「5人に1人」が処方される“恐怖のクスリ” | 金に目の眩んだ米製薬会社の「罪」を追う (original) (raw)

SOCIETY

4min2017.10.18

金に目の眩んだ米製薬会社の「罪」を追う

PHOTO: GEORGE FREY / BLOOMBERG / GETTY IMAGES

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Text by Harriet Ryan, Lisa Girion and Scott Glover

メトロポリタン美術館や大英博物館のギャラリーに「家名」が冠され、その資産が140億ドル(約1.5兆円)といわれる、米国の大富豪・サックラー家。

米国で麻薬性鎮痛薬「オキシコンチン」を販売している、パーデュー・ファーマ社も、サックラー家の持ちものだ。

オキシコンチンは、「1回の服用で、鎮痛効果が12時間続く」との文句で記録的な売上をほこる一方、米国で700万人超もの乱用者を生み出しているという。

人生を狂わせる“禁断のクスリ”は、なぜ米国で爆発的ヒットとなりえたのか? その裏に隠された、企業の策略とは?

1996年、米国で、オピオイド系の麻薬性鎮痛薬「オキシコンチン」が発売された。その年、医学誌にはこんな広告が掲載されている。

2つのカップがスポットライトに照らされていて、片方には「朝8時」、もう一方には「夜8時」と書かれている。そして、キャッチコピーがひとつ。

「たった2錠で、痛みが和らぐ」──。

新薬で見た「地獄」

オキシコンチンが発売された当時、42歳の主婦だったエリザベス・キップは、とある米カンザス州カンザスシティの医師を訪れた。

彼女は14歳のときに乗馬大会の練習中に落馬して以来、ずっと腰痛に悩まされてきていた。それからというもの、短時間作用型の鎮痛剤をずっと服用してきたが、その日、医師に新しい薬を試してみないかと提案された。

オキシコンチンを12時間ごとに1錠服用する、というのが医師の指示だった。彼女は、その指示をしっかり守ったという。

「科学者気質だから、こういうことは厳格に守るんです」

デラウェア大学で植物学の学位を取得した経歴を持つキップは、そう語る。

彼女によると、服用して2〜3時間は「痛みが若干和らいだ」が、その後、吐き気を伴って痛みがぶり返したという。そして彼女は、何時間もベッドの上で身をこわばらせながら、オキシコンチンの次の服用時間を待つようになった。

「いつも時計を見ては、『いま何時? いやだわ、薬を飲まないと』と言っていました。神経が常に警戒態勢だったんです」とキップは思い出す。

医師に状況を訴えると、より含量の多いオキシコンチンが処方されたが、12時間の間隔は守るように指示された。しかし、効果はほとんどなかった。

以来1年半、彼女は毎日、苦痛と安堵のあいだを行き来した。自殺を考えることもあったという。キップは当時をこう振り返る。

「地獄がどんなものか知りたかったら教えてあげますよ」

結局、彼女はリハビリ施設に入り、現在は鎮痛剤を服用していないという。

なにがなんでも医師を口説け!

オキシコンチンが発売される以前は、多くの医師は麻薬性鎮痛剤を非常に中毒性の高いものと考えており、長期的な服用は主にがん患者や末期患者に限られていた。

だが販売元である米大手薬品メーカーのパーデュー社は、より大きな市場を狙っていた。1995年の社内会議の議事録によると、同社のマーケティング部門の役員が次のように説明したという。

「がん疼痛というニッチな市場にとどめたくない」

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