山下美月卒業コンサート感想 (original) (raw)

2024/5/11,12に開催された山下美月卒業コンサートを見て、あまりの衝撃に感想を言語化しないのはもったいないと感じたため、筆を執ることにした。セトリを振り返りながら印象に残った点に触れていきたい。

1-1.チャンスは平等

最初の曲は最新のシングルの曲だった。
この卒コンはセトリも含めて山下自身が構成を監修しており、1日目はしんみりしすぎない明るく楽しいライブとなるような構成としたと言っていた。『チャンスは平等』が発表された際、その曲調には批判の声も少なくなかったが、卒業曲でありながら悲しい曲調になりすぎないようにという意図も見て取れる。その点において1日目のライブのコンセプトを体現している曲であると言える。
『チャンスは平等』を一曲目に持ってきたのは、この日のライブをどのようなものにしたいかという意思表示であると感じた。

1-4.キャラバンは眠らない

2018年、22枚目シングルのカップリング曲である。当時の若手メンバーで構成されたユニット曲であり、当然山下も参加している。当時は3期生は一番下であったが、今や3期生が一番上となってしまった。6年間の月日を経て、当初の期待通り、あるいは期待以上に若手メンバーが成長し、グループの中心的存在となった。この曲を聞いていて、そのような時の流れを実感した。
余談だが、この曲を象徴するフレーズとして、サビの最後の「前の世代を超えろ」というものが挙げられる。しかし個人的には、2番サビの最後の「違うルートを探せ」の方が好きである。必ずしも前の世代を超える必要はないではないか。生身の人間がやっていることなのだから。

1-6.ガールズルール

ド定番曲。白石麻衣という圧倒的存在が卒業し、二代目としてこの曲のセンターをずっと務めてきた山下だったが、また1つの時代が終わってしまった。

1-11.失恋お掃除人

直前のVTRが流れた時点でこの曲が流れることは確信できた。が、そこからの展開までは予想できなかった。
軍団長である若月が卒業してからこの曲がライブで披露される機会は少なく、最後に披露されることを多くのファンが望んでいた。しかし我々が思っている以上にメンバーはこの曲を大切に思っていたようだ。若月は卒業後のこのユニットのメンバーをずっと気にかけていたし、後輩たちもそんな若月を慕い続けている。リリースから7年、卒業から6年経っても、変わらない関係がそこにはあった。
その意味で『キャラバンは眠らない』で感じたこととは対照的であった。時が経って成長したことと、時が経っても変わらず持ち続けているものの両方を実感できたライブであった。

1-12.白米様

『失恋お掃除人』を皮切りにユニット曲が続くパートかと予想していたが、『白米様』が来たことで、軍団曲パートが始まっていたのだということに気付いた。
軍団長であった松村は、山下の面倒を特によく見ていたメンバーの一人であった。山下自身は先輩と積極的に関係性を築くようなメンバーではなかったこともあり、松村のことを慕い続けているのだろう。そのような関係性があった上でこの軍団曲パートが実現したのだと思った。

1-14.遥かなるブータン

イントロが流れてきて、何故この曲?と思ったのだが、ちゃっかり歌詞に「山」や「美」が入っていて笑ってしまった。
「山の向こうにあると言う 愛に溢れた国」というのは、山下が卒業したあとの乃木坂46に期待する姿なのかもしれない。
追記:
どうやら過去に、「この曲卒コンでやります!」みたいなノリがあったようだ。

1-15.恋山病

直前のコールアンドレスポンスのくだりを聞いて、聞き覚えのない歌詞だったため忘れている曲が来るかと思ったら、まさかの新曲が来て驚愕した。しかも作詞と振り入れを山下本人が担当したという。35枚目シングルに収録された『夏桜』も山下自身が作詞したことが明かされている。グループ内で誰よりも忙しいはずの山下が2曲も作詞し、振りの考案もし、卒コンの構成まで考えていたという事実に言葉を失った。*1
軍団曲らしいおちゃらけ感もありつつ、およそ素人が作詞したとは思えない出来の楽曲であった。夏桜もそうだったが、今後匿名の作詞で楽曲を紛れ込ませても気付かないのではないかと思った。いや、逆に出来がよくて気付くかもしれない。威厳を見せてくれ秋元康

