家畜の最高傑作、ニワトリ (original) (raw)
今回は、「ニワトリ 愛を独り占めにした鳥」(2010年)を読みました。
鶏卵も鶏肉も、身近というよりもすでに生活になくてはならないものですが、本書を読んで何も知らなかったと驚きました。著者さんのニワトリ愛をヒシヒシと感じながら(笑)、学んだことをまとめたいと思います。
食肉・採卵用のニワトリ
著者さんはニワトリを「家畜の最高傑作」と表現していますが、地球にはざっと110億羽のニワトリが生きているそうです。第二位はアヒルの6億弱ということで、その数たるや驚くばかりです。どこのスーパーに行っても鶏肉が毎日並んでいるはずですね。
さて、その食肉用のニワトリですが、ブロイラーと呼ばれます。ブロイラーというのは、品種や種類を指すものではなく、鶏肉をとるためだけに飼われるニワトリの、とくに若鶏たちを指す総称だそうです。現代の肉用鶏は、孵化後恐ろしいスピードで成長を遂げます。生まれて8週目の体重が、なんと2.8キロにもなり、8週目には出荷が開始され、遅くとも10週までにはすべてのニワトリが肉になるそうです。スーパーの食品表示には「若鶏」と書いてありますが…生まれて2ヶ月の命というのは、家畜とはいえむごいですね。
そして、採卵用のニワトリは食肉とはならずに、国内だけで年間、ざっと1億羽、15万から20万トンの廃鶏が処理されているそうです。生まれて700日近くなって産卵能力が衰えれば廃鶏と呼ばれ殺されていく運命です。採卵用のニワトリは、経営的に合格とされる水準を満たす、 およそ60グラムの卵を年間290個を産卵可能で、150日齢で産卵を開始し、500日過ぎまで産卵量を維持、そして、生存率9割以上を満たす産卵に特化したエリート鶏です。消費者の味覚に応えられるだけの肉質を実現し、最大限の収益を上げるための条件で生産、飼養された食肉ニワトリの市場に入り込めるはずもありません。卵と肉の生産を明確に分けない限り、現代の養鶏の経営競争には勝てないのだそうです。
いつでも鶏肉や卵を買えることに感謝すると同時に、資本主義の皺寄せがニワトリにいっていることを見せつけられた感じがしました。
原種のニワトリ
さて、鳥類は恐竜の子孫だそうですが、ニワトリの原種、世の中のあらゆるニワトリの開祖は、インドシナ半島に生息するセキショクヤケイです。オス900g、メス600gと意外と小さく、食肉には向きません。また、一年のごく限られた期間にだけ繁殖シーズンを持つため、年にわずか10個程度の卵しか産みません。さらにメスは抱卵と雛の世話に強い執着を見せ、オスは縄張り意識が強く、ほぼ決まった時間に金切声を上げ、長い蹴爪で攻撃してくるため、飼うのはかなり困難なのだそうです。
このようなニワトリがどのようにして「家畜の最高傑作」になっていったのか、本書では人間のニワトリ愛について知ることができます。
ニワトリと日本人
恐らく、最初は鳴き声を時計代わりとしたり、占い、闘鶏、そして、赤笹の鮮やかな衣が観賞用や催事の一部として使われたということです。
こと日本では美声や美しい尾羽が好まれました。東天紅、唐丸、声吉は日本三大長鳴鶏と呼ばれ、江戸時代のスターだったそうです。長い尾羽を持つ長尾鶏の尾羽の長さは3mあり、相当余裕のある育種家が生きられる安定した時代だったことを物語っています。もちろん、食糧生産としての意味は皆無と言えます。
一方、闘鶏も行われており、薩摩鶏や軍鶏は、肉として食卓に出されることもあったかもしれません。比内鳥や地頭鶏は、食用にする意識を持って日本人に作られた品種で、日本鶏の美味ベスト3に入るそうです。しかし、比内鶏は天然記念物であるため、他の品種と交雑した「比内地鶏」が一般には出回っているということでした。
まとめ
過去記事「砂糖の世界史」では、サトウキビをプランテーションにより大量生産していましたが、鶏肉も食肉用として特化した個体が大量生産され、採卵用のニワトリにいたっては廃棄されているというのが衝撃的でした。
日本で1番に養鶏場を始めた人が、放し飼いのニワトリをゲージに入れたら卵を産まなくなったので、ヒヨコのうちからゲージで買うと卵を産むようになった、という斎藤一人さんの話(今の学校は我慢の訓練を強いていて、機械のような人を作っていることを懸念)も思い出します。もっと人権ならぬ鶏権を考えてもいいのではないかなと考えさせられました。