【日本民法】条文総まくり (original) (raw)

1 法定ノ占有カ占有ノ権利ヲ授付ス可キ性質アル権利行為ニ基クトキハ譲渡人ニ授付ノ分限ナキヲ以テ其効力ヲ生スル能ハサルトキト雖モ其占有ハ正権原ノ占有ナリ*1

2 占有カ侵奪ニ因リテ成リタルトキハ其占有ハ無権原ノ占有ナリ*2

【現行民法典対応規定】

なし

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

122 本条は、占有には「正権原の占有」と「無権原の占有」の2種類があることを示し、この2種類についてそれぞれその定義を与えています。民法がこの2種類を区別したのは、それぞれの占有の効力に大きな差異があるからです。「正権原に基づく善意の」占有者は、果実を収取することができます。不動産については15年、動産については即時に時効取得できるなどといった利益があります。これに対し、「無権原」占有者は、果実を収取することができません。また、30年を経過しなければ時効の利益を受けることができません。

123 ① 正権原の占有 権原とは「権利の原因」のことで、占有者に対しその占有する権利を付与するに足るべき法律上の行為をいいます。この権原に正邪の区別があるわけではありませんが、民法は「無権原」に対する意味で「正権原」と称しています。

権利を付与するに足るべき行為の主要かつ一般的なものが売買です。交換も売買と同じく権利を付与する行為です。このほか、無償で権利を付与する贈与・遺贈があります。また、人権の付与は契約によって行います。これらすべての行為は「正権原」です。

権利を付与するに足るべき法律上の行為により権利は付与されるわけですが、権利を付与した者つまり譲渡人が付与する分限を有しない場合があります。例えば、Aが自己の所有ではない物をBに売り渡した場合には、Aはその物を売り渡す分限を有しません。そのため、その所有権がBに移転することはありません。しかし、このA・B間の売買の合意は権利を付与するに足るべき行為なので、この場合にはBを正権原の所有者としなければなりません。法文に「譲渡人ニ授付ノ分限ナキヲ以テ其効力ヲ生スル能ハサルトキト雖モ」とあるのは、このことを示したものです。

124 外形上権利を付与するに足るべき法律上の行為があっても、その行為が当然に無効となり、または銷除することができるものであるときは、正権原があるとすべきでしょうか、それともないとすべきでしょうか。

まず合意についてですが、民法はその合意が成立するために必要な要件と有効となるために必要な要件とを区別しています。例えば、当事者や代人の承諾がない場合には合意は成立しないものとし、承諾があってもその承諾の瑕疵となる錯誤や強暴がある場合には銷除することができるものとしています(第304条第305条第544条以下)。前者は、初めから無効な行為で、当事者が後にいかなる手段を尽くしてもこれを有効なものとすることはできません(第558条)。そのため、その行為は当然無効となり、あたかも初めからこれがないものとされるので、この場合には正権原があるとすることはできません。これに対し、後者については、第544条以下に規定された期間に主張しない場合には、黙示にこれを認諾したものとみなされます(第320条)。つまり、裁判上の取消しの宣告があるまでは、十分にその効力を生ずるので、たとえ有効要件の1つを欠いていたとしても、その合意は正権原であるといわなければなりません。

遺贈については、遺言者の自筆の証書により遺贈をする場合でも、公正証書や秘密方式により遺贈する場合でも、民法に定めた方式を遵守しなければなりません。その方式を欠くものは当然に無効です(財産取得編第369条以下)。そのため、遺贈が方式上無効である場合には、これを正権原とすることはできません。

証拠編第142条は以上説明したところを「方式上無効タリ又ハ裁判上取消サレタル権原ハ時効ノ為メニ有益ナラス」と規定しています。

125 ② 無権原の占有 「無権原の占有」は、「正権原の占有」に対するもので、つまり権利を付与すべき法律上の行為に基づかない占有をいいます。法律上の行為に基づかないということは、他人の権利を侵害して奪取することのほかにその原因となるべきものはありません。これが法文で「占有カ侵奪ニ因リテ成リタルトキハ其占有ハ無権原ノ占有ナリ」とされている理由です。

