。(なにそれ)

……どんどん話が逸れていく。なんだっけ。

「ブリッグスを売らない」

「結局だれをも売らない」

「見た目の圧力が低い」

「非力なのか不慣れなのか甘いのか、とにかく仕損じからの極端」

で、もうジョークなど二度と言えなくなったようなニック。

一方、またパーカー・サイド。

月曜日早朝にニック脱走。その夜、急遽開かれた四者会談(パーカー、クレア、サンドラ、ネルソン)。そして木曜日にはパーカーは、紅葉目当ての観光客のふりをして、クレアとともに現場一帯へ戻る。サンドラも追いかけてくる。(※ちなみに紅葉を見にわざわざ旅行に行くとは、当時のアメリカ人には変わったことらしい。で、「紅葉を見にくる人」に関して、最初にパーカーに教えたのは『Nobody~』のニックである)

現地の状況を確認後、金曜日、パーカーはサンドラの運転する車でロングアイランドへ行き、ネルソンの営むバーで、現金持ち出し方法を話し合う。

ここまで、当初サンドラは「ニックを手助けしていないのか? あんたたちは仲間でしょ」と訊くのですが、パーカーもネルソンもニックをかくまってもいないし、助ける気もないことを知ります。

それで彼女は「ニックの分け前の半分を私に寄越すなら、現場から現金の箱を運び出す手伝いをする」との取引を持ちかけます。ネルソンより先に、パーカーがこの取引を承諾します。なぜならサンドラはパーカーたちの「調査書類一式」を同居人に預けていて、自分の身に何かあればそれが当局の手に渡るよう手配してある、と言うので。その後、パーカーはクレアに「ネルソンがここにいなくてよかった。サンドラを見るなり殺すだろうから。書類のことなど考えずにな」と述べます。

パーカーがかなりサンドラに妥協しているように見えます。ですが、現場一帯を動きまわるには、パーカーとネルソンだけではどう考えても危うい。似顔絵が出回っています。レヴァーサ刑事はクレアとパーカーの宿まで来ています。テリー・マルカニーというジャーナリスト、それに宿の女主人にまで、まもなくクレアがいても、パーカーは強盗の一人だと気づかれることになります。パーカーの考えでは、サンドラの助けは必要でした。ニックの分け前の半分を渡すと、勝手に決めてしまっても。

これに、ネルソンは最初反対します。

「ニックが現れたらどうする?」

「あんたたちが殺すでしょ。墓掘りを手伝うわよ」と、サンドラ。これは半分は彼女の相棒ロイ・キーナンを殺したネルソンへの皮肉。

戻って月曜日の段階で、彼は言います。

ネルソン「俺たちはニックを助けてもいない。やつだって俺たちに居所を教えはしないだろう」

サンドラ「どうして? あんたたちが彼を警察に引き渡すから?」

ネルソン「それだけは絶対にしない。ニックに口を割られたら困る」

そしてやはり「もう仲間ではない」と。

後にパーカーが状況を整理して述べます。

「ニックがもう一度警察に捕まったら、司法取引の材料にできるのは金のありかと俺たちだけ」「ニックがもう一度捕まる前に、あるいは彼が現金を全部持ち出して使う前に、どこかの子どもがうっかり教会に忍び込んで見つけてしまう前に」、現金を持ち出さなければならない。

……パーカーは本気でニックが、あの現金を全部ごっそり持ち出せるだなんて考えたんでしょうか? 無理でしょ、どう考えても。ポケットに詰め込めるだけがせいぜいで、ニックは実際にそれをやりはした。

この後、サンドラがディーマー・トラックを使う方法を提案します。ネルソンはこれを悪くないと考えて、彼女の仲間入りという取引を呑むことに。

やけに名案ですが、これは本当にサンドラの提案だったんでしょうか? パーカーからの入れ知恵だったのでは? サンドラの仲間入りを、ネルソンに納得させるための。ロングアイランドへの往路のサンドラとパーカーの車内会話が、一切書かれていないのが怪しい。この二人の初ドライブですよ? 復路の会話は書かれているのに。

と、ここでニックから警察に売られて困るものは、それぞれ以下となります。

ネルソン:本名。バー兼自宅の場所。

パーカー:クレアの家の電話番号。

そして無論、どちらともに「金のありか」

パーカーはネルソンほどには困らないとは言っていますが、ニックは『Nobody~』にて、コリヴァー・ポンドにあるパーカーとクレアの家に直電をかけています。これは過去作の仲間たちを振り返っても異例です。

カムバック後『エンジェル』のエド・マッキーでさえ、直電話はしていません。『Dirty~』でも電話しますが、公衆電話経由です。直電したのは『電子の要塞』のフランク・エルキンズ。

そしてなぜか『エンジェル』の敵役ジョージ・リス。

……あれ?

