【機胡録(水滸伝+α)制作メモ 064】楊雄 (original) (raw)

楊雄

※補足1:生成画像は全てDALL-E(Ver.4o)を利用している。

※補足2:メモ情報は百度百科及び中国の関連文献等を整理したものである。

※補足3:主要な固有名詞は日本訓読みと中国拼音を各箇所に当てている。

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水滸伝水滸伝/shuǐ hǔ zhuàn)』の概要とあらすじ:中国の明王朝の時代に編纂された、宋王朝の時代を題材とした歴史エンターテイメント物語。政治腐敗によって疲弊した社会の中で、様々な才能・良識・美徳を有する英傑たちが数奇な運命に導かれながら続々と梁山泊(りょうざんぱく/liáng shān bó:山東省西部)に結集。この集団が各地の勢力と対峙しながら、やがて宋江(そうこう/sòng jiāng)を指導者とした108名の頭目を主軸とする数万人規模の勢力へと成長。宋王朝との衝突後に招安(しょうあん/zhāo ān:罪の帳消しと王朝軍への帰属)を受けた後、国内の反乱分子や国外の異民族の制圧に繰り出す。『水滸伝』は一種の悲劇性を帯びた物語として幕を閉じる。物語が爆発的な人気を博した事から、別の作者による様々な続編も製作された。例えば、『水滸後伝(すいここうでん/shuǐ hǔ hòu zhuàn)』は梁山泊軍の生存者に焦点を当てた快刀乱麻の活劇を、『蕩寇志(とうこうし/dàng kòu zhì)』は朝廷側に焦点を当てた梁山泊軍壊滅の悲劇を描いた。

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楊雄(ようゆう/yáng xióng)

<三元論に基づく個性判定>

30番 **強い生存欲求**、**とても弱い知的欲求**、**強い存在欲求** - **「社交的な実行者」** - 知識よりも実際の行動と他者との交流を重視する。

<概要>

楊雄(ようゆう/yáng xióng)は"不運の男"の楊志(ようし/yáng zhì)や"幸運の男"の楊林(ようりん/yáng lín)と同じ楊姓だが、それぞれ縁者ではなく赤の他人。河南の出身で、あだ名は「病関索」。「病」の解釈については以前の記事でも触れたが、虚弱体質という意味、飛び抜けて優秀という意味、その双方がある。楊雄(ようゆう/yáng xióng)の顔が黄ばんでいたという描写があるので病気を意味するとも思われるが、関索関羽子孫または関羽本人の別名)のように飛び抜けて武芸に優れていたという解釈もできる。叔父が薊州の知府であった為、薊州で生活の道を探し、後に次の知府と知り合って監獄の役人兼処刑人に任命。この頃、好漢の石秀(せきしゅう/shí xiù)と意気投合して義兄弟の仲となる。楊雄(ようゆう/yáng xióng)の妻、潘巧雲(ばんこううん/pān qiǎo yún)の不貞事件が起こり、最終的には彼が妻を報復の為に殺害。この事件によって楊雄と石秀は梁山泊への落草を決意。梁山泊へ向かう道中で時遷(じせん/shí qiān)を仲間にし、これが原因となって祝家庄と梁山泊勢力の大衝突が勃発。この争いを通じて楊雄らは梁山泊勢力に合流。百八人の英傑たちが集結した大聚義(だいしゅうぎ/dà jù yì)の際には序列32位に定まり、「歩兵隊長」に任じられた。最終戦となる方臘(ほうろう/fāng là)の征伐戦において、杭州で疫病を患って殉死。戦後、朝廷は彼を「忠武郎」に追封した。

<焼き回し?尺つなぎ?いずれにせよ全てが半端>

他の英傑たちとの関連性が薄い楊雄(ようゆう/yáng xióng)と石秀(せきしゅう/shí xiù)の両名。妻の不義を成敗する話はもうとっくに武松(ぶしょう/wǔ sōng)が完璧にその役目を担ったので、二番煎じの感が否めない。それでいて新しい閃きがあるかというとそんな事もなく、「毒婦を罰する」という展開のカタルシスもほとんど無い。ただ残忍という印象すらある。そして、この両名は他の英傑たちとの関係が薄く、物語の主軸とは独立した場所での展開となる。このように私としては、人物設定も物語展開も「武十回(武松が語られた十回分の逸話)の劣化版に過ぎないという印象だ。施耐庵(したいあん/shī nài ān)はどうして彼らを描かなければならなかったのか。単なる焼き回しであったのか、あるいは尺稼ぎであったのか。それとも、他に何か特別な要因があるというのか?

