【鬼ごっこ!】感想 (original) (raw)
2011年3月31日にALcotより発売された18禁恋愛アドベンチャーゲームです。
ALcot新本シリーズ2作目にして、美少女福祉文化賞未受賞作品です。
ゲームとしては共通ルート部分が短く、個別ルートが長いという構造が特徴的だと思います。
新本シリーズ一作目である『幼なじみは大統領』はかなりアホアホなゲームでしたが、それと比較すると本作はマイルドで人を選びにくい作品でありつつ、全体的なボリュームアップによって面白さが底上げされていたと思います。
日常パートの掛け合いは前作同様にセクハラやパロネタは一部あったものの、ヒロインの天然ボケなどのキャラ魅力を引き立てる描写も増加しており、テンポが良く笑いに溢れるものとなっていました。
しかし、そのような萌えに特化したゲームなのかと思いきや、侮ってはいけないほどに世界観とストーリーが丹念に作り込まれている点が本作の特徴だと思います。
桃太郎や金太郎などの日本のおとぎ話を土台にしている基本構造や、主人公が「正体を隠して活動する怪盗」でヒロインと敵対関係にあたるという設定が光っていたと思います。
自分としても日常パートは思わず笑ってしまうようなテキストが多く、個別ルートは二転三転しながらも熱くもあり感動的でもある展開を見せられたので、総じて完成度の高いゲームだったと感じました。シリーズ2作目とはいえ前作前提の描写は一切ないので、このゲーム単品でも人に勧められると思います。
特に妹キャラの葵の存在感が強い作品なので、妹萌えの方にはおすすめです。まあ、攻略可能になるのはファンディスクからなのですが。
公式サイトに応援バナーがあったので利用させていただきます。
珍しいことに、このビジュアルのキャラを好きになってしまいました。
追記よりネタバレを踏まえた感想になります。
加奈ルート
普段は並び順が後ろのヒロインのルートから進めるようにしているので乙女先輩から攻略するつもりだったのですが、気づいたら加奈ルートに入っていて驚きました。
共通ルートがここまで短いとは思わなかったです。そして個別ルートがとても長かったですね。良いことです。
このルートで輝いていたキャラクターといえば熊吉でした。
共通ルートでは下ネタやパロディネタを連発しまくるおふざけキャラでしかなく、自分としても顔も見えないサブキャラクターが露骨なオチ担当になっていたことに辟易してしまう場面も多かったです。
しかし、彼が坂上家の当主代理というポジションに就いていることは嘘ではありませんでした。
確かにこういうヘンテコキャラはいつか締めるところは締めてくれるのがお決まりだろうとは思っていましたが、終盤はそんな次元ではない程にシリアスなキャラクターと化していました。
主人公陣営と敵対しているという立場からして一見熊吉の方が悪に見えますが、合理的な選択をしていたのはどう考えても熊吉の方なんですよね。
鈴鹿を悪と見なして有無を言わさず排除しようとする考え方は確かに極端だったと思いますが、圭介と灯の考え方なんて可能性に賭けるどころの話ですらない、都合の良い結末を追ったかのような絵空事でしかありませんでした。
結局のところ熊吉の金の鉞を使うという選択が正しかったかどうかは、最終的な結末を見ても明らかだと思います。
熊吉が鈴鹿を殺した場合は加奈には嫌われてしまいますし、秘宝を使った場合は自身の使命に背く事になってしまいます。
しかし、そんなことは彼はとっくに覚悟しており、それでもなお加奈の命を守ろうとするのが彼の誓いでした。お家・学友・そして救うべき対象すら敵に回してまでも、妹を救うという信念を貫く姿。もうお前が主人公でいいよ。
全てが終わった後のこの台詞も好きでした。
ギャグキャラが大一番で真面目な顔を見せるギャップが良いというのはありがちな話ではありますが、そんな一言では済まされないほどに完成されていたキャラクターだったと思います。
そして、結末はまさかのものでしたね。まさかりだけに。
なんやかんやで加奈と鈴鹿を二人の人間に分離してハッピーエンド! というような都合の良い結末は本作には用意されていませんでした。;;
中盤で鈴鹿と加奈を同時に愛していくという展開になった時は「いきなりだな!?」と思って正直なところ感情移入ができませんでした。鈴鹿のことはもちろん魅力的なヒロインではあると思いましたが、圭介が最初に好きになったのは加奈だったはずであり、鈴鹿にしても最初の想い人は初代温羅だったはずなので。
しかし、やはりあくまで加奈メインのルートということなのか、帳尻を合わせてきたかのような最後でしたね。1800年前から存在していた魂だけの存在である以上、消えるのは彼女の方……ということなのか……?
