本当にあった話 (original) (raw)

ようやく朝晩は涼しくなってきたというのに、その晩は生暖かい空気が漂っていた。私は窓を開け放ちサーキュレーターで風を送りながら、寝苦しい夜を過ごしていた。

どれほどの時間が経ったろう。いつしかまどろんでいたいたらしく、足に何かが触れるのを感じ目を覚ました。いや目を覚ましたというのは正確ではない。意識は覚醒しているのだが、目は開いていない状態だった。

(いま、何かが私の足を触っている)

そういう感触があるのだが、目を開くことができない。

(まさか、これが金縛りというやつか⁉)

(部屋に何かいる……)

私はまぶたの裏を見ながら、見えない何かに怯えた。

不意に手元で何かが震えた。

スマホか……?)

私はスマホを持ちながら寝落ちしていたらしい。そのバイブレーションで金縛りが解けたかのように、パチンと目が開いた。スマホを見ると、時刻は丑三つ時に近い。スマホが鳴ったのは私に一千万円が当選したことを知らせるメールだった。こんな時間に知らせてくるなんて送信者はよほど私の喜ぶ顔を早く見たかったのだろうが、今はそれどころではない。部屋を見回すと、何かが窓から出ていった気配がした。

「待て!!」

バンっと部屋を飛び出し、外へ出る。

おかしい。何もいない。気配を消すなんて、やはり妖(あやかし)の類か!?

その時である。

「シャッ!」

何!? 何かが動いただと!?

壁に同化していた何かが動いたのである。

「誰だ!? お前は??」

「ス、スミマセン。ボクは怪しいものじゃないです」

「何だと!? お前は何者だ?」

「ボクはトカゲの仲間のほうです」

「トカゲの仲間だと!?」

「ハ、ハイ。よく間違われるんですけど、けして両生類の方じゃありません。どうかボクを見逃してください。家に幸運がきますから」

「…………。行け」

あれから、一週間近く経った。

当たったはずの一千万円は手に入る気配がないし、なんの幸運も起きない。

あれは本当は何者だったのだろう。私は騙されたのだろうか。これぞまさに妖(あやかし)の類か!?