しかし、ここにいう「侵奪」とは、盗賊が他人の物品を掠奪するような悪意強暴によるものだけを指すわけでありません。善意で占有していても実際には他人の権利を侵害していればそれは同じく「侵奪」に当たります。例えば、遺失物を無主物だと誤認してこれを占有しているような場合には、たとえ善意でも、その占有は法律上の行為に基づくものではないので、これを「無権原の占有」というわけです。

1 法定ノ占有トハ占有者カ自己ノ為メニ有スルノ意思ヲ以テスル有体物ノ所持又ハ権利ノ行使ヲ謂フ*1

2 権利ハ物権ト人権トヲ問ハス法定ノ占有ヲ受クルコトヲ得其種種ノ効力ハ場合ニ従ヒ下ニ之ヲ定ム其種種ノ効力ハ場合ニ従ヒ下ニ之ヲ定ム*2

【現行民法典対応規定】

なし

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

117 本条第1項は、「法定の占有」とはどのようなものか、つまりその定義を示したものです。この定義が妥当でないことは既に総説(略)で述べたので、ここではこれを省略し、この条文について解説をするにとどめます。

条文によれば、「法定の占有」があるというためには、占有者が自己のために有する意思と、有体物の所持または権利の行使という2つの要素を具備することが必要になります。

ローマ法では、占有は「コルポン」と「アニモ」によって成立します。「コルポン」とは身体のことで、その物に体力を働かせること、つまり動産ならこれを所持すること、不動産ならこれを耕作し、居住することなど、外形上に表れる実体的な行為をすることを指します。「アニモ」とは精神のことで、その物を自己のために有するという無形の意思を指すものです。この「実体的行為」と「無形の意思」が占有に欠くことができないものであることは、昔も今も変わらないというべきです。例えば、用益者・賃借人・受寄者は、実体的には物を所持するには違いありませんが、所有者である他人のために所持しており、その物を自己のために有する意思はないからです。また、物を自己のために有しようとする意思があるだけで、まだ物を実体的に所持していない以上は、その意思が外形に表れていないので、これを第三者に対抗すべき権利の基礎とすることはできないから。そのため、この2要素の中の1つでも欠く場合には、「法定の占有」は成立しません。

「自己のために有する意思」とは、その物の所有者・権利者として行為をしようとする意思をいいます。自分が所有者・権利者だと信じてその行為をする必要はありません。そのため、真の所有者ではない者を所有者だと誤信し、その者から物を譲り受け、真正に所有権を得たとしてその物を所持する場合には、もちろんその者が所有者でないことを知って物を譲り受けた場合、ひどい場合には所有者から奪った場合でも、その物を自己の所有としようとする意思がある以上は、この第1の要件を欠くとはいえません。もっとも、正権原の占有・無権原の占有と、善意の占有・悪意の占有については、それぞれその効力に違いがありますが、ともに「法定の占有」としての性質を有します。

「有体物の所持」とは、その物を自由に使用・処分する実権を有することをいいます。現にその物を所持・使用することを必要としません。そのため、器物を所蔵して使用せず、あるいは土地を耕作せずに荒れるがままにしていたとしても、これを所持と認めなければなりません。いつでもこれを使用・処分する実権を有しているからです。

「権利の行使」とは、用益者として果実を収取したり、地役権者として隣地を通行したりするなど、自己のために有しようとするその権利を実際に行使することをいいます。

この「有体物の所持」と「権利の行使」は、占有者が自らこれをする必要はありません。他人に代わりにこれをさせても構いません。これは当然のことで、別に説明は不要でしょう。

118 本条第2項は、占有することができる物を示したものです。

条文によれば、権利は、物権と人権とを問わず、すべて「法定の占有」の対象となるとしています。物権については主たる物権と従たる物権とを区別せず、また各物権についても区別しないので、一般に占有を対象としうるとするほかありません。しかし、その種類によって占有の効力は異なるので、特にこれを注意して「其種種ノ効力ハ場合ニ従ヒ下ニ之ヲ定ム」と明言したわけです。以下、順にその違いを示します。