いずれニックの直電は、パーカーの不本意ではありません。そういう描写はない。それに、当のパーカーが番号を教えたのではないでしょうか。FBIによれば、ニックからクレアの家への直電記録は2回で、どちらも『Nobody~』に確かに書かれているシーン。となると、ニックが『Nobody~』の最初の7人会合にパーカーを誘った際は、直電ではなく仲介経由だったのでは。あの段階で、パーカーはニックのことを「少ししか知らない。トム・ハーリーのほうをよく知っている」と地の文で述べています。ニックはそのトム・ハーリーあたりからパーカーの連絡先を聞いたと想像できますが、ハーリーも『地獄の分け前』で直電はしていません。また公衆電話です。

カムバック後、パーカーとクレアの家は平穏かと思いきやわりとそうでもありません。『地獄の分け前』では、あらかじめ留守にしていたとはいえ3人組が押し入ってくるし、『電子の要塞』では爆弾を仕掛けられる羽目になります。

だから、ニックに直電を売られたとしても、クレアと二人でしばらく留守にすればいいと考えたのかもしれません。最悪でも引っ越せば解決すると考え、クレアも「やむを得ないならば」と引っ越しの可能性を口にしています(※どっちかというと、FBIよりサンドラの隠し調査書類のせいで)。

だいたい、パーカーにしろネルソンにしろ、現場一帯を離れたならば、ニックほどには深刻に追跡されないはずです。この二人は強奪はしたが、(少なくとも公けには、この一件に関しては)だれも殺していない。警官を手にかけて拳銃を奪って逃走するような凶悪犯とはわけが違うのです。

だからか、二人ともここに至るまで、はっきりとニックを「殺す」とは言っていません。地の文でもなんでも言っていません。

とはいえ、二人が考え得るニックへの始末とは、以下でしょう。

①死んでもらう ②警察にまた捕まえられる ③手助けして一緒に逃げる ④放置

とはいえ、③はまずあり得ない。議論にもなっていない。③を取るくらいなら迷わず①を選ぶことは、ネルソンの台詞から何度かわかります。「俺たちに居所を教えはしない」と言うくらいですから。そして②となるのがいちばんまずいと、彼は続けて言っています。

金曜日、空き家でのパーカーとニックの鉢合わせ後、ネルソンはニックをなんとか見つけ出そうとしますが、サンドラにせかされ、パーカーにもくじかれ、断念することに。パーカーには「アリバイを作っておけ」と言われ、しぶしぶ考えます。

つまり、パーカーどころかネルソンも、深刻にニックを探し出そうとはしていない。現場一帯に戻ってきた時から、二人の目的は「金の回収」であって、「ニックの発見と口封じ」ではない。

結局、ネルソンが取った始末とは④でした。

パーカーが①を取ったことは、実はこの後10日先まで知りませんでした。

……本当に知らなかったのだろうか?

が、気づいた様子はありませんでした。

パーカーは、だれにも見られず、音も立てず、教会の地下で①の手段を取った。

どっかの馬鹿のお人好しが(※失礼。分身ハーリーに憑依した)わざわざ隠れ家から出てきて、あのタイミングで鉢合わせしなければ、こんなことにはならず、④の放置のままで終わっていた可能性が高いということです。その後結局②になったとしても。

警官を殺しておいて、今さら司法取引をしたところでどうなったというのか。マサチューセッツ州に死刑はないらしいが、なにを売ろうともう実質の終身刑しかなかったでしょう。

パーカーたちに隠した現金まで持ち出されたとなっては、ましてニックには売るものがなかった。捕まったなら、ネルソンとパーカーのことをできるだけ話したでしょうか? それでマシになるような事態ではもはやないのに。