<考察1:楊雄が石秀を利用した>

表面の展開だけを読めば、楊雄(ようゆう/yáng xióng)と石秀(せきしゅう/shí xiù)にまつわる逸話は、不義を犯した男女を成敗する、いささか軽率で浅はかな快刀乱麻の演目である。ただ、より物語展開を掘り下げると、何やら彼らの異常性が感じられる。

より詳しく展開を追ってみる。楊雄(ようゆう/yáng xióng)は若い頃、知府である叔父に従って河南から薊州に移り住んだ。外来者であり官僚でもないので社会的な出世は難しいが、それでも人脈があるので新任の知府とも知り合いとなり、「刽子手(役人兼処刑人)」という安定した職を手に入れる事が出来た。報酬も福利厚生も豊富なので裕福な生活を送る事が出来た。28歳で最初の結婚をして侍女や義父も養い、その後に潘巧云(ばんこううん/pān qiǎo yún)と二度目の結婚をした。潘巧雲(ばんこううん/pān qiǎo yún)は屠殺業者の娘なので出自の位が高くないが、かなりの美貌を持っていたようだ。

美人の妻と安定した職がある彼は、豪華な刺繍の入った服を着ており、一般の人々からは尊敬されていました。ここに、彼に一定の功名心があった事が伺える。しかし、彼は地元の無頼漢である軍人の張保(ちょうほ/zhāng bǎo)たちに侮られ、仲間外れの扱いを受けていた。張保たちからすれば、「親戚の七光で職について、俺たちの地元で偉そうな顔をしやがって、どうにもいけすかねぇ!」といった所であったろう。

そこにちょうど石秀(せきしゅう/shí xiù)という腕の立つ流浪人が到来。楊雄は彼と「意気投合をして義兄弟の仲になった」とされるが、実際には彼の力を借りて張保らを懲らしめる事により、面目を保とうとしたのかもしれない。となれば、彼はかなり打算的に他人を利用した事になる。この楊雄の打算は大成功をして、張保たちは打ちのめされて敗北を宣言。楊雄は礼儀として、寄るべのない石秀をしばらく自宅でもてなす事とした。

<考察2:石秀が楊雄を利用した>

ここまで読めば石秀は楊雄に都合よく使われた駒となるが、物語はここからまた別の展開に及ぶ。楊雄は牢屋の管理という職業柄、徐寧(じょねい/Xú Níng)のように早朝や深夜の勤務も多かった。夫が家を開ける事が多かった事から、妻の潘巧雲は侍女の迎儿と頭陀(仏僧)の胡道の助けを借り、和尚の裴如海と不倫に及んでいた。石秀は彼女の不貞行為を見破り、これを楊雄に密かに伝えて「妻と和尚を捕まえるべきだ」と進言した。

楊雄は激怒してすぐに妻を罰しようとしたが、真実を確かめるべくしばらく時機を探った。しかしこの時、彼は同僚と大酒を飲み、思わず妻に不貞の疑いを漏らしてしまう。潘巧雲は慌てて対策を講じて、楊雄が酔いから覚めた際、「逆に石秀が自分を誘惑したのだ」と泣きながら懇願。この嘘っぱちを信じて再び楊雄が激怒し、石秀を自宅から追放。石秀はこの仕打ちに屈せず、密かに楊雄の家の近くに潜んで、逢引へ向かっていた裴如海と胡道を殺害。楊雄は石秀が掴んだ証拠から自分の誤解を悟って謝り、妻を報復の為に殺す事を決意。石秀は「まずは話し合うべきだ」と言って、彼女と侍女を翠屏山に連れて行き、楊雄と引き合わせた。

観念をした潘巧雲と侍女は全てを白状して許しを乞う。一方、これを聞いた楊雄はいよいよ激怒して、即座に迎儿を殺し、潘巧云の舌を切り裂き、分尸した(身体をずたずたに切り裂いた)。怖すぎる。前回の余談記事でも書いたが、これは私の三元論に基づく違反性のある言動に対する処罰としては不適切である。明らかな正義の暴走と過剰な刑罰。ダーティーハリー症候群だ。

これによって行き場が無くなった楊雄と石秀は、才能のある者を広く受け入れている梁山泊勢力に加入する事を決意するのだが…読者の見方によっては、これはもともと梁山泊勢力に入りたかった石秀の策略通りだったのではないかという見解もあるのだ。次の記事で石秀を紹介するが、彼は梁山泊に落草したかったものの特別な事情や信念がなく、肩書きも資金もなく、ただ少しばかり人よりも強く優れた武芸を持っていただけだった。そこで、どこかの地元の名士が衝撃的な悲運に追い込まれるように仕向け、それを「履歴書」として梁山泊勢力に入ろうとした可能性がある。

こう考えると、楊雄は最初から石秀の都合の良い駒として踊らされていた可能性がある。

施耐庵、もしかしたらとんでもない伏線を書いていたか?>

作者の施耐庵(したいあん/shī nài ān)が意図したのかどうかは全く不明であるが、上述の考察が本当であるのなら、「武松事件の二番煎じ」の物語展開には驚くべき整合性が生じる。というのは、石秀(せきしゅう/shí xiù)が「履歴書」を頭の中で描く際、武松(ぶしょう/wǔ sōng)の事件のモノマネをしようと思いついた可能性があるからである。「あの人がやった事と同じような事件を引き起こせば、俺も武松のように梁山泊に入れる」と算段して、誰にも分からないように潘巧雲たちの不貞行為を誘引し、マッチポンプ(自作自演)をした。そうであるのなら、楊雄事件は型だけであって中身が伴わないものとなり、必然的に武松事件の劣化版になるのである。