とはいえ、鈴鹿は紛れもなく加奈ルートのもう一人のヒロインにして、圭介のもう一人の花嫁。圭介達の選択は彼女の存在を尊重していたものでした。
そして、圭介達の描いていた「おとぎ話」が現実になったことを教えてくれたのがエピローグ。前作プレイヤーとしては衝撃的で鳥肌が立ちました。
既視感のあるこの場所はどこなのか? 目の前にいるくーにゃんに似た人物は一体? この時点では何一つ説明されることがなく、別ルートへの期待が高まりました。
最後まで展開が読めないルートであり、とても面白かったですね。
暮葉ルート
くーにゃん可愛すぎるぞ。
髪がチャームポイントと言われるキャラは珍しかったですね。良いことです。とても。
暮葉はもはや古典的とも言える属性である、ツンデレ金髪ツインテールロリのヒロインでした。
符号化されたキャラクターでありながら昨今では失われつつあった属性だと思いますが、今回それを拝むことができて〝王道ならではの良さ〟を感じました。
暮葉と圭介の会話のテンポの良さが好きでした。
幼なじみは大統領はやはりヒロイン全員が生真面目なキャラクターであり、主人公の怪行動とヒロインのツッコミがコミュニケーションの中心になっていました。
対して暮葉とのコミュニケーションは変幻自在のダブルボケでしたね。主人公にキレることもあれば逆ギレすることもありました。……怒ってばっかりだな?
個人的に好きだったお茶目は圭介をEDであると吹き込んで切り抜ける辺りでした。
この辺のテキストはPSP版では修正されてたりするのでしょうか? 大分ギリギリそうですが。
忍者の頭領さんが暮葉の父親というのは驚きでしたね。
他の忍から「昔の女をいつまでも引きずっている」と言われること、暮葉の下に土蜘蛛のカードが届いたことに対して驚くなど、伏線はしっかり張られていました。
頭領さんが温羅を騙って手紙を送ることで暮葉を島に呼び寄せ、その暮葉が偽温羅を騙って温羅一行を呼び寄せたので、いわば物語の元凶のような人でもありましたね。
かなり回りくどいやり方にも思いましたが、頭領さんが島を自由に歩き回れるようになるという条件をクリアするには本物をおびき寄せる必要がありました。見事に暮葉と圭介を島におびき寄せるという最良の結果になったので、恐るべし策士でした。
身近に居たサブキャラクターの正体が肉親というのは奇跡的な展開にも見えますが、その人物が裏で糸を引いていたというのであれば納得ですね。
まあ、正直暮葉に写真を送るだけで彼女が偽温羅を騙ることまで手引きできるというのは、確率的には奇跡的だったと思います。ただ暮葉だけを島に呼び寄せた時点で手紙を使って唆すことぐらいはできたと思うので、結局温羅を島に呼び寄せることはそこまで難しくなかったのかもしれません。
そもそも美夜島は秘宝とは切っても切り離せない関係にある場所なので、温羅が来るのも時間の問題だったと思います。どう見ても勢力が集中しすぎているので秘宝のほとんどはこの島に眠ってそうですし、むしろ温羅がこの島を拠点としていなかったことに違和感すらありました。
お父さんと再会を果たし、加奈にも許してもらったことで、万事解決! あとはくーにゃんと3,4回エッチして終わり! ……とはなりませんでした。
不穏な描写の積み重ねがとても丁寧であり、読んでいてとてもドキドキしましたね。目のハイライトの消えたくーにゃん怖い。
家族愛を越えた感情を兄へと抱いている葵は、今回二人のキューピッドとして終始明るく振舞っていました。二人の関係が虚構であることを見抜くこと、ラストシーンも葵が持っていくことなど、存在感の強いキャラクターとなっていました。病院での切ない会話はとても好きでした。
