【哀話】ネコとおじいさん (original) (raw)
この話を思い出すと、切なくなる。
アタシはジョギングを習慣としている。
コースは地元の港まで歩き、港内を1周走るのが定番だ。
その港には公園が併設されている。
公園や港ってなぜだかネコが付きもので、そこの港にも例外なくいた。
白いネコだ。
アタシはネコ好きなので、モフろうと手を伸ばすがその白ネコは絶対近寄ってこない。
そして、その公園に住所を持たないおじいさんが住み着いていた。
テント生活をしており、昼間はイスを出して本を読んで過ごしているようだ。
穏やかな雰囲気の方だ。
これまで色々あったのだろうな・・・、と思いながら横を走る。
ある日、アタシがおじいさんのテントの前を通った時、いつも通りイスに座り本を読んでいるようで、フッと見ると白いネコがおじいさんの膝の上にいた。
あの絶対懐かない白ネコだ。
おじいさんの白ネコを撫でる優しい手、
それをなんの恐れもなく受け入れる白ネコ。
おじいさんと白ネコだけの世界。
なんだか、とても、とても、穏やか・・・
ある日、おじいさんのテントを背広姿の男性が数人で囲んでおり、何か話しをしているようだ。
なんだろう?
それからコロナ渦に入り、しばらく経って公園へ行ってみるとテントはなくなっていた。
あの時にいた背広姿の男性は、行政の人のようだ。おじいさんの保護とテントの撤去、
行政代執行だ。
この公園はきれいに整備された。
おじいさんのテントがあった場所には木が植えられており、その側にはベンチが設置されていた。
小綺麗になっていた。
ただ、いつもおじいさんが煮炊きをしていたであろう場所が黒く汚れていた。
おじいさんと白ネコはどこにもいない。
おじいさんは白ネコと一緒に保護されたのだろう、と自分に言い聞かせた。
それからしばらく経ったある日、おじいさんのテントがあった場所を通ると、あの白ネコがベンチの上で香箱座りをしてジッとしていた。
少し瘦せて白い毛が薄汚れていた。
一緒に保護されていなかったのか。
撫でようと手を伸ばすと、やはり警戒する。でも逃げようとしない。
アタシは「あんた、おじいさんを待っているの?」と言うと、言葉が分かるのか否か、「にゃ」と薄く鳴いた。
アタシも泣いた。
その後、白ネコは見かけなくなった。
なんか、切なかった.。