119 ① 主たる物権における占有の効力 所有権と、その支分権である用益権・使用権・住居権などについては、これを占有することができるのは当然で、その占有により十分な効力が生じます。例えば、真正の権利者だという推定を受けること、果実を収取できること、占有訴権を行使できること、法律に定められた要件に従って時効の利益を受けることができること、といった効力が生じます。

これに対し、賃借権・永借権については、これを占有することはできますが、その効力には制限があり、時効の利益を受けることができない場合があります。起草者ボアソナードの説をここで挙げておきましょう。

Aが、真の所有者ではないBから土地や建物を賃借し、その当時Bが所有者ではないことを知らず、あるいはそのことを知ってその賃借物を占有したと仮定します。この場合には、Aの善意・悪意を問わず、とにかく賃借権という物権を占有しているので、善意であれば10年、悪意であれば30年で取得時効が完成します。用益権を占有した場合と同じようにも考えられますが、実際にはそうすることはできません。

賃借権が設定されれば賃借人には賃借物について自ら収益する権利が生じるだけでなく、賃貸人に対して自己に収益をさせることを請求する権利も生じます。この権利は人権なので、時効で取得することはできません。

権利の時効取得には、これを占有すること、またはこれを執行することが必要です。真の債権者でもこれを占有することはできません。債権は債権者と物件との間に直接の関係を生じさせるものではなく、債権者と債務者との間に関係を生じさせるにすぎないものだからです。こうした関係が時効に必要な継続の性質を有することはほとんどないというべきでしょう。民法は本条で人権も物権と同じく占有の目的とすることができるとしていますが、この占有は一般に時効を生じさせるものではありません。時効にかかることがあるとしても、それは1つの債権を生じさせるのではなく、ただ既に生じているその債権を取得させるだけです。

賃借権から生ずる別の効力で、時効から生ずることのないものがあります。賃借人は定期の借賃を賃借人に支払う義務を負担します。これが用益者と非常に異なるところで、用益者はその権利を有償で設定した場合でもこれを支払うのは1回だけです。つまり、永く義務を負担することはないわけです。これに対し、賃借人は定期にこれを支払う義務を負うので、時効で賃借権を取得するものとすれば、時効で得たものについて義務も発生するということになってしまいます。これは時効の性質に反するというほかありません。

一歩譲って時効によって賃借人の権利義務が発生するとすれば、その権利は誰に対しいてこれを行使することができるのか、その義務は誰に対して負担すべきなのかを定めなければなりません。

賃借人は、はじめに賃貸を約した者つまり所有者ではない者に対し権利義務があるとすべきでしょうか。その者が既に所有者ではないこと、賃借物が他人に属することが判明した以上は、再びその者に対して借賃を支払うべきではないでしょう。また、その者に対して収益の担保を請求することができないことはいうまでもありません。

では、真の所有者に対して権利を行使し、義務を負担するとすべきでしょうか。これもまたそうすべきではありません。真の所有者とは初めから債権者・債務者の関係にはないからです。

このようにどの点から論じてみても、賃借権と、その発生を推定させる時効とは相いれないものなので、賃借権は取得時効にかかることはないと断言すべきです。

時効には賃借権を発生させる力はありませんが、既に他人のために設定された賃借権を取得させることはできます。例えば、Aがその所有する土地をBに賃貸したところ、Cが自らその賃借人と称して賃借権をDに譲渡し、Dがこれを譲り受け、法律に定められた期間賃貸人Aに対して権利義務を行使すれば、Dは時効により賃借権を取得したと主張することができます。

以上、起草者は賃借権について説明しているだけですが、それが時効にかかることを認めるべきでないとする理由は永借権についても同じです。そのため、永借権についても、その占有の効力として時効の利益を生じないものとするほかありません。

120 ② 従たる物権における占有の効力 この種の物権も占有の目的となりうることは当然ですが、その権利の性質により、占有の効力を十分に生ずるものと一部の効力を生ずるにとどまるものがあります。

