都市計画塾vol.4 「公共用地デベロッパー」 (original) (raw)

2024.7.27 阿佐谷地域区民センターにおいて、第四回・都市計画塾「公共用地デベロッパー ~民間企業に公共用地を投げ出す施策はどこから来たのか~」が行われました。

阿佐ヶ谷・杉一小の問題や、各地の再開発などで、なぜ公共用地が狙われるのか、なぜ行政が積極的に再開発に参入するのか。まさに知りたかったトピック、ということで、参加者からの質問も大いに盛り上がり、実例編は今後に持ち越し、となりましたが、今回も杉一小の「跡地」再開発のケースを例に取った解説が多数あります。

[予告] 次回都市計画塾は2024.8.31(土)15:30-18:30産業商工会館第一集会室「ワークショップについて」です。折りしもその日は杉並区の問題だらけの「デザイン会議」高円寺221号線が開催。9月8日は西荻窪132号線の「デザイン会議」もあります。住民が正しい知識を身につける、だけではなく、区長をはじめ担当者にも来てほしいところ!!

それでは第四回「公共用地デベロッパー」

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バランスシート: 再開発する主体がお金をどうやって集めてくるか=負債

・(二階)借金

・(一階)自己資本・株(投資equity)、自治体が入ると公債(一階)

・その中間部分「メザニン(中二階)」:投資銀行から集める、行政の補助金

特別な会社SPC(ビルができたら解散する→管理会社に移行する)、再開発組合を作る。それができないと単独の開発になる(極めて少ない)。

まず先にメザニンから集める。投資が集まりやすいため。

分散の原理:安心な投資とリスクを組み合わせるとリターンが高い。メザニンがあると安心感が出て、自己資本部分の投資マインドが大きくなる

自己資本=SPCの場合は株投資、組合施工は現金で投資(SPCより少ないが、補助金が大きくなる)(保留床を売ることでお金を集める)

※参加組合員:企業。独自に保留床を売り、組合と別会計で儲ける。

補助金の厚みで、投資銀行が投資を決める。自己資本は最低8%、30%を超えると銀行がお金を貸してくれる。

杉一小跡地で再開発→杉並区が入る→補助金が入る

区が出さないなら、国、国が出せば東京都も、区も出す。

補助率を上げる二つの条件

公共施設床(収益を上げない)をどれだけ入れるか。社会福祉施設を入れる→最近は1Fをアトリウム公開空地にする(規制緩和にもなる)。

立地適性化計画に入っていると国の補助金が下りる。

保留床とは?

再開発=これまでの地権者が入る=権利床。高層化することで、床が増える(余る)=(地権者以外が使える)保留床。

「余ったというが、それが事業そのものではないか、高層化しないとお金が発生しない」

売り逃げビジネスが流行っている。タワマンは100%容積率を使っているので、建て替えのときにお金が集まらない。何十年経つとそこが問題になる(さらに規制緩和?)。これから建てるビルは30年持たす計画(世界標準から見ると短期すぎる)(杉並区は新築は80年持たせると言っている)。

・豊島区役所(区役所とタワマン複合再開発の第一号)の場合=マンションと一緒に建てたので費用ゼロと言っている。分譲したので、建て替えを一緒にやらなくてはならない。→建て替えを考える開発は新築時に容積率を残さなければならない(建て替え費用を捻出するため)。

→区分所有法、4/5の合意がなければ建て替えできない→2/3に今年変える計画。

Q:区役所が入っていると建て替え費用を行政が公費で担うのか?

→行政も売り逃げしている。

→行政は管理費を投資して稼ぐなどできない。行政が入れば「行政が出す」と思われる。

世界的にカネが余り、投資先は不動産。売り逃げでいくら稼ぐか、という商品になっている。資産運用先としてここしかない。

左図の例:国鉄(当時)の建設に際して、「安く移動できる」乗客が「受益圏」、公害(騒音など)を受ける沿線住民が「受苦圏」となる。侵害される健康で文化的な環境=人権は「譲渡できない先天的自然権」から、お金で補償する=「譲渡可能な自然権」に。

厚生経済学の考え方で、「外部(市場の外)不経済」苦しみが発生したとき、利益の一部から支払う。発生者によって代価が支払われないものを「社会的コスト」という。

事業者が「どのくらいの事業をどのくらいのコストでやるか(私的限界費用曲線)」と外部不経済を社会が担う「社会的限界費用曲線」の関係。

難しい経済の話ですが、一番わかりやすかった例として。

「100円のアイスクリームに容器のゴミ処理代(外部費用)が10円かかる。実際にゴミ処理をする行政はメーカーに対して環境税(ピグー税)をかける。上乗せして110円の商品にすると、消費者が買わなくなる(生産量が下がる)」

「社会的コストがきわめて大きいと、価格が上がり、企業が出さない分を行政が出して均衡にみせる。例として原発の社会的コスト(避難、地域への福利、事故発生時の対策)を乗せると15円では売れない」

