想定を数倍超えるヒットに。“鉄道方向幕”という単語にピンときた人は読んでほしい。鉄道ファンが大好きなアレを完全再現したゲーム(?)は熱意と近畿日本鉄道の寛大さでできた【電撃インディー#777】 (original) (raw)

電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー

今回は、カエルパンダより9月5日に発売されたNintendo Switch用ソフト『くるくる回そう!方向幕コレクション for Nintendo Switch -近畿日本鉄道編 part1 近鉄奈良線- 鉄道方向幕シミュレーター』の開発者インタビューをお届けします。

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本作は、鉄道車両の方向幕を再現したシミュレーターアプリのシリーズ第1弾。ニンテンドーeショップでは9月26日23:59までの期間、10%オフの900円で販売されています。

本記事では、カエルパンダ代表で本作のプロデュースと開発全部(ロゴデザインとサウンド以外)を担当した奥田氏にお話を伺いました。

なお、電撃オンラインは、尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

――そもそも本作を開発することになったきっかけや、目指したコンセプトについて教えてください。また、なぜ方向幕という部分に注目したのでしょうか。

ちょっとヘビーな話から始めると、昨年、会社の業績が最悪な状況で、巻き返すためにいろいろなパブリッシャーやインディー系の出資者に企画提案し続けていました。

ですが、残念ながらうまくいかず、会社にまったくお金がなく、借りることもできない状況になってしまいました。

お金がない状況に対して受託仕事を取りに行くと足下を見られてしまいがちですし、出資系の方々へは今流行っているタイプではなくこの先を見据えたコンテンツを提案していたつもりだったのですが、ビジョンがマッチしませんでした。これ以上こちらが制御できない所で話がひっくり返ると詰んでしまう状況でもあったので、誰かに仕事をもらったり、お金を出してもらったりする方向性で足掻くのをやめました。

会社を立ち上げてからこれまで、奥さんである河上京子が社長を務めていましたが、いったん奥さんには彼女の20年以上に渡るコンテンツプロデュース経験で培った超絶高い法務スキルを生かし、堅気の会社の法務担当として出稼ぎに出てもらい、奥田が社長を引き継ぎました。

そんな中、

奥田1人で作ることが可能で、作れば確実に一定数の売上が見込めて、かつ継続的に制作可能なプロジェクトを模索していました。――なんと、そんな大変な状況に……。

パズルゲームの試作なども行っていたんですが、キャラには自信があったものの、それを手に取った誰もがおもしろく感じるものにするには最低でも半年以上かかってしまう……。もちろんそんな時間はありませんでした。

近年のゲーム市場を見ても、完成したとしてモノが良くても当たるかは正直未知数。そんな中、子どもの時に大好きだった鉄道に着目しました。

就職以来、東京に20年住んでいますが、近鉄奈良線沿線で育ち、子どものころ、電車が大好きで、車両だけでなく方向幕や貫通路の幌とかのギミックのあるデバイスが好きでした。

幼少期に父親が紙箱で方向幕を作ってくれて、それをくるくる回して1日中遊んでました。父親が作ってくれたことで構造がわかったので、その後は自分でも20~30個くらい作ったと思います。

――子ども時代に方向幕を手作り! そこで奥田さんの鉄道好きと本作がつながってくるんですね。

あと、大阪にあった交通科学館のお土産コーナーで買ってもらった、ブルートレイン客車の側面方向幕のレプリカとかも持ってて、これも同じように一日中遊んでました(笑)。

方向幕には、1日中くるくるさせて見ていたくなるような不思議な魅力があることを体験として知っていたのと、任天堂ハードを15年くらいやっていて、Nintendo Switchもローンチ近くからゲーム開発でかかわっていて特性も分かっていることも相まって、Switchのスクリーンサイズと方向幕との相性の良さに気づいたことが本作の発想の種になってます。

あと、Joy-Conを外して、遠隔で操作できるのもいいなぁと。ほかにも機器更新で近年急速に姿を消していってて、これらをアーカイブしていくという意義もあるんじゃないかと思いました。

こういうものを取り扱う場合、最大限の愛情を注ぐことが大事で、個人的に割とマニアックなところまで勘も働く近鉄奈良線を最初に題材にすることがベストだと思いました。

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しかも、近鉄さんは保有車両数が膨大なこともあって、関東では絶滅危惧種となっている幕の現役車が結構残っており、近鉄好きの方々に対して年齢層広めにアプローチできるところも好条件と思いました。

――近畿日本鉄道さんにお話をもっていった際の最初の反応はいかがでしたか?