例えば、不動産質権は反対の証拠があるまでは質権者だという推定を受け、善意なら果実を収取することができます(その債権に充当すべきことはいうまでもありません)。占有を妨害する者があれば占有訴権を行使することができ、不動産の時効に関する期間を経過すれば完全な質権を取得することができます。動産質権もこれと同じですが、合意により果実を収取する権利を有しない場合には、その質権者はその取得を主張することができません。これは普通のことでしょう。つまり、この2つの質権については、一方は常に十分な占有の効力を生じ、他方は場合によっては十分な効力を生ずるものとしています。

これに対し、地役権は、その性質として果実を収取することがないのが普通なので、この果実を収取する効力を生ずることはないとすべきでしょう(もっとも、「物料採取ノ地役」はこれとは別です)。つまり、通常その占有の効力はその一部を欠いているというべきでしょう。

抵当権は、決して果実収取の問題を生ずべきものではありません。そのため、その占有の効力は常に十分なものとすることはできません。

ここで研究すべきなのは、抵当権は時効により取得できるかどうかという問題です。抵当権が時効によって消滅することは債権担保編第295条以下の規定に照らして明白ですが、時効によってこれを取得することについては疑問がないわけではありません。

ローランは、抵当権は他の不動産上の物権と異なりその不動産を占有しないので、時効の基礎を欠くとします。

ムールロンも、時効は担保権を発生させることがないとします。例えば、AがBの不動産につきもともと成立していない抵当権を登記し、その後30年を経過し、しかもその間に2、3回登記を更新した場合には、Aは抵当債権者がすべきすべてのことをしていたとしても、これによって抵当権を取得することはできません。そもそも物権を時効取得するとは、これを占有して取得することをいいます(第2229条)。そのため、法律では抵当権は真の占有を受けることができないとするわけです。第2180条はそれを示したもので、抵当不動産が第三者に占有された場合には、たとえ債権者が登記をし、または登記を更新したとしても、抵当権に対して時効が進行するとしています。つまり、登記をし、または登記を更新した債権者も、その抵当権を占有しないことは明らかです。その登記をし、またはこれを更新して抵当権を占有するものとすれば、この債権者に対して時効が進行すべきいわれはないからです。

日本民法の起草者も、債務者に属しない不動産に設定した抵当権については、占有の効力は動産質の場合よりも小さいとしています。その抵当権は正当にこれを設定しても、果実を収取する利益を得ることはできず、さらに債権者は月日を経過しても抵当権を時効取得することはできません。抵当権の占有は権利行使の一種をなす外形的所為によって十分に表明されておらず、しかもその権利行使は性質上継続しないものなので、どれほどの月日が経過しようともそれにより堅牢確実なものとなることはありません。抵当債権者は、不動産質債権者・動産質債権者とは異なり、その抵当物を占有しないので、不動産が売却されるまでは単に登記によってその権利を行使するにとどまるからです。

フランス法についての学者の説明、日本民法についての起草者の説明は以上の通りです。しかし、これを批判する学者もいます。抵当債権者がその抵当物を現実に所持しないのは当然だが、これを現実に所持しないために占有がないというべきではないというのです。所持がないから占有がないとするのは占有は有体物に限るという古い考えから脱していないもので、占有は権利の行使であり、物権・人権を問わずことごとく占有の目的となることができるとする以上は、法律に特例が置かれる場合は別として、そうでなければすべてこれを占有することができ、その性質または法律の規定に反しない限り、占有の効力を生ずることは当然だとします。例えば、Aが抵当債権者の名義で抵当権を占有し、通常抵当債権者がすべきすべての権利行為をし、占有が間断なく継続し、そして平穏・公然に法律に定められた期間を経過したのならば、その人に対して取得時効の利益を与えることを拒否すべき理由はないとします。起草者は、この占有は外形的所為によって十分にこれが表明されていないのでその占有は公然ではないとしますが、抵当権を登記したことを公然ではないとすべきではありません。また、性質上その占有は継続しないとしますが、継続とは権利を行使すべき時にこれを行使することを指すもので、必ずしも時々刻々において間断なきことをいうものではありません。田地を占有する者を例にとると、耕作と収蔵との間に若干の日にちが開くことがありますが、これをその占有が止まったというべきではないでしょう。また、山林を占有する者を例にとると、慣習に従って2、3年ごとに1度伐採していたとしても、これにより占有が継続していることを認めてもよいでしょう。このように権利の性質によってその占有が継続する状態は異なってくるので、抵当権について時々刻々にその権利を行使することなく1度登記をしたにすぎないという理由で、その占有が継続していないと断言すべきではありません。抵当権者自らがその占有を止めない以上は、これを継続するものと認める必要があります。既に占有継続し、公然・平穏に法律に定められた期間を経過した場合には、他の物権と同様に、取得時効を成立させるべきです。これに反対する説は旧套を脱しない陳腐な議論にすぎないというのは妥当な評価でしょう。

