擁壁や土留めは怖い・・・ (original) (raw)

擁壁とは?

擁壁とは、高低差のある土地の上に建物を建築する際に、土地に圧力がかかって斜面の土が流れ出ないように、土を留めておくために作られる壁状の構造物(下の写真のような壁)のことです。

擁壁の例

擁壁に関する経緯

我々が家を建てようとしているのは傾斜地で、ひな壇のようになった土地や、土留・擁壁がある敷地が多く見られます。

最初は「隣の敷地と高低差が1m以上あって、家を建てたときに2階の窓からの見晴らしがよい土地が良いな。傾斜地でひな壇はこの点でもプラス」と能天気に考えていました。

しかし、妻は既に下調べをしていたようで、「高い擁壁・土留がある敷地はやばい」との意見。それからいろいろと調べてみると確かにやばそう、ということで土地を買う際には注意をして、結局隣地との高低差が最大1mに収まる土地を購入しました。敷地の周囲は、50年ほど前に造成された大谷石土留めになっています。

土地購入後にハウスメーカと打合せをする中で気づいたリスクもありました。結果的には大きなトラブルにはなりませんでしたが、想定以上にやばかったので、わかったことをまとめておきたいと思います。

ほとんどはお金でどうにかなることですが、少なくとも大手ハウスメーカーで建てる場合には、とんでもない金額がかかるかもしれない、というお話です。

大谷石の擁壁

既存擁壁に近接する土地で建築する場合

建築基準法第19条第4項「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」により、擁壁・土留の高さによらず安全を確保する措置が必要とされています。

さらに、建築基準法施行令第138条により、高さ(土圧)が2mを超える擁壁については、建築確認申請が必要になります。土圧が2m以下の場合、確認申請は不要ですが、「安全上適当な措置を講じる義務」は施主に残り、ひいては建築会社の判断に影響を及ぼします。

わかりやすくまとまっていた福岡県建築都市部の解説によれば、

  1. 既存擁壁の調査等を実施し、安全性を確認する
  2. 建物を擁壁上端から一定距離して建築する(離隔をとる)
  3. 土留施設等を設置する(深く杭を打ったり、基礎を深くしたりするなど)
  4. 既存擁壁を安全な擁壁に造り替える

の4つの対応策があります。

もし、既に存在する擁壁の安全性を確認できれば、それで話は終わりです。特に、高さが2mを超える擁壁の場合には、擁壁を構築した際の検査済証がなければ、新たに検査をしてもらう必要があるようです。安全性が確認できない場合には、2~4のいずれかの対策をとることで家を建築できます。

2mを超えない場合、安全性が確保できているかどうかは、形式的には施主、実質的には建築会社が判断することになります。ただし、明らかに安全性を満たしていないと思われる際には、建築後の完了検査済証が発行されないリスクがありそうです。私が相談したいくつかの大手ハウスメーカーは、この部分に対して非常にしっかりとした社内基準を持ち、対策を取っていました。

これは安全性確保の観点からは大変に良いことですが、2~4の対策が必要になるケースが増すとともに、3~4の対策として設置する土留・擁壁に高い質を求めることになるため、大幅なコスト増につながる恐れがあります。私はこのコストへの影響を甘く見ていました。

我々の事例では

購入した物件は、家の三辺に大谷石の擁壁が敷設されていました。場所により違いますが、高さは50㎝~1mぐらい。一方で、検討した近隣の物件の中には、擁壁が2mはおろか5mぐらいありそうな物件もちらほらありました。

また地盤面が道路から1mほど高いために、敷地内で道路と同じ高さにある駐車場と家の基礎に高低差ができます。この高低差を処理するために、敷地内に擁壁か深基礎が必要となる土地です。

大谷石の擁壁は、現在の安全基準によると、擁壁として土圧を受けるには不適合のはずです。ですが、各社、離隔を取ったり基礎を深くしたりすることで土圧がかかることを避け、前面道路に面した一辺を除き、大谷石を残す方向で検討してくれました。もし擁壁を全てやり直すことになったら、15mが二辺と20mが一辺の合計50m、面積にして30~40平方メートルの擁壁になっていたので大変な金額になるところでした。

では高さが更に低い場合、たとえば40㎝~60㎝の場合は?というケースでは、対応がわかれるようです。見積もりを読む限り、その場合でもしっかり型枠ブロックで施工する会社と、土圧がほとんどかからないということで普通のコンクリートブロックを使う会社がありました。

我々のケースでは、一辺だけをやり直すということで、100万円~150万円かかる見込みです。こちらは外構費用の上振れ要因の一つとなりました。

また、敷地内での高低差処理のための深基礎ですが、一社の見積もりは200万円、もう一社は60万円と大きな差が出ました。こちらも予期せぬ出費です。各社間取りが違い、深基礎の範囲も違うので単純には比較できません。200万円の見積もりの会社はベタ基礎を採用、60万円の見積もりの会社は布基礎を採用しており、使うコンクリートの量の違い、と考えても納得できそうです。こちらは本体価格の上振れ要因です。

型枠ブロック

擁壁の高さが3メートルを超えたら…

同じ地域には、高さが3〜5m、またはそれ以上、長さもそれなりに長い、古い擁壁がある物件もちらほらと見られます。

仮にこれらの擁壁をやり直すとしたら、1,000万円どころか2,000万円でもきかないのではないか、という話をあるハウスメーカーから聞きました。

物件によっては相当割安になっており、不動産業者によれば、擁壁のやり直しのコストを折半するイメージで価格に織り込んでいるんだろう、という話。このような良心的な売主ばかりであればよいのですが、なかには坪単価は市場水準で、まったく擁壁ディスカウントが考慮されていない物件も。

たちが悪いのは、高い擁壁の上の家は景観が良いことが多く、リスクを知らなければむしろ擁壁の上にあることがプラスに思えてしまうことです。

もちろん擁壁といっても、最近できたRC造や間知石擁壁で検査に通っているものは、今後数十年にわたって問題はないでしょうし、大手ハウスメーカーを通さずに擁壁工事をすれば、もっと安いコストで工事ができるのかもしれません。

ということで、大手ハウスメーカーに建築を依頼される方は、古い擁壁がある敷地を購入する前に、ハウスメーカーによく確認をしてしっかりとした見積もりを取ることをお勧めします、というお話でした。