【公正世界信念】特徴と具体例を分かりやすく解説 (original) (raw)
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おそらく、世界中の多くの人は、
・努力は必ず実をむすぶ
・悪い人には、いずれ天罰が下る
・善良な行いは、きっと誰かが見てくれている
と信じていると思います。
とても残念ですが、現実世界はそうとは限りません。
世界は公正にできているはずだと過度に信じる傾向を「公正世界信念」、あるいは「公正な世界への信念」(beliefs in a just world)と言います。
本記事では、公正世界信念について分かりやすい解説します。
公正世界信念の定義
公正世界信念(beliefs in a just world)とは、自分の行いに対して、ふさわしい結果が返ってくるという信念、あるいはそう願う、ある種の欲求です。
アメリカ人社会心理学者メルヴィン・J・ラーナー(1929年〜)によると、多くの人がこのような信念や欲求を持っているといいます。
(参考文献:M.J. Lerner, (1980). "The belief in a just world", In: M.J. Lerner (Ed.), The belief in a just world: A fundamental delusion, Springer, New York, 1980, pp. 9-30.)
つまり、正しいことをした人間には良い事が起こり、悪いことをした人間には悪い結果がもたらされるべきだと、多くの人が思っているということです。
例えば、世の中は公平であり、一生懸命働けば出世できると信じたいのです。
◇ ポイント! ◇
公正世界信念と同じような意味で使われる言葉として
・公正世界仮説(just world hypothesis)
・公正世界現象(just world phenomenon)
・公正世界誤謬(just world fallacy)
・公正世界理論(just world theory)
があります。
世の中は公正か?
公正世界誤謬(誤謬:考えの誤り)という言葉があるように、現実は公正ではありません。
仮に、この世界が公正だったとしたら、次のようなことが起こり得るでしょう。
・勉強量の多い人から順に、東大に合格する
・犯罪をすれば、必ず逮捕される
・一生懸命働いた人ほど、お給料が多い
確かに、努力するほど良い結果になる可能性は高くなります。
しかし、
「たいして勉強していないのに頭良いヤツ」もいれば、
「ガリ勉なのに、成績伸びない子」もいます。
このように、現実は完全な公正世界ではないのです。
公正世界信念が強い人の特徴
アメリカの心理学者ツィック・ルビンとレティティア・ペプローによると、公正世界信念には個人差があります。
そして、強い人は以下のような特徴があると言います。
- 犠牲者を強く非難する傾向がある
- 権力に従いやすい
- 信心深い
(参考文献:Z. Rubin and L.A. Peplau, Who Believes in a Just World?, Journal of Social Issues, 31 (1975), 65-89.)
この3つの特徴について、これから具体的に説明したいと思います。
犠牲者への非難
公正世界信念の考えがエスカレートしていくと、事件や事故の被害者を必要以上に責める傾向が見られます。
つまり、「不幸な出来事が起こった人間は、それ相応の行いをしてきたからだろう」と考えてしまうのです。
例えば、このような人たちは、新型コロナウイルスの感染者に対して、厳しい態度を取ります。
・手洗いや手指消毒をしなかったせいだ
・ちゃんとマスクをしていなかったのではないか
・自粛ルールを守っていないからだ
このように、感染した原因が、本人たちの落ち度だと考えてしまうのです。
しかし、実際には十分に感染対策をしている人でもウイルスに感染する場合もありますし、逆もそうです。
公正世界信念の強い人は、被害者が受けた結果は自業自得だと誤って考えてしまうのです。
権力に従順
公正世界信念が強い人は、権力に従いやすい傾向があります。
例えば、政府の意見や方針に対して、あまり疑問を抱かずに受け入れてしまいます。
なぜかと言うと、公正世界信念の強い人たちは「偉い人=有能、努力家」と感じるからです。
他にも、Appleの元CEOスティーブ・ジョブズやAmazonの元CEOジェフ・ベゾスなどの資産家に対しても、
「相当な努力を重ねたから、幸運を掴んだに違いない」
と考えています。
しかし、すべての偉い人や億万長者が、皆優秀で努力家だったと言われれば、そうではありません。
親が国の偉い人だったから政治家になれた人や、宝くじが当たったから大金持ちになった人もいます。
国の偉い人が皆優れていると感じるのは、公正世界信念によって作られたイメージに過ぎないでしょう。
宗教心が強い
公正世界信念の傾向が顕著な人は、信心深くもあります。
つまり、世界は公正だと感じている人々は、神や自然といった超越的な存在に対しても信頼度が高くなると言うのです。
