東歌(39)・・・巻第14-3501~3503 (original) (raw)

訓読 >>>

3501
安波峰(あはを)ろの峰(を)ろ田に生(お)はるたはみづら引かばぬるぬる我(あ)を言(こと)な絶え

3502
我(わ)が目妻(めづま)人は放(さ)くれど朝顔(あさがほ)のとしさへこごと我(わ)は離(さか)るがへ

3503
安齊可潟(あせかがた)潮干(しほひ)のゆたに思へらばうけらが花の色に出(で)めやも

要旨 >>>

〈3501〉安波の岡の山田に生えるタワミズラのように、引き寄せたらすなおに靡き寄ってきて、私との仲を絶やさないでほしい。

〈3502〉私の愛しい妻を、人は割こうとするが、朝顔のとしさえこごと、私は決して離れるものか。

〈3503〉安齊可潟の潮がゆったり引いていくように、のんびりした気分で思っているなら、どうしておけらの花のように顔に出したりしようか。

鑑賞 >>>

3501の「安波」は地名、千葉県の安房か。上3句は「たはみづら」を導く序詞「たはみづら」は水田に生える草。「言な絶え」の「な」は禁止。3502の「目妻」は「愛づ妻」の約か。「朝顔」は、桔梗の古名。「としさへこごと」は、語義未詳。「離るがへ」の「がへ」は「かは」の東語で、反語。3503の「安齊可潟」は、所在未詳。「ゆたに」は、ゆったりと。「うけら」は、山野に自生するキク科の多年草。「やも」は、反語。

万葉集』の歌番号

万葉集』の歌に歌番号が付されたのは、明治34~36年にかけて『国歌大観歌集部』(正編)が松下大三郎・渡辺文雄によって編纂されてからです。「正編」には、万葉集新葉和歌集・二十一代集・歴史歌集・日記草紙歌集・物語歌集を収め、集ごとに歌に番号が付されました。これによって、国文学者らは、いずれの国書にでている和歌なのかをたちどころに知ることができるようになりました。『万葉集』の歌には、1から4516までの番号が付されています。ただ、当時のテキストとなった底本は流布本であり、またそれまでの研究が不十分だったために、一首の長歌を二分して二つの番号を付す誤りや、「或本歌」の取り扱いなどの問題もあり、4516という数字が『万葉集』の歌の正確な総数というわけではありません。しかし、ただ番号を付すというそれだけのことで、その後の国文学研究は大きく進展したのです。