脱線ばかりしていますが、本題の考察はここからです。

パーカーは本気で殺さねばならない相手をあきらめる男ではありません。シリーズの全作品がその事実を教えています。そのパーカーが空き家での鉢合わせ後、一度は「徒歩の男を捕まえるのは無理」だと、ニックの追跡をあきらめたのです。それなのに結局手にかけられたのは、ニックがわざわざパーカーのいるところに戻ってきたせいです。

ところで、パーカーはサンドラに対して一貫して「ニックが今どこにいるか知らない」と言っていますが、

実際は知っていたでしょう。

本文には一切言及がありませんが、パーカーならば気づいたはずです。もしも自分だったらどうするかと考えてみたならば、思い至ったはずです。ニック・ザ・デスパレートと同じことを、パーカーが考えなかったはずはない。

ニックがメッチェン医師宅に隠れていることを、パーカーは1週間ずっと知っていた。

ネルソンはメッチェン医師のことを知らないので、彼にはわからない。しかしパーカーにはわかる。パーカーだけがわかる。

が、だからといって、わざわざメッチェン医師宅までニックを殺しにはいかない。ニック・ザ・デスパレートwith拳銃が待ち構えている家にわざわざ行ってなんの得があるのか。

それでも相手が『エンジェル』のジョージ・リスみたいなのだったら、殺しにいったでしょう。

ニックが真に気の毒なのは、殺す標的にされたからというよりむしろ、こう、放置というか無視に近い扱いをされていることではないでしょうか。

いないところで勝手に「もう相棒ではない」と切られ、分け前を半減され、見つけたら殺そうと考えられ──

本人がパーカーを前にして早々に悟る「すべてが敵」。気の毒ながら、まさにそう。

そもそもパーカーたちが金を手にできるのは、ニックが脱走した「おかげ」です。ニックが司法取引前に脱走したからです。

それなのに警官を殺したので、もうアナザー・ゾーン行きです。別件でパーカーとネルソンが明らかに何人か殺していようが、警官でなければさして問題がない、とばかりに。

そもそもですが、なぜ銀行紙幣の汚染──すなわち番号が控えられていることに思い至らなかったのでしょうか? 『Nobody~』の段階で、一度もだれも考えなかったんでしょうか? カムバック前の過去作品ですでに、パーカーは盗んだ紙幣の中でもきれいな新札は捨てなければならないと言う場面があります。だから、ダーティー・マネーの存在を知らなかったわけはない。

せめて、なぜだれか一人でもひと言注意しなかったのでしょうか?

なんでニックが真っ先にそのダーティー・マネーを使ってしまったんでしょうか?

まさか、あえてパーカーは、仲間のだれかが使うのを待っていなかったでしょうか? 使ってみないと汚染がわからないから……。

いやいやさすがにそれは、意地悪で陰険な考えが過ぎるか。

ところでこのバズーカ運転手、『Nobody~』では基本どの場面もDalesiaと書かれているのに、『Dirty~』では本人視点チャプターも込みでNickになっています。

もうパーカーの仲間の一人ではなく、Nickという個人になった。そういう意味なんんでしょうか……。

→【検証3】に続きます。

(※以下、悪党パーカー・シリーズ(著者リチャード・スターク氏)の、未翻訳作の話です。ネタバレを避けたい方は、決して読まないでください)

【検証①:私の見落としと、残る『Dirty Money』の謎】

ええ、なぜだれも、私がドジで不注意で感情優先主義で、英文をまともに読めないおバカさんだと教えてくれなかったんでしょうか。5年も!

……いや、失礼。(知ったことかって話)

大変ご無沙汰しておりました。

さて、このところまぬけ私は、

「悪党パーカー・シリーズ」の、

『Nobody Runs Forever』20周年、

『殺戮の月』50周年、

『襲撃』60周年

そして「ドートマンダー・シリーズ」の、

『The Road To Ruin』20周年

『ジミー・ザ・キッド』50周年

を一人祝うべく、読み直しをするなどしておりました。(※ほんとにマジでただ一人で読書を楽しんでいただけ)

その結果、重大な見落としをしていた事実をここに白状しなければなりません。先に申します。誠に申し訳ございませんでした!