1-16.銭湯ラプソディー

歌詞が発表されたとき少なからず困惑された楽曲であったが、ライブで披露される機会は多くなかった。ユニットメンバーの一員である田村はこのライブの最後で、「せっかくもらったこのユニット曲を披露できたことが嬉しかった」と述べていた。メンバーにとってユニット曲をもらえるということは当たり前ではない。そんな一曲を救った披露であった。

1-18.自分じゃない感じ

自分じゃー? ない感じー!

1-21.I see…

120%披露されることが分かっていた曲で、120%の満足感が得られた。安心と信頼の一曲。もはやこの曲からは貫録が感じられる。

1-22.逃げ水

期別曲パートでありながら3期曲ではない曲が来た。1日目に披露された3期曲は、2日目にも披露されている『自分じゃない感じ』のみである。
もし、もし仮に、同期の中村が2日目にしか参加できないことを考慮しての構成であるのだとしたらと思うと、勝手に暖かい気分になった。

1-26.帰り道は遠回りしたくなる

オリジナルの振り付けではラスサビ前に西野と秋元によるダンスパートがあるのだが、この日は山下と梅澤によるダンスパートであった。この曲自体も卒業楽曲であるということもあり、とてもしんみりした気分になってしまった。

1-27.Sing Out!

この曲は齋藤飛鳥のセンター曲であるが、同時に山下が休業していた期間の楽曲でもある。この楽曲を引っ提げて臨んだ2019年の夏ツアーで山下は復帰したわけだが、復帰が発表された映像でこの楽曲が流れたことで、歌詞のニュアンスも相まってこの『Sing Out!』はある種山下へのメッセージを含んだ楽曲であるという印象を持っていた。

ここにいない誰かのために
今、何ができるのだろう

風に乗って飛んで行け 愛の歌
一人ぼっちじゃないんだよ

仲間の声が聴こえるか?

人はみな弱いんだ
お互いに支え合って
前向いて行こう

あのとき一歩間違えば、山下はそのまま卒業していた可能性も低くなかったという。それは紙一重世界線であったのかもしれないが、活動を続けようと思えたのは先輩や同期に囲まれていたからであり、乃木坂46がそれまで築き上げてきたものが偶然を必然にしてくれた。その山下自身が変えたグループの未来も少なからず存在するはずで、巡り合わせとは不思議なものである。
そんなことを思いながらこの曲を聞いていた。

1-EN2.ダンケシェーン

ライブの定番曲であり、卒コンの定番曲でもある。1日目のコンセプトである、明るく楽しい卒コンによく合致した曲だなと、最後まで感じることができた。

2-1.三番目の風

満を持しての3期曲。『三番目の風』でのスタートは3期生ライブでは定番の流れである。
3期生にとって初めての楽曲である『三番目の風』。長いこと12人全員で披露し続け、今でも1人欠けただけの11人で披露し続けてきたが、とうとうまた1人欠けてしまう時が来たかと思うと最初から気分が沈んでしまった。