昨年末に近鉄さんの版権窓口へ直電し、こう言うものを作ろうとした場合、ライセンスを出していただくことは可能か伺ったところ、ウチみたいな零細に対しても丁寧に条件等を教えてくださって、「実態のある法人で妥当性のある企画内容であればライセンス可能かもしれないので、ひとまず企画提案ください」とのことでした。

伺った条件も鉄道ファンに向けて“近鉄”というブランドを使えることを考えるとキツくなかったので、ライセンスアウトしていただくための企画提案の準備を進めました。

企画書とプロトタイプを作り、企画書は事前に送りつつ、今年の2月頭に関西へ行くタイミングで、近鉄さんの版権窓口である近鉄車両エンジニアリング(KRE)さんへ伺って、プロトタイプを使ってプレゼンをしました。

大きい会議室に先方のメンバーがズラーッとたくさん出てこられたのですが、6~7人くらいの年長の方々を中心に全員がおもしろがって大喜びして下さって、ライセンスアウトを即決していただきました。ちなみに、特に喜んでいただいた年長の方々は、みなさん元運転士や元駅長さんだと伺っています。

――実際に遊んだ方々の反応は?

近鉄グループさんで展開している鉄道グッズの中でも方向幕を題材にしているものは売れ筋商品とその時に伺い、「これ、たぶん売れるよ」ということをその場でおっしゃっていただきました。

デモができた段階で、全然鉄道ファンじゃないウチの河上や自分の母親にデモを見せたときも大喜びしてくれて、それもかなり後押しになりました。

また、4月から弊社に役員で加わった九条ネギオが状況を知って、最初の2~3本を作れるくらいのお金をポンと支援してくれました。そして、支援してもらったお金が尽きるギリギリのところで、なんとか完成まで漕ぎ着けました。すでに数本仕込んであります。

――完成までにさまざまなドラマがあったんですね。続いて、『くるくる回そう!方向幕コレクションfor Nintendo Switch』の注目点を教えてください。

さわっていただくと分かると思うのですが、Nintendo Switchのスクリーンと方向幕について、メチャクチャ相性良く、ホンモノ感がすごいんです!

鉄道ファンなら所有感やホスピタリティを感じていただけると思います。

ゲームだと、他人のプレイを見てお腹いっぱいになることもありますが、本作は自分でも持っていたくなる点は珍しいと思います。

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――非常にリアルな音や動きで、綿密な取材があったのだと思いますが、いかがでしょうか? また、取材時に印象に残っている出来事などがあれば、教えてください。

リリース後、早速、実物との比較動画を出している方もいらっしゃいますが、リアルモード=“オン”、速度=“リアル”設定にした時の挙動は、ほぼ実物と同じ動きをします。ただ、あそこまで再現できているとは……と、我ながらよくやったなぁと思ってます(笑)。

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▲こんなところまで開けちゃうの!? 細かい取材によって、高い再現度が実現しているんですね。

プロジェクト途中から、鉄道ファンの間では“もじ鉄”本でお馴染みで、タモリ倶楽部にも鉄道系企画で出演経験のあるデザイナーの石川祐基さんにロゴデザインや書体などの監修でご協力いただいています。

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幕の内容に関しては、5月にKREさんから実車から取りだした方向幕のロールの実物を何本かお借りできることになり、届いた後に近所のダンススタジオで石川さんと幕を広げてフォント等を検証する作業をやりました。

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▲幕を広げると、こんなに長くなるんですね!

プロトタイプでは似たフォントを埋め込んで幕データを作っていたのですが、石川さん曰く「近鉄さんの幕で使われている文字は、DTPフォントとして流通していない頃の写植時代のフォントで、全然違う」とのことでした(笑)。

いろいろ検討した結果、幕の文字データをすべて取り込んでテクスチャとして持つ方針に変更しました。

データを取り込むにあたって、最初は絵画や掛け軸などの美術品をスキャンする業者さんとかで見積もりを取ったのですが、今回収録分だけで100万円を超え、もちろんそんなお金払えません(笑)。幕の写真からPhotoshopで補正・加工してテクスチャ化するというやり方を試したところ、かなり良い結果が得られたので、今はこの方法でやっています。

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ただし、歪みなどを取りきれてないところがあるので、今後はプロジェクトを軌道に乗せていきながら、もう少し精度は上げていきたいです。

その後、こちらの暑苦しいくらいの熱意と、KREさんや近鉄さんのご厚意で、実車の取材も可能になり、6月に友人の音響エンジニアであるDavid Shimamoto氏に同行してもらって、鉄道マニアの間で超有名なお化けポイント群の先にある西大寺検車区へ伺い、実車からの音声収録やお借りできなかった幕の内容などについての取材を行いました。

当初、5800系と8000系についてトータル2時間での取材というお約束だったのですが、奈良線系統の中でも仕様が特殊な3200系がちょうど入庫していると言うことで、こちらについてもアディショナルタイムで可能な限り追加取材をさせていただけました。

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音については、正直かなりオマケ機能の想定だったんですが、David Shimamoto氏がかなりガチの機材を持ってきて(PVをご参照ください)、超高音質でいろいろ収録できました。幕コレ for Nintendo Switch 近畿日本鉄道編 PART1 近鉄奈良線 鉄道方向幕シミュレーター PV