どのくらい重大な見落としかというと、某所に上げた駄文『哀歌』『アフターワールド』『ラスト・デイズ』『ダーティー・ゴールド』『ライン』を全撤回せねばならないレベル。

TODO-A - pixiv

#悪党パーカー 哀歌 - TODO-Aの小説 - pixiv

#悪党パーカー ラスト・デイズ(哀歌その後②) - TODO-Aの小説 - pixiv

どんなに甘く見ても『ラスト・デイズ』以降は全撤回せねばなるまい。

……いや、あれは断っているように、ファンフィクションであり、妄想の産物であり、こんなキャラが出てきてこうだったらいいのにという欲望をあますところなく詰め込んだ駄文ですから、そのとおりのことが本筋であったなんて思っていない。そりゃ思ってない。とくに『ラスト・デイズ』以降は弁解の余地もない妄想であり、夢。それは重々承知。

それでもできるだけ辻褄を合わせて書きました。『Dirty Money』の時系列に沿うように。

ところが今、読み直しした結果、ありえない見落としをしていることがわかりました。

正直に言えば、まだ見落としがあるかもしれない。どうしても解けない謎が残っていて、いくら考えてもまだ答えが出せないでいます。

それをこれから書いていきます。全検証の終わりには、一応の答えも出すには出します。

それでもしも、もしも『Nobody Runs Forever』と『Dirty Money』を読んでいる方がいらっしゃるなら、できればご意見を聞かせていただきたい。助けていただきたい。

覚悟はできているつもりです。自分がバカだという現実と、「生存説」が否定される現実に。

……ただし、実は、私はなお「生存説」にすがっている。理由はおいおい書いていきます。

さて、では、はじめます。

上に述べたとおり、私は「悪党パーカー&ドートマンダー・シリーズ」一人祭りを目論みました。その過程で色々思うところをまとめて新しい記事を書いたり、過去記事をリライトしようと思っていました。

けれどもどうしても、最終的に行きつくところはこの問題の解釈・解明に向かってしまうわけです。

すなわち、『Nobody Runs Forever』『Ask The Parrot』『Dirty Money』という、「マサチューセッツ3部作」の謎に。

スターク氏も、「『Dirty~』でマサチューセッツ三部作は終わり」との言葉で、一連の事件を締めくくっておられました。

さて、私はこの件に関して、5年ほど前(2019)から一人「許さん! あのバズーカ運転手!」と、骨の髄までの恨みつらみをぶちまけつつ、とある「仮説」を打ち上げておりました。その結果の妄想ファンフィク『哀歌』ほかを某所にアップしました。

#悪党パーカー 長い『哀歌』のあとがきと、主に『Dirty Money』の話。 - TODO-Aの小説 - pixiv

実は率直なところ、当時の私は、この仮説で自己満足に浸るあまり、だれかに反証されることを恐れておりました。「いや、それはアンタの読み違いだ。あれはどう考えても死んだ。その証拠は──」と。

自分でもなんでここまでこの男にこだわるのかわかりませんが(この男だけではないのだが)、生存の望みを妄想していたほうが、とてつもなく幸せだったからです。

……なにしろ11年も死んだものと思っていた。それが突然帰ってきたのだから、この一読者のところに。

この喜びと幸せに浸っていたいがために、私はまたしても目を閉じていました。この11年前、2008年の『Dirty~』初読みの時と同じ。あのときはショックと悲しみとやり場のない怒りのために目を閉じたのですが、2019年以降は歓喜と興奮のために目を閉じました。

