「真実」 2019 (original) (raw)
★★★★☆
あらすじ
フランスの国民的女優が自伝を出版することになり、お祝いのために娘家族らが集まるが、本の内容をめぐって不穏な空気が流れるようになる。
是枝裕和監督がフランスで製作した作品。原題は「La vérité」。108分。
感想
大女優とその娘の関係を中心とした家族の物語だ。序盤は登場人物たちの関係がいまいち分からなかったが、大豪邸の住人は女優と愛人と執事で、そこに娘家族と女優の夫で娘の父親が訪問した、ということらしい。少しややこしいのはフランスだからでも、大女優だからでもあるだろう。
また、彼らが何度も話題にするサラという人物は、母親のライバルでもあり友人でもあったようだが、一緒に暮らしていたとなるとどういう関係?と訝しんでしまった。だが住んでいるのが大豪邸なので、深い仲というわけではなく、ただ一時的に居候していただけなのだろう。
そんな大女優の周囲の人間たちが、彼女の書いた自伝の内容を知ってざわつく様子が描かれていく。元々関係が良好とはいえない娘は嘘の母娘の心温まるエピソードに抗議し、長年仕えてきた執事は自分のことが一行も載っていないことに憤慨し、夫はすでに死んでいることにされて落ち込んでいる。
だが女優は抗議されても意に介さない。女優としての自己演出もあるし、そういう人生だったと思い込みたい気持ちもあるのだろう。それにつまらない真実を書き連ねたところで仕方がないとも思っている。
だが確かに自分の人生なんて都合よく解釈し、多少の改変を加えて素敵なストーリーにしてしまった方が、精神衛生上気持ちよく生きていけるのかもしれない。娘だって整合性を保つために自分の人生を無意識に改変していた。
しかし女優は、撮影中の映画での役柄を通して娘の気持ちに気付いていく。その映画の内容は、母親は歳を取らずに娘だけが年老いていくSFだ。歳を取らない母親と、女優としていつまでも輝き続ける自分を重ねているのかとちょっと面白かった。ただこれとは別に、年老いていく自分と美しいままに死んだライバルとの関係を重ねてもいる。
女優としての強烈なプライドを持ち、それ以外を犠牲にして生きてきた彼女だが、ナチュラルにではなく、無理してそう振る舞うことで必死に生き残ってきた。本当は自己中心的ではなく、他人の気持ちを思いやれることが垣間見える。それをやり通すことができ、本当に生き残れてしまったことが、ある部分では彼女を不幸にしてしまったのかもしれない。「強くて悪い?」と聞き返す彼女の姿が印象的だった。
様々な出来事から次第に女優の態度に変化が訪れ、娘の母親に対する気持ちも変わっていく。過去は変えることが出来るのだなとつくづく思う。子供の時に見ていたものが今は小さく見えるように、過去だって別の視点から見れば違って見えてくることがある。
そう考えると案外、人生なんてあやふやなものかもしれない。すでに死んだ誰かを生きていることにしたり、生きている誰かをすでに死んだことにしたりしても、人生にたいした支障はなかったりする。その人は勘違いに気付くまでそういう世界で生きているわけで、なんだか不思議な気分になる。
もう少し核心を突くようなシーンが欲しかったが、人々の揺れる想いをユーモアを交えて描いた、人生に思いを巡らしてしまう人間ドラマだ。お茶を熱いだの、ぬるいだのと、どちらにしても文句を言ってしまうような人間味が溢れている。
スタッフ/キャスト
監督/脚本/編集
出演 カトリーヌ・ドヌーヴ/ジュリエット・ビノシュ/イーサン・ホーク/リュディヴィーヌ・サニエ