ただ、他のバージョンでも同じクオリティと物量で収録できるかどうかはちょっと微妙だったりします(苦笑)。実車と音の組み合わせが一部違うという点についてもご指摘をいただいていますが、近鉄さん側のご厚意の中でやれたギリギリ一杯なのでこちらについてはお手柔らかにおねがいします(笑)。

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スタッフクレジットに、ご協力いただいた近鉄さん側の関係者の方々のお名前を掲載したかったのですが、近鉄グループの社内規定でそれができず……。かかわってくださったみなさまには本当に感謝してます。もう、近鉄グループ様には足を向けて寝ることができません。――近畿日本鉄道さんの監修について、印象に残っている部分などがありましたら教えてください。

ロゴと音以外は全部自分1人でやりました。もちろん車両イラストなども自分で描いたのですが、用意した素材に関しての監修は全部一発OKでした。

「監修一発OKってめちゃくちゃ珍しい」とKREさんから言われましたが、ここはもう自分の近鉄愛の勝利だと思っています(笑)。イラストはKREさん経由でいただいた広報用車両素材や自分で撮った写真を中心に参考に作成しました。

むしろ、発売直前に作ったPVのほうがなかなか通らずで、2秒ほど出てくる路線図のイラストのOKをいただくのに何度かやりとりが必要で、承認に1週間ほどかかりました。

――開発をするうえで、特に気を付けた点を教えてください。また、開発で苦労したところがあれば教えてください。

開発面だと、ロードが速い、引っかからずにスムーズに動く、触っていて気持ちがよい、操作が小難しくない、あたりを重視しました。

このあたりは完全に自身のゲーム開発の哲学や今までのノウハウでやっています。おそらくゲームの開発経験抜きで、パッと同じコンセプトのものを同じクオリティで真似して作ろうと思っても難しいと思います。

プロデュース面では、アプリケーションの仕様を方向幕を回すことの楽しさにフォーカスして、余分な要素を排除することに徹しました。近鉄電車が大好きだった少年時代の自分に問いかけて、彼が喜ぶであろう要素に絞って収録しています(笑)。

ゲーム的におもしろくできるアイデアはあったのですが、例えば“アプリ内で何かやるとフラグが立って、順に新しく何かできるようになる”といったことはあえて全部排除しました。ですので、最初からすべての機能にアクセスできます。

操作周りに関しても、当初、方向幕を操作する“指令器”と同じものを再現しようと思っていたのですが、車両ごとに指令器の仕様が違ったのと、再現しても操作が小難しくなってしまいそうだったので、そこはもう割り切った仕様にしています。

イラストに関してはもう少しリアルに描き込むことも可能だったのですが、あくまで方向幕が主役なので、車両のイラストが方向幕を食ってしまわない程度のゆるさにしています。

ライブラリ的なモードがありますが、あえて細かい説明は入れず製造年程度にとどめています。本アプリをきっかけに興味を持った項目について、ユーザー自身が調べるみたいなところも遊びになるかなと思っています。

好きな人に本作の楽しさがダイレクトに伝わるよう、PV製作も、SNS運用も全部自分1人でやっています。

介在する人が増えるにつれて、作り手側でいくら強力なコンセプトを考えて作っても、余分なメッセージが足されたり、フォーカスがブレてユーザーに伝わらなかったりということもありがちですので、現状は良くも悪くも“ニッチ”と言われながら、好きな人たちに確実に刺さっている実感があります。

非常にニッチな製品のため、試算自体はだいぶ渋めではあったのですが、おかげさまで、当初の試算を数倍ほど上回るペースで売れており、好調です。1週間の予約販売分だけで、当初の初月売上見込みを超えることができました。野球で例えると、バントしたら内野を抜けて外野まで転がって行ったイメージでしょうか(笑)。ご購入いただいたみなさま、ありがとうございます!

――今後の抱負や挑戦したいことについて教えてください。

『近畿日本鉄道編PART1』なので、もちろん近鉄さんのPART2以降についても準備しています。

他にも水面下で複数の鉄道会社様と既にライセンス契約をしておりまして、今後1~2カ月サイクルで新作をリリースしていく予定です(第1弾リリース後の様子を見ていた関係で、第2弾までだけはほんの少し時間が空くかもしれません)。

もう少しプロジェクトが軌道に乗ったら、さらにマニアックなところまで攻めたプロ版も製作したいと考えていますが、今はひとまず対応する会社さんや路線を増やしていく方針です。

ありがたいことに本作を知ったユーザーさんから、それぞれ推しの鉄道会社さんや路線のバージョンを作って欲しいという要望も既にたくさんいただいておりまして、現在複数社と交渉中ですので、引き続きご期待下さい!

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