2-2.自分じゃない感じ

自分じゃー? ない感じー!(1日ぶり2度目)
3期曲で山下が単独センターを務めるのは、意外にもこの曲だけである。

2-7.満月が消えた

まさかの「月」パートが始まって笑ってしまった。
おふざけ感、適当感、絶妙なダサさが山下美月の真骨頂である。

2-11.初恋ドア

これまでずっと封印されていた幻の楽曲が最後の機会に披露された。直前のVTRで「一度も披露していない曲」という言葉が出たとき、思わず声を上げそうになった。ずっと閉ざされていたドアが山下自身の手によってようやくこじ開けられたからだ。
この楽曲は2017年から始動した「坂道AKB」の最後の楽曲である。各グループから若手メンバーが招集され、山下はその中でセンターを務めた。王道なアイドルソングという曲調のこの楽曲で、しかも錚々たるメンバーを差し置いてセンターを任せられたというところに、当時の山下への期待値の高さが感じられる。
そんな本曲は、AKB48のライブでは何度か披露されていたようだが、乃木坂46としては披露されることはなかった。山下自身も、直前のVTRで「MV撮影で踊って以来一度も踊っていない」と述べている。*2
山下にとっては大きな仕事の1つだったはずだが、そんな楽曲が埋もれて、今まさになかったことにされようとしている。それを嘆き、いつかライブで本曲が披露されることを望む声は一定数あった。本人にとってもファンにとっても特別な楽曲を「どうしてもセットリストに入れたかった」と語ってくれたのを聞いて、山下美月というアイドルが信用可能であることを改めて認識できた。
そして披露するメンバーとして新4期生が選ばれたことも嬉しかった。新4期生は加入タイミングも相まって、中々チャンスが回ってこないメンバーが多く、そんな中で5期生が加入し6期生も加入しようとしている。各グループの期待の若手メンバーに与えられたこの楽曲を一緒に披露したことは、山下から新4期生への激励を込めたメッセージであると感じた。
満を持して最高の舞台で披露されたことによって、幾多もの亡霊たちは報われた。しかし同時に、披露されてしまったことによって、新たな亡霊たちが生み出されてしまったのかもしれない。困ったことに、どうやら私も、その中の一人になってしまいそうだ。

2-12.ファンタスティック3食パン

乃木坂46の歴史における3大ターニングポイントを挙げるなら、「映像研」はその1つであると思っている*3
1人欠けたポジションに代役を立てるかと思いきやオリジナルの2人で披露したところに、この曲に関する思い出がどれだけ大切なものなのか垣間見えた。
ルーレットタイムはいつものことなのでここは単なるユニット曲パートなのだと思っていたら、突然真面目な手紙が読み上げられ、間違いに気付いた。「私とやまは背負うものの種類が違うから、中々手を差し伸べられなくて、それが少し心残り」と語った梅澤からは、キャプテンとしての葛藤と心遣いを感じた。「私はいつからかずっとやまのことが心配だった」「背負うものがたくさんあったと思う」「器用に見えて不器用なやまが大好きだった」梅澤から山下に向けられた言葉であるが、それは同時に、山下から梅澤への思いでもあるのだろう。お互い難しい立ち位置でありながらも、ある種似た者同士で支え合っていた二人の関係性が感じられた楽曲であった。

2-13.1・2・3

伊藤が山下と最も仲の良かったメンバーであったことは周知の事実であり、その二人でのユニット曲披露となった。
二人ともポケモン好きであるということもあり、ユニットで披露するにはこの上ない選曲であったと言える。本曲に限らず、「この曲をこういう形で披露したい」というちょっとした夢は活動していく中できっといくつもあって、その集大成がこの卒コンにつながっているのだと思う。
「隣、キミに決めた!」という〆の歌詞から、これからも相棒としての関係が続いていく二人の未来が見えた。

2-14.言霊砲

梅澤からのメッセージがあり、伊藤からのメッセージがなかったことで、このパートはユニット曲パート兼メッセージパートであることを悟った。アンコールで各期代表がメッセージを送るのが卒コンでの通例となっており、そうでないメンバーのためのパートなのだと分かった。その上で、ステージ上に与田と久保の姿が見えたとき胸が締め付けられた。
「いつからか言葉にするのをやめてしまった」という言葉も辛いものがあったが、直後に与田がフライングした「しつこいくらいがいい 言葉にしよう」がまた身に染みた。

2-15.無口なライオン

二人とも終始涙が決壊寸前だったこともあり、見る側もハラハラしてしまった。
梅澤のメッセージのときと同様、山下から賀喜への歌詞に込めたメッセージはたくさんあったであろうが、それは同時に賀喜から山下へのメッセージでもあるのだろう。