恋が成就せずとも親身に接してくれている葵の強さに対して暮葉はいつかは嫉妬してしまい、そうした感情も小槌には利用されてしまっていました。
半自動的に発動する小槌の力に乗っ取られてしまい、『秘宝依存症』となってしまった暮葉。「贅沢は敵である」と掲げていた彼女ですら乗っ取られてしまうのか、だからこそ乗っ取られたと言うべきか。
言ってしまえば暮葉の抱いていた欲望というのは、上述の葵に対する嫉妬のほか、圭介にもっと綺麗な自分を見てもらう為の物欲であったりと、徹底的に圭介絡みでしかなかったと思います。貧乏だった反動というよりは彼女の愛が行き過ぎてしまった結果だと思うと……かわいいね。
圭介も暮葉を憎らしく思う時はある。
しかし、悪い所も良い所も含めて人であり、全てひっくるめて「好き」であるということ。
汚い所を含めて好きというのは、圭介のことを出会った頃からヘンタイと呼び続け、劇中では一度も彼に対して愛を囁くことのなかった暮葉との恋愛ならではだったと思います。
寂しがり屋で父親を求めて島にやってきた暮葉。本当の願いは既に手に入れていたということが、小槌を跳ね除ける最後の鍵でした。
他人を頼ることができず、一人の力で戦ってきた暮葉は、圭介の身を挺した行動を目の前にしてようやく周りに目を向けることができるようになりました。
自信の中に渦巻いていた欲望を受け入れた上で、「自分は満たされている」と宣言すること。
暮葉の脳内にいる二人の暮葉、合わせた力でないと小槌には勝てないというのはそういう意味だったと思います。
一騒動を経て、暮葉は罰として禁固刑を言い渡されてしまいました。
暮葉は小槌に利用されてたとはいえ、自身の物欲を小槌につけ込まれてしまったこと、やはり葵を傷つけてしまったことは揺ぎ無かったのかもしれません。
偽温羅としての活動を含めると多くの人間に迷惑をかけてしまったことは事実なので、罪を償う機会を与えられるというのも納得ができました。
灯ルート
一見黒髪ロングの委員長キャラなのですが、蓋を開けてみれば庇護欲を大いに掻き立てられるキャラクターでした。
うっかり侍というのは作中で指摘されていた通りですが、そんなことよりも普通に生活しているだけなのに所構わず喘ぎ始めるという謎の人間でした。訓練中で目を瞑って立っているだけで喘ぎ始めるのって何?? 浜辺でカップルを目撃しただけで喘ぎ始めるのって何??
この辺は家族愛に恵まれなかったことから起因した甘えん坊な性格が出ていると言われていましたが、もはや甘えん坊の域を超えていたと思います。
遂には年下である葵から「妹みたい」と評されていたことは面白かったです。
正体を明かした暮葉に対して灯は冷静さを失い、対する暮葉も御三家への憎しみを吐き出す描写がありました。
元を辿ればお互いに親の仇ということもあり、簡単に整理をつけることのできない関係性です。暮葉ルートでは描かれなかった部分だったので面白かったです。
最後は怪盗温羅として灯と対峙することになりました。
灯を愛していたからこそ別れを選ぶという覚悟。怪盗温羅としての一仕事を終え、恋人との涙の別れ。
……をした割には、エピローグでは何もかもが解決して再びくっついていてズコーとなりました。
吉備津宮家の在り方を「変える」という具体的な部分は伏せられていましたが、温羅が普通に歓迎されていることや生命の桃の私用が特にお咎めなしだった辺り、御三家側が温羅の思想を受け入れたと考える方が胸に落ちそうです。
確かに浦部と御三家の間にあった確執は元々勘違いから起因しているものもありましたが、秘宝に対する向き合い方に関しては相容れない部分だったはずです。1800年続いてきた御三家の信条がたった1年でひっくり返るなんて、そんなに簡単な問題なのか……?
