Percival Everett の “James”(2) (original) (raw)

もっかブッカー賞レースの下馬評はこうなっている。
1. James
2. Orbital
3. Stone Yard Devotional
4. Held
5. Creation Lake
6. The Safekeep
表題作はロングリストの発表前から一番人気。その秘密は、ひとつには、これが『ハックルベリー・フィンの冒険外伝』だから、ということかもしれない。
例によってぼくは予備知識なしに取りかかったので、冒頭、Those white boys, Huck and Tom, watched me.(p.9)という一文を見ても、あれ?としか思わなかった。
その Tom が Tom Sawyer で(p.16)、Huck が Huckleberryと明示され(p.19)、そこでやっと、『トム・ソーヤーの冒険』か『ハックルベリー・フィンの冒険』が下敷きだと察知。Tom の出番は少なく、すぐに後者がルーツだとも気づいた。
こうした流れで、アメリカ人の読者ならずとも、「(マーク・)トウェインのファンなら雀踊りしたくなるほど興味を惹かれる」はずだが、あいにくぼくはファンではない。しかも『ハックルベリー・フィン』は完読した記憶がない。
ふたつの冒険のうち、ぼくが少年時代に愛読したのは『トム・ソーヤー』のほうだ。いま書棚を見わたすと、原書(1876)もゲットしていた。

The Adventures of Tom Sawyer (Penguin Classics)

その橫にならんでいるのは、"Treasure Island"(1883)、"King Solomon's Mines"(1885)、"The Jungle Books"(1894-1895)、"The Lost World"(1912)、"Tarzan of the Apes"(1912)など。同じ古典巡礼でも、こちらのほうがずっと楽しそうだ。いまより老衰が進んだときのカンフル剤か。
一方、『ハック』の原書は見当たらなかった。奴隷制の批判などシリアスな色彩がつよい作品というのは後日得た知識で、挫折した当時はわけもなく、ただつまらなかった。
というわけで、「ハックとジムのほか、トム・ソーヤーやパップ・フィン、サッチャー判事など、マーク・トウェインの名作と同じ人物が登場する」とわかったのも、なんとレビューをでっち上げる前、Wiki で原作について調べたときだ。
本来ならきっと、上の me が Jim と判明した時点で(p.10)、ああ、あの逃亡奴隷のジムか、ピンとくることだろう。そして新旧両作を子細に比較検討すればするほど、"James" が名作の換骨奪胎であることに感嘆するのではないか。ゆえに一番人気なのだろうと推察する次第です。(つづく)