関数電卓がすごい (original) (raw)

SNS で見かけて気になった本。

この本は関数電卓ではなく計算リテラシーの本だ。ちょっとした計算を使いこなせるようになると生活や人生の役に立ちますよ、電卓があると楽にたくさん計算できるのでより計算が身近になり、結果的に計算を使いこなせるようになりますよ、というのがコアメッセージ。

そのうえで、普通の電卓(商用電卓)よりも関数電卓のほうが多機能で、関数電卓ならではの機能を使ってちょっと凝った(四則演算を超えた)計算も取り入れると幅が広がるので、関数電卓を使いましょう、と提案している。

おすすめの関数電卓をいくつか紹介しているが、とてもベーシックで廉価なものも紹介していて、しかも著者自身がしっかり使い込んでメリデメをよく理解しているものを紹介していることが伝わってくる。スマホアプリでも使えることも紹介していて、「実機がおすすめだがまずお試しでスマホアプリから始めるのもあり」と選択肢を示している点は良心的。

本の内容全体にそこまで強く感化されたわけではないが、「計算をしないのは計算機が身近にないから、電卓が手元にあってちょくちょく計算するようになれば慣れて上手になる」みたいな考え方は一理あると思い、関数電卓を買った

しかし、肝心の「計算をどのように人生と生活に活かすか」という点については、やや期待はずれだった。観念的な話が多く、具体例に乏しい。著者も「具体的に何をどう計算すべきかは人それぞれ」と濁しているが、その発想力こそが違いを生む部分なのに、この本を読んでもインスパイアされるだけに留まるのは消化不良だ。

これは読者の計算リテラシーにもよる。おれは計算リテラシーがとても低く、物事を数字に置き換えて考えるのが大の苦手だ。ごく基本的な計算式も、これ以上分解できないくらい詳細に順を追って説明されないとわからなくなってしまう。たとえば本書 209 ページにある、

さて例に戻ると、年収220万円アップ、現状が年収340万円の若者だったとすると、560÷340ですから、1.647倍の年収アップ、という話になります。

という例ですら、「なぜ突然560÷340という計算式が導けるのか」をパッと理解できない。「560は340の何倍かを求めるには、560:340=x:1としてxを計算すればよい。比の方程式に当てはめると340x=560なので、両辺を340で割るとx=560÷340で求められる」と説明されて初めて、560÷340という計算式の由来が理解できる。たぶん著者は、このレベルで数字や計算が苦手な読者をイメージできていないと思う。

おれの人生に「関数電卓を買う」という選択肢を提示した点は評価できるが、それ以外の点では、自分のあまりの計算リテラシーの低さゆえに、あまり役立てられる気がしなかった。

関数電卓がすごい (ハヤカワ新書)

本の内容とは関係ないが、著者の名前に見覚えがあったのも買った理由の一つだった。芝村裕吏といえば「マージナル・オペレーション」の人として認識していたが、これについては人生の小さな後悔があって、おれはこの人を「ガンパレード・マーチ」の人として認識していなければならなかったはずだ、という思いがある。

ガンパレは、評判を見聞きする限りでは、おれは絶対ハマった自信があるのに、一度もプレイしたことがないのだ。ぜひともプレイしておくべきだったのにそうしなかった、という点において後悔が残り、すなわち芝村裕吏も知るのが遅すぎた(マジオペにしたって原作を読めばきっと気にいると思っているのに未読で、知ったのはアフタヌーンで連載していたキムラダイスケ作画の漫画版がきっかけだった)。