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2017年 06月 28日

本の話 『ぬけられますか ― 私漫画家 滝田ゆう』校條剛著 河出書房新社

『ぬけられますか ― 私漫画家 滝田ゆう』

校條剛(めんじょう つよし)著 河出書房新社 2006年

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漫画家滝田ゆうの評伝です。

滝田ゆう(たきた ゆう、1931年(昭和6年)12月26日 - 1990年(平成2年)8月25日)は、日本の漫画家、エッセイスト。本名・滝田祐作。享年59歳。

著者校條剛は滝田ゆうの編集者であり、酒飲みの相手を長く勤めていました。

校條は長い間の付き合いから、並々ならない滝田への思い入れがあり、滝田の一生を丹念に調査し追いかけています。漫画家のこんな詳しい評伝は珍しい。最近は、漫画に対する社会的な認識も進み、文化的な資料として情報を集め、保存しているのでしょうが、劇画の黎明期を調べることは簡単ではないようです。校條はたくさんの関係者の聞き取りをして、滝田ゆうの実像に迫っています。

手塚治虫・トキワ荘グループ(石ノ森章太郎、藤子不二雄、水野英子、赤塚不二夫等)とは別な流れの漫画の世界が描かれていて、とても面白く読みました。

滝田ゆうの漫画作品は数多く発表されていますし、後年NHKの番組のレギュラーとなり、着流しスタイルで飄々とした姿を記憶している人も多いと思います。

滝田ゆうは、人物の感情や心理を表すために吹き出しの中に絵を書くという個性的な表現を使います。

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貸本漫画からデビューし、「かっくん親父」という家庭漫画でヒットしましたが、作品の方向性を探る時期があり、1967年から雑誌「ガロ」への作品の掲載を契機に滝田ゆう独特の世界が広がっています。

私が滝田ゆうの不思議な魅力に触れたのはこの頃です。

そして滝田ゆうが育った玉ノ井を舞台にした名作「寺島町奇譚」が誕生します。

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実は、滝田ゆう著『寺島町奇譚』を何度も買って読んでいるんです。引っ越しのときに処分するんで持っていないんですが、又、読みたくなる不思議な作品です。

処分しすぎて手元には、滝田ゆうの作品が一冊もないので、慌てて古本屋で「滝田ゆう名作劇場」を買いました。

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雑誌「オール讀物」に掲載された、安岡章太郎・丸谷才一・井上ひさし・吉行淳之介などの著名な作家の原作を漫画化した作品集です。

漫画と小説の境を埋める「大人の」漫画というジャンルがあるとしたら、滝田ゆうを入れたいですね。滝田の晩年は中間小説を掲載する月刊誌の口絵や挿絵なのどの仕事をしています。

エッセイも独特の歯切れのいい東京弁で、多方面にわたる才能を感じました

校條は、日の当たらない編集者の仕事を滝田ゆうとの関わりの中で分かりやすく紹介しています。滝田ゆうを語るとき「新宿ゴールデン街」などでの酒にまつわる逸話が欠かせません。滝田ゆうの創作活動の裏側や動機がかいま見えます。

名作「寺島町奇譚」をどうして処分したんでしょうね。

本のタイトル「ぬけられますか」は「寺島町奇譚」に描かれている街の看板「ぬけられます」を洒落たんでしょう。

by hitoshi-kobayashi | 2017-06-28 08:00 |Comments(0)

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