孤独隠して 強くなきゃいけない
悲しい背中
泣きたいときは泣けばいい
涙こぼしても 君は王者なんだ

自己嫌悪なんか意味ないよ
強く生きることが 君の仕事なんだ

2-16.銭湯ラプソディー

流れをぶち壊す選曲であったが、意図的に流れを変えに行っているのだと思う。

2-20.図書室の君へ

直前の楽曲が『心にもないこと』だったため、「次は4期曲だろうな。最近の曲だしライブ向きでもあるジャンピングジョーカーフラッシュかな。」などと能天気なことを考えていたが、イントロが流れた瞬間己の浅はかさを反省した。
この曲のセンターである掛橋は、ライブ中の事故が原因で1年以上休業を続けている。その代役としてセンターに入ったのは、仕事の関係で前日のライブを欠席した柴田であった。
全員に出番、見せ場のあるライブにしたいと、前もって山下は語っていた。この曲の披露を見て、"チャンスは平等"をもっとも体現しているのはこの選曲だと感じた。

2-23.不眠症

この曲について語りたいことは大量にあるのでまた別の機会にするとして、本編の〆に向けての表題曲ラッシュの皮切りという大事な部分でこの曲が選ばれたことが嬉しかった。
山下と久保の2人で何かしらのユニット曲をやるのだろうと思っていた。『孤独兄弟』『心のモノローグ』などなど、やるのではないかという楽曲はいくつもあった。しかし結果として、Wセンターという形が彼女たちの選んだ"くぼした"の見せるべき姿なのだと思った。

2-27.思い出ファースト

『思い出ファースト』での〆は3期生ライブの定番の流れである。『三番目の風』に始まり『思い出ファースト』に終わる安心感があった。この曲のイントロは何度聞いても、そこはかとない寂しさを感じてしまう。大園が卒業する前あたりからその感覚が強くなったが、山下の卒業で寂しさがより強くなってしまうのだろうと思った。

2-EN2.未来の答え

"くぼした"にとって初めてのWセンター曲。歌詞を見てしんみりしてしまった。彼女たちは"未来の答え"を見つけることができたのだろうか。きっとその答えを見つけて卒業していったのだと信じている。

未来に答えがある 回り道何度もして
ようやくわかったよ 答えを探すため
生きるのが人生 一生賭けて見つける

一ノ瀬からのメッセージ

前日の軍団曲パートでは大車輪の活躍だった一ノ瀬。彼女ならこれくらいはやってくれるだろうという信頼を感じた。支え合えるだけでなく、いじり合えるくらいに関係を構築できていた2人。「アイドルを演じる」という点において山下と一ノ瀬は同系統だと思う。山下がいなくなってもその分一ノ瀬がやってくれるだろうという期待を抱きながら見ていた。

賀喜からのメッセージ

直前のスピーチで「誰かの希望になれたらいいなと思って毎日頑張っていた」と語った山下を、「私の希望になってくれてありがとうございました」という言葉で報わせた賀喜。
「乃木坂頑張れそう?という言葉に対してはいと言えなかったことを後悔している」と語った賀喜を、「乃木坂をこれからもよろしくね」「はい!」というやり取りで救った山下。
ずっと涙でボロボロになりながらも思いを語る賀喜の姿を見るのは苦しかったが、そこにはこの上なく優しさに包まれた空間が広がっていた。

伊藤からのメッセージ

『チャンスは平等』のフォーメーションには賛否あったが、「卒業シングルでそばにいられることを願っていたから叶って嬉しかった」「私の力不足で本当に辛いときにいられなかった」という言葉を聞いて、これでよかったんだと思った。
「家で倒れたと聞いた」という話に触れたときには殴られたような気分になった。それでも今に至るまで活動を続けてくれたことに感謝したい。

2-EN5.チャンスは平等

月から登場し、月に帰っていく2日間だった。『チャンスは平等』に始まり『チャンスは平等』に終わった2日間だった。

『初恋ドア』から『無口なライオン』のパートがあまりにもよかった。

ライブの円盤を買って見ることはあっても、一度見たライブのリピート配信を敢えてもう一度見ることは今までしてこなかったが、今回はもう一度見たいと思えるライブだった。山下のいるライブはこれでもう最後なのだと思うと寂しさはあるが、最後だからこそこれだけのライブになったのだとも思う。