焙焼,釜妙り操作による茶香気の形成 (original) (raw)

抄録

露天栽培と被覆栽培による荒茶および焙焼度を2段階に変えたほうじ茶と釜炒り茶の香気組成を比較して,加熱操作が香気形成に及ぼす影響を調べた.その結果以下の知見が得られた.
(1) 荒茶では,緑茶の主要香気成分と考えられているテルペンアルコールに加え,maltol, coumarin, pyridine, indoleなど甘い香りや異臭成分の組成比が高く,複雑な緑茶香気の形成に寄与していた.
(2) ほうじ茶および釜炒り茶では,ピラジン,ピロール,フラン,ピラノンなど,糖とアミノ酸によるMaillard反応生成物が香気の主たる部分を占め,焙じ香の要因となっていた,特に,L-テアニンとD-グルコース,D-キシロースの加熱で生成する1-ethyl-3, 4-dehydropyrrolidoneの生成量が大きかった.
(3) ほうじ茶から86化合物が,釜炒り茶から44化合物が新たに同定された.その多くは焙焼香気に寄与するものであったが,荒茶や釜炒り茶に認められたsulfinylbismethaneとsulfonylbisme-thaneは,緑茶香気にとって重要な含硫化合物と考えられた.
(4) ほうじ条件として,茎が入る場合には強めの150°C, 12minが,茶葉だけの場合には温度を下げ,時間を短くしたマイルドな条件の130°C,10minが適していた.また,100°C,15minの条件では十分な焙じ香を得ることができなかった.
(5) 露天,被覆の栽培法の違いが焙焼香気形成に及ぼす影響はそれほど大きくはなかった,しかし釜炒り茶では,露天茶はアルコールの含有比が高いが,被覆茶はピラジン,ピロールなど含窒素焙焼香気成分の含有比がかなり高いという差異が認められた.
本研究を進めるにあたり,試料提供と試料の焙焼をご担当いただいた静岡すいこう園の水越良和氏に深謝いたします.