また、三賢人という超権力の存在が幅を利かせていた中で、灯が吉備津宮家をどうやって内側から変えたかが気になりました。
まあ、吉備津宮家・坂上家・西園寺家のトップが結託したとなればそりゃ力技でいくらでも変えられそうなものですが、三賢人は真紀さんを当主の椅子に縛り付けて吉備津宮親子を不幸に陥れていた黒幕中の黒幕ですから、それが幕間で倒されているというのはやけにあっけなかったと思います。
真紀さんは確かに夫の意思もあって吉備津宮家を変えたいと言っていましたが、それは人の心を蔑ろにする三賢人のやり方を変えたいという話でしかないので、秘宝を使わずに秘宝を守護するという使命まで変革することまでは考えていなかったと思います。
中盤では対極の道を往く吉備津宮と浦部の恋愛の過酷さについて幾度も仄めかされており、二人の恋がどのように成就するか灯ルートの見所だと思っていたのですが、特に葛藤もなく御三家の方が折れるという形で解決してしまったことには違和感がありました。
加奈の命を救う為に秘宝を使おうとした熊吉は灯にはしっかりと怒られ、秘宝を巡った信念のぶつかり合いが描かれたのが加奈ルートでした。
秘宝がもたらす全能の力の恐ろしさがクローズアップされ、秘宝の奇跡に頼らない生き方が描かれたのが暮葉ルートでした。
灯ルートはこの2ルートの在り方とは正反対であったので、畳み方の突貫さといい正直「ん……?」となってしまったルートでした。まあ、正直畳み方が突貫すぎて灯の思考の描写がされていなかったことが違和感の全てだったとは思います。
それにしても、三賢人は地上に降りたとか言っていた通り、どう見ても宇宙からの物体ですよね。この辺りも前作の世界観との繋がりを感じました。
↑の通りに初回プレイ時は思ったのですが、灯は乙女ルートでは吉備津宮としての使命よりも友達の為に行動することを第一にしていることが語られました。
そうなると想い人の為に改革を起こすことは灯ならやりそうだなぁ……と思いました。
吉備津宮の使命に縛られて温羅と戦いながらも本心では母親を助けたいと吐露したことも含め、情を大切にしすぎる可愛い子でしたね。
また、三賢人をすぐに倒せたのは西園寺家と鈴鹿の協力がめちゃくちゃデカかったからでしょうね。西園寺家は乙姫の大事な娘の監視を任されている立場にあり、鈴鹿は乙姫の直属の配下なわけなので、メカでしかない三賢人よりも実は発言権があったという話でも全くおかしくなさそうです。
元々秘宝を使って人助けをするというのは初代温羅の信条です。西園寺家は元々温羅の思想に寄っており、鈴鹿は温羅に恋慕しており、そもそも乙姫だって温羅と添い遂げた身で元々秘宝を使って人助けしていた時点でその在り方は否定していなかったと思います。
秘宝を使わないのは「1800年続いてきた御三家の鉄則」ということでお堅いイメージがあったのですが、乙女ルートプレイ後は初代温羅が三賢人の親の夫という重任に就いていたことが判明したので、いつ彼の影響が濃く出てもおかしくないという見方に変わりました。
乙女ルート
巨乳だったので本来は最初に攻略しようと思っていましたが、全然ルートに入れませんでしたね。
それもそのはずで、乙女ルートは3ルート攻略後のみアンロックされるという作りになっていました。
まさか彼女がTRUEルートのヒロインだったとは。特別扱いされるとしたら灯だと思っていたので意外でしたね。
最終ルートということで、風呂敷が広がりに広がりました。
西園寺家と浦部家が実は繋がっていたという真相は序の口であり、遂には竜宮城が登場することになります。
世界中に散らばる秘宝なる存在は、裏切った宇宙人が遺したオーバーテクノロジー。乙女と主人公の祖父は1800年前に人間と宇宙人の間に生まれた兄妹。壮大な真実が次々と明かされていきました。
よもや乙女のテーマである『海から来た少女』って曲名が、本当にその通りのことを示しているとは思いませんでした。
前作との繋がりが感じられて嬉しかったシーン。
加奈ルートエピローグでの背景CGからもしや……という気はしていましたが。前作から引っ張ってきた直接的な要素がこれとパンダだけというのも面白いチョイスでした。
ヒロインである乙女先輩は主人公にとっては大叔母にあたります。まさかの大叔母ものエロゲでした。
自分は乙女の容姿が10年前とあまり変わっていないことが匂わせられていたこと、自分の身体でも圭介を喜ばせられたことが嬉しいという旨の発言をしていたことから、最初は「正体は宇宙人で実は実年齢〇百歳」と予想をつけていたのですが違いました。