けれども今、5年が経って『Nobody~』と『殺戮の月』の節目の年にもう一度読み直した結果、

重大な見落としと、新しい謎に気づきました。

ほかの読者の皆さん、とりわけ現地アメリカの愛読者は、気づいていないわけがない。少なくともだれかは気づいているはず。

私がバカなのか、それともまだ見落としがあるのか、あるいはただの考えすぎか……。

2019年よりも冷静である気はしていますので、できるだけ感情を廃して、再検討していきたいと思います。

究極の問いとはやはり

「ニック・ダリーシアは本当に死んだのか?」

2008年初読み時の私「死亡。パーカーが殺したんだ…。ひ、ひどい……。冷酷無慈悲すぎる……」

2019年再読の私「ガチのマジでこれ生きてんじゃないですかぁあああああっっ!!!」

2019年の私が「生存説」を作り上げた理由は二つで、某『哀歌』の長いあとがきでも説明しています。

すなわち、

①ロフトに残された箱の数

②身分証代20万ドルの出所

この①②に修正を加えます。

詳しく、①「ロフトに残された現金入り4箱+カモフラージュ讃美歌集の箱複数が、ニックの死体発見時に現金入り3箱のみに変化」

→→これを読み直した結果、「死体発見時、ロフトではなく床(1階、ドア付近)に現金入り3箱」

②身分証代について、偽造屋ロビンズは「20万ドル前払い」ではなく「約20万ドル中、半分を前払い(約10万)」するように言っていた。

②の前払いが10万で良かった点が、今回気づいた重要な見落としの一つです。これで私がかつて上げた「ロフトから消えた1箱が、20万ドル前払いの一部に使われた。実はパーカーとニックの二人分だった(各自10万)。だからパーカーは『州北部で得た金(約10万、『Ask The Parrot』)の半分以上を使った」という説は、大きく揺らぎます。

揺らぎますが、実は崩れていません。

『ラスト・デイズ』はまぁ、おそらく撤回ものですが、まだ崩れていません。……なんか切実にお祈りしている気がしなくもないですが。

なぜなら依然、箱が1つ消えた謎──しかも場所がロフトから床へ移動していた謎と、法外な身分証代20万ドルという謎は残るからです。そして追加の謎もあります。

まとめますと、『Dirty Money』の謎とは、

①教会に残された箱の数と位置

②身分証代20万ドルの出所

③パーカーが運んだ謎のa Hefty bag

④10月から11月に飛ぶ問題

③と④がこのたび新たにバカな私が加えた謎ですが、③はあとで説明するとして、④がどうあっても解ける気がしません。

まずは④のなにが謎なのか示すために、『Nobody~』から『Dirty~』の時系列をここにまとめさせてください。

(※大いなるネタバレです。ご注意を)

④なぜそこで11月になるのか?

簡単に言うと、『Dirty~』のある場面で、途端に時間が11月に飛んでしまうのです。

『Nobody Runs~』で、現金輸送車強奪が決行されたのは「10月4日」です。銀行責任者がそう述べるし、ニックの仲介人がFAXで寄越した日付も10月4日。輸送車が、ボストンを金曜夜に出発し、土曜の真夜中に件の銀行に到着する。それが10月4日。金曜日が4日なのか、土曜日が4日なのか、そこは確信が持てない。前者かもしれない。

ただ『Dirty~』発売の2008年、10月4日が土曜日に当たり、物語と合致します。『Nobody~』の発売は2004年ですが。

というわけで、仮に4日が土曜日だったとして、時系列を書きます。(どっちが4日でも、そこは大勢に影響はない)

(2008年)10月4日土曜日、これが基準日。

9月半ば:ニックがパーカーを車に乗せて、マサチューセッツ州へ。このヤマに取りかかる。

次の火曜日(おそらく9月23日):ニックの友だちで、仕事を持ちかけた男ジェイクが、パーカーの言いつけを守らずに、保護観察を遵守する(ニックがパーカーの家に直電①)。

木曜日(9月25日):ジェイクが銃撃される。パーカーが事件を知ったのは夕方6時、ニックの電話から(家に直電②)。

金曜日(9月26日):午後、パーカーが銃撃犯の家から拳銃を回収。おそらく同日(?) 銀行責任者が、一週間後の10月4日が輸送日に決まったと、地の文で述べる。

月曜日?(9月29日):パーカーが、フロリダでブリッグスと会う。「5日後にマサチューセッツに来てほしい」と伝える。

火曜日?(9月30日):フロリダから戻ったパーカーに、ニックが「仕事まであと4日しかない」と言う。

10月3日金曜日:オール・スタンバイ。午後7時、ブリッグスはフロリダから車で武器を運んでくる。

10月4日土曜日未明:強奪決行。

その後、

同10月4日午後遅く:ニックが警察に逮捕される。パーカーはトム・リンダルに出会い、『Ask The Parrot』の始まり。

10月5日(日)夜:パーカーとリンダルが競馬場で強奪決行。ニックは州警察とFBIの縄張り争いのせいで、取り調べをされないまま一日放置される。

10月6日(月)早朝:午前7時前、パーカーは帰途、クレアと再会。この約2時間前に、ニックが警官を殺害して警察署から脱走したと知る。本文に「10月」と書いてある。

同日午後:ニックがメッチェン医師宅に押し入り、居座る。

同日夜8時30分:ロングアイランドのネルソンのバーで、パーカーたちの四者会談(パーカー、ネルソン、サンドラ、そしてクレアも同席)