121 以上、物権を占有の目的とすることができること、その物権の種類により占有の効力に違いがあることを説明しました。以下では、人権つまり債権を占有の目的とすることができるか、できるとすればその効力はどのようなものかということについて見ていきます。

フランス民法第1240条・第1338条では、債権を占有の目的とすることができることが認められていますが、このほか債権の占有に関しては明確に規定されていません。そのため、通常は債権を占有の目的とすることはできないとし、特にその大きな効力である取得時効の利益を得ることはできないと断じる学説もあります。

日本民法では、本条で明らかに債権を占有の目的とすることができることが規定されているので、フランスのような議論を生ずる心配はありません。その占有がどのような効力を生ずるのかについて検討すればよいだけです。

債権の占有はどのような場合に生ずるのでしょうか。Aが自らに属しない債権をBに譲渡し、Bがこれを譲り受けて占有の所為である権利の行使、つまり例えば利息を収取した場合を想定すると、この場合にはBが債権を占有していることは明らかです。

この場合には、Bは反対の証拠があるまでは譲り受けた債権の所有者であるとの推定を受けます。利息付きの債権については、Bが善意ならばその果実である利息を収取することができます。その占有について妨害を受けた場合には、占有訴権を行使することもできます。そして、民法に定められた期間占有を継続すれば、取得時効の利益を得ることができます。

しかし、この事項に関する条件については、その債権が記名債権か無記名債権かによって違いがあります。証拠編第149条第3項に「又上ノ規定ハ記名債権ニモ包括動産ニモ之ヲ適用セス但此等ノ物ニ関スル時効ノ期間ハ第百三十八条以下ニ記載シタル区別ニ従ヒ不動産ニ関スルモノト同一ナリ」とあります。そのため、記名債権については、正権原かつ善意でこれを占有した場合には15年で時効取得し、無権原または悪意でこれを占有した場合には30年で時効取得します(証拠編第140条)。

無記名債権は有体動産と同視されるので、正権原かつ善意でこれを占有する場合には即時に時効の利益を得ることができ、無権原または悪意の場合には30年を経過しなければ時効の利益を得ることができません(証拠編第144条第148条)。

第4章 占有

第1節 占有ノ種類及ヒ占有スルコトヲ得ヘキ物

占有ニ法定、自然及ヒ容仮ノ三種アリ*1

【現行民法典対応規定】

なし

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

112115 略(総説)

116 本条は占有には3種類があることを示しているだけで、特に説明すべきところはありません。この3種類の占有とは何かということは、以下の各条のところで説明してします。

*1:占有には、法定の占有、自然の占有及び容仮の占有の3種類がある。

1 本法実施ノ時ニ存スル地上権ハ左ノ規定ニ従フ*1

2 期限ヲ立テテ設定シタル地上権ハ其期限ニ至リ当然消滅ス*2

3 期限ヲ立テスシテ設定シタル地上権ハ第百七十六条ニ従ヒテ建物存立ノ時期間継続ス*3

4 右両様ノ地上権ハ共ニ前条ニ規定シタル先買権ニ服ス*4

【現行民法典対応規定】

なし

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

111 本条は、本法施行前に設定した地上権の終了に関して規定したもので、そのような地上権も本法施行後に設定したものと同一の規則に従うべきことを示しているだけです。