※ピグー税:ピグー(Arthur Cecil Pigou 1877-1959)はイギリスの経済学者。ケインズの弟子。

この「外部費用を行政がもつ」ことを都市計画に適用したものが、このパネル。

非耐火(木造)建築物の建て替えを対象に、防火対策で住民主体で行っていた「再開発」が、なんとデベロッパー主体のビルの建て替えに変節していく。

1969年は木密対策(防災=福祉、貧しい地域の環境改善・救済として補助金を出していた)であった再開発が、だんだんと条件が変わっていく。1980年の改正では、再開発地区の建築物の条件が大幅に緩和。更地であっても「再開発」が可能に。そしてバブル。

1996年のバブル崩壊で、東京のビル街のために運用基準が変わった。バブル時に乱立したビルの根抵当が残っている→その金額でないと売れない→ビルの価値は下がっているため時価で処分できない→対象となるビルに補助金をつけやすくする規制緩和

2016年には「新築がある」「ビルがある」「お金のかかった建築物がある」など壊す理由もないところでも、再開発が可能になり、「壊さなくてはいけない」に!!

また、土地区画整理事業では「柔らかい土地区画整理事業」として飛び換地などの柔軟な運用が可能に。

建築基準法は「容積移転=使っていない容積率を違うビルの高さ制限に移転する上空権」(東京駅建て替えで、丸ビルに上空権移転。初めて使用)。

地区計画は高さ・容積率に対して厳しくしていた(ダウンサイジング)のを大幅に緩和。

これらの動きが2000年代以降、小泉政権から。

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以下1枚のパネルは当日PCトラブルで出せなかったもの。

口頭での解説に対する質疑が展開します。

トリクルダウン

・厚生経済学:豊かな人、社会的コストをかけている人から税金を取り、再分配

・新自由主義:事業をさせて利益を上げて、そこからお金が廻る。企業を豊かにすれば福祉が廻る(はず)。最初はレーガン。中曽根(アメリカが参入しやすくする)→小泉(規制緩和だけでなく補助金を入れる)→安倍

問題はトリクルダウンは企業の税金も軽減する。苦しみを受けている人への救済でなく、儲かっている人をより儲けさせる→売り逃げビジネス。

世界的にトリクルダウン→お金が余る→投資先:日本では不動産に集中。

駅前・公有地が最初の犠牲に。

鈴木知事は世界都市博に1兆円出す、ゼネコン(東京ガスも)が銀行から借金したが、青島が中止。「その損失1兆円をなんとかする」と石原が出てきた。晴海の開発、オリンピック、豊洲。豊洲:規制緩和と個人施工(行政が入っても個人施工の初ケース)の

これがひとつのビジネスモデルになっているのではないか。中野駅前再開発も個人施工(もちろん阿佐ケ谷北東地区も)。

緩和型地区計画が当たり前になっている。本来は規制するのが地区計画だと。阿佐ケ谷北東地区も日影や高さ制限が緩和。阿佐ヶ谷住宅も元は10mまでの第一種低層だったのに5F建てになった(野村不動産)。

元々の規制緩和は救済するため。墨田区鐘ヶ淵の木密地区で、道路を広げられないから、セットバックで防災性を高める→それにボーナスをつける(容積率を増やす)。

新規の市街地で緩和型を使うのは昔は考えられなかった。

阿佐ヶ谷のD街区(新進会商店街など)は「街並み誘導型(順次建て替えのときにしていく)」、店舗を後退して道路拡幅、その分建物の高さを緩和。

そうした既成市街地で使うもの。A街区で使うのは考えられなかった。

Q:悪の根源になっている個人施工、これを再び縛るには?土地区画整理法を改正するしかない?

学者も言っているがなかなか動かない。が、元々救済するためなので、法改正ではなく運用を縛らなくてはいけないという考えも。

Q:まちづくり条例は使えないか?

なかなか本気で進めようとしているところがない。あまり縛る力になっていない。説明会、公聴会をやることは決まっているが、計画に反映・是正する力がない。「できる」が「やらなければならない」ではない。

対抗的に運用できているのは世田谷区だけ。保坂さんの前から、行政の練度も高い。賀川豊彦以来?

Q:都庁の機動取得推進課が設立、建設局が必要なら強制取得できる、としている。ターゲットは善福寺川、石神井川、豊島区の道路。地権者の2/3の認可で再開発できる。ほんとうにこんな恐ろしいことができるのか。憲法29条違反ではないか。

土地収用法:仕組みとしては立ち退きさせられたが、実際には使わないできた。近年使いやすいようになってきた。背景は有事の際に公共が自由にできるように。震災のときに邪魔なものをとり壊せる東京都の条例。

本来の「まちづくり」を大きく逸脱して、各地で猛威を振るう再開発。今回学んだ歴史とスキームが、どのような事例を生んでいるのか。「公共用地デベロッパー」の実態編も次々回以降の「都市計画塾」で講義していきます。

ぜひご参加ください!!