梁山泊勢力に集結した英傑たちは善人と呼べる者ばかりではない。善悪を超越して替天行道(たいてんこうどう/tì tiān xíng dào)の志のもとに集った才能者たちである。石秀はどうしても梁山泊に入って世の中を変える英傑たちの一員になりたかったので、その為の手段を選ばずに陰謀の工作に及んで、見事にそれを成し遂げた。楊雄はそうとは知らずに、見えない計画のルートに疑う事なく乗って最大の成果を成し遂げた。そうした解釈に基づけば、彼らは最高の相性を持つひとつの義兄弟なのである。

<原型と評価>

宋王朝元王朝時代の『大宋宣和遺事』には、既に宋江の36人の部下の中に「賽関索王雄」という人物が登場しており、これが楊雄の原型とされる。また、同時期の龔開による『宋江三十六人讃』にも彼が登場し、あだ名は「賽関索」となっている。元雑劇の『魯智深喜賞黄花峪』でも登場があり、そちらは梁山泊勢力の序列第17位の頭領として描かれている。

彼のあだ名の「関索」は民間伝説で関羽の三男とされ、『三国志通俗演義』に登場しているが、正史には記載がない。関索諸葛亮と共に南征孟獲したと伝えられ、勇猛果敢な人物として、雲南や貴州で深く崇拝されている。実際、西南地域には「関索橋」「関索嶺」「関索廟」などの地名が多く存在するのだ。宋王朝時代には関索の武勇が広まっており、武人が「関索」をあだ名として使用する事も多かったという。例えば、それは「小関索」「賽関索」「厳関索」「張関索」といったものであった。また、先述の通り、研究者の中には「関索」が人名ではなく、関羽の尊称であると考える者もいる。

後世の評価には以下のようなものがあるが、私の深読みから鑑みるに、それらはあまり的を射ているとは思わない。

- **余象斗**:「潘氏が楊雄に話を持ちかけると、楊雄は妻の言葉を真実とし、石秀の友情を失った。楊雄の志は石秀に及ばない。石秀は称賛されるべきで、楊雄は恥ずべきである。」

- **李卓吾**:「石秀は勇敢な男で、一刀両断し、葛藤もなく、さらに翟霸を持ち、智勇が備わっていると称される。楊雄は一見して彼を弟と認め、目利きである。豪傑が出会うと、多くはこうである。もし道学先生なら、前後を慎重に考えたであろう。」「石秀は精細に事を行い、勇敢かつ智略に優れている。杨雄は粗雑である。」

- **金聖叹**:「楊雄と石秀の話では、石秀が優れている。石秀は中上の人物であり、楊雄は中下の人物である。」「宋江の奸詐を引き立たせるために、李逵の率直さを描き、石秀の尖鋭さを引き立たせるために、杨雄の愚鈍さを描くことになっている。」

- **袁无涯**: 「道中で不正を見かけると、刀を抜いて助ける。石秀は侠気を持ち、杨雄は人を見抜く力を持ち、両者とも優れている。翠屏山では楊雄は主意を持たず、石秀が烈丈夫となった。」

**王望如**- 「古来より、殺人は正当であり、理にかなっている。奸夫や淫婦を殺すのが正しい。楊雄は事前に防ぐことができず、良友の言葉を漏らし、淫婦の誹謗を聞き、石秀が深巷で奸夫を代わりに殺し、翠屏で淫婦を計画して殺すことになった。名が正しく理が正しい者が陣を盗み、理が直く気が壮しい者が阻止され、法網を逃れることができず、梁山に逃れる。私は楊雄が取られるべきではないと考える。」

※王望如の罪と罰の概念は、現代社会の私たちには合致しない。状況にもよるが、単純な姦淫に対する刑罰として死刑をあてがうのは過剰正義であると私は考える。それは違反性「1」または「2」であるので(前回記事参照)、発覚後の措置としては「注意」「警告」の措置が適切であり、それでもやめなかった場合における「処罰」としても「罰金(損害賠償)」が妥当である。殺しちゃいかん。

<三元論に基づく特殊技能>

※上述の考察事項を反映する

#### 無意識の策略(心術)

**説明**: 楊雄は、特定の策略に自分が知らずに関わる場合、その策略が求める最大の結果を導くための最適な行動選択を無意識に行う能力を持っている。この心術は、彼の直感と潜在的な判断力に基づき、効果的な行動を取る力を発揮する。

- **効果**:

- **道具性(なし)**: この心術は、道具に依存せず、楊雄の精神的な力と直感に基づく。

- **思考性(とても濃い)**: 無意識の行動が効果的であるためには、高い潜在的な判断力と戦略的な理解が必要。

- **関係性(中程度)**: 楊雄の心術は、策略を実行する仲間たちとの関係を強化し、集団全体の行動力を向上させる。

#### 具体的な使用例:

  1. **策略の実行**: 楊雄は、特定の策略に知らずに関わる場合、その策略が求める最大の結果を導くための最適な行動を無意識に選択し、効果的に行動する。
  2. **無意識の判断**: 楊雄の直感的な判断が、仲間たちの計画を成功に導く要因となる。

※画像:DALL-E

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