法律は過去に遡及しないのが原則です。新法により既得権が害されるおそれがあるからです。本条の規定によれば、期限のある地上権はその期限の到来により消滅し、期限の定めのない地上権はその目的物の滅失によって終了します。いずれも当然のことを述べているだけです。新法を過去に遡及させ、それにより既得権が害されるおそれがないのならば、ここにこのような明文を置く必要はないでしょう。特に、第3項は建物を目的とする地上権だけに言及し、樹木を目的とする地上権については規定していません。そのため、樹木を目的とする地上権で期限のないものについては、どれほどの間継続すべきかがはっきりしません。このような不完全で不必要な法文を置いたのは何のためでか、私には理解できません。

1 建物又ハ樹木ノ契約前ヨリ存スルト否トヲ問ハス地上権者之ヲ売ラントスルトキハ土地ノ所有者ニ先買権ヲ行フヤ否ヤヲ述フ可キノ催告ヲ一个月前ニ為スコトヲ要ス*1

2 右先買権ニ付テハ此他尚ホ第七十条ノ規定ニ従フ*2

【現行民法典対応規定】

第269条 地上権者は、その権利が消滅した時に、土地を原状に復してその工作物及び竹木を収去することができる。ただし、土地の所有者が時価相当額を提供してこれを買い取る旨を通知したときは、地上権者は、正当な理由がなければ、これを拒むことができない。

2 前項の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う。

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

110 地上権の終了時に建物や樹木が存在する場合には、地上権者はこれらを収去することができるのでしょうか。ベルギー法では、その建物や樹木については、それらが地上権の設定前から存在し、地上権者が土地の所有者から譲り受け、まだ代価を支払っていない場合には、賠償することなくそのまま残すべきものとされています。しかし、日本民法では、地上権を、建物や樹木を完全所有権により占有する権利としているので、その建物や樹木が地上権設定前から存在していたかどうか、その代価を支払ったかどうかに関係なく、地上権者が既にその物について完全所有権を取得しているので、その権利が終了する時にこれらを収去することができるのは当然です。つまり、本条は地上権者にこの権能があることを暗に示したものです。

既に地上権者に収去の権利があるとしていますが、これは用益者や賃借人にその設置した建物や樹木を収去することを認めているのと同じです。そのため、用益権や賃借権と同じように扱うのが妥当です。例えば、地上権者がその建物や樹木を売却しようとする場合には、用益権や賃借権の場合と同様に、土地の所有者に先買権を行使させることができます。この先買については第70条の規定に従うことになります。ただし、その催告の期間には違いがあります。

1 既ニ存セル建物又ハ地上権者ノ築造ス可キ建物ニ付キ設定権原ヲ以テ地上権ノ継続期間ヲ定メサルトキハ此建物存立ノ時期間其権利ヲ設定シタルモノト推定ス但其大修繕ハ土地ノ所有者ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ為スコトヲ得ス*1

2 既ニ存セル樹木又ハ地上権者ノ栽植ス可キ樹木ニ付テハ其地上権ハ樹木ヲ採伐スル時期マテ又ハ其有用ナル最長大ニ至ル可キ時期マテ之ヲ設定シタリト推定ス*2

3 此他地上権ハ通常賃借権ト同一ノ原因ニ由リテ消滅ス但所有者ノ為ス解約申入ハ此限ニ在ラス*3

4 地上権者ハ一个年前ニ予告ヲ為シ又ハ未タ払期限ノ至ラサル納額ノ一个年分ヲ払フトキハ常ニ解約申入ヲ為スコトヲ得*4

【現行民法典対応規定】

第268条 設定行為で地上権の存続期間を定めなかった場合において、別段の慣習がないときは、地上権者は、いつでもその権利を放棄することができる。ただし、地代を支払うべきときは、1年前に予告をし、又は期限の到来していない1年分の地代を支払わなければならない。