圭介にとっては10年振りの再会だったとしても乙女にとっては(入学したのが2年前と仮定するなら)2年+24日振りでしかなく、圭介にとっては1年振りの再会だったとしても乙女にとっては(圭介が気絶していた期間を含めて)6日振りの再会でしかなかったので、二人の間で認識の齟齬はかなりありそうですね……。
当初は1年=3日換算と仮定するならば地上での10年は桃源郷での1ヶ月でしかないので、乙女が圭介との1ヶ月振りの再会を懐かしんでいることに違和感を覚えていたのですが、上記の通り2年前には地上に出ていたはずなので懐かしむ気持ちもわかりました。
年齢の計算がややこしすぎたので実は乙女の実年齢は圭介にとって年上じゃないなんて線も考えられましたが、一応地上に出たのが2年前であり1年=(約)3日換算の下桃源郷で(約)1800年過ごしたとしたら、概ね17歳と考えることはできますね。
終盤はヒロインに関する記憶が消えてしまうという泣きゲーのような展開が訪れました。
記憶が消えていく演出も取り戻す演出も、力が入っていて良かったです。やはりこういった場面でCG枚数の暴力を叩きつけられると感動させられます。
タマテバコが起動した原因ですが、前回はおそらく土蜘蛛に扉の秘密を突き止められたせいであり、今回は……まあ暮葉のせいですよね。あとは危険を承知でついて行きながら見事に偽温羅に騙されてしまい、自分に任せて欲しいと言いながらタマテバコを使うという最終手段に走った乙女も乙女なので、中々やりきれなかったです。
とはいえ元々学園卒業後は桃源郷に帰還するように定められていたようだったので、それが少し早まっただけの話でしかなかったのかもしれません。
圭介のみ鮮明に記憶を取り戻せたのは卍愛の力卍が起こした奇跡とも説明されていましたが、他の人物もなんとなく覚えていた辺りタマテバコの記憶操作は完全ではないということなのかと思いました。
それにしても乙女は10年前に好奇心で地上に出たと説明されていましたが、たまたま土蜘蛛が打ち出の小槌を入手した時期と鉢合わせてしまったことで、速攻で土蜘蛛に拉致された挙句に身バレしてしまったというのも不幸すぎますよね。悪路も御三家vs土蜘蛛の最終戦争の最中によく乙女を救出する隙を見つけられたなぁと思います。
乙姫様が暮葉にそっくりな理由は最後まで説明されませんでした。
配下のオトァケルはもっと暮葉にそっくりだったので、宇宙技術によるクローンという説もありそうですね。
タマテバコのような秘宝を超えたテクノロジーを有している乙姫達が圭介と戦って負けることは万に一つもないので、悪路に指摘された通り圭介達を試していたという側面が強かったと思います。
乙姫は秘密を知る人間は危険であること、地上は宇宙人にとっては危険であることを仄めかしていました。しかし、記憶なんてタマテバコを使えばなんとでもできる上、同じく実子である悪路や配下の鈴鹿と西園寺は普通に人間と結婚して子孫を繁栄させていたので、乙女だけ箱入り娘にさせられるというのもおかしな話だと思います。
そもそも乙女の我儘を聞いて地上に二度も出してあげ、いちいちタマテバコを使って島民全員の記憶を消して後始末をしていたというのは大甘ではありますよね。オーバーテクノロジーが露見すれば争いが起きると言っているのに、島民中の記憶操作という思いっきり無茶のある私用をしていたので……。
というか一度目の外出で正体がバレて戦争に発展した大騒動が起きたのにも関わらず、圭介との恋路の為だけに二度目の外出を許可していた時点で相当親バカだったと思います。
悪路は上記の通り王族でありながらも60年前に地上に出て、二代目温羅として名乗りを上げながら人間と結婚して子孫を残していたので、記憶操作してまで厳重に管理されていた乙女と比べるとめちゃくちゃやりたい放題をしているようにも見えました。タマテバコで乙女に関する記憶が消されるのは彼女が桃源郷の扉を開けられるからだと説明されていましたが、それを言ったら乙姫の血を引いている圭介と葵も該当しますし、何よりも同じく実子である悪路は良いのかという話です。
この辺はやはり女性である乙女は乙姫の跡取りとして育てられていた代わりに、男性である悪路は温羅としての色が濃くなるように育てられていた、ということなのでしょうかね。肝心の初代温羅さんが出てこないので想像するしかありません。
エピローグでの温羅は秘宝を回収して船に返すことを目的としていることが語られていました。怪盗温羅の本来の目的はこちらであり、元々の温羅の信条である秘宝を使った人助けはあくまでついでというか、初代温羅の意志の名残でしかなかったのでしょうかね。
正直なところ悪路お爺ちゃんによって人間と宇宙人の橋渡しはとっくに完了していたとも言えるのかもしれません。
