「仏像2体が行方不明に」創建1300年の古寺から重要文化財が消えた…ドロ沼の盗難事件に“空前絶後のスキャンダル” (original) (raw)
「主文。原告の請求をいずれも棄却する」「原告は、被告に対し、各仏像を引き渡せ」――。
2018年1月、大津地裁で注目の裁判に判決が下された。
原告となっていたのは、東京都品川区にある安楽寺。弘治2(1556)年に開山された、天台宗の本山、比叡山延暦寺の末寺で、宗教法人法上での、天台宗の「被包括法人」だ。
安楽寺(東京都品川区) ©西岡研介
対する被告は、滋賀県甲賀市にある古刹「大岡寺(だいこうじ)」。白鳳14(686)年、奈良・東大寺の「四聖」の一人に数えられる僧、行基が大岡山の山頂に、自彫の千手観音像を安置し、創建したと伝えられ、「方丈記」の鴨長明が出家した寺としても知られる。大岡寺も、天台宗の被包括法人だったが、1951年に「包括法人」である天台宗から離脱し、単立の宗教法人となった。
そんな由緒ある寺同士が争ったのは、国の重要文化財に指定されている2体の仏像の所有権だった。もともと、仏像は滋賀県の大岡寺に安置されていたが、ある日、忽然と姿を消してしまった。そして15年後、東京都の安楽寺にあることが判明したのだ――。(全3回の1回目/#2に続く)
「檀家だった男が、仏さまを持ち出し……」
この事件の“被害者”となったのは、「木造千手観音立像」(116cm)と「木造阿弥陀如来立像」(98cm)。千手観音立像は鎌倉時代の作で、当時としてはめずらしい一木造りだ。阿弥陀如来立像は平安時代の作で、いずれも作者は不明だが、1950年に国の重要文化財に指定された。
長らく大岡寺に本尊として祀られていた千手観音立像が、阿弥陀如来立像とともに姿を消したのは2001年のことだった。45年にわたってこの寺で勤め、一昨年5月に死去した住職の妻が語る。
「もともと檀家だった男が、お寺から2体の仏さまを持ち出し、それ以降、行方がわからなくなったのです」
大岡寺(滋賀県甲賀市) ©Motokoka(Licensed under CC BY-SA 4.0)
しかし、それから12年後の2013年、思わぬ形で仏像の行方が明らかになった。NHKの「クローズアップ現代」の取材で、この2体の仏像が複数のブローカーの手を経て、東京に流れていたことが判明したのだ。
「NHKの記者さんの案内で、私たちも東京まで行ったのですが、結局、仏さまには会えず終いでした。しかし、(クローズアップ現代の)放送後、平成28(2016)年頃に東京の『安楽寺』というお寺さんにあると教えて下さった方がいて、安楽寺まで伺ったのです」
後を絶たない「重要文化財の盗難被害」
当時も今も、仏像などの重文の盗難被害は後を絶たず、その多くはブローカーの手によって中国などに流れ、一部は「高級美術品」として売買の対象となる。
08年にはニューヨークのオークションに運慶の大日如来坐像が出品され、日本の美術品史上最高額の13億円で落札された。幸いなことに落札者が日本の宗教法人だったため、国外流出は免れたという。
また先述のNHK「クローズアップ現代」の取材班が13年に独自調査を行ったところ、全国18府県で国宝1点を含む76点の重文が所在不明となっていた。大岡寺から盗まれた2体の仏像もその一部だったが、幸いにも日本国内に留まっていた。