2 地上権者が前項の規定によりその権利を放棄しないときは、裁判所は、当事者の請求により、20年以上50年以下の範囲内において、工作物又は竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮して、その存続期間を定める。

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

107 本条は、地上権の終了すべき時期を規定したものです。

この規定によれば、地上権は通常の賃借権と同一の原因によって消滅することを原則とします。地上権の目的物つまり建物や竹木の全部滅失、その全部の公用徴収、土地所有者に対する追奪や所有者の権利の取消し、期間の満了や約定した解除条件の成就によって当然に消滅します。第173条で説明したように、地上権者が定期の納額を支払わない場合には、所有者の請求者により、裁判所が宣告した取消しによって終了することになります。

以上の場合のほか、賃借権についてはなおもう1つの消滅原因があります。第145条第5号に規定された「初ヨリ期間ヲ定メサルトキハ解約申入ノ告知ノ後法律上ノ期間ノ満了」がこれです。本条はこの原因を直ちに地上権に適用せず、これについて例外規定を設けています。

第1に、地上権の継続期間を定めなかった場合には、必ずしも解約申入れによって終了すべきものとはせず、法律上当事者の意思を推定し、特にその終了すべき時期を定めています。この推定はいわゆる軽易な推定で、当事者は反証を挙げてこれを打破することができるのは当然です。

この推定に基づく地上権終了の時期は、その権利の目的物が建物か樹木かで異なります。

建物を目的物とした場合には、地上権設定前既にその建物が存在していたかどうかにかかわらず、その建物が存立する間は地上権が継続するものとします。つまり、その建物の滅失により終了を告げることとしたわけで、賃借権消滅の原因として第1に挙げられている目的物全部の滅失に当たるので、これを極論すれば法律のこの推定はまったく無用のものといってもよいでしょう。

しかし、この推定を示した第1項ただし書は最も必要な規定で、これによって地上権を無限に継続するという弊害を防止することができます。単に建物が存立する間は地上権が継続するものとすれば、地上権者はその建物がまさに崩壊しようとするたびごとに大修繕を加え、これにより永遠にその権利を保存することができるようになってしまいますが、これは当事者の意思ではないというべきでしょう。そのため、このただし書により、大修繕は土地の所有者の承諾がなければすることができないと定めたわけです。小修繕のようなものは、建物の便益に関係するにとどまり、その存滅には関係がないので、地上権者が自由にこれをすることができ、そのために所有者の承諾があることを必要としません。

樹木を地上権の目的とした場合には、既に存在するかどうか、地上権者が栽植したかどうかに関係なく、その伐採の時期か、それが有用となる最長大に至るべき時期に地上権が終了するものとしています。樹木にはおのずから伐採の時期があるものが多く、その時期に至ってもなお伐採せずに地上権を継続させるのも、地上権者にとっては少しも利するところがなく、いたずらに土地所有者を害するものといわなければならないからです。また、伐採の時期が一定でなくとも、樹木が既にそれが有用となる最長大に達したにもかかわらずなおこれを伐採しないのもまた同じです。そのため、伐採の時期か、それが有用となる最長大に至るべき時期に地上権が終了するものと推定したのは、実に妥当なことです。

108 第2の例外は、解約申入れによって地上権が消滅するのは通常の賃借権の場合と同じですが、その申入れをすることができる人とその申入れの条件は、通常の賃借権の場合と異なります。

通常の賃借権については、当事者双方がともに解約を申し入れることができるものとしていますが、地上権については、地上権者だけがその申入れをすることができ、土地の所有者にはその権能を与えていません。地上権者は単にその土地を賃借した者とは異なり、その土地の上に存する建物や樹木を完全に所有する者なので、これを厚く保護することが必要です。土地の所有者が解約申入れをすることができるとすると、所有者のほしいままにいつでも地上権者の所有権を終了させることができるようになってしまいます。これは正当ではないでしょう。そのため、所有者から解約申入れをすることを禁じたわけです。しかし、地上権者がその建物や樹木から十分な利益を得ることができないために解約を申し入れようとすることは、法律上これを禁止すべき理由はありません。地上権の撤去により土地の所有者を利することはあっても、これを害することはないだろうと考えられるからです。そのため、地上権者に対しては解約申入れの権能を与えたわけです。