その理由としては、公正世界信念の強い人が、そもそも信じる力が強いからではないかと考えられます。
グローバル公正世界信念尺度
先ほども説明したとおり、公正世界信念の強さは、人によって異なります。
つまり、自分の行いは必ず自分に返ってくると信じている人もいれば、そう思っていない人もいるということです。
その強さを調べる方法に、グローバル公正世界信念尺度というものがあります。
これは、ルビンとペプローが作成した測定法をアイザック・リプクスが改良したもので、以下のような質問表です。
次の7つの質問に、どれくらい当てはまるか1点〜6点をつけてください。
1点:まったく当てはまらない
2点:当てはまらない
3点:あまり当てはまらない
4点:少し当てはまる
5点:当てはまる
6点:とても当てはまる
質問1:与えられた権利は手に入れることができると思う。
質問2:努力はまわりの人が見てくれて、報われると思う。
質問3:自分が得た報酬は、自分の勝ち取ったものだと思う。
質問4:不幸な人は、本人が招いた結果だと思う。
質問5:人は自分にふさわしいものを得ることができると思う。
質問6:報酬や罰は公平に与えられると思う。
質問7:基本的に世界は公平なところだと思う。
※ 原文は英語です。日本語に訳したことにより、本来の意図とは若干異なる表現になっている可能性がありますが、ご容赦ください。
(参考文献:I. Lipkus, The construction and preliminary validation of a global belief in a just world scale and the exploratory analysis of the multidimensional belief in the just world scale, Person. Individ. Diff., 12 (1991) 1171-1178.)
実際に、リプクスがノースカロライナ大学の学生に上記の質問をしたところ、平均点は24点でした。
つまり、24点より多ければ、公正世界信念が比較的強く、少なければ比較的弱いと考えられます。
公正世界信念が生じる理由
公正世界信念は、多くの人が持っている理想です。
ではなぜこのような考え方が生じるのでしょうか?
テレビや漫画の影響
「ピアジェの内在的正義」を参考にして、ルビンとペプローは、「公正世界信念は子どもの発達とともに備わってくる性質」だと言っています。
例えば、仮面ライダーやプリキュアなどのヒーロー作品では、正義が悪を必ず倒します。
子どもの頃に、このようなテレビ番組や漫画を見ることによって、世界公正信念が強化される可能性があるのです。
要するに、成長とともに
「正義は必ず勝ち、悪は必ず裁かれる」
という信念が自然と刷り込まれていくのでしょう。
やる気アップのため
ラーナーによると、公正世界信念が引き起こされるもう一つの理由は、無気力から我々を守るためです。
要するに、やる気をアップさせるためということです。
例えば、我々は「努力は報われる」と信じているから、実際に努力できるのです。
もし、このような信念がなければ、目標に向かって努力することは困難になってしまうでしょう。
このように、公正世界信念は、我々を無力感をから開放してくれているのです。
不安を減らすため
別の理由として、精神的な不安を和らげられることが挙げられます。
人は誰でも犯罪の被害者になりたくありません。
「犯罪の被害に遭うかもしれない」
と日頃から考え過ぎてしまうと、不必要に心配になってしまいます。
そこで、人は
「犯罪に遭うのは、被害者にも非があるからだ」
と考えることによって、自分を被害者の対象から除外しているのです。
例えば、暴行事件のニュースを見たら、
「夜に1人で歩いているからだ」
などと被害者に過失があるように考えてしまいます。
そう思うことで、「自分は大丈夫」と安心させているのです。
公正世界信念の重要性
ラーナーとミラーによると、この信念のおかげで我々は、安定した秩序ある社会を、安心して暮らしていけるのだと言います。
(参考文献:M.J. Lerner, and D.T. Miller, Just world research and the attribution process: Looking back and ahead, Psychol. Bull. 85 (1978) 1030–1051.)
公正世界信念が働くことによって例えば、
・不公平さに素早く対処する
・精神的な健康を維持する
・自尊心を高める
・モチベーションを上げる
といったメリットが生まれます。
公正世界信念が強すぎると、被害者非難というマイナス面も生じます。
しかし、適度な公正世界信念は、我々が生活していく上で多くの利点があると言えるでしょう。
まとめ
本記事では、社会心理学者メルヴィン・J・ラーナーが見出した公正世界信念について説明しました。
◇ 定義 ◇
自分の行いに対して、ふさわしい結果が返ってくるという信念
または、世界が公正であって欲しいと願う欲求
◇ 特徴 ◇
犠牲者非難
権力に従順
信心深い
◇ 生じる理由 ◇
テレビや漫画の影響
やる気アップのため
不安を減らすため