10月8日(水):パーカーがマサチューセッツ州に戻ると決める

10月9日(木)午後:パーカーとクレアが宿にチェックイン。クレアの運転で教会を確認。帰るとサンドラが接触。ディナー後、パーカーはサンドラと取引することを決める。

10月10日(金):パーカーとサンドラは、ネルソンのバーへ。レディーマー・トラックで金を回収すると決める。同日夜、マサチューセッツ州に戻るが、クレアは警察来訪&似顔絵ポスターのせいで、もう宿にはいられないと教える。けれども目立つといけないからと、クレアには翌朝チェックアウトするよう、パーカーは指示する。パーカーは教会向かいの空き家に泊まり込む。

10月11日(土):問題の日。

午後、ニックはパーカーと空き家で鉢合わせる。パーカーはニックを一度取り逃がす。

その後、レディーマー・トラックへの積載開始。①と②の謎の始まり。パーカーは、なぜか戻ってきたニックを、地下のキッチンのシンク下へ押し込む。警官二人をごまかして、三人は逃亡。ネルソンが現金積載トラック、パーカーはサンドラの車に同乗。途中、バーに寄る。

同日(土)、警戒域外モーテルにパーカーとネルソンとトラックを残し、サンドラは私物が置きっぱなしだからと宿へ引き返す。パーカーとネルソンはモーテルにとどまり、おそらく1泊。夕食前、パーカーはネルソンに「明日、フランク・ミーニーに電話する」と言う。資金洗浄取引のため。

10月13日(月)午前11時:日曜日では会社が休みだからか、結局月曜日になってから、パーカーはミーニーに電話をかける。同日午後2時、早くもミーニーと対面。(同じクレアの家もミーニーの会社も、同じニュージャージー州内だからね)ミーニーは上司に話を通すので、木曜日3時に電話するよう、パーカーに言う。

~ここで、「強奪から2週間と半分後」、マサチューセッツ州の状況が差し込まれる~

すなわち、月曜日の午後(おそらく10月20日、警官二人が教会でニックの遺体を発見する。知らせを聞いた刑事レヴァーサは「9日前には、犯人たちもお金も、まだここにあったのに」と述べる。つまり10月11日(土)のことである。

戻ってパーカー・サイド。

10月14日(火):パーカーはジュリアス・ノルティの番号にダメもとで電話してから(※『地獄の分け前』より。死んだのは知ってるけど、だれか仕事を引き継いでいないかな、と考えて)、結局エド・マッキーに電話する。

10月15日(水)午前11時:エドが電話を返してくれる。

10月16日(木)午後2時45分:エドが電話でロビンズを紹介してくれる。同3時、ミーニーから予定の電話が入る。

10月17日(金)夜9時:パーカーはクレアとボルティモアに行き、ロビンズに身分証作りを依頼。20万ドル中の半分前払いで、現金を数える。

**10月20日(月)**:午後パーカーはミーニーをアポなし訪問。身分証の雇用記録作りに協力させるため。そして資金洗浄取引を、翌日午後1時フェリー上で、と取り決める。

同日の帰り道、ネルソンに電話で、取引決定を知らせる。

~ここでなぜか「11月の上旬午後5時過ぎ」という時間が出てくる~

~③の謎、“a Hefty bag”の登場もこの場面~

同日その5時過ぎ、ネルソンから「助けて、パーカー! オスカー・シドが家に乗り込んできたの!」と連絡が来る。パーカーはここで頭にくる。

同日午後8時35分、パーカーはネルソンのバーに到着。諸々片づけ、追っ払う。

『ここでも「11月の月曜日の夜、バーが何時までやっているかって?」という、パーカーの台詞が入ります。が、なぜ11月になるのか? 私がどこかで読み間違えたか。

しかし、

10月21日(火)9時半:ネルソンが、ニックの死体発見のニュースを、パーカーに伝える。つまり前日20日(月)とつじつまが合う。

同日午後1時からフェリーを利用した資金洗浄取引が始まり、『Dirty Money』はこの火曜日のうちにすべてが終わる(ネルソンをあと2回も救出する事態になる等)。

2回出てくる、11月という表記以外は、なにも問題がないのですが、11月という表記だけが、私のなかで理解できない。

いつ、2週間飛びました??