地上権者が解約申入れをするには、1年前にその予告をしなければなりません。これは通常の賃貸借の場合に解約申入れと返却との間に多少の日にちを置いたこと(第149条第151条)と同一の理由に基づくものです。賃貸借ではこの日にちに差異がありますが、地上権についてはすべて1年と定めています。

109 ここで注意すべき点があります。通常の賃貸借については、解約申入れをすることができるのは、期間の定めのない場合、その定めがあっても黙示の更新がある場合(第145条第149条第151条)、当事者がその権能を留保した場合(第154条)に限られていますが、地上権についてはこうした制限はなく、いつでもこれをすることが認められているという点です。本条4項には、「地上権者……常ニ解約申入ヲ為スコトヲ得」とあり、この「常ニ」とは期間の定めの有無に関係なくいつでも自由にすることができるという意味を示したものです。

なぜ地上権者にこのような権能を与えたのでしょうか。その答えは非常に簡単です。前段で説明したように、地上権者は1年前に予告し、1年経過してこれを返却するので、土地の所有者が損害を受けることはありません。ましてや変態を止めて常態に復するものなので、法律上これを禁止すべきではないからです。

また、地上権者が1年前に予告をしなかった場合でも、支払期限が到来していない納額1年分を支払った場合には、即時に解約申入れをすることができるものとしています。これは、その納額を1年分余分に支払うことになるので、土地の所有者はあたかも1年前に予告を受けたのと同様にその収入すべき納額を得ることができ、そのために少しも損害を受けることなく、かえって早く土地の返却を得て、これを使用収益する利益があるからです。

1 地上権設定後ニ築造シタル建物又ハ栽植シタル樹木ニ付テハ地上権者ハ此種ノ作業ノ為メ法律ヲ以テ相隣者ノ為メニ規定シタル距離及ヒ条件ヲ遵守ス可シ縦令其隣人カ地上権ノ設定者ナルモ亦同シ*1

2 又地上権者ハ働方又ハ受方ニテ其他ノ地役ノ規則ニ従フ*2

【現行民法典対応規定】

第267条 前章第1節第2款(相隣関係)の規定は、地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間について準用する。ただし、第229条の規定は、境界線上の工作物が地上権の設定後に設けられた場合に限り、地上権者について準用する。

亀山貞義『民法正義 財産編第一部巻之二』(明治23年)

※以下は同書を現代語訳したものです。意訳した部分もあります。気になる部分については原文をご確認ください。

106 地役には、法律により設定するもの、人為により設定するものがあります。前者はいずれも人々各自の便宜のため、つまり一般公益のためにするものなので、誰であってもこれに従わなければなりません。そのため、地上権者がその土地に建物を築造したり、樹木を栽植したりするに当たっては、民法が相隣者のために置いた規定を遵守することが必要です。つまり、土地の分界線より少なくとも3尺の距離がなければ、建物に窓や縁側を設けて、隣地を直接に観望することができないようにする必要があること(第258条)、高さ3間を超える竹木は分界線から6尺未満の距離にこれを栽植することはできないこと(第262条)、などといった規定です。

民法は上の点に関して「縦令其隣人カ地上権ノ設定者ナルモ亦同シ」とする注意を置いています。これは、地役はもともと所有者を異にする2個の土地の間に要するものなので、地上権が設定された土地とその隣地とともに同一人に属する以上は、地上権者はこの種の地役に従わなければならないかという疑問があるからです。地上権者がなお地役に従わなければならないのは、前にも説示したように、地上権は完全な所有権に準ずべきものなので、これを完全な所有権を譲り受けた者と同一の地位に置くのを相当とするからです。

このように、地上権者を土地所有者と同一の地位に置くべきものとした以上は、一般に働方または受方で地役の規則に従わせるのは当然のことというほかありません。つまり、第2項はその意味を明らかにしたものです。