アンドラゴジーと成人学習理論の基礎(成人の発達と学習第7回)#放送大学講義録 (original) (raw)

ーーーー講義録始めーーーー

第7回のテーマはアンドラゴジーです。アンドラゴジーとは、成人の学習を援助する技術と科学を指し、成人に対する教授法を意味する言葉です。今回は、この成人の教授法という言葉から、成人学習に関する考え方や教授法の基本を学びたいと思います。

今回のゲストは、大阪教育大学の堀薫夫教授です。堀先生は、教育学、老年学、高齢者学習を専門とされ、成人教育の理論的研究や高齢者の学習の実践を通じた研究を精力的に行っておられます。また、アメリカの成人教育に関する古典的な書籍を翻訳し、日本に紹介されたことでも有名です。それでは、早速お招きしましょう。

堀薫夫先生、よろしくお願いいたします。

堀先生:よろしくお願いいたします。堀です。こんにちは。

司会者:今回取り上げるアンドラゴジーに関しても、多くの古典的な名著を堀先生が翻訳されていますね。

堀先生:そうですね。いくつか翻訳しました。

司会者:今回は、翻訳の裏話も含め、アンドラゴジーについて広くお話を伺いたいと思います。よろしくお願いいたします。

堀先生:わかりました。よろしくお願いいたします。

司会者:さて、アンドラゴジーとは、先ほどもお話しした通り、成人学習の教授法を指す言葉です。おそらく、皆さんにはあまり聞き馴染みのない言葉かもしれません。アンドラゴジーの具体的な内容については、これからお話ししていきます。この言葉は、アメリカの成人教育者マルコム・ノールズが、子どもの教授法「ペダゴジー」と対比して成人の教授法を示す言葉として広めたものです。

今回は、このノールズのアンドラゴジーに焦点を当ててお話しします。堀先生、この「アンドラゴジー」という言葉のルーツはヨーロッパにあるそうですね?

堀先生:はい、そうです。実際にこの言葉が成人教育や成人学習の分野で広く使われるようになったのは、成人学習者の特徴を考慮し、成人期の学習に関する基本的な仮説を提示したマルコム・ノールズによるものです。ただ、アンドラゴジーという言葉自体は、19世紀のドイツの教育者アレクサンダー・カップが使い始めたとされています。彼がプラトンの教育思想を論じた書籍の中で、子どもを対象とした教授法である「ペダゴジー」に加えて、成人の教育を説明するために「アンドラゴジー」という言葉を使ったのが始まりです。

司会者:ノールズがこのアンドラゴジーという言葉を知ったのは、1960年代のことだそうですね?

堀先生:そうです。ノールズがアンドラゴジーという言葉を知ったのは、1960年代のボストン大学の夏季講習で、ユーゴスラビアの成人教育学者との交流がきっかけでした。ノールズは成人学習理論を体系化しようとしていた時期で、このアンドラゴジーという言葉が成人教育理論を包括する適切な概念だと感じたのだと思います。その結果、ヨーロッパのアンドラゴジーが理論的な側面を重視しているのに対し、アメリカのアンドラゴジーは方法論から内容論まで広く取り扱うものとなりました。

司会者:なるほど。ありがとうございます。

成人の発達と学習 (放送大学大学院教材)