・どこかで私が読み落としました?

・それともなにか、読者へのトリックが?

・それとも作者ないし出版関係者の誤りなのか?

3点目だとしたら、11月だけならまだしも、こうなってくると①箱の数と位置や②身分証代の表記自体にも疑問を抱かざるを得なくなるから、どうにかこの④11月問題も解決したいんですが……

ただ、「11月」以外は全体として筋が通っている。

悪党パーカー・シリーズで、作品をまたいで読者をトリックにかけたことは、それまでにない。……あえて言えば、エド・マッキーがなんの弁解もなく蘇った件くらい。あと、再起不能にしたはずのジョージ・アールが、ピンピン動きまわっていた件くらい。

1作中での矛盾ならば、あることはある。

しかし3点すべてが誤記、ないし矛盾に気づかずに書かれたものだとしたら、それは作品として崩壊してしまわないか? A:全部が誤記 B:一部が誤記 C:いずれも誤記ではなく正しい。

いったいどれなんだ……?

というか、こんな疑問を持った読者は、本当に私だけなのか? そんなわけないと思うんですが……。

やっぱり私のなにかがおかしいのか?

次に新しい謎③a Hefty bagについて説明します。

上記「謎の11月」が突如現れた10月20日(月)(※月曜日とは本文にも書いてある)、

パーカーは午後に、ミーニーとの雇用記録のごり押しと、フェリーでの資金洗浄取引の打ち合わせを済ませたのち、コリヴァー・ポンドの自宅(原文にはずっと“クレアの家”と書いてある)へ戻ってくる。が、まっすぐ自宅へは入らず、近所の空き家に行く。ほか過去作にも書いてありますが、パーカーは自分の現金を他人の家の中に隠しておく人。必要なときに引き出してくる。このときは、その他人の家からの帰り、パーカーの車の助手席には「緑色のヘフティ・バッグが一つ」置かれている。家に戻り、ガレージに車を入れる前に、クレアが玄関から出てくる。買い物に行くから車を使いたい、と。「このポンコツを長く使うつもりはないぞ」と言いながら、パーカーは車をそのままクレアに渡し、自分は家の中に入る。ちなみにこの時の車はレンタカーで、パーカーはマサチューセッツで刑事レヴァーサに目をつけられたがために、いつものレクサスに乗れなくなってしまっていた。

戻ってパーカー、ヘフティ・バッグを「家の中を通ってガレージに運ぶ(carried)」。クレアが買い物から帰ってきて、そこでネルソンから救援要請の電話が入る。

ここで問題なのは、突然出現したヘフティ・バッグ一袋になにが入っていたのか、です。

ヘフティ・バッグとは、ググれば出てきますが、ジップロック類のメーカー。我々にもなじみのある、アレ。ただしサイズは大小さまざま。ジップロックのような食品保存や、ごみ袋としても使われる。

参考画像:

ただ、この場面での中身は、現金ではない。現金だったら「家の中を通ってガレージ」には運ばないはずです。せめてリヴィングルームにでも置くでしょう。

ちなみにこの場面は、あの「州北部で得た金の半分以上を使った」の記述が出てくる箇所です。a Hefty bag初出の直前に。2チャプター前は、偽造屋ロビンスと会って、金を数えている場面で終わっています。金曜日のこと。

もう一つ、『Nobody~』の前半ですが、クレアから銀行の預金残高が減っていると言われ、パーカーがまさに他人の家から現金を引き出してくるシーンがあります。その時パーカーが持って出てきたのは、「Ziploc bags」4袋。各5千ドル入りで、計2万ドル。

パーカーの貯金はジップロックで、謎のヘフティ・バッグ(ガレージ行き)とは明らかに書き分けられているのです。

だから、ヘフティ・バッグ一袋の中身とは現金ではない。

では、中身はなにか?

