自己都合で退職した元同僚が半年間のプー経験を売りに在籍時以上の待遇を求めて復帰を希望してきて驚いた。 (original) (raw)

昨夏「自分探し」を理由に自己都合で退職したゆとり世代の元同僚君から、会社に戻りたいという連絡を受けた。入社半年での退職。「夏を満喫できなかった」と主張して夏休みを二回取得しての退職。そしてセルフプロデュースの送別会。そんなゴタゴタを経ての退職であったので、正直きっつい、と思ったが、元同僚であるし、武士の情けで人事に頼み込み、面接をすることになった。

人事担当と僕とで面接をおこなった。驚愕した。ゆとり君は、退職後の半年間のプー体験をポジティブにとらえて「精神的な強さが身に付いた」とし、在籍時以上の肩書き、給与を要求したうえ、あろうことか「会社にとっての投資」といってプー時代に納めていない年金・保険料の肩替わりを求めてきた。「精神的に強くなったのはよ〜くわかったよ」というと、なぜか意気揚々とゆとり君は引き上げていった。面接後、部長は「自分の死に場所を見つけられないような出戻り野郎は俺の部隊では闘えない」とゆとり君に厳しい評価を下していた。その後、部長自身が出戻りであったと第三者から教えられたとき、悲しかった。

面接の結果は採用見送りであった。ゆとり君の名誉のために補足させていただきますと、今回の結論は、彼の常識を超越した要求が原因ではなく、純粋に彼の適正と能力を評価してのことであった。僕が彼に伝えることになった。待ち合わせの喫茶店には、彼以外にもう一人、若い女性がいた。女性はゆとり君の彼女さんで女子大生。僕が、場を和ませようと、「男女二人なんてバービーボーイズみたいだね」と言うと、彼は「またロックですか(苦笑)。課長のおっしゃるロックという概念はスギちゃんのいうワイルドみたいなものっすよね」と言う。喧嘩売ってんのか、立場もわきまえずワイルドだぜぇ。それでも私は大人だ。声をあらげたりはしない。

二人であらわれた理由を尋ねると「ビジネスですよ課長。交渉を優位に運ぶために課長世代一人を俺ら世代二人で支えなきゃならない実態を可視化しました」。意味がわからない。それから訊いてもいないのに「辞めたときは課長みたいにくすぶっているのがイヤだったんすけど、今はくすぶりもありかなって思ってます」。なぜに微妙に上から目線なのかわからない。

僕は採用見送りを告げた。「ダメってことですか?」「まあそうだね。今回は。申し訳ないけれど」「訴えますよ?」「えっ?」、緊迫。緊張。「保健所に訴えますよ?」保健所?「恥をかきたくないならヤメるんだ!」と助言すると「恥をかくのは課長のほうですよ?」と謎の脅迫。

すると彼女が「彼の人生を台無しにするつもり?課長さんは責任取れるのですか?」と僕を詰問してきた。なんだこのワンダーは。呆然としていると彼女は「そこまでして私たちの結婚を邪魔したいのですか?課長さん何でですか?それとも結婚できないひがみですか?」などと立て続けに既婚者の僕に追い討ちをかけてきた。その勢いに、既婚者とカミングアウトできなかった。「俺らは課長のような団塊世代のツケを払わされているんですよ?わかります?」。言いたいことはわからないでもなかった。ただ僕は団塊世代じゃないのだぜ。

「要求がキツかったかなぁ。じゃあ譲歩して肩書は諦めますよ。平でいいです。ヒラで。ただ他の待遇面はお願いしますよ。健康で文化的な最低限度の生活は法で保証されてますよ?」どうして脅迫ベースの話しか出来ないのだろう。「いやだから今日は交渉とかなしでダメだから」。ダメと言わなきゃダメなんだ。

彼女が「実は子供ができたんです」と告白してきた。素直に、おめでとう、とお祝いをいうと「そんな気持ちのない言葉はいいから彼を会社に戻して。彼が何かした?」。いや、むしろ何もせずに辞めたからなのでは、と言うのは、事態がややこしくなるのでやめた。なんでそんなに必死なんだ?と疑いながら「生活保護とか申請してみたら?」とアドバイスすれば「オヤジが会社やってるから無理っすよ。課長は俺のツイッターを炎上させたいんすか?」と言ってくる始末。知らねーよ。「課長、俺が勘当されててよかったっすね?」「なんで?」「うちのオヤジおこらせると怖いっすよ」。付き合いきれん。つか勘当されていたのね。

「金がないなら車売れば?」「ダメです」「なんで?」「プロポーズした大切な場所だから」。はは。テーブルの下で手を握ったのが丸見えだよ。微笑ましいね。もういいね。

「そういうことだから」と話を打ち切ると、彼は「どう頑張ればいいのですか?」と言ってくる。「職安とか求人雑誌とか詳しくは知らないけれど、今はネットとかあるしさ」すると、なるほど、そうですか、と呟いてから「保健所への訴えもネットでオッケーなんですか?」とくるから調子が狂う。そっちかよ。「直接いかなくてもいいんだ。スマホでもいけますか?」と彼。「アプリとかあるんじゃない?」と彼女。勝手にしやがれ

もういやだ。「とにかく今回はナシだから」くだらないやりとりを断ち切るように念を押すと「お願いがあります」とゆとり君。真顔だ。聞いてやろうか。武士の情けだ。3秒後に僕は後悔することになる。「辞めるときに残してきた…」…何だ?爆弾でも仕掛けたか?「年休を現金にしていただけませんか?課長の力で」。

てめえ、という気持ちにはならなかった。彼らなりに必死なのだ。子供も生まれるし。いろいろな世代があるけれど、それぞれが不安という不発弾を抱えているようなものだ。皆同じだ。世代でくくるのはやめよう。僕はそのとき心の底からゆとり君に頑張ってほしいと思った。そして今後ゆとり君と呼ぶのはやめにしようと決めた。

「本当に今回はゴメン。単に縁がなかったということで」「いいんですよ、課長」「君が辞めてから静岡に異動になってしまってね、今ちょっと本社では、ま、とにかく力添えが出来なくて」すると彼が「課長使えないっすね」。…今、なんと?耳おかしくなったか。空耳アワー?。とまどっていると「俺が戻れないのは、課長の力が足りないからじゃないですかー。勘弁してくださいよ」おいおい。返せ。僕の気持ちを返せ。前言撤回。彼をゆとり世代でくくってはその他大勢が不憫すぎる。ゆとり君はゆとり君ではない、ただの腹田だ腹田君だ。こうして話し合いは決裂した。

「もういっすわーオウムの逃亡犯を捕まえて懸賞金狙いますから」といってその場をあとにした二人の消息を私は知らない。だが、信じている。あのタフネスがあれば、たとえどのような困難であっても生き抜けると。最後に、彼の捨て台詞をここに記して結びの言葉としたい。

「本当にいいんですか、俺、必要悪ですよ?」

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