主人公は「夢は叶う叶わないじゃなくて叶えるもの」ということを掲げており、本ルートは行動を起こすことで信念を貫くことをテーマとしていたことが乙女の台詞からも感じられましたが、最後は大人達の手のひらの上ではありました。
ということで、実質的なラスボスはお兄さまでしたね。
西園寺家の長兄として乙女を監視する使命を授かっていた玉彦。気づけば家族として彼女を慕うようになっていたという感情を、圭介からは指摘されていました。
素直になれずに使命を優先した玉彦と、わがままを言い続けて乙女を救った圭介という対比は良かったですね。
乙姫様も悪路も圭介に協力的ではあったので、玉彦と剣を交えたことこそが圭介の行動の証左だったと思います。
最終盤で登場した設定が多くあったことで最初に読んだ時は設定の矛盾をいくつか感じたのですが、疑問に思ったところを読み返してみると説明不足に思った点はあれど大きな綻びは感じられませんでした。
最も説明が欲しかったところといえば、やはり乙姫様の考えが少しわかりにくかったことでした。乙女を跡取りにしたいということ、桃源郷の存在を秘匿したいということはどこまでが本気だったのでしょうかね。
他に気になった部分は、仮に前作と世界観が同一だとしたら「例の宇宙人の組織」が絶対黙っていないだろうという点でした。
【好きなルート】
暮葉>加奈>乙女>灯
【好きなヒロイン】
暮葉>乙女>灯>加奈
正直に申し上げますと、前作が無茶苦茶な設定を土台としたパロディ全開のバカゲーということもあって、本作もそういったノリが濃い作品だと勘違いしていました。
しかし、蓋を開けてみれば舐めちゃいかんほどにストーリーがしっかりしているゲームで恐れ入りました。本当に舐めちゃいかんかったです。
個人的に好きだったのは加奈ルートと暮葉ルートでした。
加奈ルートはやはり温羅vs熊吉という構図がかっこよかったですね。信念を貫く人間の生き様が描かれていました。
暮葉ルートは正直補正も入っているのかもしれませんが、ヒロインとの漫才のテンポが良く、二転三転するストーリーが展開されていました。最もヒロインの心理描写にフォーカスがされているルートであり、人間の弱さをテーマ性としているシナリオはとても読み応えがありました。
そして最終ルートとして設定されていた乙女ルートは、いわば「世界の真相」とも言うような衝撃的な真実が次々と明かされていく構成になっていました。
あまりの風呂敷の広がりっぷりに初回プレイ時は疑問点が数多く浮かんでしまったので、バックログを確認しながらの実質2周目をさせられることになりました。
上記の感想はそういった疑問点に自分の中で整理を付ける目的でも書き綴っていたので、膨大な文字数になってしまいました。
普通に間違ってることを書いていないか不安です。ファンディスクでは解説されている部分もありそうですね。
「秘宝」という比較的なんでもアリなファクターが鍵となっている世界観でありながらも、ストーリーとしては先が読めずに手に汗握るような展開になっていくことが多かったと思います。
おとぎ話を土台にしている基本構造や、主人公とヒロインが隠れた敵対関係という設定がとても良かったと思います。
漫才の多い会話をベースとしたキャラ萌えゲーとしての良さを感じさせられながらも、思わず唸るようなシナリオの完成度の高さこそがこのゲームの魅力だと思いました。
ヒロインの中では実は暮葉が好きです。
PSP版では追加ヒロインがいるほか、各シナリオに大幅な加筆が行われているという噂を聞きました。大幅な加筆と聞くとかなり気になりますね。
まあ、本作の日常パートはドギツい台詞も多かったので、逆にSONYの検閲に引っかかって削られてしまったテキストも多そうですが。
BGMの量と質は前作から引き続き高クオリティでした。
ヒロインのテーマが各一曲ずつ用意されているだけに留まらず、それぞれ悲壮感のある旋律のアレンジ版まで用意されているという徹底っぷりでした。
灯のテーマ『素直になんかなれない』、暮葉のテーマ『針の剣を携えて』と『噛み猫のキモチ』と、葵のテーマ『I love my brother』辺りが好きです。
主人公の妹である葵はとても良いキャラだったと思います。
表情バリエーションの豊かさや語彙が面白すぎるので、このゲームの日常パートのテンポの気持ち良さは彼女から起因している割合が多くを占めていたと感じました。
元より主人公の恋を応援してくれる立ち位置のキャラクターは映えるとされていますが、それを4ルート全部でやってくれたのがこの女の子ということで、シリアスパートでの立ち回りもバッチリでした。
彼女が攻略不可能なのがこのゲーム最大の不具合とされています。
……え? そんな葵がファンディスクでは攻略可能ヒロインになっているんですか? 本作をクリアしたプレイヤーならやるしかないですね。