この直後、月曜日夜、パーカーはネルソンを助けにクレアの運転で、ロングアイランドへ直行。トラブル処理後、そのままニューヨーク市内に宿泊し、翌火曜日、資金洗浄取引を終えます。

火曜日午前、ニックの死体発見のニュースが流れる(おそらく前日の夜にはニュースになっていた可能性あり)。するとネルソンは、カモフラージュで持ってきた讃美歌集や箱の処分について心配をはじめる。パーカーは「荷物を軽くするのがよい」と言って、現金のみレディーマー(質請け人、救世主の意)・トラックに載せて、資金洗浄取引に持っていこうと言う。この際、ニックが発見されたので、レディーマー・トラックは塗り替え、讃美歌集と箱の処分はあとで考えよう、とも言う。その際、パーカーが、現金を入れるには「ヘフティ・バッグがいいだろう」と提案する。

ネルソンはこれに3袋がいいと同意する。言ったとおり、二人はこの後、トラックを塗り替え、パーカーが購入した大型ヘフティ・バッグ1箱10袋入りのうち3袋に、ダーティー・マネー150~200万ドル分を移し替え、資金洗浄取引に向かう。

このヘフティ・バッグ1箱10袋入りも、画像検索で出てくるのですが、デカい。確かにラージ・サイズ。庭掃除のごみ──雑草とか枯葉とか枝とか──を入れる用らしく、大人の背丈の半分くらいはあります。

ここでなにが言いたいかというと、パーカーが、ヘフティ・バッグは金を詰めるのに良いと考えていることです。クリーンな現金ではなく、番号控えられ済みダーティな現金のほうを。

つまり、最初に出てきたa Hefty bagの中身も、ダーティー・マネーだったのではないでしょうか。

パーカーはその中身を捨てるか、あるいはネルソンのバーの近所に止めてあったレディーマー・トラックの積載物に混ぜて、処分する気だったのでは。予定外にネルソンからの緊急ヘルプ要請が来たので、本当に混ぜたのかはわかりません。ですが、予定どおりであれば、火曜日にレンタカーに積んで、ロングアイランドに持っていくつもりだったのではないでしょうか。

では、このa Hefty bagの中身は、どこから来たのか?

そう、教会のロフトから消えた4箱のうちの1箱です。

4作目、ほんとになんにも手つかずだし……!

このところ「仕事以外、鬱」みたいな状態で、休みがあっても無為に過ごしているし……!

ダメすぎる……!

推し活すらしないで、なんのために生きているのか!?

それともとうとう燃え尽きたか……!?

しかし、一年前のこの日恒例のブログ記事も、だいたい似たようなことを悶々と書いておりましたな。

その後まもなく、リアルでの盛大なやらかしやら引っ越しやらなにやら、自分史上最低を更新する行い。

そして結局、見たところはなにも変わっていないような今があります。

とはいえ、その昨年でも、あまりおおっぴらに言えるものではないですが、約35万字はその後書いて、上げたという……

あ、あれっ……? わりと書いたな。クオリティはさておき。

今だってやりたいことは色々ありまして、4作目もそのひとつ。

どれにも本腰を入れられずにいるのは、昨年や一昨年(もっと言えばコロナ禍とほぼ同期間に)色々あったからか、まだその「後遺症」(※たとえです)を引きずっているのか。

もう一度自分が燃えるのを気長に待つか、あるいは待つばかりでなくなんとか燃えるよう、無理矢理にでも少しずつ動くべきか。どう考えても動くべきで、三日も引きこもりはまずい……!

別段不幸ではなく、幸福なほうだとは思いますが、いったいなにが楽しくて生きているんだ? もう過去の思い出だけで生きていく気か??

……ま、まぁ……ようやっとそろそろ、次のことを考えられる時期に来た、はず。

こんなんで申し訳ございませんと、上の写真を見ては思うのでした、2024年。

ああ、2037年の3月16日には、シリーズ小説を書き上げたうえでお墓参りに行きますという、勝手な宣言をしているのです、ずっと。あの2014年の8月19日以来、ね……

anridd-abananas.hateblo.jp