ドイツで試乗した「ミラーなしの車」のすごさ (original) (raw)

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記者の眼

ドイツで試乗した「ミラーなしの車」のすごさ

6月に“解禁”されて注目を集める「ミラーレス」

「体験するのは初めて?すぐ慣れるから運転してみてよ」

7月27日、独フランクフルト。自動車部品世界大手のコンチネンタル本社で、1台の試作車に乗る機会を得た。下の写真が、その試作車だ。よく見ると、外見から何の試作車なのか判断できるのだが、お分かりだろうか。

自動車部品大手の独コンチネンタルが開発した試作車。メルセデス・ベンツのEクラスを改造したもの

自動車部品大手の独コンチネンタルが開発した試作車。メルセデス・ベンツのEクラスを改造したもの

試作車を側方から見た様子

試作車を側方から見た様子

答えは「鏡がない」こと。サイドミラーとバックミラーが付いていない。後方を確認するための鏡をカメラで置き換えたもので、一般的に「ミラーレス車」と呼ばれる。ミラー代わりのカメラを「電子ミラー」と呼ぶこともある。

ミラーに関する国際基準が改定され、カメラの使用が可能になった。これを受けて日本でも、国土交通省が6月18日に道路運送車両の保安基準を改定。自動車メーカーはミラーレス車を開発することが可能になった。

新型車であれば、2019年6月18日以降に発売できる。この改定によってミラーレス車ににわかに注目が集まっている。

では、ミラーレス車のメリットとは何か。

続きを読む 有機ELモニターで後方を確認

一つ目は、死角がなくなることだ。運転経験があるなら、レーンチェンジや左折右折の時、死角にクルマや歩行者が入ってひやっとしたことがあるだろう。

コンチネンタルの試作車では、これまでサイドミラーが付いていた位置に、左右2つずつ計4つのカメラを設置。後部のアンテナフィンに内蔵されたカメラを含めると、5つの後方確認用カメラが付いている。これで死角をなくす。

両サイドに付けられたコンチネンタル製のカメラ

両サイドに付けられたコンチネンタル製のカメラ

有機ELモニターで後方を確認

モニターは車内に3つある。両サイドと、通常カーナビが入る位置だ。試作車のため、暫定的に3つ付いているが、コンチネンタルの開発担当者は、「ドライバーの視野に常に入るセンターモニターと左側のモニター(ドイツは左ハンドルのため。日本では右側)の2つのモニターで見る形式になっていくのではないか」と話す。

モニターはTFT液晶のタイプだったが、コンチネンタルは既に車載用有機ELモニターも開発済み。「どんな形状にも変えられる有機ELはデザイン面でも魅力的だ」(開発担当者)。

同社は有機ELモニターを2018年にも量産する見込みで、ミラーレス車が市販されるころには、有機ELで後方を確認することになるだろう。

車内の3つのモニター。試作車のため、3つ全てに後方を表示したり、2つに集約したりといった映し方をテストすることできる

車内の3つのモニター。試作車のため、3つ全てに後方を表示したり、2つに集約したりといった映し方をテストすることできる

続きを読む ミラーがないことにはすぐに慣れたが…

ミラーがないことにはすぐに慣れたが…

システムによってモニターの明暗を最適化し、太陽や後方車両のハイビームのまぶしさをコントロールすることもできる。

ミラーがなくなることで、空気抵抗を小さくすることができるのもメリットだ。同社シャシー&セーフティー部門先進技術部の責任者を務めるアルフレッド・エッカート氏は、「燃料消費量が減ることに加えて、高速走行時の風切り音も小さくなる」と話す。

ここまでは、試乗しなくても理解できること。これらのメリットに加えて、記者は実際に試乗してみて、もう一つのすごさを体感した。

「まずは乗ってみてよ」

開発担当者にそう言われて、早速、左ハンドルのドライバー席に座った。一通りの説明を受けた後で、実際にフランクフルト市内を走ってみた(ドイツはジュネーブ条約加盟国ではないが、日本で発行する「国外運転免許証」を携帯すれば公道を運転することができる)。

左ハンドルのドライバー席から外を見た様子

左ハンドルのドライバー席から外を見た様子

運転を始めると、すぐに“通常ならミラーがある位置”を見てしまったが、ものの数分で慣れた。少し慣れるのに時間が掛かったのは、後続車両との距離感だ。ミラーならどのくらい離れているのか、経験で分かるが、画像なのでなかなか感覚がつかめなかった。記者の場合、10分ほど運転してようやく慣れてきた。

試作車のモニターには、後方車両をカメラが認識し、距離によって緑色、赤色の二色で示される。緑色は距離が確保できているため、レーンチェンジなどで問題にならないクルマ。赤色は距離が近いため注意が必要なクルマ。また、それぞれのクルマまでの距離が数字で10m、20mといったように表示される(現状では乗用車のみ。トラックは表示されない)。

運転中のモニターの様子。距離が近いクルマは赤色で示される。白線を認識していることも分かる

運転中のモニターの様子。距離が近いクルマは赤色で示される。白線を認識していることも分かる

続きを読む 乗って分かったミラーレス車の「もう一つのすごさ」

乗って分かったミラーレス車の「もう一つのすごさ」

運転して初めて分かったのは、「クルマが見ているもの」をドライバーも同時に見ていることの重要性だった。

後続車両との距離感が分かるのは運転するうえでも役立つが、赤や緑でクルマが見ているものが表示されることで、「このクルマは全ての車両を認識してくれているんだな」という安心感につながる。これが、記者が試乗して最も感心したポイントだった。

「ヒトと機械の協調」――。これからの自動車にとって、重要性が増すキーワードだ。なぜなら、完全自動運転が実現するまでのプロセスでは、機械が運転する場合とヒトが運転する場合が併存し、その切り替えが必ず必要になるからだ。

その上で、ドライバーに必要なのは、「今、この機械=クルマは何をどこまで認識しているのか」という情報だ。機械が何を見ているのかをヒトが知ることで初めて、安心して機械に任せることができるし、いざとなった時に運転を代わることもできる。

モニターで後方を見るミラーレス車は、機械とともに運転する「慣れ」をドライバーに与えてくれるのではないか。

実際、コンチネンタルなどの大手部品メーカーや多くの自動車メーカーは、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転を実現するにあたって、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)を重視している。HMIとは、ヒトとクルマが接する部分の全てを指す言葉で、現在、メーカーにとって重要な開発分野となっている。

コンチネンタルは、ミラーレスを単なるカメラへの置き換えとは捉えていない。「視認性を改善するだけでなく、状況に応じた指示をモニターに表示する可能性を開くものだ」。同社インテリア部門で研究開発を担当するオトマー・シュライナー氏はこう言う。

カメラによるミラーレス化は、運転支援機能と相性が良い。同社はミラーレスと、車線変更時のアシスト機能や進入車両のアラート機能などを融合する方針だ。現在、世界中の自動車メーカーから問い合わせがある。

「自動運転」という言葉が先行しているが、機械が完全に運転に責任を取れるようになる時代はまだまだ先だ。ヒトと機械が情報を共有し、安全性を担保しなければならない期間は長い。どうすれば機械のことを知ることができるか。あるいはどうやってヒトのことを機械に知ってもらうか。いずれも今後のクルマにとって極めて重要な機能になるはずだ。

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